※この作品はR-18です。

亡国機業は壊滅しました。   作:張三李四

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セシリア・オルコット《7》

 

 

「アリーナ、アリーナ行き……七つもあるぅ」

 

 シャトルバスの停留所で、マキはスマートフォンの画面と時刻表とを見比べて頭をひねった。部活に顔を出してすぐ、鷺ノ宮から着信があったのだ。明日使うISについて本人確認が必要になってしまったという。電話口での鷺ノ宮は本当に申し訳なさそうだった。

 マキは部長と顧問にひと言断ってから辞した。

 停留所まで来たは良いものの、どのバスに乗ればよいものか途方に暮れた。

 

「ささっと終わらせたいのにぃ……」

 

 マキは目的地であるアリーナの番号を確かめる。東西南北に出入り口があるらしく、鷺ノ宮がいるであろう格納庫までの道筋に自信がもてない。

 

(職員室に戻って聞くか……時間かかっちゃうけど)

 

 山田先生ならば間違いなく職員室にいるはずだ。彼女はISの授業を受け持って、アリーナへの行き方に詳しいだろう。

 後ろを振り返ったとき、カツ、カツ、という地面をたたくのが聞こえた。

 クロエ・クロニクルがしっかりとした足取りで停留所に向かってくる。クロエの後ろに制服姿の少女もいた。

 

「すみません」

 

 制服姿の少女に声をかける。二年生を示す黄色いリボン。髪を水色に染め、活発な雰囲気を放っている。

 

「あなた、一年生? どうしたの?」

「その、……第三アリーナの格納庫に行きたいんです。でも、行くの初めてだし、どのバスに乗ればいいのかわからないんです」

 

 マキはスマートフォンの画面を見せる。

 少女はのぞきこむなり、メッセージに記された番号を識別する。

 

「ここだったら今から私も行くからついてくるといいよ。…………それに、彼女も行き先一緒みたいだし」

 

 少女の視線を目で追うと、クロエに行き着いた。

 

「…………次のバス、乗ります」

 

 見えていないはずが、視線に気づいたような素振りだった。

 マキは驚いて、「わ、わたしも乗ります……」と口にしていた。

 シャトルバスのなかで特に会話をすることはなかった。第三アリーナに辿り着き、水色の髪の二年生についていくと、格納庫へ続く階段の前に鷺ノ宮がいた。

 

「友人です。ここまでで大丈夫です」二年生に言う。

「そうなの? じゃあ、私は彼女と行くわね」

「ありがとうございます。助かりました」

 

 「じゃ」と言って二年生と別れた。二年生はクロエと一緒に一足先に下りていった。

 

「アユム。呼ばれたから来たけど……」

 

 鷺ノ宮は両手に紙袋を持っていて、一方を差し出した。

 

「これは?」

 

 受け取った紙袋をのぞきこんで手を触る。水着のような布地だった。

 

「ISスーツ。外に出ないけど、スイッチは入れるから必要なんだって」

「えーーーー。着なきゃだめ? 体型まるわかりだから着るのあまり気が進まないんだよぅ…………」

「着ろってさ。制服着てるからいらなくない? って提案したけどダメだった」鷺ノ宮が肩をすくめて言った。

「…………わかった。着る」

 

 鷺ノ宮に連れられて更衣室へ向かった。道中、鷺ノ宮が話しかけてきた。

 

「よくここに辿り着けたね。もう少し時間かかると思ってた」

「たまたま行き先が一緒の人がいてね。ついてったんだ」

「それは運がいい。私は最初迷ったからね」

「…………やっぱり、わかりにくいんだ」

 

 更衣室はロッカールームとシャワー室、洗面所から成っていた。

 ロッカーの場所を決めると、鷺ノ宮が制服のリボンを外した。小首を傾げると、鷺ノ宮が理由を言った。

 

「私も着ろってさ。整備科以外の生徒はISスーツを着用するのがルールなんだって」

「えええ!? 目のやり場に困る…………」

 

 マキは制服を脱いだ。下着姿のまま紙袋を開けたが、バスタオルが入っていなかった。

 

「アユムーー。タオルないよーー」

「タオル? 最初から入ってないけど」

 

 しれっと言ってきた。

 

「これだから海外育ちは困るんだ。タオルを巻いてちゃちゃっとお着替えするってのに。はぁ…………脱ぐか」

「別に女しかいないし、気にしても仕方ないんじゃ?」

 

 マキが下着を脱ぐと、鷺ノ宮も全裸になった。鷺ノ宮は胸はないが、背が高い。よく鍛えられていてスラリとしている。姿勢の良さ、引き締まった細さをうらやましく感じた。

 ISスーツを身に着ける。下半身に備えた半透明のアレの位置が気になったが、少し盛り上がっている程度で上手く隠せている。

 

(うぅぅぅ…………えっちな気分になったら絶対いけないやつだぁ…………)

 

 実はついてました、などとは言えない。昼休みに一度処理していたとはいえ、ISスーツ姿の少女たちがいるなか、正気で居られるかどうか怪しい。

 

(顔面偏差値がぁ…………美少女ばっかだから余計に困るんだよぉ…………)

 

 鷺ノ宮に従って更衣室からアリーナに抜ける。

 IS学園に所属する訓練機を横目に《雷撃社(ライトニング・ストライク・カンパニー)》用に設けられたブースがあった。

 今は《ソリッドⅢ》、《重装騎馬(カタクラフト)》、《冥府の番犬(ヘル・ハウンド)》が並んでいる。

 マキは途中で立ち止まって、鷺ノ宮を呼んだ。

 

「あれはなに?」

 

 指差した先には二機のISがいる。

 正面に白杖を持った女性の後ろ姿があり、女性はつなぎではなく淡いブルーのサマードレスを着ていた。

 

「あれはいいの?」

 

 ISスーツを着ていない。鷺ノ宮が確かめると、「げっ」と小さく呻いた。

 

「クロエ・クロニクル………………ってことは、《シノノノ》のブースか」

 

 箒が転がり込んだ先である。

 

(あ!! 篠ノ之さん、男の部屋に転がり込んでるってこと!? うぁあああああ…………)

 

 マキの頭の中を桃色吐息な想像が駆け巡った。

 

「クロエ・クロニクルなら問題ない。アイツは……彼女はマイスター資格を取っている」

 

 鷺ノ宮がマキの手を引っぱった。

 連れてこられた先には作業服姿の上級生がいて、徽章は二年生を示している。もうひとり、ISスーツ姿の生徒が立っていて、彼女は恥ずかしそうに顔を伏せていた。

 

「…………ありっ? 布仏さん?」

「マッキマキ…………見学だよっ。私、整備科志望だから…………」

 

 本音の制服とスウェット以外の格好を見たのは、これが初めてだった。豊満な、それでいて少しだらしない体型が白日の下にさらされている。

 目をそらすと、鷺ノ宮と整備科の上級生が話していて、整備コンソールから問題の場所を表示させた。

 

「御印。確かめてくれ」

「どれどれ………………」「私にも見せて~~」

 

 マキがコンソールをのぞき込む。ひととおり見てみたが、ブリスベンで見たときと全く変わっていなかった。

 

「変なところなんてないじゃん」マキが言った。

「…………だよな」鷺ノ宮が同意する。

「え!? これでオッケー、なんてどうやったらそう思うんですかっ!!」整備科の上級生が憤った。

「………………マッキマキ。これ、乗ったら死ぬ奴だよ………………」本音は口元を引きつらせている。

 

(死ぬ?)

 

 マキはもう一度設定を見てみた。

 

「布仏さん。死ぬって? このままだと、わたし、死ぬの?」

「シールドエネルギー出力ゼロ、拡張領域(バススロット)使用不可って書いてあるもん…………」

「ひと言で言って、死にますね。ですから、アリーナに出る条件を満たしていません。明日は練習とはいえ、外には出せませんね」

 

 上級生が告げた。

 鷺ノ宮は真剣な眼差しで反論する。

 

「ブリスベンで死ぬかどうか試したが、死ななかったから問題ないのでは?」

「無理矢理乗せられて《重装騎馬(カタクラフト)》がバンバン撃ってきたけど、あれ、殺すつもりだったの!?」

 

 鷺ノ宮がうなずく。彼女は親指を立てて胸をトントンとたたいた。

 

「とにかく、大丈夫だから。弊社、《雷撃社(ライトニング・ストライク・カンパニー)》の企業代表が、所属するISとそのパイロットの安全を保証するから大丈夫」

「ですから、数値が基準を満たしていないんですって。自社基準で話をされてもダメなんですよ」

 

 鷺ノ宮がため息をついた。マキの肩をたたいてから、《ソリッドⅢ》を指差す。

 

「今から大丈夫なことを証明します。御印は《ソリッドⅢ》のスイッチを入れてくれ」

「どうやって証明するつもりかなぁ……、とりあえず乗るけど」

 

 マキが《ソリッドⅢ》のなかに立ち、固定具の着装スイッチを入れる。インターフェースが起動してから、ISコアとの接続開通ボタンを押した。

 

「どうしてボタン押してるの…………打鉄やラファール・リヴァイヴだとそんなことしないよ…………」

 

 本音のつぶやきが聞こえたので答える。

 

「え!? こういうもんじゃないの?」

「普通は自動だよ~~~~。ISがパイロットを認識して自動(オート)で処理するんだよ~~~~」

「社員から、この手順だって教えてもらったんだよっ!!?」

「………………御印マキさん。あなたの、IS適性は?」

 

 上級生が訝しみながら聞いてきた。

 

「え、《E(イー)》だけど」「え!?」

「…………え、《E》だとやっぱ、ヤバイの?」

「ヤバヤバだよっ!! 《E》ってことは、ISコアがパイロットを認識できないってことなんだよっ!! つまり、誰も乗ってないから起動してないってこと~~~~!!」

 

 表示:《ソリッドⅢ》が起動しました。

 

 マキは表示に従い、ブース内を歩いて見せた。

 元の場所に戻ると、鷺ノ宮が声を掛けてきた。

 

「よし! シールドエネルギー出力ゼロが『そう表示されているだけ』と証明してやる!」

 

 鷺ノ宮は銀色のボールペンを握った。

 

「ボールペン?」

「スチール製ボールペンだ。一本七〇〇円ぐらいで買える! 御印がくる前に売店で買った、このボールペンをだな……」

 

 おもむろに振りかぶり、膝に突き立てる。だが、痛みはない。ボールペンは膝まで高さ5センチほどの場所で浮いており、硬い装甲と衝突したかのように、先端が折れ曲がっていた。

 

「ほら、この通りだ! シールドバリアーは機能している」

「……確かに、機能している、ように見える」上級生が目を瞬かせている。

「怪しいっ…………」本音の目は完全に疑っている。

「ならば、色々試そう。試してダメだったら諦めよう」

 

(試してダメって、わたし、死んでるってことだよねっ!?)

 

 マキは心の中で叫び声を上げたが、鷺ノ宮は重装騎馬(カタクラフト)に備え付けた護身用警棒を取って戻ってきた。完全に目が据わっており、マキが操る《ソリッドⅢ》に襲いかかってきた。

 

 

 




次話、『セシリア・オルコット《8》』投稿まで少々お待ちください。
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