亡国機業は壊滅しました。 作:張三李四
「アリーナ、アリーナ行き……七つもあるぅ」
シャトルバスの停留所で、マキはスマートフォンの画面と時刻表とを見比べて頭をひねった。部活に顔を出してすぐ、鷺ノ宮から着信があったのだ。明日使うISについて本人確認が必要になってしまったという。電話口での鷺ノ宮は本当に申し訳なさそうだった。
マキは部長と顧問にひと言断ってから辞した。
停留所まで来たは良いものの、どのバスに乗ればよいものか途方に暮れた。
「ささっと終わらせたいのにぃ……」
マキは目的地であるアリーナの番号を確かめる。東西南北に出入り口があるらしく、鷺ノ宮がいるであろう格納庫までの道筋に自信がもてない。
(職員室に戻って聞くか……時間かかっちゃうけど)
山田先生ならば間違いなく職員室にいるはずだ。彼女はISの授業を受け持って、アリーナへの行き方に詳しいだろう。
後ろを振り返ったとき、カツ、カツ、という地面をたたくのが聞こえた。
クロエ・クロニクルがしっかりとした足取りで停留所に向かってくる。クロエの後ろに制服姿の少女もいた。
「すみません」
制服姿の少女に声をかける。二年生を示す黄色いリボン。髪を水色に染め、活発な雰囲気を放っている。
「あなた、一年生? どうしたの?」
「その、……第三アリーナの格納庫に行きたいんです。でも、行くの初めてだし、どのバスに乗ればいいのかわからないんです」
マキはスマートフォンの画面を見せる。
少女はのぞきこむなり、メッセージに記された番号を識別する。
「ここだったら今から私も行くからついてくるといいよ。…………それに、彼女も行き先一緒みたいだし」
少女の視線を目で追うと、クロエに行き着いた。
「…………次のバス、乗ります」
見えていないはずが、視線に気づいたような素振りだった。
マキは驚いて、「わ、わたしも乗ります……」と口にしていた。
シャトルバスのなかで特に会話をすることはなかった。第三アリーナに辿り着き、水色の髪の二年生についていくと、格納庫へ続く階段の前に鷺ノ宮がいた。
「友人です。ここまでで大丈夫です」二年生に言う。
「そうなの? じゃあ、私は彼女と行くわね」
「ありがとうございます。助かりました」
「じゃ」と言って二年生と別れた。二年生はクロエと一緒に一足先に下りていった。
「アユム。呼ばれたから来たけど……」
鷺ノ宮は両手に紙袋を持っていて、一方を差し出した。
「これは?」
受け取った紙袋をのぞきこんで手を触る。水着のような布地だった。
「ISスーツ。外に出ないけど、スイッチは入れるから必要なんだって」
「えーーーー。着なきゃだめ? 体型まるわかりだから着るのあまり気が進まないんだよぅ…………」
「着ろってさ。制服着てるからいらなくない? って提案したけどダメだった」鷺ノ宮が肩をすくめて言った。
「…………わかった。着る」
鷺ノ宮に連れられて更衣室へ向かった。道中、鷺ノ宮が話しかけてきた。
「よくここに辿り着けたね。もう少し時間かかると思ってた」
「たまたま行き先が一緒の人がいてね。ついてったんだ」
「それは運がいい。私は最初迷ったからね」
「…………やっぱり、わかりにくいんだ」
更衣室はロッカールームとシャワー室、洗面所から成っていた。
ロッカーの場所を決めると、鷺ノ宮が制服のリボンを外した。小首を傾げると、鷺ノ宮が理由を言った。
「私も着ろってさ。整備科以外の生徒はISスーツを着用するのがルールなんだって」
「えええ!? 目のやり場に困る…………」
マキは制服を脱いだ。下着姿のまま紙袋を開けたが、バスタオルが入っていなかった。
「アユムーー。タオルないよーー」
「タオル? 最初から入ってないけど」
しれっと言ってきた。
「これだから海外育ちは困るんだ。タオルを巻いてちゃちゃっとお着替えするってのに。はぁ…………脱ぐか」
「別に女しかいないし、気にしても仕方ないんじゃ?」
マキが下着を脱ぐと、鷺ノ宮も全裸になった。鷺ノ宮は胸はないが、背が高い。よく鍛えられていてスラリとしている。姿勢の良さ、引き締まった細さをうらやましく感じた。
ISスーツを身に着ける。下半身に備えた半透明のアレの位置が気になったが、少し盛り上がっている程度で上手く隠せている。
(うぅぅぅ…………えっちな気分になったら絶対いけないやつだぁ…………)
実はついてました、などとは言えない。昼休みに一度処理していたとはいえ、ISスーツ姿の少女たちがいるなか、正気で居られるかどうか怪しい。
(顔面偏差値がぁ…………美少女ばっかだから余計に困るんだよぉ…………)
鷺ノ宮に従って更衣室からアリーナに抜ける。
IS学園に所属する訓練機を横目に《
今は《ソリッドⅢ》、《
マキは途中で立ち止まって、鷺ノ宮を呼んだ。
「あれはなに?」
指差した先には二機のISがいる。
正面に白杖を持った女性の後ろ姿があり、女性はつなぎではなく淡いブルーのサマードレスを着ていた。
「あれはいいの?」
ISスーツを着ていない。鷺ノ宮が確かめると、「げっ」と小さく呻いた。
「クロエ・クロニクル………………ってことは、《シノノノ》のブースか」
箒が転がり込んだ先である。
(あ!! 篠ノ之さん、男の部屋に転がり込んでるってこと!? うぁあああああ…………)
マキの頭の中を桃色吐息な想像が駆け巡った。
「クロエ・クロニクルなら問題ない。アイツは……彼女はマイスター資格を取っている」
鷺ノ宮がマキの手を引っぱった。
連れてこられた先には作業服姿の上級生がいて、徽章は二年生を示している。もうひとり、ISスーツ姿の生徒が立っていて、彼女は恥ずかしそうに顔を伏せていた。
「…………ありっ? 布仏さん?」
「マッキマキ…………見学だよっ。私、整備科志望だから…………」
本音の制服とスウェット以外の格好を見たのは、これが初めてだった。豊満な、それでいて少しだらしない体型が白日の下にさらされている。
目をそらすと、鷺ノ宮と整備科の上級生が話していて、整備コンソールから問題の場所を表示させた。
「御印。確かめてくれ」
「どれどれ………………」「私にも見せて~~」
マキがコンソールをのぞき込む。ひととおり見てみたが、ブリスベンで見たときと全く変わっていなかった。
「変なところなんてないじゃん」マキが言った。
「…………だよな」鷺ノ宮が同意する。
「え!? これでオッケー、なんてどうやったらそう思うんですかっ!!」整備科の上級生が憤った。
「………………マッキマキ。これ、乗ったら死ぬ奴だよ………………」本音は口元を引きつらせている。
(死ぬ?)
マキはもう一度設定を見てみた。
「布仏さん。死ぬって? このままだと、わたし、死ぬの?」
「シールドエネルギー出力ゼロ、
「ひと言で言って、死にますね。ですから、アリーナに出る条件を満たしていません。明日は練習とはいえ、外には出せませんね」
上級生が告げた。
鷺ノ宮は真剣な眼差しで反論する。
「ブリスベンで死ぬかどうか試したが、死ななかったから問題ないのでは?」
「無理矢理乗せられて《
鷺ノ宮がうなずく。彼女は親指を立てて胸をトントンとたたいた。
「とにかく、大丈夫だから。弊社、《
「ですから、数値が基準を満たしていないんですって。自社基準で話をされてもダメなんですよ」
鷺ノ宮がため息をついた。マキの肩をたたいてから、《ソリッドⅢ》を指差す。
「今から大丈夫なことを証明します。御印は《ソリッドⅢ》のスイッチを入れてくれ」
「どうやって証明するつもりかなぁ……、とりあえず乗るけど」
マキが《ソリッドⅢ》のなかに立ち、固定具の着装スイッチを入れる。インターフェースが起動してから、ISコアとの接続開通ボタンを押した。
「どうしてボタン押してるの…………打鉄やラファール・リヴァイヴだとそんなことしないよ…………」
本音のつぶやきが聞こえたので答える。
「え!? こういうもんじゃないの?」
「普通は自動だよ~~~~。ISがパイロットを認識して
「社員から、この手順だって教えてもらったんだよっ!!?」
「………………御印マキさん。あなたの、IS適性は?」
上級生が訝しみながら聞いてきた。
「え、《
「…………え、《E》だとやっぱ、ヤバイの?」
「ヤバヤバだよっ!! 《E》ってことは、ISコアがパイロットを認識できないってことなんだよっ!! つまり、誰も乗ってないから起動してないってこと~~~~!!」
表示:《ソリッドⅢ》が起動しました。
マキは表示に従い、ブース内を歩いて見せた。
元の場所に戻ると、鷺ノ宮が声を掛けてきた。
「よし! シールドエネルギー出力ゼロが『そう表示されているだけ』と証明してやる!」
鷺ノ宮は銀色のボールペンを握った。
「ボールペン?」
「スチール製ボールペンだ。一本七〇〇円ぐらいで買える! 御印がくる前に売店で買った、このボールペンをだな……」
おもむろに振りかぶり、膝に突き立てる。だが、痛みはない。ボールペンは膝まで高さ5センチほどの場所で浮いており、硬い装甲と衝突したかのように、先端が折れ曲がっていた。
「ほら、この通りだ! シールドバリアーは機能している」
「……確かに、機能している、ように見える」上級生が目を瞬かせている。
「怪しいっ…………」本音の目は完全に疑っている。
「ならば、色々試そう。試してダメだったら諦めよう」
(試してダメって、わたし、死んでるってことだよねっ!?)
マキは心の中で叫び声を上げたが、鷺ノ宮は
次話、『セシリア・オルコット《8》』投稿まで少々お待ちください。