眼が覚めると、俺は自分の部屋にいた。
「あ、は……ん、んん……?」
なんか変な夢を見たような、見てないような。
……思い出せん、どうせロクなものじゃないだろう。ベッドから立ち上がり、フラフラした足取りで洗面所へ。
昨日、どうしたんだっけ。学校から出て、それから、家に帰って……ああ、そうだ、寝ちまったんだ。通りで腹減ってるはずだ。
顔を洗うと急いで冷蔵庫を確認。卵とか腐りかけの奴が無くもないが、それだけでこの夜飯抜いた思春期の男子の腹は満たせなかろう。
「しょうがない」
俺は少し早めに学校へ行く準備をすると、家を出た。
目的地は当然……コンビニだ。
ファミファミフフーフ、フンフンフーと心の中で口ずさみながら、菓子パンと飲み物を手に取る。
「あ、真田じゃん。はよっす」
「……おう」
さっさと買って、外で食おう。
そんな事を考えていると、前からとんでもない女ヤンキーが話しかけて来た。
黒いジャージに金のラインが入った奴着てる。こっわ。
「朝飯?」
「ああ」
彼女は名は……えーと、ヤンキー。或いは不良でも可能。染めたとは思えないほど綺麗な金髪と、チョコレート色の褐色肌が特徴の、この辺り一帯に生息する女性型のヤンキーだ。
よく見れば美形な顔立ちをしているのだが、引きの画で見ると威圧感が凄いので、綺麗という感想が出る前にまずは怖いが出る。
「一緒に食おうぜ」
「ん、お、おう……」
人懐っこい笑みで、俺とおんなじくらいの背丈の美女が引っ付いてきた。内心ドキッとしながら、仕方なく頷く。
コイツもウチの学校らしい。よく知らないが知り合いが俺に世話になったとかで、友達顔で俺に話しかけて来る。こっちは名前も知らんというのに、これだから褐色ギャルは。けしからん。
胸元をだらしなく開けた格好で、彼女は俺の後ろから離れない。
視線を感じながら買い物できるほど俺は精神力たくましい男ではないので、すぐに会計に向かった。
「これも、よろしく♪」
レジにパンを置いた瞬間、後ろからひょいひょいと商品が追加される。
抗議しても良かったが、レジのお姉さんはあんまり気にした様子もなくバーコードを読み込んでしまうのでどうしようもなかった。
「……後で身体で払ってもらうからな」
半分冗談、半分本気で後ろに呟きながら、まとめて代金を払う。
店員のありがとうございましたを聞き流しながら、店の外に出る。
「ありがとよ。アタシのは飲むヨーグルトと、シュークリームな」
「はいはい」
俺はビニール袋からすぐ手渡そうとして、そこで動きを止めた。
「お前、さっきの俺の言葉、聞いてたか?」
「……え、何、身体で払えって奴?」
ヤンキーは目をパチクリさせると、そのあと何故か挑戦的な目つきになった。
「ま、真田なら構わねぇかな……?♡」
そう言うと、彼女は腕を組み、ジャージの上からでもわかる巨乳をたぷたぷと持ち上げた。
俺はすぐに目を逸らした。
「冗談だ、ほらやるよ」
「さんきゅー♪」
負けた。やはりコイツ只者ではない。
俺は肩を落とすと、コンビニから少し歩いたところで菓子パンの封を開けた。ちょうどいい所にあるベンチに腰掛ける。
「いっぱい買ったな。腹減ってんの?」
ビニールの中を勝手に覗きながら、ヤンキーは俺の隣に当然のように座るとシュークリームを食べ始めた。
……まぁ、良いか。
チラと隣を見ると、胸元のファスナーをギリギリまで下げているせいで、チョコレート色の豊かな谷間が目に入った。
コイツ、やっぱ大きいな。
「何だったら、代金の代わりに揉ませろよ」
俺が冗談めかしてそう言うと、ヤンキーの動きがピタリと止まった。
「……ん、どうした?」
急にヤンキーが喋らなくなったもんで、俺は内心ビクビクしながら相手を見る。
彼女は瞬き一つせず、下手な時間停止モノのアダルトビデオみたいにシュークリーム片手に固まっていた。
怒った、のか……?
「おーい……?」
半開きになった目の前で手を振りながら、困惑する事約一分。彼女は突然ビクッと身体を動かすと何事も無かったかのようにシュークリームにかじりついた。
「……?」
何だったんだ、今の。
いたずら? 悪ふざけ? 或いは何か考え事でもしてたのか?
まるでロボットがフリーズしたみたいに硬直してしまった彼女は、一体何だったのだろう。
いや、些細な事か。気にしない方向で行こう。
俺も自分の手に持ったパンにかじりついた。
「なぁなぁ」
「なんだよ……?」
そうして朝食を咀嚼していると、脇腹をちょんちょんとつついてきた。眉根を寄せて隣を見た。
瞬間、思考が破裂した。
「は!? な、な……何やってんだ、お前……!?、」
俺は自分の眼がおかしくなったのかと思った。
だって彼女は、おっぱい丸出しだったからだ。
「へへ、揉みたいんでしょ?♡」
ジャージのファスナーをヘソの辺りまで下げて、まん丸なおっぱいを外に露出させている。彼女は恥ずかしがる仕草もなく、「早く揉まないの?」と言いたげに首を傾げた。
なんだ、この女。馬鹿なのか。冗談に決まってんだろ。つーか俺とお前はこんなことする間柄じゃないだろ。
「なっ、えっ、おまっ……!?」
焦り、驚愕し、困惑する俺。
彼女はそんな情けない俺の手を取ると、「えい♡」と自分の乳房に押し付けた。
むにゅ、と綺麗な形の半球が、柔らかく形を変える。
俺は背中から冷や汗を吐き出しながら、混乱を加速させていた。
なんで、何が、どうして、こうなった。
手のひらに伝わるおっぱいの感触などまるで楽しんでいる暇はない。名前も知らない女に無理やり乳を揉ませれているという現実が受け入れられない。
「ほら、代金の代わりなんだから、ちゃんと受け取れよ……?♡♡」
ヤンキーは俺の手首を掴んだ手とは反対の手を動かすと、手の甲にそれを重ねて乳房を鷲掴みにした。弾けるような乳肉の弾力が手の中に広がる。
「は、はぁっ……!?」
何言ってんだこいつ。代金の代わり、だと。どう聞いてもさっきの俺の発言は冗談だろうが。
嬉しいよりも気味悪さが上回って、どうして良いのかわからなくなる。
その間にも「乳揉ませ」は続いていて、ムニュムニュとおっぱいが形を変えていた。
「んっ♡ こんなもんでいいか……?♡♡」
冗談などではなく支払いを済ませたような物言いで、ヤンキーは頬を染めながら乳房をしまった。なんとなく手に残った柔らかな感触に遅れて股間に熱が籠り始めたが、色々と手遅れだし、色々と意味不明だった。
「じゃあ、またな! 加奈子にヨロシク!!」
飲むヨーグルトを一気に飲み干すと、ヤンキーは足早に立ち去っていった。
俺はせっかく買った朝食のパンのことも忘れて、呆然としていた。
ーーーーーーー
中間テストが終わり、季節は夏に向かっていた。
校内は私立ということもあり空調設備はしっかりしているが、それでも人のいない教室まではまかないきれないようで。
……つまり、理科室は暑かった。
「それにしても、真田君が遅刻なんて珍しいね」
クラス委員の仕事で、俺と櫻井はノートの回収を任されていた。
まぁそんなことはしょっちゅうなので大した問題では無いのだが、今現在はちょっとした問題が発生していた。
回収するクラス全員分のノートが見当たらないのだ。
「……まぁ、色々あってな」
俺は今朝起きた信じられない事件を話す気にはなれず、曖昧にボカすと準備室の中からダンボールを運び出した。
黒板の手前の席に置いたそれの箱から、緑色のノート達を一冊ずつ取り出す。
「ほい」
「うん」
俺たちは隣り合って座ると、それが自分たちのノートなのか確認し始めた。
つまりはこういう事だ。テスト明け、通常営業の授業の金曜日、選択科目の物理でなんとも面倒くさい事に宿題が出た。期限は来週の水曜日まで。
中間テストとは別に授業の復習という事で課された問題は、まず授業の内容を書き取っていたノートが無いと解けない類のものだった。
そこで、テストの前に回収されていたノートを取りに来たのが三十分ほど前。もちろん今日の授業中に先生がクラス委員に取りに来るよう命令したわけだが、ここで一つ問題が起きた。
ノートが無いのだ。いや、正確には俺たちのクラスのノートがどれか分からないのだ。
職員室には既にその先生の姿が無く、結局俺たちはここにあるのかも不明なノート探しを放課後に行っていた。
まぁクラス委員なんて内申点目当てで始めたものだ。面倒くさいのは百も承知。けれどこの蒸し暑さだけは耐えられなかった。
「あっつ……」
俺はワイシャツの胸元をパタパタさせながら、ムワッとした熱気ばかりを送ってくる窓を見た。まだ六月に入ったばかりだというのに、気温は二十九度近くを指していた。何が局所的な猛暑だ。
櫻井も文句こそ言わないが、中々にこの暑さにまいっているようで、時折ハンカチで額を拭っていた。
なんとかしてやりたいが、こっちもこっちで限界だ。冷房は職員室で管理されているので俺にはどうする事も出来ず、頑張って我慢するしかない。
俺はワイシャツをズボンから解放すると、バサバサと裾を握って少しでも暑さに対抗しようとした。
櫻井はそれを見てちょっと羨ましそうにしながら、いつもきっちり止めているブラウスの第一ボタンをぽつと外した。
……流石に暑すぎるもんな。
そう思いながらノート捜索を続けようとして、ふいに視線が吸い寄せられた。
どん、と重そうに机にのったGカップ。真横から見る乳房の形は大変お上品なエロティシズムを発揮していた。
それだけならまだしも、汗が染みてブラウスが透けて、黒い下着のようなモノがはっきりと見えていた。
俺は目が釘付けになる。ネットで見るエロ動画なんかより、よっぽど臨場感のあるオカズだった。
櫻井はどうやら机の上に乳房を載せた方が楽らしく、ノートを取り替えては、いちいち重そうなおっぱいを机に乗せていた。
その度に色気のある黒いブラジャーから漏れた上の方の乳肉が、ブラウス越しにふると震えた。
俺は気がつくと股間を熱くさせていた。
「どうしたの?」
「いや、別に……」
俺は足を組むようにして勃起を隠すと、何事も無いように仕事を続けた。
けれど一度気がついてしまったそれは抗い難い魅力があって、ついつい横目で見てしまう。
下の部分がちょっと押しつぶされて、Gカップのおっぱいは窮屈そうに机の上に鎮座していた。気のせいかなんだか汗の匂いに混じって櫻井の石鹸のいい匂いがした。
思わず、ゴクリと唾を飲み込んでしまう。
「な、なぁ、櫻井……」
気を紛れさせようと俺は櫻井に話しかけた。
返答は無かった。
「……櫻井?」
どうしたんだよと声をかけようとして、櫻井が石のように動かなくなっているのを目の当たりした。
瞬き一つせず、最低限の呼吸で。櫻井はノートに目を向けながら固まっていた。
「おいっ、櫻井……!?」
俺は慌てて、彼女の肩を揺さぶった。
「……」
櫻井の反応は、一切無かった。