その日は男はコンビニで買ったコーヒーを片手に表通りに立っていた。
最近のコンビニで販売されているコーヒーはコーヒー専門店に引けを取らない程味が良い。そう思いつつ男は一服してるフリをしつつ人の流れにいつものように目を走らせて獲物を見定めていた。
やはり最近は中々一人歩きの獣人も見つからなくなってきたな、と思っていた時に一匹の獣人を見つけた。
明らかに一人。首輪をして、フリルをあしらったゴテゴテした服に身を包みでいる、おそらくは飼い主の趣味だろう。身長は160センチを超えるだろう、獣人としては大柄な体躯。顔立ちは利発そうな凛々しい表情をしているが、作り自体は意外と幼さも感じる可愛い顔だ。
雪のように真っ白で艶やかな大きな耳と尻尾。同じ色の尻まで届きそうなストレートのロングの髪。体格といい合わせてみるに大型犬。おそらくは純血のシベリアンハスキーだろう。
ふむ、と男は嘆息した。美しい。あれは是非殺りたい。一匹で歩いているなら好都合だ。あの手の大型犬は身体能力も凄まじく、相手取るのにリスクはある、がしかし男は躊躇しなかった。
飲みかけのコーヒーのカップを置き捨てて歩き出した。視界にシベリアンハスキーの少女を捉えたままその姿を追う。適当に人気の無い場所が近いところでいつものように声をかけて、後は臨機応変にと考えながら。
そうして追っていくと、少女は表通りを外れた、そのまま迷いなく進んでいく。違和感を男は覚えた。こっちに一体何の用、だ?およそこの先におつかいで行くような場所はないはずだが。
そのまま進むと、さらに奥まった方へと入っていき、人気も無くなる。自然、男は気配を殺して慎重に尾行した。
男は流石に訝しむ。どう見ても飼い犬だろうに何故わざわざ人気のない場所へ進む?一体この先に何の用がある?野良犬じゃああるまいに。家出、脱走してきた飼い犬にしてもそんな行動をするだろうか?
するかも知れない。所詮獣人など人間より馬鹿だから。そう男は思った。
むしろ好都合ではないか。気付けばわざわざ誘い込むまでもなく、人目のない場所まで入り込んでいた。向こうの都合などは知った事ではない、殺す相手に何故に?などと考察する事に意味はない。
そう考えて男は決めた、殺す。男は自然な仕草で歩みを早めた。しかし、足音は聞こえない。殺意は持ちつつも殺気は漏らさずに、気配は断ち、泰然自若な歩み。この男の狩人としての技量の高さを感じさせた。
少女の歩みは早くない。斜め後ろから四メートルの距離まで歩いて近づけた。しかし、五感の鋭い獣人相手にこれ以上気付かずに間合いを詰めるのは限界だろう。そう見定めて、男はナイフを抜くと同時に地面を踏みしめて歩法を用いて一息で四メートルの間合いを潰す。少女が振り返るより早く男の右手のナイフが、一閃ーー
次の瞬間、咄嗟に身を躱した男は、斜め後ろに飛び着地した。身体は無意識に半身に構えていた。ナイフを握る右腕からポタポタと血が滴る。その腕には長い切り傷が刻まれていた。幸い浅かったが、男は傷の状態を確認はせずに少女から眼を離さなかった。
「人間の癖に勘がいいのね」
男の腕を切った合口を右手に持ったシベリアンハスキーの少女が高く澄んだ声でそう言いつつ、ゆっくりと振り向いて男の方に向き直った。
「失礼、フールの癖に。と言うべきだったかしら」
そう吐き捨てる少女の口元にははっきりとした侮蔑の笑みが浮かんでいた。
「こうも、こちらに都合良い方へと誘われたら一抹の警戒くらいはするだろうな」
「そう、用心深いのね、それとも臆病?これまでのフールは大抵何も考えずあっさり飛び込んで来て今ので終わってたんだけど」
男の返答に少女は殊更にはっきり嘲笑を浮かべて言った。さらに美しく白く煌めく髪を優雅に一つかきあげて付け加えた。
「だって、
ぴくり、と男の眉間が動いた。屈辱と怒りを覚えた。しかし、ゆっくり呼気を吐き感情を鎮める。相手がこちらの冷静さを奪おうと挑発してるのは明らかだ。
「……聞き齧った事はある」
「ふぅん?」
男の言葉に少女は木で鼻を括ったような返答をする。
「フール狩。反社会的フールをこっそり消している動きもある、と」
「……だけど、そんなのは一般人がフールを脅す為に作った根も葉もない流言だと切り捨てていたーーってところかしら?」
少女の言葉は否定出来ない。男は馬鹿な都市伝説の類と思っていた。しかし、あるいは有ってもおかしくはない、とも心の片隅では思ってもいたが。
「まさかねぇ……」
そう言ってくくくっ、と男は引きつった笑みを漏らした。
「ねぇ?まさか、と思うでしょう?」
ふふっ、と狂喜の混じった笑みを獣人の少女も上げる。
「フールを
「しかし、だからこそ理に叶っちゃぁいるな」
「ふふっ、あははははっ!」
「くくくっ、ひゃっひゃっひゃっ!」
二人は揃って楽しそうに何処か狂気の混じった笑い声を上げた。次の瞬間一瞬で距離を詰めた少女の合口が男の喉に真っ直ぐ突き出される。男はそれを左手で捌き逸らすと同時。崩しながらしゃがむように入身してナイフで少女の股間を突きに行くが少女は崩れた態勢から強引に飛んでそれを避けた。
トンと、身軽に離れたところに着地して少女は合口をスと男の方へと持ち上げる。今の一合で男に戦闘力がある事を察して警戒心を上げた。だがそう珍しい事ではない。危ない橋を渡っているフールの中には自衛の為の力を身につけている者もいる。
「さて?狩るはずの相手に狩られる気分はどうかしら?
殊更に嘲笑と侮蔑を含ませて少女は言った。それは単なる挑発だけではなかった。少女は心底憎んでいたのだ。自分の同類達の獣人を嬲り殺すフールという人種を。
少女は今にもまた飛び掛かれる体制で合口を構えている。ここで両者の戦力差を比較しよう。少女の得物は鋭利な合口、刃長は七寸ーーおおよそ21㎝ーーを超える。男のナイフより少し長い。しかし、微々たる差といえる。得物としては男のナイフも少女の合口も同等の性能だろう。
技術ーー技量もまた同様。二人とも殺しなれている。荒事の場数がある。そして明らかに少女も男も近接戦闘の技術を仕込まれている。有り体に言って殺人に特化している。
ここまでは少女も男も互角だ。だが、一つの点で両者は異なる。ーーそれは単純、身体だ。
両者は種族が違うのだ、男は人間としての身体能力しか持たない。対して少女は獣人。しかも大型犬種だ。その身体能力は人間を軽く凌駕する。
一般に人間は野生の獣に素手で勝つ事は出来ないと言われる。人間と獣の能力にはそれだけの差があるのだ。そして、それはこのままこの両者にもいえる。
つまり、得物や技術が五分でも身体的に男が圧倒的に不利なのだ。このままやり合ったらどうなるかは考えるまでもない。少女はそれを分かっているから余裕を持てる、しかし男を侮り、慢心はしないというプロらしさも持ち心も隙がない。
ならば男が取る手段は?交戦するのは愚かだ。敗北は確実。降伏するのは無駄だ。殺害が決定。逃走するのも駄目だ。追走され刺殺。
ならば策を弄して隙を作る?人を何とか呼ぶ?まだ可能性はありそうだ、上手くやれば。
「くひゃっひゃ」
しかし、男はフールらしく愚かな選択をした。
「遊んでやるよ。こい」
男はナイフを構えた右を前に少し半身になり、クイっと、手招きした。殺り合うつもりなのだ。しかも心底面白いと言ったふうに。
その男の態度に少女の目が剣呑な光を帯びる。
「貴方、自分の立場が分かっている?」
少女の声色も低く、険を帯びていた。
「やっぱり、フールは愚かで……むかつく、なぁ!」
そう言い放つと共に少女は服の下に隠していたスローイングナイフを一息で抜いて投げ打つ。左胸に飛んで来たそれを男は左に体を切って躱す。瞬間少女がいる場所に対して右肩を向ける一重身となる。
しかし、少女はもうそこにはいなかった。
男がナイフを避けた瞬間ナイフとほぼ同じタイミングで男が真半身になる右斜め、裏側の死角に踏み込んでいた。人間ではあり得ない凄まじい爆発力が為す曲芸。こんな事されては、まず少女が消えたと錯覚するだろう。
だが、もう遅い。その瞬間にはもう脇腹への刺突が走って……その時少女は目にした。男の右腕が背中よりに残っている?
違う、少女の驚異的な動体視力は見た。それは既に斬撃を放っている!少女の眼に向かってくる。コマ送りのように眼に迫るナイフが見えて、少女は咄嗟のスェーバックでそれを躱した。強引な身体の使い方ゆえ当然自分の刺突もあらぬ宙を刺すだけである。
瞬間的に少女はその脚力で後ろに飛ぶ。一瞬前に居たところに男の切り返した二の太刀のナイフが走った。
その斬撃の終わり際、後の先を狙った。少女は後ろに飛ぶやいなや地を蹴り今度は前に飛ぶ。後ろから前への急制動で一切スピードに滞りないという無茶苦茶な身体能力。
そうしてナイフを振り切った瞬間の男の首に閃光のような突きを放つ。分かりやすい急所狙いの仕留めるための攻撃。
なのに、なぜ、この男はこのスピードについてくるのか?突きが喉笛に迫るが、標的が遠くなっていく。男は一歩後ろ足を下げて間合いを切っていたのだ。
しかも、カウンター、まで。少女の突き手を迎えるように下から掬い上げるような斬撃。急所だ、裏小手を狙っている。少女は突きは届かぬと判断して半ば突きの軌道を強引に変えるように男の斬撃を抜いた。
その時に気がつく。ミスディレクション!?上に意識が行っていた時下に動きがあったが気がつくのが遅れたのだ。斬撃にさらに重ねて男は前蹴りを放っていた。
少女は強引に小手狙いの斬撃を外した為、身体が流れてしまっている。蹴りは少女の脇腹へ半ば進んでいた。少女の動体視力と高速で展開する意識はそれが見えていた。見えていた。見えて、いるのに。
体制を立て直し躱す動作が間に合わない。蹴りが食い込むのを見届けるしか……ギリっと少女は歯を食いしばり強引に前足に力を込めた。
ドッ!っと、男の突き放すようで刺すような蹴りが少女の脇腹の点穴に刺さり、後方に弾かれた。ザッと、地面を踏みしめて何とか倒れずに体制を立て直す。
「骨盤を割ってやるつもりだったが、しぶといねぇ」
「や、る、わね。ここまで私の動きについてきたのは貴方が初めて。」
少女は避けられないまでも。蹴りの威力を咄嗟に殺す事に成功していた。無茶な使い方をした足が鈍い痛みを放つがとりあえず機能に支障はない。身体能力だけでなく身体強度も人間以上なのだ。
しかし、何なのだこの男は?完全にスピードは段違いに自分の方が早い。そう少女は思った。しかし、男はこちらが動かんと意が起こる時には既にそれに対して動き出している。つまりこちらが動く僅か前にカウンターを取っているのだ。それが圧倒的なスピード差を埋めている。しかしそんな事を行い続けるなど人に出来る所業なのか?
少女の表情が変わる。慢心はしてないつもりだった。しかし、いつも通りの楽な仕事だと心の何処かで思っていた。その甘えを捨てる。
「ここまでよ、貴方は私と対等の能力のつもりでやる」
そう言うと少女の雰囲気が一変した。それまで悪意や殺意を剥き出しに発散していたのが、感じられなくなる。殺人の為の不純物は一切を捨てた。なのに、少女から掛かる重圧が重くなる。ここに一般人が居れば、まるで空気が粘度を持ったような息苦しさを覚えるだろう。
「なるほどねぇ、じゃあ……」
「遊びはここで」
「ーー終わりだ」
少女が言いかけた言葉尻を言い切ったのは男だった。まだ、余裕を崩さないのか?少女はそう思い、しかし関係ない。すぐ終わらせると、男の喉笛を搔き切る為に動き出そうとした時。
「
男が機先を制すように言葉を発した。いまの響きにどういう意味があるのか?少女はそんな無駄な疑問は抱かない。迷いは不純物なのだ。
ーー故に察するのが遅れた。トッという軽い着地音がして初めて後ろに誰かいる事に気づいた。即座に構えながら振り返る。
しかし、一手遅かった。そこにいたのは自身と同じ、耳と尻尾を持つ獣人の少女だと辛うじて認識出来た。しかしその瞬間にはもう相手は襲いかかってきていた。
しかし、フール狩もさることに、咄嗟に受身を取り立ち上がりながら無事な左で予備のナイフを抜き放つ。
その腕の点穴をいつの間にか死角へ回っていた男に刺された。うぁっ!と呻いてフール狩はナイフを取落す。左腕が動かない!神経をやられた。
ドッ!と男は落ちたナイフを拾い無造作に靴の上から少女の足の甲を刺し貫いた。ガッ!と貫通した切っ先がアスファルトに当たる。
「あぁぁぁっ!」
「一丁上がりだな」
激痛に、悲鳴をあげ地面に倒れ伏し悶えるフール狩の少女を見据えて、男は気楽な調子で言った。
「あの状況で、私を呼ばずに遊び始めるとは、ご主人は相も変わらずキチ◯イでいらっしゃるようですね」
リン、とそう呼ばれた伏兵の獣人の少女は合口を拾い、男の側に控えつつ、そう慇懃無礼極まりない言葉を掛けた。
「そういうお前もそのピンチでも黙って隠れて観戦とは相変わらず主人に忠実だねぇ」
男も自身の飼い犬である少女に、軽口で答えた。リンと呼ばれた少女は髪は赤みかかった茶で肩にかかるくらいの長さだ。しかしサイドの髪を左右で一房ずつ長く伸ばしている。大きめの耳と尻尾は黒かった。切れ長の眼をして、愛らしく綺麗な顔立ちをしているが表情の変化に乏しい。ワンピース姿の体躯は身長が高く、緩やかな曲線を描くが起伏に乏しいスレンダーな体型だ。おそらく犬種は大型の雑種か?
「呼ばれるまで私の出番ではないので」
リンは主人の皮肉に表情も変えずしれっと答えた。
「涙が出そうなほど忠実だねぇ」
そんな犬と主人のやり取りを聞く余裕もなく、フール狩の少女は地面で呻いていた。足にはナイフが刺さりっぱなしで最早立つ事すら難しい。いや、それすら出来ないだろう。左腕は動かない。右腕も折れて使い物にならない。両の腕が使えなくなり、逃走も出来ず、抵抗も不可能。どうしよう?どうすれば……?既に少女の心は折れていた。
「ーーさて」
「ひっ!」
男が突然自身に声をかけてきて、少女は思わず引きつった声を上げてしまう。
「フールが、まさか獣人を飼っている……なんて夢にも思わなかったかい?」
それは当然だろう。フールにとって殺害対象でしかない獣人を飼おうという発想になる変わり種はそうそういないだろう。そしてフールに大人しく飼われようとする獣人もまたいない。もっとも人間と獣人の力関係からすれば獣人の意思など無視は出来るが。いずれにせよ獣人を手元に置いておくフールなどレアケースだ。
そう、フールにして持つ愛犬リンこそが男の隠し球だった。普段狩りをする時、男は有事に備えてリンに隠れて控えさせていたのだ。
「さて?狩るはずの相手に狩られる気分はどうかなぁ?可愛いわんこさん」
「ただ犬を飼っていただけでそこまで勝ち誇れるなんてご主人、流石です。」
「リン、今言わばピークなのだから、少し黙っててくれ」
「リン、黙ります。でもご主人のピークは今じゃなくて」
そこまで言って、リンは振り返り、地面に転がっている少女を憐れむでも無く見て言った。
「ーーこれから、でしょう?」
「……否定出来ないな」
そう言って口の端を吊り上げる悪魔的笑顔を見せた男をみて少女は自身の運命を悟った。そうだった、ただ負けて死ぬのではない。フールに、獣人である自分、が負けたのだ。その事実を正しく理解すると彼女の内臓の底から絶望感が込み上げてきた。楽には死ねないのだ。
少女はフールへの怒りとともにずっとフールを狩る側に回ってきたからいつの間にかそれを忘れていた。もししくじったらどうなるか?という基本的でもっとも恐れるべきリスク。
嫌だ!怖い!怖い!せめて両腕が動いたら嬲りものにされる前に自害が出来たのに。いや、舌を噛み切って飲み込めば窒息死出来るのではないか?
しかし、少女は舌を噛む事は出来なかった。果たして両腕が動いたところで自刃など出来たか怪しい。少女は狩る立場に回る事でこれまで弱い自分から目を逸らしていたが、果たして臆病だったのはどっちだったのか?
「いや……やだぁ、た、すけ、て」
結局少女はみっともなく地面に這いつくばったまま、恥も外観も無く懇願しだした。彼女は助かるためなら躊躇なんてしないだろう。
「アヒャッ!ヒャッヒャッヒャッ!」
男はその無様さを目の当たりにして、手を叩きながら爆笑した。心底楽しそうに。
「あそこまで吹いておいて、いざとなると命乞いが通用すると思っている。フール狩様とやらも変わらないな。なぁ、本当に獣人ってのは馬鹿だよなぁ?」
「そこで私に振っちゃうご主人も中々に馬鹿ではないでしょうか」
呆れたようにジト目で返すリン。この犬は主人を慕ってるのか、舐めているのかわからない態度だ。
「ま、ぼちぼち始めるか」
愛犬の辛辣な返答を黙殺して、男はナイフ片手に少女へと歩みよる。逃げようとしたのか少女は身じろぎするが当然殆ど動けない。まるで死にかけの虫だ。
「やめて!私が悪かっ、たから。許して!」
「謝罪するなら、相応の口の利き方ってもんがあるだろ?」
「申し訳ありませんでした!ゆ、許してください。」
「断る」
そう言ってパチンと指を鳴らした。控えていたリンが動き、少女の両手首を掴み驚異的な腕力で吊るしあげた。当然折れている右腕に激痛が走る。
「いたぃぃぃぃっ!」
「喚かないで下さい。なるべく静かに動かなければ少しは楽に死ねますよ」
泣き叫ぶ少女にそう告げてリンは少女を仰向けにして地面に抑えた。そうしてやり易くなったところを男が鼻歌を歌いながら服にナイフを刺し通し、切り裂いて剥ぎ取り始める。
「まっ、て!待って!聞いて!上は貴方の事を認識してる、の!だから私を殺しても、貴方は狙われ、続けるわ!」
「ふむ?で?」
何か考えついたのか、少女はつっかえながら喋りだす。何を言い出すのかと興味が湧いたのか男は一旦手を止めて聞いた。
「私を解放してくれれば、貴方がもう狙われないように上に上手く手を回すわ!貴方を死んだ事にするとか。そ、そうすれば貴方はその間に逃げれば別の場所で獣人狩りも続けられるし、お互い協力すれば助かるでしょう!?」
少女は取引のつもりなのかそんな提案をした。しかし、フールに義憤を燃やしていたのに、わざわざ獣人狩りが出来るように配慮もしてくれる程に助かりたいらしい。
「お気遣い痛み入るね。でも気持ちだけで充分、だ!」
その愚にも付かぬ戯言を流しながら男は少女の左腕をを掴むや否や極めてそのまま折った。鈍い音がした、上腕骨螺旋骨折。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁっっ!」
「いい声で鳴くねぇ!あー、いい……」
男のズボンの前はテントを張っていた。ジッパーを下げて肉棒を取り出す。もう最大限にまで勃起したものが腹につきそうなほど反り返り先走りを零している。
肉棒を露出したまま、ビリビリと服を破りとる作業に戻り、下着まで剥ぎ取って裸にしてしまう。
「ご開帳ってか」
服をを着てるとその厚みで分かりにくかったが、裸になると、メリハリのある女性的な身体であった。ウエストはくびれてヒップアップした良い尻をしており、乳房も大きい。男好きしそうないい身体だ。もっとも本人は未だ骨折の痛みで泣いていたが。
「でかいな……小さい方が好きなんだがな俺は」
「ご主人、リン、胸小さいです」
「あぁ、そうだな」
ボヤいた男に、謎のアピールをするリンであったが、男はとりあえず少女の大きな乳房を揉んで感触を確かめながら適当に返事をした。
「まぁ、身長が同じくらいだし。俺はお前の身体の方が好きだな」
「と、よその女の乳を揉みつつ愛犬を口説く人として終わってるご主人の変態性に私は感動します」
馬鹿なやりとりをしつつ、男は少女の身体を確認していく。胸は柔らかくもありながらパツリとしたハリもあり触り心地は良い。中々使い込んでいるようで、女性器は黒ずみビラビラと複雑な形状をしている。フール狩ばかりでも無く娼婦でも兼任してるのかね?と男は思った。
「まぁ、これはこれで。たまにはこんなのもいいだろう」
「これはこれでとか言っちゃうご主人。リン、そんなところが結構好きです」
実際本心である。好みではないにせよ。基本的に小型の獣人の方が人気があり、大型は見かる事自体少ないし、狩るのも大変だ。普段とは違う新鮮さがある。また、どこか神秘的ですらある美しさを持った少女と、品のない雌と言った具体の身体のギャップも中々そそる。
「さてと」
「やだぁ!助けてぇぇ!」
「はいはい」
いよいよ行動に移った男に泣き叫びながら下半身で暴れる少女。それを巧みに封じながら男は少女の左上腕に手を伸ばして握って、捻った。
「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!ひああっ!あぁぁぁぁぁ!」
既に折れてる腕に加えられる力、ささくれて折れた骨がずれて中の筋に食い込み刺さる、筋骨を犯される電撃的な痛みに少女は絶叫しながら海老反りになった。リンがその場から動かないように抑える。
「ふん?こうか?で、こう」
男は手の内の感触で腕の中の状態を確かめつつ、腕を捻る。両腕を使い中に刺さった骨を更に肉に食い込ませる。いい具合にささくれて折れた骨がある。彼はそれを使い中から腕を切り裂いているのだ。
ブビュ!と音を立てて中から突き抜けて貫通した骨が飛び出した。
「あぁぁぁぁぁァァァァッッ!!」
少女はあまりの苦痛に、海老反りのまま激しく痙攣した。恥部からピュッピュッ!と断続的に尿が吹き出し男の服にかかった、痛みのあまり失禁したようだ。
「良し、骨が出た。くひゃっ、いたそー」
楽しげに男は笑って、飛び出した骨をナイフでガッ!ガッ!と打ち据える。悲鳴とともに少女が半分白眼を剥いていた。飛び出した骨が折れて、鋭利な骨片が落ちる。
「そういや、犬って骨を咥えてるイメージがあるがあれはなんでだ?」
「肉食動物は骨髄も栄養源とするのだそうです。まぁ、こんな感じで鋭利にささくれて喉や内臓を傷付けるリスクもあるそうなので飼い犬にわざわざ骨をそのままあげる必要はないでしょうが。」
「ふーん。リン、食うか?」
そう言って折れとった骨片を男は差し出す。
「頭大丈夫ですかご主人?いえ、駄目でしたね、申し訳ありませんでした」
主人のブラックジョークを毒舌で流しつつ、リンは少女の眼を確認する。意識はまだある。
「冗談はともかく、喉に刺さる、ねぇ」
ふと男は少女の顎を掴み口を開けさせる。指を突っ込んで下顎、舌の下にある口内の点穴を押さえた。ここを捉えられると口が閉められなくなる。少女は苦痛で荒い呼吸をするばかりで殆ど抵抗出来なかった。
そうして、男はもう片手に持った鋭利な骨片を少女の口の中に突っ込んで舌を貫いた。
「あぁぁぉぇぇぇっ!」
疲弊し切ったように動きが少なくなった少女の身体がまた跳ねた。男は何度も骨を刺して舌をめちゃくちゃにする。更に口の中で掻き回して口内の肉をズタズタにした。
「あひゃぁぁぁっ!ぁぇぇ!」
「いっつ!指切った」
「馬鹿なのですか?口内は雑菌が多いのだから帰ったら消毒しますよ」
「はいはい、んで、こうして」
男は喉の奥までささくれた骨を突っ込んだ。まさにリンの言った通りに喉を骨が刺し貫いた。更に奥を弄るように切り裂き喉をズタズタにしていく。風邪をひいたくらいでも耐えがたく痛む事もある程、敏感な喉粘膜への直接攻撃はまさに地獄である。それこそ重い風邪をひいたときの不快感と痛みと吐き気を百倍にもしたような苦痛。
「ごわぁ!ごっ!げっ!ゴポッ!」
少女は苦痛のあまり毛細血管が破裂したのだろう、眼球を真っ赤にしながら喉から妙な音を立てて、悶絶した。足がバタバタと跳ねる。嘔吐感に耐えられる訳もなくポンプのように口から勢いよく血の混じった胃の中身を嘔吐した。吐瀉物が自身の顔を濡らし地面に広がり、美しい白髪を汚した。
「ちぃ!」
男は口の中から手と骨を抜いた。吐瀉物で汚れたのを嫌ったのか?いやそうではない。
男の肉棒の先からよだれのように先走りが止めどなく分泌されている。もう爆発しそうなほど昂り辛抱出来ないのだ!リンが察して身を引いて場所を開ける。男は少女に跨るように吐瀉物塗れの口の中に肉棒を突っ込むと一気に喉の奥に挿入する。途中ズタズタに荒れた粘膜に擦れる感触だけで駄目だった。一気に大量の精液をビュルビュルと放出する。
「くっ!つー、気持ちいいなクソ!」
「その人意識ないみたいですけど、息してますかね?」
「ちょっと、まて」
男は最後まで射精すると粘液やら吐瀉物やらで汚れた肉棒を引き抜く。少女は半分白眼を向き、口の中を吐瀉物と精液塗れのまま動かない。息をしていない。気道に吐瀉物が入り込んだかも知れない。
「死にました?」
「まぁ、待て」
男は少女の身体を横向きにして顎を反らす。そして背中に一撃掌打を入れた。
「ガッ!げぽっ!げっ!ゲホッ!」
男の活法で激しく咽びながら少女は呼吸を再開した。どうやら死に損なったらしい。
「お気の毒に」
そのまま死ねたらこれ以上の地獄を見ずに楽になれたのに。とさして気の毒そうでもなさそうにリンは呟いた。
「ごっ!げっ!ごほ!ご、」
「何か言いたげだねぇ」
意識が戻った少女は必死に何かを訴えかけようとして、しかし喉がめちゃくちゃで上手く声が出ない。だが、一体何を言い出すのかと気になって男は待った。
「ご、ろがッ!」
「あー?」
「こ、ろ、じ、て」
「あぁ」
内容を聞き取ると期待していた様子の男が興醒めしたように気の抜けた声を出した。もう殺して楽にしてくれと訴えているのだ。
「いいところまで行くと同じような事言う奴結構いるんだよなぁ」
「お約束って奴ですね」
「まぁな、食傷気味だし、正直萎える」
とイラつきを隠さず男は骨が突き破った左上腕を踏みにじる。少女は血の混じった涙を流しながら醜い悲鳴を上げた。
「もう少し生き汚くなってほしいなぁ」
「私でも同じ事言う気がするくらいに無茶です。ご主人、えげつないのですから」
「だから、今回は殺さない」
「流石キチガ◯の上に天邪鬼なご主人。最悪の期待を裏切りません」
殺さないとは本気だろう、しかしもちろん助けるとも言っていない。死なないギリギリを攻めるというつもりなのだ。お気の毒に。とリンは先程の台詞を再び無表情に繰り返した。
「でももう一押しで死にそうだと、リン、思うのですが」
「案外生き物ってのはしぶといもんさ」
そう嘯いて男はナイフを抜くと、少女の腹に突き立てた。ビリっと電撃的な激痛が朦朧としてた少女を襲う。
「がげぁ!っ!かひゅ!ッッ!」
「ほら案外元気だろ?」
「これを元気と言ってしまえるご主人の感性が心配です」
ビクビク悶絶する少女を指して気楽に言う男に淡々とリンは返す。男は腹をビーッと開き腸を掴み出した。生臭く饐えたような臭いが広がる。
男は引き摺りだした腸をナイフのブレードに引っ掛けるとクルクル巻きだした。ずるずると長い腸が巻き取られどんどん引き摺り出てくる。
「あぁっっ!エェガッ!ぉおっえ!」
「ほら、こう言う拷問器具あったよな?」
「ご主人、リン、ぶっちゃけ、吐きそうです」
「吐くならせっかくだしぶっかけてやれよ」
「何がせっかくなのかわかりませんが、リン、そんな趣味はないので遠慮します」
腸を引き摺りだされて声をあげて悶絶する少女を見ながら、気の抜けるような会話をする男とその愛犬。もっともリンは全く吐きそうにない涼しげな顔色である。
「と、いい具合に腹も空いたしそろそろ」
男は少女のふたたびギンギンになっていたペニスを腹腔内、ハラワタの中に突っ込んだ。脱がないのでズボンの前が血や内臓のドロドロで汚れるが構わずに腰を回してハラワタを掻き回す。火傷しそうなほど熱い臓物がヌメッて肉棒に絡みついてくるたまらない感触。
「あー、気持ちよすぎる!もうダメだ!ダメ、好きすぎる!愛してるぞ!」
「ベットの中での男の愛してるほど信用ならない言葉はありませんが、リン、ここまで来ると一周回って真実な気がしてきました」
快楽に支離滅裂な言動をする男に律儀に一々コメントする彼女は実は本当は忠犬なのかも知れない。
「っ!出る!」
ビュクン!と男の肉棒が堪えきれずに激しく吐精した。腹腔の中に精液が混ざっていく。二回三回と激しく肉棒はしゃくりあげ、残滓をトロトロと先から絞り出して射精は終わった。少女は最早動かず白眼を剥いたまま細い呼吸を続けている。萎えかけた肉棒にも内臓の愛撫は優しくて気持ちがよい。
気持ちがよいのでそのまま男はハラワタの中で小便を初めた。何もかも少女の中に排泄してしまう悦楽に、男は背中をプルプル震わせる。
「さいっこうッッ!!」
「……」
男の魂の咆哮が空に響き渡った。リンは最早絶句するしかない。
「さてと」
唐突に冷静になった男は立ち上がり少女の服の切れ端で肉棒を拭うとズボンにしまった。もっとも彼の服は少女の小便や体液やら吐瀉物やらで汚れて異臭を放っていたが。巻き付いてた腸を引きちぎりナイフをシースに納める。
「帰るか」
「……そうしましょうか」
男は歩き出し。リンは少し遅れて歩き出した。後にはもう助からないであろうが、まだしばらくは死に切れない哀れで無残なフール狩の獣人の少女を残して。
「いやぁ、しかし今日は中々驚いたな」
「話を聞く限りご主人危ないと私思ったのですが、これからどうします?」
「別に、どうもしないが」
「リン、知ってました。こういう人でした」
あっけらかんとした男の態度に呆れてるのか、何を思ってるのかよくわからない無表情でリンはそう言った。
「しかし、割と死ぬっぽいなと思ったけど、よくまぁお前も傍観してたなぁ。ああいう時の為なのに」
「ご主人が楽しそうだったので呼ばれるまでは控えていた方が良いかとリン、思いました」
「忠実だねぇ」
くっく、と笑いながら皮肉のように半ば本心で男は言った。確かに中々楽しめたのだからリンは主人の意向を汲みとっていたと言える。
「それに私は知っています。あの程度ではご主人は殺れません」
その一言には僅かに力が篭っていた。
「お前は微妙に人を買い被るな」
「事実死んでませんし」
「くっくっ、事実は否定できねぇな」
「ではご主人、私はここで」
「あぁ」
そう言って二人は別れる。男は普段リンと居るところを見られたくないので別ルートでリンは先に家に帰って待っているつもりなのである。
「リン」
「はい」
「ありがとう」
狂人たる主人が別れ際に言ったその言葉にリンは驚愕した。その間に男はもう表通りへと歩き去っていってしまった。
「恐悦至極に存じます」
その日初めてリンは小さな笑みを見せて豊かな尻尾を揺らして小さく呟いた。
そうして、リンは地を蹴り建物の上へと走り、暮れて来た夜へと消えて行った。