※この作品はR-18です。

亡国機業は壊滅しました。   作:張三李四

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明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

『織斑一夏と箒』は篠ノ之箒視点となります。



織斑一夏と箒:〈篠ノ之箒視点〉
織斑一夏と箒《1》


 

 

「篠ノ之束(姉)の面会に来ました」

 

 入学式前日の朝。篠ノ之箒は大学病院の受付で姉の病室を訊いた。提出した身分証明書を受け取り、医療事務員が姉が収容されている部屋番号を告げる。

 礼を言って、病室に向かった。

 

「…………姉さん」

 

 ベッドで横たわる姉に向けて呼びかける。だが、篠ノ之束の答えはない。昨年の夏からずっと昏睡状態が続いている。

 夏に温泉旅館で発生した強盗殺人事件。ある事情から情報統制が行われ、メディアへの露出が一切なく秘密裏に処理されたこの事件は容疑者全員死亡により幕を閉じた。強盗団のうち二十余名が即死、首謀者と思しき人物は被害者のひとりの反撃に遭い、死亡している。

 篠ノ之束と箒は被害者だった。束は強盗団によって輪姦され、妊娠していた。箒もまた、強姦被害に遭っていた。

 

「姉さん」

 

 姉は妊娠していたが、助手であり生存者のたっての願いで中絶せず、無事出産できれば、伯母の雪子が引き取ることになっていた。

 姉の動かない手を握る。昏睡状態のままチューブに繋がれ、生きながらえているだけの存在になっていた。

 

「ごめんなさい」

 

 箒は悔やんでいた。彼女は眠りの底へつかせた端緒を担っている。篠ノ之箒が強盗団――亡国機業(ファントムタスク)――と接触していなければ、このような事件は起きなかった。

 篠ノ之箒が姉と和解したいと、姉の助手に接触しなければこのような惨事は起きなかった。

 姉の手の甲に額を当てた。

 

「姉さん。あ(・)り(・)が(・)と(・)う(・)」

 

 篠ノ之箒は心の言葉を口にする。

 

「ありがとう、ありがとう…………」

 

 姉が築き上げてきた地位、名声。そして【シノノノ】。篠ノ之箒はそのすべてを受け継いだ。束の技術を受け継いだ助手は、箒に忠誠を誓っている。助手を得、引き抜いた人材はとても有能だ。篠ノ之束のような独善的かつ天才的な経営はできないだろう。だが、人間的な判断はできる、という強みがあった。

 

「ありがとう、本当にありがとう」

 

 姉は物心がついたときから、狂っていた。幼い箒(妹)の前で小動物を惨殺し、解剖して記録する。虫から始まり、犬猫、家畜。もはや人を残すのみとなり、束は身近な妹の殺害計画を練り上げ、実行に移そうとしていた。そんなとき、織斑千冬に出会って天啓を得た。千冬に認められ、すごいと思われ、他者にもすごいと認めさせることに興味を移していった。

 

「姉さん、このままずっと眠っていてください」

 

 織斑千冬がいなかったら箒はここにいなかった。姉がISを開発し、国家へのゲームをしかなければ箒はここにいなかった。

 

「【シノノノ】は私が引き継いで、もっと大きくします。だから、もう一生、死ぬまで、目覚めないでください」

 

 箒は神妙な面持ちで病室を去った。

 

 

 

↓

↓

↓

 

 

 

「うぁ、ぁあああ…………ひぐッ、ヒグッ…………ぅぅううう…………」

 

 箒は個室トイレで泣きじゃくった。露わになった下半身は陵辱を受け、白濁液にまみれている。

 

(油断した、油断した、油断した!!)

 

 前日、御印マキが見せた弱々しい姿は擬態だったのだ。御印マキは強盗殺人事件に巻き込まれた、ただひとりの一般人だ。ISとは無関係の生活を送っていて、本当に偶然、部屋を共にしたのだ。亡国機業の情報で、御印マキのIS適性が《E》であることを把握していた。安心して、《ソリッドⅢ》の場所を確かめにいった。

 

(昨日、あのとき、殺しておけば!! 首を落として殺しておけば!! こんな屈辱、味わうことはなかった!!!)

 

 だが、篠ノ之箒は人を殺した経験がない。それどころか、動物を殺した経験すらなかった。ただ、姉が惨殺した動物の解剖の場に居合わせていたにすぎない。

 

(だけど、姉さんのようにはできない…………)

 

 姉は無差別大量殺戮をしてのけた。どうやったのか、全く分からなかったが、とにかく、篠ノ之束は自らが開発した製品(IS)の宣伝のために、二三四一発のミサイルを首都圏に撃ち込んだのだ。

 推定死亡者数、一万余。内閣総辞職をやってのけた。

 インフィニット・ストラトスの素晴らしさ、圧倒的な潜在軍事力を見せつけ、既存兵器を陳腐化させたのだ。

 だが、篠ノ之束は経営者としては劣悪だった。ISコアの製造を停止し、彼女が生み出した高性能ISは世に出ることはなかった。飽くなき探求心が、機体を完成させたときには、すでに別の物事に興味を移していたからだ。

 IS登場から十年、【シノノノ】は世界最優の、通称《調律師(マイスター)》を擁して整備調整を主な生業としていた。しかし、【シノノノ】の名を冠したISは一機たりとて存在しなかった。

 

「行かなければ、私は【シノノノ】の顔……涙を吹いて、誰にも気取られぬようにしなければ…………」

 

 箒は指先に唾液を絡め、膣内の白濁液をかきだした。指を入れた瞬間、得も言われぬ快感が拡がったが、構ってはいられない。本来は織斑一夏に捧げるはずだった処女は、忌々しき強姦魔によって奪われている。価値のない、汚れた女が一夏と付き合う資格はなかった。

 

「よし、これで…………」

 

 替えの下着を用意していなかった。いつ、気取られるか分かったものではない。授業の間、ずっと子宮に注ぎ込まれた白濁液の感触に顔をしかめた。

 授業を耐え抜き、SHRが終わった。

 

「篠ノ之」

 

 挨拶を終えたあと、織斑千冬が声をかけてきた。

 

「ちふゆさ…………」

「先生だ」

「織斑先生。どうしましたか」

 

 優しげな声に、幼い頃をつい思い出してしまった。

 

「今日、《カグツチ》《タケミカヅチ》が第三アリーナに搬入される。段取りは全て終えているが、どうだ、見に来ないか」

「今日予定通りでしたか。行きます。行かせてください」

「わかった。アリーナの行き方だ」

 

 印刷された地図を受け取り、教室を出ていく千冬を見送った。

 

「し、篠ノ之さん。よかったら私たちと一緒に帰ら……」

 

 クラスメイトが話しかけてきた。確か、鏡ナギと自己紹介していたはず。箒は即答せず、考えた。

 

「ISの搬入があって、第三アリーナに行くつもりだが、…………よかったら一緒に来るか?」

「え? わかった、行く」

 

 ナギは仲良くなったばかりのクラスメイトに「行く?」と訊いた。

 

「行く! 行く! 行くよ!!」

 

 布仏本音が元気よく答えた。

 

「じゃ、私もーー」

 

 谷本癒子が頬をかきながら答える。

 先ほど千冬からもらった案内図を広げ、行き先を指差した。

 

「歩きだと結構遠いね?」「待って待って、バスが出てるよ。停留所、校門前だって!」「時間、ヤバイじゃん!!」「急ごう」

 

 箒たち四人は連れだって、バス停へと急いだ。幸い、シャトルバスに乗車でき、地図の案内にしたがって第三アリーナ前で降車する。

 

「ここからだったら道分かるよ~~~~」

「なんで知ってるの?」癒子が訊いた。

「実は、学校見学のときに頼んで格納庫を見せてもらったんだ~~整備科志望だったから~~」

「布仏さんは学校見学、受かったんだ。私は抽選で落ちちゃって」ナギだ。

「えへへへ~~~~」

 

 本音の案内にしたがって、格納庫へ辿り着く。特に守衛のような人物はおらず、制服のまま端の方を歩いた。

 

「君たち!」

 

 後ろから呼び止められ、四人とも背筋を伸ばして凍り付いた。振り向くと、水色のISスーツ姿を身に着けた、水色の髪をした少女だった。年上で、高校二年生くらいか。ISスーツで豊満な胸が強調されていて、ナギと癒子の目線は釘付けになっていた。

 箒が一歩前に出る。

 ポケットをまさぐって身分証と名刺を差し出した。

 

「し、篠ノ之です。【シノノノ】の現代表を一時的に務めてさせていただいていますっ!」

 

 水色の髪をした少女は身分証を一瞥し、ベルトループに結わえたタグを一瞥する。名刺の裏表を確かめ、指を差した。

 

「あっちに【シノノノ】の格納ブースがあるから」

「ありがとうございます!」

「ありがとう~~~~かいちょーー」本音がその場で飛び跳ねた。

「どーいたしまして。それから君たち、今日は見逃すけど、明日から格納庫に入る時はISスーツ着用だぞっ☆」

「は、はい!」

 

 少女が指さした方角へ向かう。【シノノノ】のロゴが支柱に描かれている。他にも《倉持技研》《ALCOTT》《雷撃社》《中国IS工業集団有限公司》などがあった。

 ブースに足を踏み入れる。織斑千冬と副担任の山田真耶がISスーツに身を包んでいる。

 

「す、すごいっ」「織斑先生、かっこいいね~~」「やまや、やばい。揉みたい!!」などと三者三様の答えが帰ってきた。

 

「お、来たか」

 

 千冬が視線を送った。じっと箒の顔を見て、ある一点に目を移す。

 二機のIS。【シノノノ】を冠し、一機は《紅(あか)》に彩られ、もう一機は翡翠色に彩られていた。前者は通常の機体よりも頭一つ低く、こじんまりとしていた。後者は脚が通常よりも多く、八脚もあった。

 

「篠ノ之。赤いほうが《カグツチ》、緑色のほうが《タケミカヅチ》で相違ないか」

 

 千冬の問いに箒はうなずく。

 

「両機ともに専用機級だが、搭乗者が決まっていない。そうだな?」

「そうです」

「篠ノ之は乗らないのか?」

「《天叢雲(アメノムラクモ)》があります」

 

 千冬が首を傾げた。

 

「《カグツチ》の搭乗者リストには、お前の名があった。だが、違うというのだな」

「違います」

 

(そう、違う。《カグツチ》、旧銘《紅椿(あかつばき)》は私が乗るべき機体ではない。そして、《タケミカヅチ》、旧銘《アラクネ》。私は、この二機の乗り手を探すためにIS学園に来たんだ)

 

 箒は支柱を見上げ、千冬を凝視する。

 

「織斑先生たちに頼みたいことがあります。ISを保有しない代表候補生をリストアップしてください。よろしくお願いします」

 

 

 




次話、『織斑一夏と箒《2》』投稿まで少々お待ちください。
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