亡国機業は壊滅しました。 作:張三李四
「テープとこの仕切りが生活線の区切りだ」
箒が自分のことのように言い、一夏は何度も目を瞬かせながら頷いていた。
1025号室はクロエ・クロニクルと織斑一夏の二人部屋だ。ただ、室内は三人部屋と同等の広さであり、クロエの視覚障害を考慮している。そのため、部屋の専有面積はクロエ:一夏=2:1である。
クロエの荷物は案外多い。多くは衣服や機材だ。教科書も視覚障害者向けのため、通常よりもボリュームがあった。
「パーソナルスペースの件はわかった。シャワーとかそういうのはどうする? クロニクルさんひとりじゃ厳しいんじゃないか?」
「…………その辺りは、…………大丈夫です。…………今週はひとまず、知人に介助の約束を取り付けました…………」
「さっきの先輩……」
一夏が思い出して顔を赤くした。金髪の白人で際どいところまで露出していた。千冬で慣れているつもりだった一夏でさえ、刺激が強すぎたのだ。
「ダリル・ケイシー…………ここの三年生です。ほかにも、フォルテ・サファイアが彼女の紹介で手伝ってくれる手はずになっています…………」
「俺、できるだけ手伝います」
「そう言ってくださると、嬉しいです」クロエが微笑む。
繊細な人形めいた美少女の笑みに一夏が顔を赤くする。
むっとした箒がクロエを抱き寄せた。
「一夏。彼女に懸想したらダメだからなっ! クロエ・クロニクルは交際相手がいるんだからなっ」
「え!? …………ほ、箒。俺はそんな、手を出すやつなんかに見えるかっ!?」
「…………いや、私は一夏を信じる」
(試すようなことを言うんじゃなかった…………)
箒は目を伏せて反省する。
「…………いけませんよ。
苛立つ箒をあやすクロエに、一夏は妙な色気を感じた。箒を慈しむような姿に、母性や父性といった、一夏が求めて止まないものを感じ取ったのだった。
【シノノノ】の組織上、クロエ・クロニクルは篠ノ之箒の部下にあたる。IS
「クロエ。お前の容姿は
「箒様もお美しいですよ。もう二、三年もすれば道行く者は振り返るようなります」
「そ、そうなのか…………?」
箒はクロエの胸に顔を埋めた。
クロエは一夏に首を向ける。
見えていないにもかかわらず見られているような気がして、一夏はドキッとした。
「箒様のご無礼、お許しください」
「全然そんなことはないって。むしろ、驚いてるんだ。クロニクルさんは箒に懐かれているなって思えて。箒がそうやって人に甘えるところを、見たところがなかったからさ」
「…………ふふ」クロエが微笑む。
「クロニクルさん。シャワーの時間なんだけどさ」
「シャワーですか……私は授業後から夕方にかけてを希望します。介助の者もいますから……」
「だったら俺は朝にするよ。どうしてもって時は風呂場に行く」
「かしこまりました」
「おいっ」
箒が不満げな声をあげた。
「私の時間はどうなるんだ」「いや、箒は……」
「箒様はこの部屋に転がりこんでいますから、時間を主張する権限はないかと……」
「それでも、私も住んでるんだぞっ!!」
「承諾するかしないかは別として、一応希望を」
「織斑様、無駄な希望を持たせてはいけません。はっきりダメだと仰ってください。さもなければ箒様が増長します」
「そ、そうか。やっぱりダメだ。だいたい、自分の部屋があるだろ」
「い、いや、戻りたくない」
戻ったら御印マキとふたりきりの時間が発生する。性欲だけで生きているような女だ。間違いなく襲ってくるという確信があった。
「だったら大浴場だな。男子風呂と違って二十四時間空いているし、シャワー室が併設されているだろ?」「そうですよ」
「くっ…………」
箒に選択肢はなかった。渋々1025号室でのシャワーの権利を放棄した。
「汗をかいたらどこで流せばいいんだっ」
「剣道場にシャワー室があるではありませんか」
乙女には人に言えない事情がある。大浴場とて安心はできなかったが、今のところ二人以上なら強姦には及ばないはずだ。
「一夏、便器は必ず座ってしろよ? クロエは目が見えないから、万が一のことがある」
「わ、わかってる! いちいち言わなくてもいいだろ!」
「よ、よし!」
一応の取り決めはできた。箒はクロエに大浴場へ行く提案をし、承諾を得た。
だが、道中、箒は重大な事実に気づいた。
「大浴場へ行く、なんて言って出てきてしまったが、クロエが入るのはまずいんじゃないか?」
「夕食前の時間帯ですから、人が少ないのでごまかしが効くかと…………万が一の場合は」
「待て、極力万が一の手段は控えたい」
「しかし…………箒様にもメリットがございます…………」
箒は胡乱な視線を向けた。腕をつかむ少女に口止めをしたくなった。
「どんなメリットか聞きたくない」
「左様ですか……」
駄弁るうちに大浴場に着いた。クロエが言ったとおり、浴場の利用者は数えるほどだった。箒は自分の衣服を脱ぐ前に、クロエの衣服を脱がせる。
(この服、面倒だな…………)
ダリル・ケイシーと同じ感想を抱いた。クロエ・クロニクルはロングスカートを好んだ。ゆったりとした衣服は、服の下に様々なものを隠せる、という理由だ。ピンヒールは武器だと言ってのけており、箒ですらクロエの感覚にはついていけないところがあった。
「問題はコレだな」「ええ、問題ですね」
箒はクロエの股間を指差した。いつ人に見られるかも知れないという恐れから、クロエのそれは萎えしぼんでいる。緊張状態にあると窺い知れた。
クロエ・クロニクルはふたなりである。女性でありながら、男性器を有す。しかも、大きいと来ている。
「小さければ、もっと楽なんだけど…………」
箒はブラを外しながら言う。
「箒様は美しいです。…………この形はうらやましい…………」
自然な仕草で乳房を弄ぶ。
「…………んん…………!」箒は口をつぐんだ。
「ふふふ…………」
クロエの微笑みがからかっているように感じられて、箒は胸を隠しながら一歩下がった。
「やはり、もうひとり必要だ。今から先輩方に頼むか?」
「いいえ、現地調達すればよいかと」クロエは目蓋をあけながら不敵に微笑んだ。
「…………それはよくない考えだと思うぞ…………」
「…………滾りますね…………」
クロエが目の前を歩く女生徒たちに目をつけた。慣れた足取りで上級生だと思われた。運動により均整が取れた身体。太股が発達しており尻が大きい。際どい衣服を着せれば、よく映えるだろう。
「…………手段を選びますか…………」
「私は良識というものをだな…………ぅう…………」
クロエの手が箒の股間を這った。
「ぁあ…………クロエ、ここでは…………」
箒は息が荒げ、震えながらクロエの指を一本ずつ引き剥がす。
「…………熱い風呂に入れば、どうでもよくなる。風呂に入ろう…………それに見られたらまずい」
「…………そうですね、
箒は隠しにくくなった股間の隠し方に頭を巡らせる。もっとも面積が多いのは「バスタオルを巻く」だが、入浴からでは不自然だ。
ひとまず大きめの手ぬぐいを垂らして浴場へとクロエを案内することにした。
次話、『織斑一夏と箒《3》』投稿まで少々お待ちください。