※この作品はR-18です。

亡国機業は壊滅しました。   作:張三李四

17 / 38
お気に入り数が100を超えました。
御礼申し上げます。

今回、少し長くなってしまい、書き上げるのに2日を要しました。


セシリア・オルコット《3》【篠ノ之箒】

 

「今日から新しい生活が始まるんだ!」

 

 マキは言い、飛行機雲を見上げながら拳を固く握りしめた。

 IS学園に身を包み、スカートのベルトループに赤いタグを引っかけてある。スクールバッグを肩にかけ、通行人の邪魔にならないよう道を譲る。

 昨日はよく眠れた気がする。見学を終え、ビクビクしながら寮に戻ったら、篠ノ之箒の荷物が部屋から消えていた。寮母の榊原先生に確かめると、部屋割りは変わっていないという。どうやら誰かの部屋で夜を過ごしたようだ。

 夕食後、やることがなかった。シャワーを浴び、マドカに誘われるまま一緒にスマホゲームをしていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。

 起床後、二人で朝食を摂る。制服に着替えていざ入学式へ! …………と勇んで来てみれば、新入生の多さに圧倒されてしまった。

 肩をすくめ、顔を強張らせてマドカを見る。プリーツスカートを裾上げして、白くて細い素足が恥ずかしげもなく露わになっていた。まぶしさのあまり、顔を背ける。

 

「専用機持ってくるくせに、キョドってない?」

「…………ソンナコトハアリマセンゾ」

 

 思いきって反論してみた。だが、背中を乱暴にバンバン叩かれ、前につんのめってようやく止まった。

 

「あ(・)ん(・)な(・)こ(・)と(・)し(・)ち(・)ゃ(・)っ(・)た(・)く(・)せ(・)に(・)、こんなことで緊張すんの、おかしくない?」

「でも、緊張しちゃうんだってぇ」

 

 マドカがスカートの裾を指でつまみ上げ、マキにだけ見えるよう可愛いショーツをチラつかせる。

 

(はううううう、仕草がいちいちえっちなんだよぅ…………マドカちゃんで白濁するぅぅぅ)

 

 昨日スマホゲームに興じていたとき、マドカはTシャツ一枚着ただけのほぼ裸だった。思わずボディタッチしたくなる気持ちを抑えて、何度も手を引っ込めていたのだ。

 とりとめのない会話を続けながら正門にたどりつく。立ち止まる生徒が多くいて、マキたちもつられて足を止めた。彼女たちは、「新入生歓迎」と描かれたタスキを注目している。タスキをかけているのは、インフィニット・ストラトスのパイロットだった。ブロンドを三つ編みにしていて、スリットスカートタイプのISスーツ。

 

「わっ、《冥府の番犬(ヘル・ハウンド)》バージョンツーポイントファイブじゃん。ってことはダリル・ケイシー?」マドカが首をひねった。

 

 《冥府の番犬(ヘル・ハウンド)》には見覚えがある。マキの専(・)用(・)機(・)と同じメーカーだからだ。

 マドカが制服の裾を引っぱってきた。

 

「ねえねえ、ダリル・ケイシーがいる。ダリル・ケイシーがいるんだけど」

「ダリル・ケイシー?」

 

 目を凝らしてみれば確かにダリル・ケイシーだ。鷺ノ宮によると、ダリル・ケイシーはIS学園の生徒でかつ専用機を持っているらしい。コンペで完勝したと自慢げに語っていたことを思い出す。

 しかし、マキとマドカの共通認識によれば、ダリル・ケイシーがこの場にいること自体がおかしいのだ。彼女は半年前、親戚と共に国内旅行中、強盗殺人事件に居合わせ、言葉に言い表せないほど酷い状態だった。一時期姿を消しており、現役復帰が難しいのでは…………と噂されていたのだ。

 当のダリルは新入生に手を振りながら笑顔を振りまいていた。

 

「リハビリ中とか?」マドカが言った。

「若いから治りが早いとか? 17才だもん」マキは思いついた言葉を口にする。

「え? 17才ってオバさんじゃん」

「…………マドカちゃんもいずれなるんだよ?」

 

 気まずい沈黙が流れた。

 慎重に次の言葉を吟味していると、ダリル・ケイシーの笑顔が急に凍りついた。

 ダリルの視線の先に、ふたりの新入生がいる。黒髪のインナーを紅椿色に染めた、篠ノ之箒。彼女のひじの上を持ちながら、半歩後ろをついていく少女は、視覚障害者特有の白杖で地面をたたきながら進んでいる。

 

「黒タグ…………」

 

 周囲がざわつく。少女はIS学園開校以来、初めて受け入れる、「全盲」の生徒だった。

 ロングスカートの制服をドレスのように着こなし、美しく清楚で、謎めいた雰囲気を漂わせていた。皆の視線を集めるなか、篠ノ之箒がダリルの前までエスコートした。

 

「お久しぶりです」

 

 箒が言って、軽く目礼した。

 

「急に姿が見えなくなって心配していました。その様子では元気そうですね。よかった」

 

 箒が何気なく自分の腹をさする。ダリルは笑顔を崩すまいと堪えている。

 

「入学式がありますので、失礼します」

「…………あとで、連絡、します。………………必ず、来てください、ね…………」全盲の少女が言い残す。

 

 篠ノ之箒がふたたび歩き出す。白杖の打音が遠くなっていった。

 

 

 

↓

↓

↓

 

 

 

 入学式を終えて、教室に案内された。

 表札には一年一組とある。指定された席に座り、担当教諭が来るのを待つ。生徒が次々と着席していく。

 

(男子生徒がいる!?)

 

 教卓の真っ正面だ。居づらそうに肩をすくめている。

 マキは室内を眺めてみた。赤いタグは自分を含め三つ。青いタグは二つだ。色つきタグの多寡が他のクラスと比較してどうなのか、という点まではわからなかった。

 元からの顔見知りは三人。織斑マドカ、鷺ノ宮アユム、知人と呼んでいいのかわからないが、篠ノ之箒。

 少し遅れてやってきた、担当教諭たちが挨拶をする。最初に現れた女性はとんでもない巨乳だった。二人目は颯爽とした出で立ちの女性。

 

(名前、なんだっけ?)

 

 有名人に似ているような気がして、小首を傾げながら鷺ノ宮を見ると、信じられないといった表情(かお)をしていた。

 歓声が溢れて、誰なのか理解した。

 

「担任の織斑だ。早速だが、自己紹介をしてもらう」

 

 ピタッと歓声が止まる。マキは落ち着きなく肩を揺らし始めた。

 

(どこからどこまで話せばいい?)

 

 幸い、「み」なので順番は後ろの方だ。

 

「織斑マドカ、十二才。飛び級で入学しました、よろしくっ!!」

「えー……えっと、織斑一夏です。よろしくおねがいします。………………織斑マドカさんとは親戚ではないです。以上です」

「鷺ノ宮アユム。豪州(オーストラリア)の軍需企業《雷撃社(ライトニング・ストライク・カンパニー)》の企業代表を務めています。乗機は《重装騎馬(カタクラフト)》」

「篠ノ之箒です。ゆえあってIS学園に入学しました。乗機は《天叢雲(あめのむらくも)》、事情があって来週搬入予定です。以上です」

「わたくしはセシリア・オルコット。イギリスの代表候補生です。乗機はご存じの方もいらっしゃるでしょうけれど、《蒼雫(ブルー・ティアーズ)》ですわ」

「……次」「次!」「次だ」

 

 早い。もう来た。マキは力なく立ち上がって、前の人々にならうことにした。

 

「御印マキです。弓道部入部予定です。えっと、……使用機は《ソリッドⅣ》《ソリッドⅢ》です。初心者なのでお手柔らかにおねがい、し、まぁーすぅ…………」

 

 拍手がなく沈黙が続いている。

 

(えっー…………と、変なこと、言っちゃった?)

 

 「ひとりで二機………………え?」などと聞こえる。ISは数に限りがある製品だ。不思議がるのは当然だろう。

 

(すいませーん。諸事情で二台持ちでーす)

 

 《ソリッドⅣ》は剥離剤(リムーバー)を使ってもとれなかったのだ。《ソリッドⅢ》は量産機なので、誰でも乗れるはずが、なぜか誰も乗ろうとしなかった。《雷撃社(ライトニング・ストライク・カンパニー)》は入学申請をすると同時にIS学園に機体を搬入してしまった。

 少し滑ったような気もするが、無事自己紹介と初めてのSHRを終えた。

 続いて一限目は授業の進め方と基礎理論の説明だ。教科書にかじりついて二限目も終える。

 

(終わったぜ…………)

 

 燃え尽きた二限目の休み時間。誰かが騒いでいるようだったが、疲れ切ってぼうっとするうちに、三限目になった。

 

「講義を行う前に、再来週行われるクラス対抗戦の代表者を選出する」

 

 織斑先生が全員に向けて説明する。まとめると学級委員を決めようという話だった。

 

「誰か、立候補者はいるか? 自薦、他薦、問わないぞ」

 

 周囲が目配せし合うのを感じて、マキは考えた。

 

(先の先を取るってね)

 

 勢いよく手を上げる。「はいっ!!」

 

「御印」織斑先生が自席の横まで来た。

「御印マキ、辞退します!!」

「馬鹿者」ゴツン、と後頭部に衝撃を感じて机に倒れ伏す。

 

 クスクスと笑われたので、一応考えを口にしてみた。

 

「鷺ノ宮アユムさんはどうでしょうか。超強いので、勝てますよ?」

「……鷺ノ宮。どう思う?」

「現在の《重装騎馬(カタクラフト)》はレギュレーション違反のため、対抗戦参加には不適切です。《CATCH22(どうにもならない状況)》の機関凍結を最優先すべきと考えます」

 

 《CATCH22(どうにもならない状況)》は重装騎馬(カタクラフト)の必殺必勝兵器である。鷺ノ宮本人曰く、あまりにも強力すぎて使用禁止、なのだそうだ。

 

「鷺ノ宮。御印はどうだ?」突然のブーメランに、マキの心臓が炙(あぶ)りだす。

「《ソリッドⅢ》は訓練機です。元々予定していた性能が出ず、改修を余儀なくされている機体です。対抗戦には学園で採用している《打鉄(うちがね)》《ラファール・リヴァイヴ》のほうが適しています。また、御印は《打鉄(うちがね)》《ラファール・リヴァイヴ》の操縦ができません。両機のいずれかを用い、二週間で試合可能なレベルに到達させるのは、不可能であると結論づけます。

 次に、《ソリッドⅣ》を用いる場合ですが、《ソリッドⅣ》は未完成の機体です。未完成品で試合するのは危険であり、万が一の可能性を捨てきれません。よって、御印を対抗戦に出すのは、まったく推奨できません。自殺行為です」

(…………そこまで言う…………)

 

 鷺ノ宮の論調に不満が残ったものの、クラス代表の芽は潰えた。

 マキは《ソリッドⅣ》がインフィニット・ストラトスとして実体化した姿を知らない。驚いたことに、《雷撃社(ライトニング・ストライク・カンパニー)》の職員はだれひとりとして《ソリッドⅣ》の全貌を知らなかったのだ。デザイン画をもらったが、しっくりこなかった。

 IS保有者で残るはひとり。マキはイギリスから来た代表候補生の期待と自信に満ち満ちた横顔を見つめた。

 

「織斑くんを推薦します!」「織斑くんがいーでーす」「わたしも、わたしもー」

「はあ!? 納得がいきませんわ!」

 

 セシリア・オルコットが間髪を入れず反対した。

 

「今の流れからすれば、次はわたくしが、と思っていましたのに! どうして、男! を推薦するのですか!?」

「いや、だってー」「そのほうがおもしろくない?」「超強い鷺ノ宮さんが出られないんでしょ? だれでも一緒じゃない?」

 

 セシリア・オルコットがキッとマキを睨む。とばっちりである。

 

「鷺ノ宮さんのことは置いておいて、実力からすれば、順っ当に、わたくしを選ぶのが道理というもの! どうして見つかったばかりの、男子を選ぶのですか?? 猿ですわよ! 猿! サカった猿ですわ!!」

「猿呼ばわりするんじゃねー!! 俺だって人間だ!」

「うわっ、逆ギレしてしまいましたの!? いやらしい目で、わたくしを見て! 男のくせにIS乗るなんておこがましいですわ!! 猿! 猿!! 猿!!!」

「目が腐ってねーか?? 何喰ったらそんな風に見えるんだよ! あれか、お国でマズいもんばっか食ってるからじゃねえ?」

「祖国を侮辱してエエエエエ!!! 決めましたわ。決闘しましょう! 決闘! それがいいですわっ!! あなた、男ですわよね? 当然、決闘しますわよね!!」

「あ、ちょっと待て、どんだけ血の気が多いんだよ」

「え? 逃げますの。男なのに? あなたの男性器(チンポ)は飾りなので? ………………どうせ、お粗末なのでしょう?

 猿のくせに粗末な小さい男性器(チンポ)で『俺のマグナムは世界一イイイイイ!!!』なんて粋がっているのでしょうけれど、世界は広いのですよ?

 ウタマロ(チンポ)は硬さで勝負なんて思っていますの?

 そんなの一部ですわよ? なぜなら、あなたの男性器(チンポ)は、しょげかえっていますもの!!!

 ウタマロ(チンポ)がおじぎどころか土下座してますわ!!!」

 

 マキはセシリアの罵倒に圧倒されていた。

 

(ほとんどのセンテンス(文)に放送禁止用語が入ってる…………!)

 

「お、お、…………おじぎなんて、してねーーーーー!!!

 乗ってやるよ!! 決闘だ!」

「決闘!」「勝負だーーー!」「織斑くん、ハンデどうするの!?」

「んなもん、いるかアアアアア!!」一夏が叫ぶ。

「来たよ、来たよ!?」「下剋上っだーーーー!!」「織斑くんに賭ける人、手ぇあげてー」

 

 好き勝手に騒ぐクラスメイトたち。

 織斑先生が大きく手を打ち叩いた。

 

「決まったな。一週間後の月曜、放課後、第三アリーナで勝負だ。織斑とオルコットは、それぞれ用意するように」

 

 授業を始める、と告げ、織斑先生が再び教壇に立った。

 わずかに回復した気力を使い果たし、四限目には頭から湯気がのぼった。

 そして学食にて昼食。テーブルはマドカに鷺ノ宮、もう一人が一緒だった。

 マキは目を瞬かせる。確かに少女はクラスメイトのはずだった。ロングの黒髪とグレーのヘアピンになんとなく見覚えがある。少女は鷺ノ宮と少しだけ親しく話していた。

 

「鷺ノ宮さん。その方は?」マキが聞く。

 

 鷺ノ宮が細い瞳をさらに細めて怖い。「昨日、会っただろう。若いのに記憶力までもダメに…………」

 

 マキと鷺ノ宮は同い年だ。鷺ノ宮のほうが人生経験豊富なぶん、大人っぽく見えた。

 

「国津、国津玲美(くにつ れみ)。昨日弓道場で一緒になって。御印さん、斜め打ち起こししてた」

「ああっ。先に来てた」

「よろしくー。織斑マドカさんもよろしくねっ」

「ん!」

 

 タコライスを食べていたマドカがグッと親指を立てて反応する。

 

「かわいー」

 

 マドカがスプーンでライスをよそう。「可愛い、可愛いい。そだ、私のこと玲美って呼んでね」と言う国津にまんざらでもない様子だ。

 マキは乗っかろうと思い、「すっごく可愛いよ…………」と口にした。

 予想に反して、マドカは親指を下に向ける。

 

「ん。何とか印さんが言うと、下心が透けて見えてちょっと怖いです」

「ひどい」

 

 だが、事実である。

 

(今夜もマドカちゃんとふたりきりだったら理性がもつのかなぁー…………)

 

 過去にあ(・)ん(・)な(・)こ(・)と(・)をやらかしている。マドカの裸と体臭を思い出し、マキはスカートの上から股間を押さえつけた。

 昼食を終え、国津や鷺ノ宮たちと別れ、マキはひとり教室へと戻った。早めに小用を足そうと席を立ち、お手洗いに向かう。個室に入り、便座に尻を下ろす。マキは長いため息をつく。

 

「はぁあああーーーー、落ち着くぅ……」

 

 一生分のコミュ力を使い果たした気がする。授業が数学と物理中心なのが、とても辛かった。大気、流れ、流体。頭がパンクしそうだ。

 ポケットから手鏡を出す。角度を変えながら瞳の様子を確かめる。

 

(あーーーー。濁ってるぅ…………白内障じゃないっぽいんだけど、これ、何なのぉ…………)

 

 鏡に映る目玉は白濁していた。眼球のうえを白く濁った半透明の膜が張っている。

 マキの片瞳に異常が出たのは、半年前の強盗殺人事件のときからだ。強盗団二十余名が殺害される現場にいたらしいのだが、マキはその瞬間を覚えていない。覚えているのは、中国人と思しき女性が銃を構えて脅してきて、何度も頭を殴ってきたことだ。殴られたときに、脳に障害が出たのか、検査してもはっきりしなかった。

 

(…………すっきりぃ…………)

 

 ボタンを推して水を流し、立ち上がってショーツの位置を戻す。スカートを調整し、個室から出る。

 

(一応、コンタクトをつけておこうっと)

 

 眼球の白濁が顕著だった。視力には何の影響もないが、無用の心配をかけるのも嫌だった。

 洗面所に向かい、手を洗ってからコンタクトケースを鏡の前に置いた。鏡に篠ノ之箒の姿が映り、マキの後ろを通り過ぎて個室に入った。

 マキはコンタクトレンズを着け、目蓋を何度か開閉した。光に合わせてレンズの色が自動変化する。第三者から見て、瞳の白濁が目立たなくなっているはずだった。

 

(あれぇーーーー。コンタクトをつけたのに、濁りが消えないよぅ)

 

 マキは下を向いてからもう一度鏡を見る。

 篠ノ之箒が入っていった個室の扉が開くところだった。

 

(…………ぁ、この感覚ぅ…………)

 

 マキが個室を振り返った。中から篠ノ之箒が出てきて大きく息を吐くところだった。

 

(…………よくない、よくないけど…………!!)

 

 マキの背中から半透明の紐が二条伸びた。ひとつは個室のドアノブ、もうひとつは篠ノ之箒の手首に巻きつく。軽くジャンプすると、マキは一瞬にして身体ごと個室のなかへと辿りつき、ドアが閉まった。

 

「お前っ!!?」

 

 マキの手が箒の口を塞いだ。体重をかけて彼女を壁に押しつける。

 一度縮んだ半透明の紐が五つに分裂し、そのうち四本が箒の四肢に巻き付いた。

 

「!?」

 

 箒が四肢をばたつかせたが、紐が強く引き絞られ、宙に浮いたまま磔になった。

 エチケット音楽が再生され、外部に声が聞こえにくくなる。

 そこでようやく、マキは箒の口から手を離した。

 

「御印! 貴様!」箒が眦(まなじり)をつり上げる。

 

 怒りに満ちた表情(かお)が、ひどく扇情的に思えた。背中がゾクゾクした。下腹部、子宮のあたりがジンワリと熱を帯びている。

 

「下着はあとで弁償します」箒の足下に跪く。

 

 新たに伸びた紐がレースのショーツを引き裂く。

 黒々とした恥毛が露わになった。艶やかな下の毛はISスーツ装着を意識して形が整えられている。マキが鼻を近づけると、悩ましい芳香を含んだ熱気と湿り気が籠もっていた。

 

「はぁ…………これが篠ノ之さんの…………」

「やめろっ、やめろっ、やめろぉ…………」

 

 マキは舌を伸ばして、恥毛を分け入る。陰唇を舐ると、すぎに滑らかな液体があふれ出た。舌を左右に動かせば、細かな襞に囲まれた膣口にたどりつく。

 半年前、繋がりあった場所である。膣口に少し上には、ぽつんと閉じられた小さな尿道口が見え、その上部に大きな淫核(クリトリス)が顔を覗かせている。

 

「ん…………はむぅ…………」

「ひっ!? んんんぅぅぅぅぅ」

 

 膣口の襞に舌を這わせる。淫核(クリトリス)を吸うと、箒が身体をびくつかせた。

 

「くっ…………」

 

 ペチャペチャ…………と、犬が水を舐めるように音を立てて舐めしゃぶる。舌にトロトロの愛液が絡みつき、より滑らかに動けるようになる。

 

「やめっ、…………うぁぁ…………」

 

 箒が声を押し殺す。感じてはいけないとあらがうが、膣口は正直だった。

 

「んんんぅううぅぅぅ……くそぅ…………んんん」

 

 膣道を探し当てると、入口がキュウキュウ締め付けてくる。

 舌の上で愛液を転がしてから、箒の瞳を見上げる。

 

「篠ノ之さん。昨日、あいさつできなくて、ごめんなさい」

「ッ……貴様ッ、またしても! 今すぐ私を解放しろ!」

 

 マキは小首をかしげた。箒がわめく理由が理解できないような素振りだった。

 

「解放したら先生たちに、わたしを突き出すんでしょう? 篠ノ之さんの考えることくらい、わかる」

「何を」

 

 マキはスマートフォンを取り出して、カメラを起動した。

 指先で陰唇を左右に開いて、カシャリ、と音を立てた。

 

「ッ!!! うぁ、うぁ、うぁ…………」

 

 何度か角度を変えて、カシャリ。箒の顔が映るように、カシャリ。

 そして、撮影した写真を箒に見せつけながら、耳許にささやきかけた。

 

「騒いだら、ネットに、アップしますよ? 篠ノ之さんの、美少女JKのおまんこだって、説明をつけて、ね?」

「………………ッ!」

 

 マキはスマートフォンをポケットにしまい、舌で自分の指を舐ってから箒の股間へと差し入れた。

 

「柔らかい…………前より、ぐちゃぐちゃで、えっちだぁ…………』

 

 膣肉がマキの指に吸いついてくる。狭かった膣道はしっかり整備され、受け入れるどころか、貪って食べてしまうくらい、好(よ)くなっている。

 

「自分でしてました? それとも道具? もしかして、男といっぱい寝た?」

「……違うっ、男なんかと、私は……」

「嘘だぁ……具合がよくなりすぎですよ? めちゃくちゃ感じてるくせに…………自分で開発したんですかぁ?」

 

 箒が首を振った。マキは、その仕草にちょっとした違和感を覚えた。

 

(否定してるけど、本当かなぁ…………)

 

「篠ノ之さん。わたし、篠ノ之さんにちゃんと挨拶しなくちゃって、気が気でならなかったんですよ」

 

 マキはショーツを脱ぎ捨てる。股間に手を携え、硬くなったソレをゆっくりとしごいてみせた。

 箒は「くっ…………」と呻いて目を背けた。

 箒の愛液をすくっては半透明の一物にまとわりつかせ、手で摩擦(こ)するたびに心地よさが広がった。

 

「わたし、ここが、篠ノ之さんの子宮にあいさつしたがってるんです。昨日、篠ノ之さんに殺されかけて、思い出したんです。篠ノ之さんともっと繋がりたい、って」

 

 スマートフォンの画面をちらつかせる。

 箒は顔を背けて歯を食いしばった。

 

「早くしないと休憩の時間が終わっちゃいます。…………なので、手早く終わらせますね?」マキは一物の先端を膣口にあてがう。

「嫌だ…………、私は、強くなったはずなのに…………また…………」

「ココは、極上ですよ?」マキが腰を進めると、箒が肌を震わせて拘束された身体をよじろうとした。

「………………ンンンンッンンン、ぁあ…………抜けぇ」

 

 ぬるぬるっ、と滑らかに根元まで吸い込まれた。

 

「ひぅっ…………、はぁぁ…………なん、で…………」

 

 箒の肌に汗が浮かぶ。頬を紅潮させ、頭をイヤイヤ振りながら突き上げに感じまいとしている。

 マキは立ったまま箒にしがみつく。下着に包み隠された、豊かな乳房の弾力。腰を引いては、突き上げる。膣道を摩擦(こす)るたび、得も言われぬ快感が下半身、背筋へと染み渡っていく。

 

(気持ちいいよぅ…………篠ノ之さんの膣内、すっっごい、…………何回でもしたいよぅ…………ぞくぞくぞくぞくするうぅ…………)

 

 マキは再び一つになれた感激に胸を震わせ、箒の好色な肉襞のうごめきに魅了されていた。幸福感が広がり、至高のひとときだとさえ思えた。

 

「…………、感じる、もんか…………こん、なの、気持ち悪い、だけなんだ…………ぁああああんんんぅううぅぅぅ………………」

 

 恥毛が擦れ合う。サワサワとしてくすぐったかった。

 昼食を摂ったばかりだけあって、身体は温かく、膣内は豊かに潤っている。動くたびにクチュクチュと淫らな音が響いた。

 

「ほら、音、聞いて。篠ノ之さんのおまんこから聞こえてくるんだよ?」

「違う、聞こえない、そんな音、聞こえないっ…………」

「…………強情だなあ」

 

 腰を強く打ちつける。

 

「ア、ンンン、ア、ンンン……!」

 

 マキは箒の唇に吸いついた。いつぞやのお返しと言わんばかりに、口内に舌を入れ、箒の抵抗する舌先をしごきあげる。

 

「ンンンっ!?」

 

 溶けてしまいそうな摩擦。舌の動きで翻弄しながら、腰の動きは小刻みに攻め続ける。

 箒の吐息が熱を帯びていく。唾液が制服に滴り落ちるのも構わず、マキは腰が痙攣するにまかせた。

 

「あっ…………!」

 

 ドクン、ドクン、と白濁液が箒のなかに迸(ほとばし)る。股間を打ち付けながら最後の一滴まで子宮に注ぎ込む。幸福感が大きくなり、全身が箒の柔肉に包まれているような快感に包まれた。

 

「なっ! なんで、出してっ!?」

「早く終わらせたんですよ。…………なぁーーんて、…………本当は、篠ノ之さんがえっちすぎて、すぐにイっちゃいました」

 

 マキは舌を出して微笑んだ。

 

「わたしの精液、勝手に捨てちゃ、ダメですよ? 身体になじませてくださいね。馴染むと、とぉーーーても、気持ちよくなれますからっ」

 

 紐を縮めて拘束を解く。箒は便座の上で脱力し、放心状態にあった。

 マキは自分と箒の着衣の乱れを直す。箒のちぎれたショーツをそのままにするわけにいかず、自分のポケットの奥へ押しこんだ。

 箒の化粧を手早く整える間、我に返った箒は唇をかんで必死に嗚咽を我慢していた。

 

「篠ノ之さん。写真ありがとう、また、よろしくね」マキが箒の耳許で囁く。

 

 そして鼻唄まじりにお手洗いをあとにする。マキはふと脚を止め、ガラスに映った顔を眺めると、先ほどまであった片瞳の濁りが消えていた。

 

 

 

 

 

 




次話、「セシリア・オルコット《4》」投稿まで少々お待ちください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。