闇の存在・魑魅魍魎が跋扈する近未来・日本。
人魔の間で太古より守られてきた「互いに不干渉」という暗黙のルールは、人が外道に堕してからは綻びを見せはじめ、人魔結託した犯罪組織や企業が暗躍、時代は混沌へと凋落していった。
しかし正道を歩まんとする人々も無力ではない。時の政府は人の身で『魔』に対抗できる“忍のもの”たちからなる集団を組織し、人魔外道の悪に対抗したのだ。
人は彼らを“対魔忍”と呼んだ―――
この物語は、一人の対魔忍の話である――――――
と言うわけでは無いし、対魔忍でもない。
廃棄都市アミダハラ
かつては日本第三の都市として栄えていたが、米連と中華連合の代理戦争となった“半島紛争”の煽りを食らって弾頭ミサイル攻撃により廃墟化。
その後、地下深くに存在する「魔界の門」を通じて魔族が流入するに従い無法者たちの巣窟となり、10年余りで“廃棄都市”と呼ばれる日本最大級のスラムに成長した。
当然、危険極まりない所なので健全な一般人たちは近寄らない。
進んで近づいてくる者は、好奇心に駆られた愚か者か、そこにしか居場所を作れない闇の住人か、そこに住むことを強いられた弱者ぐらいなものである。
しかし近年そんな秩序があって無いような都市に変化が訪れた。
荒れ果てた市街地は整備が進み、穴だらけでアスファルトが剥がれまくっていた道路は舗装が進み、水道電気ガスのインフラが市内に広がり、行政事務を行うための役所が組織された。
いわば秩序がもたらされつつあった。
以前までは犯罪組織、怪しい研究を行う集団、人ならざるモノ達が入り乱れ「魔術師組合」がそれらの元締めとなりある程度の秩序が作られていた。
しかしその魔術師組合に変わる秩序をもたらす組織が出来た。
アミダハラの中心から少し離れた位置にあるアミダハラ市役所。
市役所の機能はもちろん軍事基地としても機能している。
その見る人が見れば悪の組織の基地にしか見えない市役所の市長室に一人の男が机に向かって座っていた。
書類をよく読んでから、採用か不採用か決めていく。採用された物には判子が押されていき、採用書類はどんどん山積みになっていく。
対して不採用の書類は殆ど無く、あるとしても男の価値観によって不採用の烙印が押されていった。
男の見た目は至って普通の人間の姿であった。
髪の毛は黒、眼鏡をかけ身長は高くもなく低くも無い。顔はイケメンでもなければブサイクでもない。
年齢は、若めであることがわかる。その表情は疲労のせいか目の下には隈ができ、頬が痩せこけているように見える。
「失礼します」
ノックと共にドアが開き軍服のような服を着た男が入ってきた。性別で言えば男だが人間ではない。人間よりもガッチリとした骨格と筋肉、緑がかった肌に口元には鋭い牙があった。
オークと呼ばれる種族である。もちろん魔界からやってきた存在である。
「先日の作戦の報告書です」
「ありがとう」
眼鏡の男は書類を受け取り、目を等していく。
オークはそれを黙ってみるわけではなく、慣れた手つきで部屋に備え付けられたポットでお茶を入れ机に置く。
「少し休んだ方が良いですよ?ここのところ仕事続きじゃないですか」
「誰かがやらなきゃいけないからね。それに僕の代わりはいないし」
「しかし坊ちゃんに倒れられた方が大変ですよ。主に彼女たちが暴れます」
「死ぬわけでもないのに大袈裟だよね?」
「それだけ大事なんですよ、坊ちゃんは」
オークの気遣いに答えながら報告書にサインを入れる。
「お疲れ様でしたゴロウさん。皆さんにもゆっくり休んでと伝えて下さい」
「いえいえ、アイツら『次はどこに行けば良い?早く連れてって!』とせがんでくるんで……全く血の気が多すぎる」
「休むのも仕事の内と伝えて下さい」
「その言葉そっくそのままお返しします」
坊ちゃんと呼ばれる男はなんとも言えない表情になり苦笑いしか出来なかった。
「さて、そろそろ昼ご飯です。坊ちゃんも一緒にどうです?」
「あら、もうそんな時間か……じゃあご一緒しまs」
ドンッ!
「……少し待ちましょう」
「……ですね」
少し待つと電話がなり坊ちゃんがそれを取る。
「もしもし、はい、はい、なる程、試作スーツが耐えられず爆発したと、怪我人はいますか?……いない、ミレーナさんは大丈夫ですか?…………わかりました、これからも安全第一でお願いします。被害の報告は片づけた後で良いですので……お願いします」
受話器を静かに置く。
「……よし、昼ご飯を食べにーーー」
今度はドアが勢いよく開いた。
「大将!大変です!」
「今度は何ですか?」
「教官殿と師範殿がまたやり合い始めました!」
「……アイナさんにキシリアさんね」
坊ちゃんは懐からスマホを取り出し電話をかける。
そしてすぐに繋がった。
『はい銀零です』
「銀零ちゃん、今どこ?」
『地下の射撃場にいますがどうしましたか?』
「地上の訓練場に行ってアイナさんとキシリアさんを止めてきて」
『分かりました!あの乳デカ脳筋共をぶち殺してきます!』
「殺しちゃダメだからね?殺しちゃダメだからね?大事なことだから二回言ったよ」
『大丈夫です!塵も残しませんから!では!』
「銀零ちゃん?銀零ちゃぁん?銀零!?」
通話は切れていた。
報告に来た男に坊ちゃんは言う。
「急いでリーナちゃんを連れて現場へ向かって下さい。食堂いると思うので」
「了解しました!」
ドタドタと音を立てながら出て行った。
残された二人は思わずため息が出てしまう。
「今日はやたらと激しいですな……」
「刺激が強すぎるよ……」
「まあ、何とかなりますよ。午後は忙しくなりますから今の内に腹ごしらえしましょう」
「そうだね……そうしよう、午後からはお客さんが来るし」
「お客さん?どちら様で?」
「六穂さんたち」
「…………これは午後も忙しくなるな」
ぼそっと小さくゴロウは呟いた。
坊ちゃんは聞こえていたが何も言わない。彼自身が一番分かっているからだ。
「忙しくなるな~」
表情は明るい。これから遊びに来る友人達のことを思い出しているのだろう。
顔色は日頃の激務でよろしくはないが。
「坊ちゃん、本当に休んだ方が良いですよ?倒れたら元も子もない」
「大丈夫だよ、ゴロウさん。これが日常業務だから……」
「いや、日常業務だったら駄目ですよ!普通の会社だったら業務改善命令が来ますよ!監査も入りますよ!メディアバッシング受けて倒産させられますよ!」
ゴロウが言っていることは間違いない。普通の人間が勤めている会社ならば当の昔に人材の流出によるブラック化、そして不正行為をしまくった上で倒産ルートである。
「まぁ、何とか成るさ」
坊ちゃんはそんなこと気にしていない様子ではあった。
そんな坊ちゃんをゴロウは……
「ダメだ……早く何とかしないと……」
本気で心配していた。
能天気な表情な坊ちゃんと深刻な表情のゴロウは食堂へ向かって歩き出した。
単調ではない日常を楽しみ、激しく変わる環境を乗り越え、一筋縄ではいかない相手を打倒し、与えられた役目を果たす。
それが坊ちゃんこと、
真名はまだ知らない。
そんな彼の物語である。
そしてなぜ彼がブラック業務をやるようになったのか?オークに本気で心配されるようになったのか?
ここに至るまでの長い物語をまずはご覧にいれよう。
ご意見ご感想お待ちしております!