あれから一週間。
美津子を呼び出した理由は、自分でもよく分からなかった。
「ごめんなさい、急に呼び出したりして」
「ううん、そっちの『状況も確認しておきたかった』から大丈夫」
美津子は対面に座ると、手に持ったコーヒーにずず、と口をつけた。
私はなんだか無性に気まずくなって、カフェ内を見渡すように視線を彷徨わせながら、同じようにコーヒーを手に取った。
「それで、そっちは『最近』どうなの?」
美津子は特に気負う事なく、私に問いかけてきた。
一瞬何を問われているのか分からず、そして次の瞬間、自分の内なる想いを察知されたのかと思って勝手に焦った。
……いいえ、そんな事はないはず。
「……ええ、真田のおかげで平和よ」
自分を落ち着かせるようにコーヒーを再び持ち上げ、飲む。美津子の話が父親との関係のことだと気がつくと、ホッとする気持ちが半分、何故かがっかりする気持ちがもう半分。
一体私の心はどうなってしまったの。
原因不明で浮つく心に、自分の事ながら首を傾げてしまう。
「んー、そっちじゃないんだけどなぁ……」
ボソリと彼女は私に聞こえるか聞こえないくらいの大きさで呟くと、久しぶりにあの顔をした。
じっと目を見つめて、まるで相手の脳みそのデータをダウンロードするような、そんな表情。
昔からの癖だと知っていても、少し怖い。
私は居心地の悪さを隠すように脚を組み替えた。
「……うん、大丈夫そう」
「大丈夫? 何が?」
「こっちの話。それより、何が聞きたかったの?」
「……」
再び心臓が跳ねる。
ストレート過ぎる会話のパスに、私は言葉を詰まらせた。
思わず身構えて……それでも美津子相手にはそんなの無駄かもしれないと考えて、吐息を漏らした。
少しくらい、こっちも素直になろう。
「……その、真田とはどうなの。あれから、上手くやってる?」
聞きたい事は本当にそれだけ。特に何か用があるわけでもなかった。
……本当に、それだけ。でも聡い親友なら、何か気がついてくれるかもしれないと、自分でも全くどうなって欲しいのか分からない願望を抱えていて。
どうしちゃったんだろう、私。
美津子がニタリと笑った気がした。
「うん、毎日幸せ。最近はまなかさんも加わって、とっても楽しいよ……♡」
自分の下腹の辺りをひとなでして、彼女は微笑んだ。
「……そう」
何に神崎さんが加わっているのかは容易に想像がついて、私は思わず爪を噛んでしまう。
神崎さんも加わっている、だったら──
「そうだ、加奈子。週末どこか遊びに行かない?」
「……へ?」
思考の海に潜る前に、美津子のその言葉で現実に引き戻される。
遊びに……?
私と二人で?
真田とはもう良いのだろうか。
いや、そんなはずはない。あんな顔をした美津子は見たことない。電話越しでも誰が聞いてもベタ惚れって感じだったのに、そうそう冷め切るとは思えなかった。
となると……もしかして、私に気を遣ってるのかしら。
「……なるほど」
そう考えると、美津子は親友である私の事も忘れ去ってはいないのだと思って、安心した。
同時に、真田はやっぱり催眠能力を持っていても他人の人格まで奪うような人間じゃないと確信できて、心の中で何度も頷く。
……私だったら、どうしてたかな。やっぱり外に出れないようにして、ゆっくりアイツと──
私は久しぶりの笑顔を浮かべて頷く。
「楽しみよ、美津子……でも、真田とは良いの?」
美津子はとびっきりの笑顔で頷く。
「大丈夫、今のところ『最初から予定通り』だから」
やけに楽しそうな彼女の声が、耳にいつまでも残った。
ーーーーーーー
ある日、櫻井に週末の予定を聞かれた。
当然櫻井とまなかさんを抱くつもりだった俺は、「セックスする予定」と、ヤリチンみたいな言葉で……昔の俺が聞いたら殺したくなるセリフで答えた。
「じゃあ少しだけ付き合ってくれない?」
「櫻井にそう言われて断ると思う?」
「んふ、真田君好きー……ちゅ……♡♡♡」
「おっぱい揉んでいい?」
「ちゅ、ぱ……んんっ、もう、揉みながら聞かないでよぉ♡♡ それに、私が真田君にそう言われて、断ると思う?♡♡♡」
「……櫻井、好きだ」
「あ、んん、ぁぅ……ちゅ、ぷ、ぢゅ、っ……♡♡♡」
その後櫻井に抱きつかれながら、出掛ける準備だけして欲しいと言われた。
デートだ。
俺は即頷いて、日々二人の美少女を犯しながらその日を待った。
そして当日──
「……花城?」
「真田……」
待ち合わせ場所にいたのは櫻井ではなく、私服に身を包んだ花城だった。
……え、待って待って。どゆこと。
「……偶然、な訳ないよな?」
「ええ、美津子にここで待ち合わせって……」
花城の答えに、そうだよなぁと相槌を打つ。
つまり、嵌められた。
問題は、何のために嵌めたのか。櫻井が何のために、俺をこんな所に連れ出したのか。
花城を気絶させた件もあるし、ちょっぴり不安だ。
だけどまぁ、櫻井が俺の嫌がることをするとは思えない。
何か狙いがあるのだろう。
「ちょっと電話してみるわね」
早々に櫻井にしてやられた事に気がついた俺は、花城に適当に頷き返しながら、彼女の私服を眺める事にした。
もう完全に季節は夏で、そうなると彼女の服装も涼しげなものだった。
フリルのついた洒落っ気たっぷりのワンピースに、素肌を隠すようなカーディガン。珍しい服装でもないが、花城という逸材がそれを着ると途端に色気たっぷりに化ける。
ほんと、凄い体つきだな。まなかさんも背丈のわりにおっぱいがデカ過ぎて笑っちゃうんだけど、花城の場合はこの長身でプロポーションばっちり。しかも乳もケツも外国譲りのぼいんぼいんだ。
極め付けはサドッ気のある端正な顔立ちに、黄金の様に美しいブロンドの髪。今日は結えてお団子みたいにしていた。
うーむ、おしゃれだ。クールアンドビューティー。
父親がああなってしまうのも、一応の理解が出来てしまう。無論、許されない行為だが。
「……ダメね、美津子ったら電話に出ない」
花城は首をふりながら、わざとらしく困った様に唇を尖らせた。
……何しててもチンポに悪い女だな。見てくれが良すぎるから、どんな表情でも色気が滲み出てしまう。
「──」
何考えてんだ俺。
首を左右に振り、この後について考える。
さっさと解散しても良いんだが、違和感を感じるんだ。
櫻井が何を考えてるか分からないとか、そういうのは置いておいて。目の前の花城から違和感を感じる。
なんだろう。いつもの刺々しい雰囲気が無いからか、それとも──
「……あれ?」
俺は違和感の原因だろう存在に気がついて、目を擦る。
けれどそれは見間違いなどではなく、確かに俺には見えていた。
「どうしてあんなにハートがピンクなんだ……?」