亡国機業は壊滅しました。 作:張三李四
「…………、あなたは、まだ寝ている、のね……。あなたの仲間が、大変なことに、なったというのに……」
クロエが見下ろすと、スコール・ミューゼルは顔を腫らしたままにらみ返してきた。先ほどの暴行のとき、口の中を切っていたらしく、唇が血に濡れている。
「…………痛そう、ね」
「人ごと、みたいに、……っ」
スコールは腹を押さえながら荒く息をしている。股間のペットボトルはまだ抜けていないらしく、ずいぶんと苦しそうな雰囲気を漂わせている。
クロエの肌にエアコンの風が当たる。ブルル、と背筋を震わせ、不意に尿意を催す。
「あなたは…………、ご存じでしょうけれど、……」
クロエは一物の根元をつかんで亀頭の先端をスコールへと向ける。
「テメエっ、何考えてやがんだっ!!」後ろから
「……あなたは黙って。…………あなたの
「ック……くそっ……」
「ご存じでしょうけれど、健康な人の尿は、排尿直後は無臭。時間が経過すると、菌が増殖してにおいを放つようになる……」
「…………な、な、やめ」
「…………ぁ、…………はぁンンン…………」
チョロチョロ…………、とクロエは放尿を開始した。本来なら部屋はきれいに使うべきものだが、周囲には大量の死体で埋め尽くされている。血や精液が飛び散り、溜まって、畳にしみこんで、凄まじい様相を呈している。尿を振りかける程度のことなど、クロエには何でも無いことのように思えた。
「っ、クゥゥ……ぅうううっ……」
スコールは顔をしかめた。顔面に尿を注がれ、酷い屈辱に震える。
「……ずっと、ガマンしていた、けれど、…………目の前に、
「べ、便器ですって……!?」
「そう、便器。わたしと、そこの
うっとりとした物言いだ。スコール・ミューゼルはおぞましい、狂った雰囲気が、篠ノ之束のおどけた態度のなかに流れていたものと似ている、と思った。クロエ・クロニクルは篠ノ之束を信奉するあまり、彼女の
「…………取引、しましょう」
「取引? はっ! この状況下で!?」
スコールは《
警告:IS反応があります。
IFF要求送信:無視されました。当該ISは敵性、または、未確認機の可能性があります。
警告:IS識別名検出。SOLIDⅢ、SOLIDⅣ、KATAPHRAKTOS。
警告:SOLIDⅣ、ならびにKATAPHRAKTOSが実体化しています。
(
身体が動かせないかわりに、ハイパーセンサーで状況を確認する。
視線をクロエから動かさず、あたかも、言葉を待っているかのように振る舞った。
クロエが続けた。
「…………、ね、彼女を、安全なところへ移して、あげたいから、…………あなたにも、来て、ほしいの……」
「礼子、を?」
「……
クロエが悲しげに目を伏せた。物憂げな仕草は、まるで人形のようだ。
「…………悪いようには、しない。完全な自由、とまでは、いかないけれど、身の、安全は、保証する…………」
だが、口約束だ。
「…………どうやって、あなたは、目が見えないし、ここにいるのは、私だけじゃない」
女医やダリルもいる。不出来なダリル・ケイシーは完全には逃げていないらしく、《
「…………方法? …………あなたは、
警告:新たなIS反応を検出しました。
ガラスが砕けるように、ガシャン、ガシャン、と音がはじけていく。空間の裂け目から鋭い、黒い爪が伸び、切っ先がスコールの喉へとあてがわれた。
警告:IS識別名検出、《黒鍵》。
警告:コアナンバーが登録されていません。
警告:《黒鍵》が
黒い爪の先端が首の皮膚を破った。紅い血が流れるのを見て、クロエは両瞳を見開いて、スコールの顔へ近づけた。
「なぜ、最初からISを使わなかった……!」
「…………数で負けていた、から…………取引、承諾して、くれる?」
「……こちらの、待遇は」
クロエは
その証拠に、クロエは困ったように首を傾げてみせた。
「……さっき、…………説明、した、けれど、…………」
「礼子と対等でなければ、私は、取引には同意できない」
スコールを便器と呼んだ。明らかな虐待の意図を匂わせていた。
「
「スコール!! 気をつけろ!!」
「あなた、お子さんは…………?」気にせずクロエが問う。
「今は、いない…………」
確かにかつて、中央情報局の同僚と職場結婚をしていた。薬指には指輪をはめていたのだ。
「…………恋人は? あなたみたいに、魅力的だったら、周りの男性は、ほっとかない、はず…………」
「…………男性との、おつきあいは、もう十年、していない…………」
「…………女性、とも?」
「…………女性?」
「確かに……、今は、女性と交際している……」
「そう、……あなたは、バイセクシャル? レズビアン?」
「…………バイセクシャル、だと思う…………お医者様にも、そう、言われた…………」
「思い出して、兄弟姉妹が生まれたときのこと…………、娘がうまれたときのこと…………」
「…………? 娘? なぜ、知ってる……?」
「あなたの目を見ればわかる…………」
「娘さんはいま、いくつ?」
「十六才」
「同居は、していないのね、…………」
「娘の親権は、前の夫が…………」
「また、欲しくないの? まだ、チャンスがあるはず……」
「………………」
スコールは黙った。前の夫のことなど、とうに記憶から消し去っていたはずなのに、若い頃の、すれていなかった頃の思い出が溢れ出してくる。
娘、そう、娘がいた。しばらく会っていない。
CIAから陸軍、陸軍から
仕事に没頭していた。娘が成長するにつれ、どんどん前の夫の面影が濃くなっていく。激しく愛したがゆえに、激しく憎悪した相手に似ていった娘。もはや自分のことを母親だとは思っていないだろう。
再婚し、新しい母親へなついていった。前妻がしゃしゃりでては、せっかく義母と仲良くなった娘の幸せを壊してしまうと思ったのだ。
身体が熱くなった。
娘を再び、この手に抱きたいと思った。実現不可能な願いとわかっていた。
「あう……うううううぅぅぅぅ」
下腹部から、何かがズルズルと引きずり出されていく。スコールはビクリと反応して呻いた。
「…………傷はない、みたい……これなら、大丈夫…………」
クロエはペットボトルを顔に近づけ、スンスンと鼻を鳴らした。
「…………濃厚な、匂い…………」
ペットボトルを脇に転がし、スコールの腹部を優しく撫でた。紅い筋が残っている。帝王切開手術の傷跡だった。
圧迫が消えた下腹部。膣口はぽっかりと開いていて、少しずつ閉じようとしている。
「…………大丈夫、安心して、…………あなたの望みは、また、叶うから…………」
クロエは自らの分身をスコール・ミューゼルの膣内へと埋没させていった。
次話、『ミューゼル一味《5》』投稿まで少々お待ちください。