翌日、俺は待ち合わせ場所でぼーっと突っ立っていた。
外は昨日の暑さを引き継いだかのような気温である。否応無しに俺は半袖短パンの選択肢を選ばされたが、女と待ち合わせでこれはどうなんだと、自分でも思うような格好だ。どう見てもコンビニ専用装備って感じ。
まぁ、別にデートじゃないし良いか。
……あの後、俺はすぐにデートの誘いじゃないぞと否定した。じゃなんで急に会えないかなんて言い出したの、いやそれはほら俺にも理由が、なんの理由、勉強とか、真田君ってそんなに勉強好きだっけ、宿題のこととか聞きたいですしおすし、ふーんそうなんだ。
……と、以上が大まかなあらすじだ。
つまり俺は、昨日の宿題が結局分からないということにして、電話越しだと説明が難しいから、直接会って相談したい。そう持ちかけたのだ。
だからこれは断じてデートではない。
……櫻井の声は妙に弾んでいたが、やはりアイツはよほど勉強が好きなのだろう。学年トップだしな。
間違ってもデートが楽しみな声ではなかったな、うん。
「お待たせ……」
体感としては五分も待たなかった。俺はスマホゲームを中断すると、特に待たなかったよと顔に浮かべながら櫻井を見た。
俺はすぐに真顔になった。
「さ、真田君……?」
不安そうに表情を曇らせる櫻井。首から上に関してはいつもと同じなので、それがまたギャップがすごかった。
私服の櫻井。それがこれ程までインパクトのあるものだとは思わなかった。
黒いシャツにはフリルがついて、その上にはコントラストが映えるように薄手の白いカーディガン。今日の気温だと長袖は暑そうにも感じるが、一目見た限りではあまり肌の露出が無いのにもかかわらず涼しげな印象を受ける。
統一感を持たせるようにしてパンツは黒めのジーンズのようなものだったが、正直なところそっちは正式名称が分からなかった。
とにかく、はっきり言えるのは、やっぱり櫻井は美人って事だ。制服姿からでも分かりきっていた事だが、こうして彼女の女の子らしい服装を見ると、正直言ってまともに目も合わせられない。
俺は頬が赤くなったのを自覚しながら、返答に困った。どう考えても櫻井は俺の心配をするフリをして感想を待っている。それくらい俺にもわかる。でも恥ずかしい。
それに、今の櫻井は、正直雑誌に載っているモデルと遜色ない。それどころか制服の時よりも目立つ巨乳のせいで脱いでもいないのにグラビアのような色気がある。俺のような童貞で彼女もいたことのない人間には、到底会話することなんて出来ない。俺は興奮と緊張で知らずに震えていた。
……だけど、多分これは俺にとってもちょうど良いか。試すなら今だろう。
俺は立ち上がると正面から櫻井を見つめた。視界の中に、途轍もなく美しい巨乳と、丸メガネの美貌が収まる。
パンツの中で、ムクッとペニスが起き上がった。
条件は揃ってる。これでダメだったら素直に罪を白状して謝ろう。
俺は周りに行き交う人々を意識しないようにして、彼女の名を呼んだ。
「櫻井」
すると、櫻井の身体がビクッと跳ねた。
そして、何処か光の無くした目で、虚空を見つめ出した。
俺は手応えのようなモノを感じながら、念の為目の前で手を振ったみたり、身体を触ってみたりした。
ついでにおっぱいの先っぽあたりをむにゅっとつまんでみる。
「……」
けれど反応はなし。間違いない、停止状態だ。再現出来たぞ。
俺は手早く彼女の手を引くと、側のベンチに座らせた。抵抗など、当然ない。
やはりコレだったか。俺は軽くズボンの上からチンポを触りながら、何とかなったと安堵した。
昨日一晩、俺はこの停止状態に持っていく方法を考えた。何故、この状態になって、どうしてここから俺の命令を聞くのか、とかそういう事はひとまず置いておいて、櫻井のおっぱいを救う事が先決だった。
名前が条件ではない事は、ヤンキーでも証明された。だが櫻井とヤンキーには明確な違いがあった。
それは、櫻井はこの状態から命令されて実行したが、ヤンキーはこの状態なると共に数秒のラグをまたいだ後実行した。
どちらも実行はしたのだが、つまりそうなると俺の言葉を何でもよくなるという事だ。シュークリームの代金の代わりに揉ませろとでも言ったのは覚えている。そしてあのヤンキーは、俺が「シュークリーム」と言った時点で停止状態に陥り、そこから代わりに揉ませろという命令を受け付けたと考えてみると、分からなくもない訳だ。
さて、ヤンキーのことはここまでで良いだろう。アイツも俺の被害者だが、代わりに揉ませろという命令はあの場面でしか適用されない筈だ。というかアイツが他の誰かに乳を揉まれようとも興味はない。
「櫻井、まずは昨日の学校でのことを全部忘れろ」
隣に座りながら、耳元で囁くように命令を与える。正直人の記憶まで改ざん出来るものなのかは分からないが、恋人でもないやつに乳を揉ませるとかいう常識改変まで可能なんだ、それなりに勝算はあると思っている。
記憶を消す理由は簡単だ。いま彼女は乳を揉ませる事を当然と考えている。でもその常識を消しとばしたら、俺にあれだけ揉まれた記憶が残っていたら面倒になるに決まっているからだ。
どうして私、真田君にあんな事を、ってな具合だ。余計な亀裂を作りたくない、今後のためにも。
どうせこの後、おっぱいを揉ませる常識も消すのだから、色々備えておいた方が良いに決まっている。これは彼女と会う前に前もって計画していたものだ。
櫻井はカクンと、首を振ると、すぐにキョロキョロと辺りを見回した。
「あ、あれ……!?」
いつのまにか座っていた自分にびっくりして、困惑と驚愕の間のような表情で固まっている。
気の毒になった俺は、股間に力を込めながら興奮を絶やさないようにして再び「櫻井」と名前を呼んだ。
電気ショックでも喰らったみたいに、再び櫻井は無表情になった。
つまり、スイッチは俺の興奮だ。
この事実に気がついたのは、本当に偶然だった。停止状態の考察に行き詰まった俺は、気晴らしにスマホでエロ画像でも探してオナニーに勤しもうと考えた。
そういえば俺、櫻井の乳を一時間近く揉んでたな、脳裏に浮かぶ感触で一ヶ月はオカズに困らんな、なんて馬鹿な事を考えていた俺に、閃きの電流が走った。
俺は二人を停止状態にした瞬間、三回とも勃起、もしくは性的興奮状態にあった。
そして、対象に、何かしら声をかける。これで発動するのが、あの停止状態だ。
もちろんこの推理にも穴があるだろうが、何故か確信に近いの思いがあった。結果は見ての通りだ。
「櫻井、お前は……」
もうおっぱいを揉ませなくていい。そう、命令しようとして、俺はふと躊躇した。
俺は櫻井をどうにか助けてやろうと必死だった。いつでもクラスの美人委員長のおっぱいが揉める嬉しさよりも、ただで乳揉ませる痴女JKに改造してしまった罪悪感の方が大きかったのだ。
だが、冷静に考えると、これって凄く美味しい状況なんじゃないか。もしかしたらこれから櫻井に俺は命令し放題で、永遠にこの巨乳美女を侍らせられるんじゃないか。
そんな考えが、頭に浮かんだ。
最悪だな俺とは思うが、男ならこの状況でそれを考えない奴がいるか。いや、絶対誰でも考えるはずだ。櫻井を自分のものにする、と。
……いやいや、いつのまにか自分を正当化しようとしている。違う、俺は櫻井を元に戻してやりたいだけだ。こいつにだって自分の人生があるし、こんなに美人なのに彼氏の一人も居ないような事を学校で言ってるってことは好きなやつでもいるんだろう。そんな彼女の人格を全否定して、俺の奴隷にして良いものか。
「……いやでもそれすげぇ魅力的じゃん」
少し考えて、圧倒的に罪悪感よりも美女がずっとそばにいる生活の方を選びたいと考えた。昨日と全く逆の思考だ。
ふぅー、と息を吐いて、隣の櫻井を見る。
「……」
何処か遠くを見つめて虚ろな目をした彼女は、こうして横から見ても芸術品のような顔立ちだ。日本人らしい鼻梁の形に、とてつもない芸術家が作ったような顔のパーツが奇跡的なバランスで組み立てられている。しかも日本人が好むような顔立ちで、だ。
シュッとした顎のラインから下を見れば、嫌でも目に入るボインとした膨らみ。Gカップらしい巨乳には、柔らな乳肉が詰まっていた事を確認済みだ。あれは素晴らしかった。
さらにさらに言えば、昨日見たのは見事なくびれ。なのに痩せすぎではなく全体としてはむっちりしたような印象を受ける体つき。デブでもないぞ、完全にパーフェクトなバランスだった。あの調子なら、お尻も良い形に決まってる。
そんな女の子が、俺の思い通りの人形に出来る。うちの学校は私立という事もあり勉学よりも容姿に富んだ女の子が多い。その中でも図抜けて容姿に富んだ彼女を自由に。
その選択肢が、目の前にあった。というか、言葉一つでそれを選べる。
……ホント、もったいない。
「……櫻井、お前は昨日の俺の命令を忘れて、自分の大切な人にしかおっぱいを揉ませてはいけない」
結局俺は、そんな度胸は無かった。
ため息を吐きながら、櫻井を解放する。
身も心も、これで彼女は元どおりだ。恐らく今昨日みたいにおっぱい揉ませてなんて言っても、虫けらを見るような目で拒否される事だろう。
「え、あれ……?」
櫻井は目を覚ましたらしいが、先ほどに続いて今も混乱中のようだ。まぁ気にする事は無いだろう。
記憶の齟齬で何かしら気持ち悪い思いもするかもしれないが、そこは勘弁してもらいたい。むしろ肉便器にされなかった事を感謝してもらいたいね。
俺はもっこりした股間を落ち着かせるように深く呼吸しながら、興奮を抑える。同時に頭の中で、俺の命令が正しく入力されたのか確認してやらないとと考えていた。
あんな覚悟までしてここまでやったのに、これでおっぱい揉ませてに対してはいどうぞなんてされたら今度こそ奴隷にしてやる。クソが。
「なぁ、櫻井?」
ようやく股間が落ち着いた頃には、彼女の方もあまり気にしない事に決めたのかすっかりいつもの雰囲気に戻っていた。
「何かな?」
俺は彼女が名前を呼んでも停止状態にならない事を確認すると確認するためにこう言った。
「おっぱい揉ませてくれよ」
まぁ、嫌われるよな。いやでも櫻井の反応次第では下ネタ失敗程度にまで上方修正可能なはずだ。
さてどうやって笑いに変えてやろうかと頭の中でシュミレートしていると、櫻井は真っ赤な顔で俯いた。
そして小さく、震える声で、
「……もっと人の居ないところなら、良いよ?」
そう言った。
「……は?」