あの後、花城の家で何が起こったのか、俺は知らない。俺はすぐに帰ったからだ。
もう俺が催眠で助けなくても、あの花城を見れば大丈夫だと確信が持てた。
だから、俺は二人を連れて帰った。
櫻井はどうしても花城にも催眠を掛けたかったらしく、何度もしつこく戻らないかと聞かれたが、あの復讐タイムを邪魔するのは気が引けた。
だから、あの後の事は、何も知らない。
花城と和解するという当初の目的は果たせなかったけど、俺は清々しい気分だった。
「ふぅー……」
話は変わって翌日。俺は学校を休んで、まなかさんの自宅にお邪魔した。
理由は当然、もう男女関係なしに催眠出来るなら、彼女の両親も説得(催眠)しちゃって幸せな家庭にしちゃえば良いんじゃないって事だ。
もういい加減櫻井と二人っきりになりたかった。誰にも邪魔されず、セックスしたかった。
善は急げで、自宅が都心の方にあると本人から聞くと、電車を何本か乗り継いで俺は迅速にまなかさん宅にダイナミックお邪魔した。アポもクソもないけど、催眠さえあればどうとでも出来る自信があった。
俺を出迎えたのは、平日の昼間から酒に溺れる男女。まなかさんにこれが両親かと確認すると、頷かれた。
よーし、そこに直れゴミカスども。
昨日花城の父親にしたようにまなかさんの両親に催眠を施し、ついでにまなかさんにめちゃくちゃ謝らせて、そのまたついでにまなかさんの為に必死に働くように催眠した。
後、これからは娘として大切に育てろと。
俺は思いつく限りの、まなかさんの家が幸せになるように催眠した。
とにかく催眠しまくった。命令を下し続けた。
これでようやく彼女に付き纏われる事もなくなるだろう。
めでたしめでたし。
と、そう思っていたのだが……
「真田様ぁ……♡♡」
何故だか昨日よりも距離感の近くなったまなかさんが、爆乳を押し付けながら俺の腕を抱きしめて隣を歩いていた。
Hカップの暴力。
こんなのぶつけられて平然と歩けるはずも無く、俺はジーパンの中で勃起させて、随分と歩きにくかった。
しかもまなかさんは俺の股間をしきりに撫で回してくる。さわりさわりと勃起を増長させるようなフェザータッチに、血が集まる。
頭の中が、彼女を犯す事でいっぱいになる。
暫く歩いてなんとか気を鎮めようとするが、まなかさんは玉袋をエッチに揉んだり、亀頭を撫でつけたりと、とてもチンポに悪い撫で方をしてくる。
……クソが。これじゃなにも変わらん。
「まなかさん、いい加減にしてくれッ……!」
とうとう俺はブチギレた。
冗談抜きのマジギレだ。
駅裏のちょっぴり人気のないところで、壁に押し飛ばす。
彼女はよろめいて、背中をぶつけた。
「アンタ、俺に何を求めてるんだよ……! 家族は催眠してやった、もう働かなくてもいいんだ、グラビアやめて自由に生きろよ! それが目的じゃなかったのかよ!!」
早くまなかさんから離れて、櫻井とイチャつきたかった。居るだけでとにかくチンポ勃たせてくるし、もう本当に邪魔でしかないと思った。
思いの丈を全てぶつけるつもりで声を張り上げる。
「いいえ、まなかが欲しいのは真田様です♡」
けれど俺の怒気に気圧される事もなく、まなかさんは俺の顔を両手で包み込んだ。
目の前で、人気絶頂のグラビアアイドルがにっこり微笑んだ。
「優しい人、まなかだけのご主人様……ご主人様のおそばに、まなかを置いて……♡♡」
俺の事を微塵も怖いと思っていない。催眠されるとも、暴力を振るわれるとも思っていない顔だった。
或いは、されても構わないと思っている顔。
「……」
「……ご主人様?」
「アンタ、ぶっ──」
──壊れてんじゃねえのか。
つい、口に出そうになったその言葉。
その音が口から出る前に、俺はハッとした。
「……」
「どうしました、ご主人様?♡」
「……いや」
……もしかして。
もう遅かったんじゃないだろうか。
ふとそう思ってしまう。
「……」
両親を催眠すればとか、もう働かなくていいとか、そういうのじゃなくて。
花城が、俺を嵌めようとしてまなかさんに金を渡した、そのずっと前から。
もう、この人はどこか壊れていたのではないだろうか。
もう、手遅れだったんじゃないだろうか。
「……そう、かも」
急にこの思考が生まれた訳ではない。
ただ、確証がなかっただけで。この人、何処かおかしいんじゃないかって、ずっと思ってた。
確証がなかった。確信が持てなかった。
でも、人様の顔色を窺うのが得意な俺が、この人だけはよく分からなかった。
怒ったり悲しんだり、そういう人にとって当たり前の感情が全く読み取れなかった。
やけに図々しかったり、話が通じなかったり。
それも人の個性で、そういう人だと、心の何処かでこの人の異様さに目を瞑り、思い込んでいた。
元々そうだったのか、それともそうじゃなかったのか。分からない。分からないけど。
もしかして、まなかさんは、もっと違う人だったんじゃないだろうか。
「ぁ……えへへ……♡♡」
手を伸ばして頭を撫でてやると、彼女はまるで子犬のように頭を擦り付けてきた。
ペット。
確か自分でそう言っていた気がする。俺のペットにしてくれ、と。
もう、自分の事を人とすら思っていないのだろうか。
……そんなことはあり得ないと思いたいが、大体がまずおかしいのだ。
花城のように俺を嫌悪するならまだしも、意識のない最中に胸を揉まれて、挙げ句の果てに命令は解かれたとはいえ勝手に催眠されたのに、どうして彼女のハートはこんなにもピンク色なんだ。どうしてそこまでされた俺にそんな好意を向けてくるんだ。
普通に考えて、おかしいだろ。
俺だったらそんな奴を好きになったりしない。
いつ自我を奪われて肉便器にされるとも分からない男の隣には居たくない。
しかも櫻井とは違い、こいつは俺のことを好きになるような催眠は施していない。
それなのに、この有様だ。俺への依存度は下手をすれば櫻井よりも高いかもしれない。
まだ知り合って一週間も経ってない。交わした言葉だって数えるほどで。
彼女が俺に好意を向ける理由が分からない。
もし理由があるとしたらそれは。
ぽっきりと折れたまなかさんの近くにいたのが、たまたま俺だったってだけだろう。
「……まなかさん。二度と俺に近づかないで下さいって言ったら、どうします?」
「んー……」
まなかさんは考える素振りを見せた。
けれど答えは最初から決まっていたようで、すぐ頷いた。
「ご主人様にはもう近づきません……えへへ……」
そう言って、誤魔化すようにわざとらしい笑いを浮かべる。
俺は、そんな彼女を見て、何となく悟った。
──あ、この人ヤバいわ。
言いようのない確信が、俺を襲った。
断言できた。俺から離れたらこの人は終わる。
自惚れとか、そういうのじゃなくて。
とにかく、もう目を離したらダメな人なんだって。
「ぁっ……♡♡」
気がつくと力一杯抱きしめていた。
別に、何かを考えての行動じゃない。
そうしなきゃって、思っただけ。
「……まなかさん、気が済むまで俺のそばにいて良いです」
「ほ、本当ですか……?」
「俺は櫻井にかかりっきりになっちゃうけど……でも、大丈夫って思えるようになるまでは、俺がそばにいます」
「……はい♡♡」
やっぱり優しい人ですね。
まなかさんはそう言って微笑むと、ギュッと俺の背中に手を回した。
「優しくないですよ、こうなったらガッツリ犯しますからね」
「えへへ……♡♡♡ 頑張ってご奉仕します……♡♡♡」
「……」
……なんか凄い良い雰囲気になってるけど、おっぱいがむにゅむにゅ当たってチンポが痛いし、何より大変な人を迎え入れてしまったと頭を抱えたくなった。
この人は、多分俺が見放した瞬間に終わってしまう。
それが分かってしまった。
この人……重過ぎるだろ。
助けて、櫻井。