亡国機業は壊滅しました。 作:張三李四
「皆さんにお知らせがあります」
山田先生が、朝のHRで駆け足で連絡事項を伝え終えたあと、生徒たちを睥睨して言った。
「個室トイレについて、昨日不適切な使用がありました。IS学園は学生の学び舎であると同時に、世界が注目する場です。トイレは全ての生徒、全ての職員が共有して使用する設備です。ここで犯人が誰か、追求はしません。皆さん、節度と品位を保ってトイレを使いましょう。私からは以上です」
マキは、山田先生の話に耳を傾けつつ、机の下でスマートフォンを操作した。
マキ :トイレで、何があったの?
アユム:壁から床まですごいことになってた。ハープーンミサイル発射(笑)!!!
マキ :え?
アユム:おしっこまみれだったんだと。犯人はお前?
マキ :なわけないじゃん。どうやったら壁にかけたりできんの
アユム:お前ならできる
マキ :いやいやいやいやいや
スマートフォンをしまい、横目で鷺ノ宮を見ると、彼女はマキに疑いの眼差しを送ってきた。
(疑ってるううう! どんだけ、信用ないんだ、わたしぃ…………)
とはいえ、個室トイレを何度か違う目的で使ったのも事実だ。
(ちゃんと掃除して証拠隠滅したから、犯人はわたしじゃない!!)
マキは自信満々な
四限目の授業を終えて、昼休みになった。マキはあえて席を立つことなく、ある人物の様子を窺った。
(今日もだよね?)
篠ノ之箒と織斑一夏である。箒は着席している一夏の前に立ち、ポケットに手を突っ込みながら見下ろす。
「一夏。今日も一緒に学食、行こう。…………今日は先輩たち、来ないから」
「…………え?」
箒が一夏の顔をのぞきこむ。一夏は幼なじみの息が額に吹きかかるのを感じ、顔を赤らめる。
「なんだか顔が赤いぞ。調子が悪いのか? だったら保健室に行くか?」
「い、いい。学食に行く…………ん…………」
一夏の肩がビクリと跳ねる。何事もなかったように立ち上がると、箒は自分から手を絡めてきた。
「やっぱり具合、悪くないか?」
「ちが、違う。…………そ、それは、箒が、…………」
「ん? 私が、どうした?」
「箒が、し、……………………可愛いから」
「~~~~、ぁあ、そうか。面と向かって言われると、照れる。でも、嬉しい」箒が笑った。
ふたりは甘酸っぱい空気を残して、教室から去って行った。
マキは呆気にとられて動けなかった。
(し、進展してるううう!!)
マキの前をセシリア・オルコットが通り過ぎる。心なしか汗をかいているようで、授業中もしきりに手で仰いでいた。去って行く背中を見届け、マドカの元に向かう。
「ま、マドカちゃぁああぁぁあぁあああんんん」
「どうしましたか、何とか印さん。顔が真っ青ですよ?」
「うぁああああん、篠ノ之さんと織斑くんがどこからどう見ても付き合ってるぅぅぅううう」
「何とか印さんにしては事実を正確に言いあわらしていますね。いいじゃないですか、お似合いですよ」
「篠ノ之さんはわたしのアイドルなんだよぅ。アイドルは恋愛禁止! なんだよぅ。だってのに、男を作っちゃうなんてぇ、推しが、わたしの推しがぁああ!」
「推しだったんですか。でも、何とか印さんは、その推しにすごいことをしでかしてましたよね」
「過去は過去だよぉ…………わたし、改心したんだもんっ」でまかせである。
「口では何とでも言えますからね。傷心したときはやけ食いしてストレス解消すると良いですよ。では、行きますか」
「…………マドカちゃんっ、冷たいよう…………でも、気遣いありがとう…………今日は食べるぞぅ!!!」
マキは拳をブンブン振り回しながら学食へと向かった。
だが、学食ではイチャラブな空間が出現しており、篠ノ之箒や織斑一夏を狙っていたであろう、少女たちの阿鼻叫喚地獄と化していた。
美味しいはずが、味のしない学食を食べ終え、食堂を後にする。
「では、何とか印さん。私は職員室に用事があります」
「用事? ここんとこ、毎日行ってない? 何してんの?」
「…………実は、同好会を設立しようとしていまして、今はその手続きと顧問と会員探しです」
「同好会?」マキが訊いた。
「はい。IS社会とジェンダーの関係を研究する会です」
「じぇ、じぇんだあ??」
「ISが社会に登場したことで、社会的性差、つまりジェンダーがどのように変容したか、観測し、どのように変化していくのかを研究する同好会です」
「そ、そぅ…………がんばって」
「応援ありがとうございます。では」
マドカが職員室に向かって歩き出す。
マキは頭を使ったので、うんうん呻きながら教室へ向かった。鷺ノ宮か本音がいないか注意を払っていたが、ふたりに会うことはなく自席に座った。ショックを引きずったまま、授業とHRが終わった。
(うううううう………………何にも頭に入らなかったぁ…………)
呆けていると鷺ノ宮が来た。
「おい。バカ。バカな顔をしていないで、アリーナに行くぞ」
「う、うん…………」
マキは答えながら、鷺ノ宮の言葉を反芻する。
(名字呼びからバカに格下げになった!?)
だが、バカと呼ばれて反応してしまった。撤回を求めようにも、マキから話しかけようとすれば睨み返してくる。昨日打ち明けた話が原因なのだろう。
(しちゃったものは仕方ないし。愉しまなきゃ、損だぞっ)
前向きな気持ちでアリーナへと辿り着く。ISスーツに着替え、昨日訪れた《
ブースには《ソリッドⅢ》が鎮座している。マキは機体を正面から見上げ、違和感を覚えた。
「気づいたか」鷺ノ宮が近寄ってきた。
「アユムー。昨日よりもなんかゴツくなってない? 背中と肩に四角いのがついてる」
「御印は
「カーゴパック?」
マキが訊くと、鷺ノ宮が説明し出した。
「別名、弁慶パック。薙刀、鉄の熊手、大槌、大鋸、刺又、突棒、袖搦…………というわけではないが、七つくらい武器が入っている。使い方をここで説明しても、覚えられないだろうから外で試す」
「了解したっ」
「今日の目的はアリーナでの《ソリッドⅢ》使用。武器の換装。相性とかその辺を確認する。動かしながら、アリーナのルールを覚えてもらう。最後に、ラジエーターの生成水を取り出す。そろそろやっておかないとな」
「アユムは?」
「《
「よしきたっ」
「合いの手はいいから、外へ」
鷺ノ宮が整備科の生徒からクリップボードを受け取った。一瞥したあと、クリップボードを差し出した。
「今日、アリーナを使用するIS。今みたいに、クリップボードにリストを貼って見せてくれる」
「ふぅーん。《ソリッドⅢ》、《
「日本神話における神殺しの名だけど、こんなIS、知らないな」
「新型なのかも」
「…………IS学園だし、あり得るかも、だ」
マキは《ソリッドⅢ》のなかに入り、固定具の着装スイッチを入れた。インターフェースが起動するのを待って、ISコアとの接続開通ボタンを押した。
ほんの数秒で投影モニターにアイコンが出現した。
ソリッドⅢ:ISコアが起動しました。アクションを選択してください。
マキは画面に表示された《アクション》を選んで実行していく。その光景を目にした整備科の生徒たちが口々に「信じらんない…………」「ボタン…………」という悲痛なうめきを漏らした。
鷺ノ宮が
マキはブリスベンにおいて、《ソリッドⅢ》の基本操作を習得していた。習得した操作が本当に正しいものかは、他のISを動かせなかったために比較ができないでいた。
「へへへ…………歩いたり、飛び跳ねたりするくらいだったら楽勝っ、楽勝っ」
「ボタン操作だがな……」
「こういうもんじゃないの? ISって?」
「前にも話したが、ISは基本、脳波
「でも、ボタンで操縦できるんだけど」
「《ソリッドⅢ》は、特別。機体は第二世代。インターフェースだけ第三世代、開発部署は第三・五世代だと言い張っていたけど」
次は七つ道具の確認だった。《アクション》で武器を選択すると、機械式補助腕が武器を差し出す。別の武器を選ぶと、武器の換装動作が行われる。銃や剣、大槌の持ち替えだ。弓を模した武器があって、マキは気に入った。鷺ノ宮が「ロマン武器の類い」とか口にしていたが、聞かなかったことにする。
《ソリッドⅢ》の動作で気になるところは特に見つからなかった。
「自然に動くんだけどなぁ」
ブザーが鳴った。他のISがアリーナに入ってきたことを示すものだ。
高速で飛翔する蒼い機影。ブルー・ティアーズだ。蒼色の翼は太陽光で煌めき、黄金色に変わった。空中で銃剣を取り付けた、長刀状のレーザーライフルを構える。青眼から横薙ぎ、蹴りの動作。まるで
「おいおいおい、おいっ! セシリア・オルコット! 同意してないぞ! 今すぐ動作を止めろ!」
鷺ノ宮が宙に向けて急に怒鳴りだした。
「アユム? どしたのっ??」
「緊急事態だ! 今すぐ退避しろぉぉぉおおおお!!」
鷺ノ宮が泡を食って逃げ出した。瞬時加速まで使って壁際に逃げ、さらにブルー・ティアーズよりも高度を高く取った。
(演舞ってやつかな。…………踊ってるみたいで綺麗だな…………)
空中を煌めく黄金蝶。黄金色の鱗粉が散布され、その輝きの粒が徐々に大きくなる。
(ん………………?)
粒は接近し、マキに向かってきた。《ソリッドⅢ》は攻撃されていると認識していない。ほどなくして、黄金色の液体だとわかった。
「うううううう………………ビショビショぉ…………」
マキは液体を散布した主を見上げた。
セシリア・オルコットは自信満々に胸を張って言い放つ。
「フフン、わたくしの
次話、『セシリア・オルコット《10》』投稿まで少々お待ちください。