亡国機業は壊滅しました。 作:張三李四
ストックなしでの執筆です。書き上げたものを即投稿しています。
※重要※
サクッとエロ場面だけ読みたい方は、目次にて【〇〇〇】と記入した箇所を拾い読みしてください。
よろしくお願いいたします。
篠ノ之箒とマドカ《1》
(来てしまった……)
マキは、立派な温泉旅館を見上げながら思った。
両親を説得して通っていた進学塾が開催する勉強合宿に参加したのだ。
夏期勉強合宿の定員は五十名。中学受験を目指す小学生から高校三年生、浪人生も対象に含まれる。
とはいえ、宿舎は温泉旅館だ。勉強の疲れを温泉に浸かって癒やすというのもまた、合宿に参加した理由のひとつでもあった。
受付で部屋割り表をもらい、仲居に案内されるがまま部屋に通される。三人部屋で、部屋の中央に黒塗りの机が置かれていた。
扉が閉まり、仲居の姿が消えたとき、マキは五日間寝食をともにする面々が先に到着しているのを知った。
「御印マキです。今日から五日間よろしくお願いします」
言って、頭を下げる。
「……よろしく」
窓辺で椅子にもたれかかっていた少女が、渓谷を流れるせせらぎから目を離して振り返った。
(……うわっ美少女)
長い艶やかな黒髪を結ってキリッとした顔立ち。白い肩を出し、ロングスカートと、まるで雑誌の写真から切り取ったかのような出で立ちの
「篠ノ之箒だ。中学三年」
「あ、わたしも中学三年です」マキが言い足す。
(待て待て、同い年だとぅ……!!)
凜とした声に驚きつつ、荷物を部屋の隅に置く。
すると、座布団に座って、スマートホンに指を走らせていた少女が顔を上げた。どことなく織斑千冬を彷彿とさせる勝ち気な容貌だ。マキよりも幼い顔立ちだったので、おそらく小学生だろうか。
「よろしくー」
マキが言うと、少女が返事をした。
「マドカ、羽室マドカって言います。小学六年生」ボブカットの黒髪が外側に跳ねている。
「へー、マドカちゃんって言うんだね。どこの中学を受けるの?」
マキは頭を働かせる。私立中学は政令指定都市に集まっているので、拙い知識を撚り合わせた。
「IS学園。飛び級狙ってて」しれっと言う。
「へ、へー。勉強できるんだね」
動揺を隠しきれずに応じた。マドカはマキへの興味を失ったのか、寝転がって座布団を枕代わりにしてスマートホンに見入った。
フリル付きのTシャツがめくれ、柔らかな腹部が露わになったが、マドカは気づいていないようだ。部屋には女しかおらず、気にするだけ無駄だと思っているのかも知れない。
マキは窓辺に向かい、箒の隣の席に就いた。
「篠ノ之さん、どこ中?」
訊いてから、自分の中学校名を口にする。
(こんな美少女がいたら噂になっているはず……! つまり、うちの塾生ではないのは確か……!)
かといって、わざわざ越境してまで地方に来るわけがない。
「私は……」
箒が口にした中学校の名に聞き覚えがあった。確か去年、部員数六名足らずの弱小剣道部が全中剣道大会で初優勝を飾った、というニュース。今年二連覇を狙っているとも。母の母校だったから何となく覚えていたのだ。
「篠ノ之さんって、もしかして、剣道をやっていたり?」
「……まあな」
そうなると不可解である。今年の全中剣道大会まで三週間を切っている。
この場にいる理由を訊こうと思ったが、彼女の複雑な感情のいり混ざった表情を目にして、止めた。
箒は腕時計を一瞥し、席を立つ。寝転がったまま部屋の中央に移動してきていたマドカを跨いでから、足を止めて振り返る。
「御印さん……一緒に来てくれ」
「どこに?」
「ちょっとした探検だ。下見しておこうと思って」
箒は意味深な表情を浮かべたまま歩き出す。マキは部屋を出るなり、振り返って自室の番号を記憶する。
視線を下ろしたとき、スマートホンをつかんだマドカが立っていた。マキの脇を通り過ぎ、箒のあとを追いかけていった。
やがて目的地と思しき大広間の入口で箒が立ち止まった。露天風呂へ続く小径との分岐点でもあった。マキが小径を一瞥すると、奥に離れがある。
箒はマキが前を向くのを待って、大広間の奥を指差した。
「あそこまで行く」
大広間にはマキたち以外誰もいなかった。大広間の奥に部屋があり、中は八畳間ほどの物置だ。箒、マキ、マドカの順で入室し、マドカが部屋の鍵をかった。畳には、長い間重量物を保管していたような凹みが残っている。部屋の中央には大きな荷物があり、白いシーツで覆われていた。
箒がシーツを取り去った。
「……ええええ」
姿を現した、機械めいた彫像。マキは驚きを禁じ得なかった。
SOLIDⅢ
機械の名称がローマン体で描かれている。人体を模した機械。中央には誰かが搭乗する前提の、ぽっかりとした空間がある。
「インフィニット……ストラトス? 何で……?」
ここが企業の工場や研究所だったならあってもおかしくはない。だが、温泉旅館の物置に鎮座するべき機械ではなかった。
「この機体はソリッドⅢ。ある企業が量産前提に開発した訓練機だ。訓練機ゆえ、国産機よりも……いや、こいつも国産機だが……性能は凡庸。
だが、この機体を手に入れた者は世界を手にする、と言われている」
箒が急に語り出した。戸惑ってマドカを振り返ると、彼女も腕を組んだしきりに頷いている。
「ええっと、世界?」
「そう、世界。世界を制する、最強への道に連なっていると言われているんだ。ソリッドⅢを扱い、使いこなす者には、すべてのISを凌駕するIS、ソリッドⅣを専用機にできる、と」
マキは目を瞬かせながら真剣に話す姿を眺めた。
箒も自分語りをしたい年頃なのだ。外見は見目麗しいが、中学生らしく腹にドロドロとしたものを抱えているに違いなかった。
気を取り直し、相づちを打ってみせる。
「どんな風に、すべてを凌駕しているわけ?」
マキには興味のない話だが、思いの丈をぶちまけることは、篠ノ之箒にとって重要なはずだ。
しかし、予想に反して箒の話が止まった。
「知らん」
「え?」思わず聞き返す。
「……と、とにかくすべてを凌駕しているという話なんだ」
マキは呆れ顔になった。踵を返そうと脚を引いたとき、不意を突かれた。背中を突き飛ばされて、マキはよろめきながらソリッドⅢへとしがみつき、何とか身体を支える。
「いきなり何っ……!」
声を張り上げ、突き飛ばした犯人であろうマドカを探して声を荒げた。
異変が起きたのは、そのときだった。
次話は11月25日夜間投稿予定。