※この作品はR-18です。

亡国機業は壊滅しました。   作:張三李四

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作業時間が確保できましたので、予定より早く投稿できました。
今回よりIS学園が舞台となります。
よろしくお願い致します。


セシリア・オルコット:〈御印マキ視点〉
セシリア・オルコット《1》


 

 

「本当に、入学するの…………ここに?」

 

 御印マキは未来的な建築物を見上げ、着替えの入った旅行カバンを足下に落とした。

 学生相手にインフィニット・ストラトスを専門的に扱う、世界唯一の教育機関だ。通称、IS学園。文科省のくくりでは高等専門学校の扱いである。

 マキは入学式の前日に入寮する予定だった。

 

「一応、弓道部があるって聞いてるけど…………」

 

 進学先の選定基準は弓道部の有無だ。中学から続けていた弓道を続けるため、受験に備えてきた。だが、数ヶ月前勉強合宿に参加した折、ある強盗殺人事件に巻き込まれ、保護された。

 後ろを歩いていた少女がマキを追い越す。背が高く、髪を赤茶色に染めていた。中国系の美人だが、どことなく冷たい感じがする。

 女の旅行カバンに赤色のタグが結わえられているのが見えた。マキの旅行カバンにも同じタグが結わえてあり、IS学園を示す徽章と、三桁の数字が描かれていた。

 さらに前方、小柄な少女が引っぱっているキャリーバッグは白色のタグだった。

 

「けど、いいのかなぁ…………」マキは寮の昇降口へと歩き出した。

 

 四月初旬の風は温かく、桜の花びらが舞い散っている。

 赤色のタグは試験免除、書類選考のみの推薦入学者を示す。後ろめたさからゆっくりとした足取りのマキは、どんどん追い越されていく。追い越していく同年代の少女たちが、タグの色とマキの顔を一瞥するのがやけに気になってしまった。

 御印マキは十五才、誕生日を迎えれば十六になる。入学理由のこともそうだが、もとより初めての生活に対する緊張と不安を隠しきれないでいる。IS学園は超難関として有名で、ここに通う生徒は漏れなく超優秀なのだ。エリート中のエリートで、なおかつ、全員美少女と来ている。

 顔面偏差値の差は、まさに月とすっぽんである。

 

(不安で吐きそう……)

 

 マキは口を手で覆いたくなるのを必死に堪えた。トイレに行きたくなったが、連絡バスに乗る前に行ったので、緊張によるものだろう。

 昇降口で上履きに履き替えると、「榊原」と名札をつけた女性から、入寮の手引きと部屋番号が書かれた用紙をもらった。案内図を見ながら部屋にたどりつく。扉の鍵はかかっておらず、「お邪魔しまーす」と言いながら中へ入る。

 

「ひゃー、ホテルみたーい」

 

 IS学園の一年寮は相部屋だ。一室あたり二名から四名。誰がルームメイトになるのかは見てのお楽しみである。

 マキの部屋は三人部屋だ。シングルベッドが三つ。先客がいて、ベッド脇にキャリーバッグが置かれている。

 

(うわー、この子、海外から来たっぽい)

 

 キャリーバッグには、空港を経由した際に巻かれたタグがいくつも残っていた。

 姿はなく、ベッドには脱ぎ散らかした衣服と下着があった。シャワールームから水の音がして、楽しげな曲が聞こえてきた。

 

(日本語わかるのかなあ、英語? ハロー? ぐらいしか浮かばないなあ)

 

 備え付けの机に旅行カバンを乗せる。着ていたパーカーを脱いで、椅子の背もたれにかけた。

 デニムにブラウス。普段着姿のまま、ベッドに腰掛けて時間が過ぎるのを待った。

 

「ふーふーふーんっ♪ ふーふーふーんっ♪」

 

 鼻唄と共にバスタオル一枚を身に着けた少女が出てきた。

 背は低く、未熟で華奢な手足。勝ち気な目尻が開くと、くりくりとした黒目が踊った。

 

「ルームメイトの人? よろしくー…………んんん?」

「はじめましてっ、今日からよろ、よろ、よろ?」

 

 マキと少女は見つめ合った。

 

(この顔、超見覚えあるぞ…………?)

 

 マキの脳裏に強盗殺人事件前後の出来事が甦った。凄惨な事件だった。強盗団と思しき武装した二十余名が死亡。死亡者全員が胸部を損傷、いずれも直径約5センチから10センチの穴が空いており、ほぼ即死だった。マキたちのほかは、篠ノ之某という女性が救助されている。マキが検査入院から退院したとき、昏睡状態が続いていると耳にした。

 

(はううう、下半身がムラムラする……)

 

 少女の瑞々しい肌にも見覚えがあった。いけないと思いつつ背筋を身震いさせてしまった。

 何度か瞬きする。

 

「あーっ…………何だっけ、顔は覚えてるけど、名前名前…………」少女は指で額をトントンと叩いた。

「マドカちゃん? 羽室マドカちゃん?」

「何とか印(しるし)の人? ……………………お久しぶりですね?」まだ思い出せていないようだ。

「名前、御印マキだけど」

「織斑マドカです。羽室(はむろ)は母の旧姓なんで、今はこっち」

 

 バスタオルがはだけ、ピンク色の突起が露わになった。

 見ちゃいけないと、思いつつも、視線が釘付けになる。

 

(桃色吐息な記憶がッ!!!)

 

 ガン見してしまう。

 

「わたし、まだ、十二才ですよ? 見るのは構わないですけど、えっちな手つきで触ったら、犯罪ですよ?」

「え……?」

 

 めちゃくちゃ触った覚えがある。

 突起から目をそらし、前を向くと、マドカは笑顔を浮かべていた。

 

「ていうか、十二才。飛び級?」

「そ、です。とびっきり優秀なんで」マドカがフフンッ、と鼻を鳴らす。

「飛び級制って本当にあったんだね……」

「お姉さんもすごいじゃないですか。赤色のタグですよね? それ」

「色々と事情が混み合っていてね……」

「わたしでも銀タグなのに。赤色といえば、専用機保有者ってことじゃないですか。夏休みに一緒だったときは、とてもIS学園を受験するーって顔じゃなかったのに、どうしちゃったんですかね」

「マドカちゃんと別れたあとに色々あったんだぁ……」

 

 マキは遠い目をした。検査入院中、強制的にパスポートを取得させられ、豪州(オーストラリア)ブリスベンに二ヶ月くらいいた。帰国できたのは十一月になってからだ。滞在中、IS適性のテストを何度も受けさせられた。結果は何度やっても「E(適性極めて低い)」。

 とりあえず志望校の受験勉強を続けていたら、師走(しわす)になって、IS学園への入学証が教師役と一緒に届いた。教師役にひたすらしごかれたのに、結局、IS適性は「E(落第点)」のままだった。

 

「マドカちゃん。銀タグって?」

 

 マドカは替えの衣服を身に着けながら答えた。

 

「実技、座学ともに成績極めて優秀」

「…………両方とも教えてくんない? 教師役から退学になったら本気で殺すって脅されてるんだぁ」マキは遠い目のままだ。

 

 マドカは興味をなくしたのか、鼻唄を口ずさんで鏡の前に行ってしまった。

 

(あーーーー)

 

 マキはベッドに寝そべって天井を見上げる。入寮の手引きを手に取り、中をめくった。

 

(風呂は24時間、いつでも入浴可能。部屋は週に一回清掃員が清掃を行うが、基本的には生徒の自由意志で行う。寮での食事は朝晩のみ提供。提供する曜日は月から土。昼食は校舎内の学生食堂にて提供。食費は安価にて提供する。一部優秀な生徒は食費免除。…………これ、いいなあ……。学習室は24時間無料開放。ISや理数系書籍を取りそろえた図書館が校舎、寮に併設。ネットはつなぎ放題、ただし、利用制限あり。学内ネットワークのハッキング禁止。ハッキングしたら厳罰に処する? 入寮者はIS学園の生徒として品位を保つこと、か)

 

 入学式の前日のため、ルームメイトとの顔合わせや生活のルールを前日に把握しておけば、ほとんどやることがない。

 

(あーーーー。弓道場、見に行くかー。設備にお金かけてるって話だったなー)

 

 中学のときは学校に安土を整備するお金がなく、自分たちでやっていた。

 

(あとは弓。自分の買うお金なかったもんなー)

 

 胴衣や弓籠手、弦は持参したが、弓は持っていない。学校から借りるつもりでいたのだ。マキは女子にしては、かなり強い弓を引く。しかも速射だ。おかげで一部生徒からゴリラとも呼ばれていた。

 身体を起こして、入寮の手引きを脇に置く。

 

「………………私が最後か」

 

 どうやら最後のルームメイトが到着したようだ。

 

「おーすっ、久しぶりー」

 

 マドカが元気よく挨拶した。

 

(マドカちゃんの知り合い? 顔面偏差値すごそう…………!!)

 

 胸を高鳴らせながら、入室してくるのを待つ。

 IS学園在校生の美少女率は異常だという話だ。伝聞形なのは、マキが超高倍率の試験に参加していないからであり、IS学園にまつわる情報はすべて教師役の知識によるためだった。

 

「見ないうちに雰囲気変わったね。恋人でもできたのー?」通路からマドカの声がした。

「一緒に住んでた人からの影響だ。お洒落しろって言われて」最後のルームメイトの声だ。落ち着いている。

「ふぅーん。そーなんだー。でも、今のほうがいいよっ!!」

「らしいな。よく言われる」

「あ、そうそう、もうひとりのルームメイトなんだけどさぁー」

「ちゃんと挨拶したか? 少なくとも一年は一緒にいる相手だ」

「したよー。それがさー、ま、いっかー、とりあえず見てみなよーって………………じゃん!!」

 

 現れたのは、名匠が打った日本刀のような雰囲気の少女だった。

 IS学園の制服に包まれた、細身の身体。

 しなやかな肢体はまぶしいくらい美しく、身体を象るパーツのひとつひとつが繊細な飴細工のよう。胸のふくらみは自己主張が激しく、下着で抑え込んでなお、隆々としている。腰まで伸びる髪は紅い椿色のインナーカラーで彩られていた。

 紛うこと無き、華やかな美少女。大和撫子というべき、その容貌は、マキを視界に入れるや怒りに染まり、眦(まなじり)がつり上がった。

 

「おい、貴様」あまりにも冷たい声だ。

 

 彼女は棒状の長い包みを振り上げる。脚をドンッ、と踏み込み、臨戦態勢に入った。

 

 

 




次話、『セシリア・オルコット《2》』投稿まで少々お待ちください。
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