亡国機業は壊滅しました。 作:張三李四
「頭を使って疲れただろう、茶だ」
箒はテーブルを囲むクロエとティナにマグカップにいれたお茶を振る舞った。箒の隣にティナ。向かいにクロエがいる。
「ありがと☆」「ありがとうございます、箒様」
稽古を終えたあと、箒とティナは1025号室に向かった。二人で宿題をやってしまおうという話になり、どうせならクロエとも一緒に済ませたほうが合理的だと思ったからだ。大浴場へ行くまでの時間を潰すという目的もあった。
「織斑くんも一緒に勉強すればよかったのにね」ティナがシャープペンシルを置いて言った。
「そうだな。一夏のやつ……」
一夏のベッドを見やる。就寝時に使っているアイマスクと耳栓が枕元に残されていた。
一夏はひとりで学習室へ行っていた。風呂セットを持っていき、ついでに湯を浴びてこようという算段である。四六時中女性に囲まれて生活しているのだ。ひとりになれる時間が欲しいのかもしれなかった。
ティナがシャープペンシルを再び持って字を書き始める。アメリカ人らしく器用に英語で書き記していく。
少し書いて手を止め、机の真ん中に置いたポテトチップスに手を伸ばす。口に持っていき、塩と油のついた手でシャープペンシルを握る。少し書いて、ポテトチップスをぱくり、ぱくりと食べ続けていた。
箒はティナの手を見つめながら、口を開く。
「ティナは受験のとき、どうだったんだ?」
「んとねー」
(確か、留学生枠とはいえ一般入学のはずだ)
ティナはポテトチップスを咀嚼してから口を開いた。
「試験で、って言うよりは、IS適性と推薦状で受かったなー。これでも理数系は飛び級クラスだったんだけど、日本とアメリカじゃカリキュラムも教える内容も違うし☆ 較べらんないよ。箒は?」
「ISがあったから面接だけだ」
「んんー。箒のIS適性は?」「ばっちりAだ。だから入学を許されたってのがある」
「わたしと一緒だねー」
「そうなのか? 私と一緒だな!」
仲間を見つけたうれしさで箒の声が明るくなる。
「そうか! Aか! …………え?」「クロちゃんはー?」
「私は
「すごーい☆」と言って、ポテトチップスに手を伸ばす。
先ほどからティナだけがお菓子を食べている。箒はこれまで何度もクロエに勉強を見てもらったことがあったが、頻繁に菓子をつまみながら勉学に勤しむ習慣がなかった。
(食べ過ぎでは…………?)
「箒のあれって、ISなの?」
「あれ? あれとはどれのこと」
「あれだよー☆」ティナが股間を指差す。
おそらく起動キーのことだろう。IS学園に来てから起動キーを使ってISを一度も起動したことがなかった。
「あれはISの起動キーだ。ISの待機形態でもあるんだが、本人認証のためのセキュリティ措置だそうだ。私も前の持ち主から聞いただけだから、詳しいことは知らないんだ…………通常は円筒の形をしているんだが、ISの一部だから形状変化できる。外殻だけ広げて直径を大きくしたり、ドリル上に変化させたり。といっても、体積は変わらないらしい」
「ふーん。へへーっ、二袋目ー☆」
今度はビッグサイズだ。
「さっきより袋が三倍ぐらい大きくないか?」
「購買に寄ったら半額だったんだー。みんなも食べなよー」と言い、ポテトチップスを大量に咀嚼する。
(食べ過ぎだろう…………)
箒はティナの腹を思い出す。マリンスポーツをやっていた、と自己申告していたが、それにしたって肉がつまっていたような記憶があった。
「ポテチとの鉄板。コーラ☆」
元々カバンに持参していたのだろう。コーラまで取り出した。より甘ったるく味付けしたハイカロリーコーラだった。
蓋を回して、シュワーッ、という音を聞いてからゴキュゴキュ嚥下した。
「クロちゃんはこーゆーの食べないの?」
クロエが首を振る。
「あまり食べません」
「普段こういうとき何を食べてるの?」
「にぼし食べているの見たな」
「祖国にいた頃は間食を許されるような環境ではありませんでしたし、日本に来てからは現地の食べ物を食していました」
「えー、もったいないー。スナック菓子最高じゃん! 食べてるだけで幸せになれるよ☆」ポテトチップスを鷲づかみし、口に入れてコーラで流し込んだ。
「…………ティナ」
箒はさすがに我慢ならなかった。食べるな、とまでは言うつもりがなかったが、やはり節制は必要だ。箒は信念のまま言葉を継いだ。
「食べ過ぎ。食べた分だけ燃やす。運動しよう」
「運動? さっき夕食食べたよねー」「だから、運動だ。頭を使ったら運動すべきだ。クロエもそう思うな」
「そう思います」
「ええー。クロちゃんみたいに食べない人の意見を求めても
クロエが咳払いをしてみせた。
「私、体重は●●キロですよ」平均体重より重かった。
「嘘だし。わたしの目は節穴じゃないしっ」
「クロエはこうみえて筋肉質だからな。代謝がすごいから、いくら食べても太らないんだ」
「嘘ついてるー」
「今日一夏がやったみたいに、ティナも素振りをしよう。素振りは特に良いぞ。心身の鍛練になる。筋肉や体幹、心肺能力の向上にも繋がる。バランス感覚が良くなるから他のスポーツにも役立つぞ」
「やだやだー。棒を振るだけの単純作業じゃん。そんな運動やだー。そだ、海! 近所に海あるから休みに行こーよー。楽しい運動だったらするしー。楽しくない運動とかやだー」
ティナが不満を口にして運動に持っていこうとする意図を潰そうとしてきた。
(学園の近所には、ティナが想像するような浜はない。磯ばかりだぞ…………)
箒は考えを巡らせる。ティナの間食を停めるにはどうすればよいか。すぐに良い考えが浮かんだ。
「楽しい運動だったらいいのだな?」「そだよ☆」
「だったらこうだ」
箒はティナを抱き寄せた。ティナが「キャッ☆」とじゃれた声をあげる。
「クロエ。歯ブラシ」
「電動でよければここに」
クロエから電動歯ブラシと新品のヘッドを受け取る。ヘッドを付け替えると、古いヘッドと練り歯磨きとを交換する。
「ティナ、口をあけろ。歯磨きだ」「ええー。まだポテチ食べ終わってないよー」
ビッグサイズをすべて食べるつもりだったようだ。
そうはさせじと、電動歯ブラシのスイッチを入れる。ゆっくりと口に近づけていき、歯に触れさせる。
「んんんっ!! ぅうっ…………んっ」
ティナが変な声をあげた。自分でするのとは勝手が違うため、強く押しつけないよう慎重に手を動かす。
「逃げるな。歯を磨いたら菓子は食べないし、コーラは飲まない」
「あんっ…………やぁああんっ…………ほ、ほうきっ……やだぁ…………ぽてちぃ、まだ食べるぅ…………」幼子のように抵抗してきた。
ティナの瞳は食欲の虜になっていた。図体がでかい割に聞き分けのないティナに向かって、回りくどいことを口にしても意図が伝わらないのかも知れない。箒はとっさに思ったことを口にする。
「だめだっ。食べたら、ティナとキスできないだろっ! だから歯磨きだ!」
「えぇ…………キスっ、するっつもり…………だったんだぁ…………へへっ」
ティナが大人しくなった。
「確かにっ…………楽しい、かもぉ☆」
箒のことだ。キスをしたらその先もするはず……という期待がティナのなかで膨らむ。
クロエが水のペットボトルを渡してきた。飲用の水だったが、ティナを抱いた姿勢のままでは従うしかない。
「んぅ…………」ペットボトルの水を口に含んだ。
「箒っ…………!! …………んっ、んっ…………」
水を口移しで含ませる。泡で白くなった口をすすがせ、空になったマグカップに吐き出させた。
ベッドにティナを運んで横にしてから、箒もベッドに上る。首元を緩め、誘うような淫らな表情を浮かべた。
続きは次話にて。
次話、『織斑一夏と箒《12》【ティナ・ハミルトン】』投稿まで少々お待ちください。