※この作品はR-18です。

空に瞬く二つ星 グラビティーノエル   作:風剣

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1話中:鐘楼ノエルの初任務

 

 

「ほ……、本当に、この衣装を着ていかなきゃいけないんですか……?」

 

「少なくとも自分の知る限り、この施設に貴方のような年ごろの女の子が溶け込むのならばこれが最も適切かと。この施設に従事する女性給仕の制服ですからね、これでなければ寧ろ悪目立ちしますよ」

 

 それとも、その学生服で突撃していくつもりですかと。怒るでも苛立つでもなく淡々とした調子で問いかけてくる黒スーツの男に、ノエルは言葉に窮する。

 アルネセール号、その下層に複数位置する倉庫のひとつ。協力者である黒スーツの案内した小さな倉庫で、ノエルは少女に接触した協力者の男とともに身を潜めていた。

 

 自らの通う学園の学生服が少なくともこの賭博場においてはこの上ない異物であることは、黒スーツの手引きを受けて潜入するタイミングで内部の様子をちらりと伺っただけのノエルにもわかることである。冷静に受け答えする彼の案以外の策を見出せなかったノエルはおとなしく差し出された衣服を受け取った。

 

「この依頼に関する説明はどの程度?」

 

「ぇっと……このカジノに流入した危険物の処理、可能なら流れてきたルートに関する情報の確保、ですよね?」

 

「……えぇ、その通りです。そちらに依頼してから状況も少しずつ変化してきたため依頼時と比べ捜索範囲も狭まりました……、詳細を共有しましょう」

 

 海上賭博施設カジノ・アルネセール。

 物資の補給、乗客の受付、休憩のために日の昇っている間は港に停泊していた船は夜になると出港し海へと出ていく。船内へと忍び込んだノエルは、潜入のために用意された衣装を抱えながら黒スーツの男性からの説明を受けていた。

 

「結局のところ。ここで循環する金や人の流れはあまりに莫大ですからね。ですから、えぇ――欲が出たのでしょう。この船……カジノアルネセールという賭博場の王の座を、手に入れたくなった」

 

 そして、成功してしまったのだと。海上のカジノを運営する組織の幹部であるという黒スーツは目元を険しくさせて唸る。

 

「このカジノは一つの勢力だけで形成されるものではない――、国家、裏組織、大企業、様々な勢力が利益を求め介入しているために方針ひとつ変えるために組織内で協議が繰り広げられています。ある日突然、蟲毒じみた権力争いが形を変えました」

 

 様々な勢力が入り乱れ衝突をしていた影響か、それまで完全に合法オールグリーンとまでは言わずとも一線は踏み外すことのなかったというカジノが、ある日を境にブレーキを踏み抜いた。ひとつの勢力が一方的に利益を得るような構造では決してなかった組織のカタチが急速に変わっていくのに危惧を覚えた彼は、迅速に事態を解決するべくノエルの所属する団体に協力を要請したのだという。

 

「縄張りの一つとする勢力が多いがために、ここは一種の中立地帯とでも言うべき場でしたからね。それがほんの数日程度で塗り潰されたとあれば十中八九何かしらの異能……あるいは人類が手にするには便利すぎる技術が関わっています。最悪破壊行為に及んでも構いません、この船ひとつでどれだけの勢力が蔓延っているかを知る行政には船内で何が起こっても手は出せませんからね」

 

 汚染されつつある組織を立て直すためにもドコから、ナニが流れてきたのかが重要になると言って。情報量に目を回しそうになっていたノエルに黒スーツが1枚の写真を手渡した。

 どのような配慮によるものか、細い腕と肩しか見えない程度に見切れている女性と肩を組んで笑顔でグラスを掲げる細身の男の人相は裏社会の一員としてはやや弱弱しい印象だった。本当にこの人がと顔を上げたノエルを手で制した彼は、写真の人物が見た目通りの人間であると前置いて語る。

 

「サトウ イムロ。この一件で船内で勢力を伸ばした組織の出身は複数いますが、これはその元締め……というよりこの数日で一気に成り上がった人間です。性格は卑屈、臆病でそれ故に警戒心が強い。ですが女好きでして……。このタイミングです、斥候の存在には彼も警戒していましたが祝勝ムードの漂う今であれば難なく接近して情報を得ることができるかと」

 

「な、なるほど……、私は彼に近づいてサトウさんの手に入れた技術に探りをいれるということですね」

 

「えぇ。極論彼を広間から動かさないようにしてくれさえしてくれれば構いません。状況に応じて私の手勢も動かして奴の自室から動かぬ証拠を押収することもできますからね。宴会は20分後ですのでそれまでにここで着替えて頂ければ」

 

「はい、わかりま――ここで?」

 

 余分な肉のない上半身を晒す男の写真に動揺しながらも人相を頭に焼きつけていた少女は、さらりととんでもないことを宣った黒スーツの言葉に写真を落としかけた。

 

「え、えぇ、ここでですか?! これに!? も、もっとこう、更衣室とかは……!?」

 

「給仕としてのID自体は発行していますが、外部から招かれた人員であるということが知られれば警戒を煽りかねませんからね。制服もここでは目立ちますし更衣室へ案内するまでに発見されれば余計な詮索を受けて拘束されてしまいます。ここで最低限の準備を整えて貰いたいところですが」

 

「えっと……そういうことなら、わかりました。それじゃあこれからこの服に着替えますので、外に一度出て貰って……」

 

「ええそれは勿論。……必要なら着付けを手伝いますよ?」

 

「だっ、大丈夫ですから!!」

 

 顔を真っ赤にして倉庫から黒スーツを追い出したノエルは、彼から渡された潜入用の衣装の露出に悶えながら纏う制服のボタンに手をかける。

 小さな倉庫で、ささやか衣擦れの音が連続した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ、本当にこれで大丈夫なのかな……」

 

 お尻に食い込んだ生地を直しながら、履き慣れないハイヒールの踵をコツコツと鳴らし少女は移動する。

 廊下を歩くノエルにすれ違う男性から向けられる視線は少なくない。けれども黒スーツの言った違和感なく溶け込むための衣装であるという説明は正しかったのか、好色な視線こそ向けられれど奇異なものを見るような反応はされなかった。

 

 黒スーツの彼から渡されたバニーガールの衣装を纏う碧眼の少女は、露出させた肩に背にかかる金色の髪の感触にくすぐったそうにしながら広間へと出る。

 協力者の男性はノエルの着替えが終わった時点で別れた――外部の組織に救援を要請したのが不味かったのか身を隠す必要が生じたと言って足早に立ち去って行った彼から教えられた情報を頼りに進んで行く彼女は、VIPの上客が利用するフロアを塞ぐカジノのスタッフらしき屈強な体格の男性に話しかける。

 

「あの、すいません。給仕が要り様と聞いて来たんですけれど……?」

 

「あぁ、侵入者ぁ!?」

 

「!?」

 

 イヤホンジャックに手を当てた彼の言葉にびくりと肩を跳ねさせたノエル。彼女を一瞥したスタッフはノエルが不審物を持っていないかだけ確認するとあしらうようにして少女をVIPフロアに追いやった。

 

「……何者だ? まさかウチに来てる重役を殺ろうってんじゃあ……くそったれ、こっちもこっちで裏切り者の後始末で準備進めなきゃならんってのに……」

 

 ――自分のことではなかったのか、あっさりと見逃された事実に安堵するノエルは背後から聞き取った男の言葉に疑問を覚える。

 

(侵入者……私以外にも調査に来る人がいるって話だったけれど、黒服の人と合流できなかったのかな……、こんな格好に着替えて荷物も置いてきちゃったから連絡を取ることもできないし……)

 

 黒スーツの手引きで変装して侵入することができたとはいえ、身体にぴっちりと張り付いたバニーガールの衣装では通信機ひとつ隠し持つのも難しくなる。ほとんど丸腰のまま敵地の奥深くにまで入り込めてしまっている事実が少女の心身から余裕を奪おうとしていた。

 忙しなさそうな給仕のひとりと接触し、シャンパンの注がれたグラスを乗せた盆を預けられる。ほとんど詮索されることなく参加できたことに安堵しながら複数人で高級そうなソファに座って談笑する客のもとへ近づいていく。

 

「……お客様、お替わりはいかがでしょうか?」

 

「ん、いただこ――。……ふむ」

 

「それでは空いたグラスをっ、ひゃ!?」

 

 腰についた飾り物の尻尾を揺らしながらグラスを回収しようとしたノエルの臀部に手が伸ばされる。肩を跳ね上げる少女の反応を観察しながら黒い生地のレオタードに包まれた柔らかな桃肉の感触を確かめる口髭の男は、机にグラスを叩き落としそうになって慌てて体勢を立て直しながらさわさわと尻を撫でる手に耐える彼女を愉快そうに見つめていた。

 

「これはまた可愛らしいウサギさんだ。見ない顔をしているが新しい娘かな? このカジノでの出費は嵩むがあの男も女を選ぶ目はあるらしい」

 

「っ、あの。おきゃくさま、グラスが、危ないので手を離していただけると……」

 

「おや悪かったね、仕事を邪魔してしまったか」

 

 まさか相手を傷つけて事を荒立てるわけにもいかなかったから。黒タイツに覆われた内腿を撫で上げてくるのに悲鳴をあげたくなるのを押し殺してささやかな拒絶の言葉をかければ男があっさりと手を離してくれたのに、ノエルは心底ほっとしたが――にんまりと笑った彼はメモに何事かを書き込むとバニーのぴったりとした衣装に寄せられ谷間を形作る少女の胸元に遠慮なしに挟み込む。

 

「あ、あの……!?」

 

「給仕が終わったあとにでも仕事の邪魔をした『お詫び』をさせて貰いたくてね。合鍵は要らないよ、そのメモの部屋に行けば使用人が出迎えてくれるからね」

 

 勿論、来てくれるよね?

 欲望に目を爛々と輝かせてそんなことを言う男性の言葉に、少女は二の句を継ぐことができなくて――、そこで、背後から細腕を掴まれ後ろへ引き寄せられる。

 

「――お楽しみのところ失礼します、御堂様。ただいま船内である問題が発生しておりまして……、こちらの給仕にも対処に行ってもらいますが不都合ありませんか?」

 

「……不都合? いいや、何も問題はないとも。だがそちらの方の問題は大丈夫なのかね、今宵は例のもののお披露目の前に余興があるという話だったが――」

 

「えぇ、そちらの準備に関してはご心配なさらず。期待してお待ちいただきたい」

 

 含みあるやりとりを経て「行きましょうか」とノエルを連れ出したのは身を隠す必要があると言って立ち去った筈の黒スーツの男性だった。手を引かれ歩きながら乱れた着衣を直す少女は彼に連れられる間も背後からいやらしい視線を投げてきていた口髭の男が見えなくなるまで離れていくとようやく安堵したように息を吐く。

 ――下卑た感情を向けられるのにどう答えれば良いのかもわからず精神的に追い込まれたなか、あの状況で頷いていたらどうなっていたことか。考えるのも恐ろしいものがあった。

 

「あの……助けていただいて本当にありがとうございました。すいません、貴方も立場が危ないのにあんな……」

 

「いえいえ、謝ることなんてありません。こちらの方にも貴方を呼ばなくてはならない理由がありましたから」

 

 おずおずと言う礼を気に留めるでもなく平然とそう口にする黒スーツに怪訝な顔をしていると、一転して苦々しい表情になった彼はノエルを連れながら押し殺した声で告げた。

 

「――状況が変わりました」

 

 曰く、サトウ イムロが今晩執り行うパーティで関係組織の重役を招集、己の手に入れた技術を用いて纏めて洗脳しようとしている可能性があるとのことで。彼が準備を進めている内に早急に対処する必要があると語る彼に、暫し考え込んで意を決したように眦を決したノエルは「場所はどこですか」と言って前に進み出る。

 

「展望デッキに人員が集められつつあるとのことでしたが――、まさか、行くつもりですか? 1人で?」

 

「はい! 大丈夫です、無理をするつもりはありませんから! 危ないので黒服さんは待っていてくださいね!」

 

 そう言って走り去っていく少女を見送る黒スーツは、驚いたように目を見開いていたが……頬を弛めふっと失笑を漏らすと、金色の髪を翻して虎口に飛び込んでいく彼女の後ろ姿を見つめながら端末を取り出した。

 

「あぁ私だ。今お客様がそちらに向かった――、丁寧にもてなしてさしあげろ」

 

 

 

 

 

 

 

 足取りは軽やかに。床を踏みしめたバニーガールは、最短最速のルートで黒スーツから教えられた場所へと向かっていく。

 

「っ、なんだおま――」

 

「止まれメスガキ、この先は……!? 速っ」

 

 否、もう少女が纏うのは男を誘う無防備な衣装ではない――青いマントをはためかせ駆ける彼女は既に戦うヒロインとしての姿に変身している。惜しみなく白い肌を晒すミニスカートのドレスを彩る髪と同じ色のリボンが揺れ、直後に道を塞ぐ男たちを追い抜いて行った少女……グラビティーノエルは黒いガントレットに覆われた手を翳し照準を合わせた。

 

「やぁ……!」

 

「がっ!?」「ぐぅ、っ――」

 

 巨人の腕にでも打ち据えられたかのように横に飛んだ男たちが壁に叩きつけられ、力を失った手から銃器が音を立てて床に落ちる。

 ノエルを発見した時には既に男たちは銃を抜いていた。制圧に手間取れば躊躇なく発砲していただろう――、とてもではないが穏当にVIPを出迎えようとしているようには見えなかった。冷や汗を流しながら銃器を手元に引き寄せたノエルは小さな手で黒い金属塊を握ると凶器の内側からびしびしと罅割れを走らせる。

 

 まず使えそうにはない状態にまでなったのを確認して内側から構造を滅茶苦茶にされた拳銃を捨てた彼女は、制圧した廊下を見回して前へ進んでいく。

 

「展望デッキで準備を進めているとは聞いたけれど、こんな廊下にまで武装して屯しているものなの……?」

 

 もしかしたら自分とは別口で侵入しているらしき侵入者の存在が関係しているのではと疑念を抱きながら周囲を探索していくノエルは、そこで拡大した知覚に複数の気配が引っかかるのに気付いた。

 

「――この部屋。中に4、5人……皆、銃を持ってる……?」

 

 カジノの重役とともに警護でも集まっているのではと思いもしたが……それにしては様子がおかしい。壁に張り付いて中の様子を伺う少女は1人を取り囲むようにして室内で声を掛け合っているらしき男たちの言葉を聞き取ろうとしたが――そこで、扉に向かって近づいてくる気配に慌てて後ずさる。

 けれども周囲に身を隠せそうなスペースはない。通路の向こうにまで一気に『跳ぶ』か否か躊躇ったのが誤りだったのか、硬直するノエルの前で音を立てて扉が開かれる。

 

「侵入者がいるってあちこちで混乱起きてるってのに通路の奴ら通信に出ねえな。一体なにして――あ?」

 

「あっ……こ、こんにちはー……」

 

「……あ、はい。こんにちは。どうかいたしましたかお嬢さん。ここは整備中なのでお客様の立ち入りを制限させてもらっているんですよ。この通路にいたスタッフにも言われたと思うんですが会いませんでしたかね? 道がわからなければ案内を――」

 

 マントにミニスカドレスという珍妙な恰好に奇異の視線を投げながらも少女のことはカジノの客の連れとでも解釈したのか。丁寧なスタッフの表情を取り繕おうとした筋肉質の男性は同僚を探し通路に視線を向け……倒れる2人の黒服を見つけ驚愕も露わに固まる。

 その横から室内を覗き込んだ碧眼の少女は、屈強そうな黒服に囲まれるようにして椅子に縛り付けられる人影を見つけた。

 

「――ビンゴ!!」

 

「っ、お前が侵入者――、ぐぇ!?」

 

 身に叩きつけられた金属の塊に男が床を転がっていく。「少し手荒になってごめんなさい!」と声をあげるノエルの姿を見た男たちは、華奢な少女が平然と身の丈近いハルバードを振るったのに目を見開くが――、眼前の脅威に我に返った彼らはすぐさま引き抜いた銃器を突きつけ前に進もうとしたノエルを牽制する。

 発砲音――少女に放たれようとした銃弾は、あらぬ方向へと飛んで外れた。

 

「なっ――」

「がっ!?」

 

 前へと突きつけた筈の銃は、壁に。強引に横にずらされた銃口に、男たちは明らかに動揺して――その隙を逃すことなく、少女はハルバード『テンヨウ』を振るった。

 鉄塊が大の男を易々と吹き飛ばし、刃に衣服を引っかけては天井に叩きつけ、振り抜かれた柄が胸部を打ち抜く。死屍累々と倒れる男たちの意識がないことを確認したノエルは、部屋の中心で椅子に拘束されていた男の様子を確認しに行く。

 

「あの! 大丈夫ですか――、………………え?」

 

 そうして。

 椅子に拘束され猿轡をはめられた、先ほど黒スーツに見せられた写真にも写っていた男を見て――、目を見開いて硬直する少女の身体が拘束される。

 

 驚愕して顔を引き攣らせて。羽交い絞めにされた身体を振り解き相手を吹き飛ばそうとして、その直前に首元に黒い凶器が突きつけられる。

 紫電が奔った。

 

 

 

 

 

 

「――、……ぁ」

 

 明滅する意識。神経を炙るように疼く首元の痒みに耐えながら瞼を開いた少女は、自らが硬い床の上に転がされているのに気付いた。複数の人の気配……、先ほど昏倒させた男たちと同様のカジノの構成員であろう男たちが部屋に詰めかけているのを横目で確認した彼女は、横倒しにされて腕を縛られる自分の前に立つ人影を見上げる。

 

「起きましたか。調子は如何ですか? 何時間も目を覚まさないようであれば水でもかけることになるかもしれないと思っていたのですが早かったですね」

 

 カランと転がされるスタンガン。自らを昏倒させた凶器に悔し気に唸るノエルは腕を戒める縄が解けないことを確認すると、勝利を確信したように余裕たっぷりの微笑を浮かべ少女を見下ろす男性を睨みつけた。

 そして、気付く。

 彼は、ノエルを案内して船内まで連れ込んだ黒スーツだった。

 

「あ、なた、は……なんで? どうしてこんなことを……縄を解いてください!」

 

「拘束はじきに解きますよ、貴方を従属させてからね。どうしてこんなことを、となると……そんなの、私がこの状況を仕組んだからに決まっているではありませんか」

 

「……!?」

 

 なんてことのないように語られた言葉に絶句して。同時に覚悟を決めいつでも能力を発動できるように意識を張り巡らせた少女は、できる限りの情報を得るべく頭を回しながら質問を続ける。

 

「あの部屋で捕まっていたのは、写真に写っていたサトウさんでした。……最初から、だましていたということですか?」

 

「ええ。……ですが、すべてが嘘という訳ではないんですよ? 彼が私の――私が外部から持ち込んだ技術を用いた洗脳でこのカジノの支配を進めていた勢力の一員であるのは事実です。ですが、怖くなったんでしょうねえ。裏の組織でははじめて人を殺した夜に恐ろしくなって自害してしまうという例も少なくはありませんし、彼も似たようなものなのでしょう。自らの所属する組織の、私の振るう力が恐ろしくなった。だから彼は貴方の所属する組織に依頼を出して、それを私が見つけ、裏切り者を捕縛した後に協力者になりすました」

 

 唐突に依頼をキャンセルするというのも不自然さを煽りかねませんからね。適当にダミーのデータを突き出して穏便に済ませる予定でしたと。

 平然と語る彼を見上げながら歯噛みする少女は、能力を発動し周囲の男たちを打ち倒すタイミングを見計うために身をよじる。スカートがめくれたがこの際構わないと部屋全体を確認できるように身体を傾け周囲を確認した。

 

「最初に接触した時点で騙し討ちするのも悪い案ではありませんが、それで別動隊に動かれても困りましたからね。貴女には何事もなく任務を終えたと報告してもらうつもりですが……状況が変わりまして。こちらを見て頂けますでしょうか」

 

「……? 、ぅ――?」

 

 そう言っては何かを見せつけた彼に、視線を向け――そこで、身動きができなくなる。

 身体の支配権が、奪われた。

 

 黒スーツが見せたのはスマホの画面で。画面の中心に大きな目の描かれたスマホを見せられた途端、少女の動きが止まる。

 

「ほう、もう機能しましたか。なかなかの効き目でしょう? 今の時代魔法は生き物を媒介に魔力をねん出する必要はない、単純な用途の術式なら機械に刻み込んで発動させることだってできるんですよ。……発注元から提示された案のなかには魔眼の眼球を肉体に埋めることで異能力を手にするというものもありましたが、それは人体実験なしには安全性を推し量ることはできませんからね。外部への売り出しなどとてもとても」

 

 嗚呼、そう。言っていたではないか。

 ノエルを手引きしてアルネセール号に乗せた時、確かに彼は。カジノに跋扈する組織の勢力図が、未知の技術を用いられたことで塗り替えられたと――、

 

「元は新興宗教の用いる啓発行為を電子化しアプリという形に落とし込んだという話ですが……、まあどこまで真実かは怪しいところですね。効果は本物なので重宝していますが……何分、能力者に対しどれだけ効果を発揮するかも検証段階でして」

 

 余興ついでに実験しましょうか。

 そんな言う彼に対しても。少女はまだ、抵抗らしい抵抗をすることができない──。

 

「そうですね。まず──簡単な質問から済ませましょう。名前と年齢、所属組織。あとはスリーサイズを教えてください」

 

 ──っ!?

 

 そんなもの教えられる筈がないと理性は悲鳴をあげる。けれど身体は、少女の意思を容易く裏切った。

 

「はい♪ 私の名前は鐘楼ノエル、17才です。民間警備会社のAXOSに所属してます! スリーサイズは上から86、69、80センチです……♪」

 

「ふむ……抵抗の気配もなし。ではそうですね、次は貴方の能力を教えてください」

 

「私の力は重力の操作と、それの副産物として扱う磁力の操作です。大きい武器も能力の補助があれば簡単に振り回すことができます!」

 

「……重力、ですか。それについても気になりますが今は後回しで良いでしょう。では──」

 

 質問は続いた。

 家族構成の確認、今回の任務にあたって外部と交わしたやりとりの内容の開示、自慰にあたってよく感じる部位、今船のなかにいる構成員の有無──、プライバシーの概念を無視した内容も含めた質問の数々に、少女の意識を無視して従った身体はぺらぺらと答えた。

 

(やだ……いい加減、動いて。この催眠も何とかしないといけないのに、このままじゃ……!)

 

「……では、貴方と同じ任務でこの船に潜り込んだ人員の詳細はわからないということですね?」

 

「はい……、この船で合流する手筈だったんですけれど、満足に通信をすることも叶わなかったので……」

 

「まあ私がバニー着せて衣服ごと没収しましたからね。……しかし聞き出したパスワードで開いた端末から得られた情報も名前のみとなると、なるべく早く対策を練る必要もありますね。いっそのことノエルさんを餌に――」

 

「……ヒムラ、いつまで茶番をするつもりだ」

 

 催眠にかけたノエルからあらゆる情報を絞り出し顎に手を添えて考え込む黒服の背後から苛立ち混じりの声が届く。

 

「そこの娘を含めた複数の案件で君の『商品』については十分すぎるくらいの成果を見せて貰った、契約を結び技術を買い取らせて貰うのに異論はない。……ならばもう余興は十分だろう。情報を取れるだけ取ったのならばその娘はもう用無しではないのかね」

 

「おや、余興はこれからですよ御堂様。……ですが、わざわざ呼び出しておきながらお待たせさせてしまったのも事実。尋問もこれまでにしましょうか」

 

(おわ、るの? 良かった、あとはなんとか身体を動かす手段を見つけられれば――)

 

 そんな風に、一瞬でも安心してしまったのが間違いだったのか。

 自ら少女が欲望と悪意の坩堝に囚われておいて。好機を伺っていれば何事もなくチャンスが巡ってくるなどという都合のいいことはないというのに。

 

「それではノエルさんにはその衣装を脱いでこのカジノの一員として御堂様にしっかりとサービスをを提供して頂きましょうか。お待ちかねですからね、お詫びも兼ねてまずはその口で奉仕をしてください」

 

「……はい♡ ハジメテですけれど、お客様に満足していただけるように頑張りますね♬」

 

 ――!?

 

 バニーの衣装を着せられたノエルがVIPフロアーで接触してきた時から目をつけていた口髭の男が上機嫌に笑い、少女が精神であげる悲鳴など意に介さず状況は進行していく。

 拘束が解かれ立ち上がった金髪の少女の首元からマントが外れる。続いてシャツのボタンが外され外套の上に重なるように細身を覆っていた衣服が床に落ち、髪と同じ色のリボンで彩られた青いスカートがふぁさりと舞い床に落ちた衣服と重なり合う。

 

 黒服の男たちの見守る前で繰り広げられるストリップショー。いやいやと訴える自我の影響もあってか、恥じらうように頬を染め遅々とした動作で下着を脱ぎ生まれたままの姿となったノエルは口髭の男へと近づいて跪くと彼のズボンに手を駆け既に熱を持ち硬くなってきた逸物を露出させる。

 

「わ……おっきい♪」

 

「……まるで娼婦じゃないかね、これで経験なしとなると催眠も考え物だな。もう少し初々しい反応を期待していたんだが」

 

「必要な措置ですので……せめて魔封じの首輪を手配するまではそのままでお楽しみください」

 

「ん……ふぅう、ちゅ……。むぅ、ふ、ふふ、あっつうい……ふぁっ、お客様、そんなとこ──んむっっ」

 

「指ひとつでこれとはな。疑っていた訳ではないが本当に処女とは。腕っぷしが強いからと裏社会に関わる無謀でよく周りの男どもから純潔を守れたものだ、この素材を放っておくものもおるまいに」

 

(臭い、苦しい、恥ずかしい、やだよ、こんな。本当に嫌なのに、どうして身体は動いて――)

 

 指先を少女の秘裂に埋め膣口を弄る男の言葉を聞きながら、大切なところを無遠慮に触れられるのに動揺したようにノエルが震え。そこに、喉奥に剛直を突き入れられる。

 口内を蹂躙し呼吸を妨げる異物に苦しめられながらも、与えられた指示は少女の身体を淀みなく動かす。口づけ、舐め、吸い――、知覚を埋め尽くす男根の熱と饐えた臭いのなかで懸命に奉仕する彼女は数も忘れるほど咥えこんで刺激し極限までそそり立った亀頭に口づけるとカリ首を舌で擦りながら吸い上げた。

 

「あぁ、うん。拙い部分も多いが悪くない――出すぞ、しっかり受け止めろよ」

 

(……! やだ、やだあ。お願いやめて、こんな……!? いやぁああああ!!??)

 

「んむぅうう!? けふっ、む、しゅ。ん、ちゅ、じゅる、ふ――んぐっ」

 

 咥えこんだ怒張から迸った精液。喉奥を埋め尽くす粘ついた白濁を、小さな口いっぱいにペニスを咥える少女には吐き出すことができない。ごく、ごく、と喉を鳴らし注ぎ込まれる精を懸命に飲み込んで気道を確保したノエルは、口内を埋め尽くした肉棒から解放されると唇の端から白い体液を垂らしながら荒い息を吐いた。

 

「はぁー……はぁあ……ごちそうさま、でした。おきゃくさま、気持ちよく、なれましたか……? ひゃっ」

 

 頬を熱いものが叩く。

 まだまだ満足ではないと言わんばかりに頬を打ったのは一度の吐精を経てもなお硬度を維持したままその身を唾液と白濁で濡らした怒張──、「今度はベッドの上で可愛がってあげよう」と口髭の男が一糸纏わぬ姿を晒したままへたりこむ少女の腕を掴んで、倉庫の外へ連れ出そうとして――

 

 扉が、蹴破られる。

 

『!?』

 

 突然の破壊行為に誰もが注意を引かれ、護衛の役割を担う黒服たちが銃器を構えるが……そこには誰もいない。警戒したように目を細めた黒スーツはスマホをかざし、操り人形と化した少女を用いて侵入者を迎撃しようとして――、

 ノエルに命令を出そうとした喉が、スマホを握る手が掴まれる。

 

 そのまま壁に叩きつけられた。

 

「か、ぁ……!?!?」

 

「ヒムラさん!?」

 

「その端末は……なるほど。状況はあまりよろしくないと思っていたけれども、洗脳技術の現物さえ確保できるなら話は別か。最悪船の中身丸ごとひっくり返すことになるかもと思っていたけれども切り札を手元に持ち歩く趣味のようで何よりだ」

 

 灰色の髪の少年だった。

 この船に紛れ込むのに使っていたらしきスーツを纏う彼は、抵抗の余地も残さずに催眠術式を仕込んだスマホを持つ黒服を拘束していて。首を掴む手に力を入れ、徐々に指を発光させる彼に顔色を変えてもがく首魁を青白い稲妻とともに昏倒させる。

 

 どさりと、この場を支配していた男があっけなく崩れ落ちた。

 黒スーツから端末を取り上げては画面を確認し、眉を顰めさせながら幾つかのコードを入力して。そこでようやく彼は、己に銃器を向けたまま固まる武装集団に意識を向けた。

 

「……撃たないの?」

 

「――っ、貴様!」

 

「あぁ、殺しちゃいないよ。これでも素人に対する気遣いくらいはある」

 

 銃声が連続した。「きゃぁ!?」と悲鳴をあげて身を伏せたノエルはそこで気付く。

 

「カラダが、動いて――」

 

「大丈夫かい?」

 

「あ、はぃ。あ、――きゃぁあああああああ!?」

 

 目の前には瞬く間に空間を混沌の渦に叩き込んだ少年が居て。淡白な表情で見下ろす彼に思わず頷きかけた少女は、自らが裸になってしまっているのに気付くと蹲ってお手本のような悲鳴をあげる。少年は無言で丸めた背からノエルの身体を覆い隠すように上着のコートを羽織らせた。

 

「娘を人質にとれ、仲間なら――ぎっ!?」

 

 少女に迫ろうとしていた黒服が顎を打ち抜く一撃を受けどさりと倒れる。

 瞬間指の数では足りない銃弾がばらまかれたが――衝撃の瞬間蹴りを放ったはずの少年はそこにはいなくて。裸の少女ごと姿を消した彼を探して部屋を見回し、そして完全にいなくなったことを頭で受け入れるまで警備たちの間を居心地の悪い沈黙が包み込む。

 

「……どこに消えた!?」

 

「不味い御堂さんが思い切り殴られてる! どうすんだウチ一番の上客だぞ!?」

 

「あぁ、それは気にしないでいいよ。流石に洗脳となるとあまり流布されたら不味いからね、いろんな組織が動く。結構大規模に隠蔽工作が始まるはずさ、記憶ごとね」

 

「え? 何を――、おまっ!?」

 

 室内で断続し響く鈍い音。それに一拍遅れどさどさと、ヒトの崩れ落ちる音が続いた。

 

 





・鐘楼ノエル
重力魔法を操る。応用できる範囲は限られるものの、純粋な戦闘に限れば間違いなく強力。任務における勝率も決して低くはない。
……勝った戦いにおいて心身ともにノーダメージだった割合も、低くはない。
メンタルは決して弱くはないものの、怒ると狂暴。そしてちょっと単純。搦め手に非常に弱い。
世界観はR18レーディング。科学技術もオカルトも発展しているため様々な技術が裏表で流通し……そしてノエルには催眠耐性がない。それは初任務以降も大いに彼女の活動に響く。


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