【呪術×結界】成長した利守が呪術高専に入学する話 作:駒由李
pixivより転載
この山間の学校にも、桜が散る。あれはヤマザクラだろうか。どこからか花弁が吹き飛んできた。それが口の中に入ったので、反射的に吐き出しそうになり、「まぁ虫でないし」とそのまま飲み込んだ。咀嚼しながら、鞄を担いで寮へと急ぐ。形ばかりの入学式は明日には控えている。その前に案内のメモに従って寮へと入っていこうとする。
「あの」
そこに、声をかけられた。カートを引き摺ってくる少年だ。サクラが舞い散る中、ざらりとした黒髪の少年は、自身を見下ろしていた。心なし、不安そうな顔をしている。
「この学校の男子寮ってここでいいんですか」
「あぁ、お前も新入生か、編入生か」
「新入生です。――って、なんだ、同じ1年か」
少年は円らな瞳を瞬かせる。髪と同じ墨色の目だ。
少年は自身よりやや大柄だった。かといって五条ほどではない。恐らく180cm代といったところだろう。高校1年生にしては大柄だ。そんなことを思いながら、寮の中に入る。割り当てられた部屋の番号のメモを見ながら歩いていくと、少年もついてきた。……もしかして。
「お前、○○○号室かその近くか」
「多分隣部屋」
「今のところ男子はたった2人しか新入生がいないのにわざわざ隣の部屋……?」
「え、そんなに少ないの」
「お前、呪術師界隈に詳しくないのか」
鞄を運びながら歩いていく2人。自身が興味本位で尋ねると、少年はあっさりと応えた。
「うん。僕、裏会からの人員派遣第1号だから」
「裏会……って、あの裏会か」
「そ」
裏会――名だけは聴いている。
異能者と呼ばれる者たちが集っていた互助団体。家督を継げない者達が寄り集まったそこは、長らく腐敗が進み、そして6年前とうとう自浄作用が働いた。そこでそれまでは閉鎖的だった裏会も外部に交渉を持つようになり、そのうちのひとつが「呪術師界隈との業務提携」だった。その一環として、呪術高専に裏会の幹部の末弟が入学する運びとなった――とは自身も訊いていた。なので予想はしていたが、半ば人質同然の少年という印象は薄い。大人しそうではあるが文学と一緒に武道も嗜んでいそうだ。尤もそれも間違いではないと知ったのはのちのことで。話しているうちに2人はそれぞれ割り当てられた部屋の前に立つ。鍵を開けていると、少年の方から声がかけられた。
「それじゃ明日から宜しくね、えーと名前なんて言ったっけ」
「伏黒恵。そう言うお前は」
「あぁ、僕は墨村利守。西日本の烏森から来たよ」
「だいぶ大雑把な地理分類だな」
言い残して、扉を後ろ手に閉める。そこで、鞄を持ったまま、自身はふと思い出した。
烏森と言えば、神佑地で有名な土地だった。そこに立ち入る呪いの類は必ずパワーアップしたという。しかし6年前、突如として弱体化し、今はただの格下の霊地だ。そして、墨村家と言えば、同じ間流結界師の家柄として雪村家としのぎを削る間柄だったはずだ。
何があったか。ただ、業界に流れる噂がある。
『烏森は封印された』と。
「……訳ありは面倒臭そうだな」
ひとりごちながら、鞄を部屋に上げる。荷解きをしながら、恐らく同じ作業をしているだろう向こうの部屋の同級生に想いを馳せた。
1年生はあとひとり、女子が来るという。それまでに時間がかかるらしい。それまでこの同級生と2人きりで授業も任務も受けなければならない。ましてや恐らく墨村は呪術師としては未熟だ。前途多難さを思い、自身は溜息を吐いた。
仲良くなれる気がしなかった。
~1ヶ月後~
自室の扉が、ノックもなしに開かれる。
「恵、このルポ本続きないの?」
「あ? 利守か。そこの棚に入ってる。勝手に取れ」
「有難う」
ずかずかと入り込んでくる利守を、最早気にすることはない。勝手知ったる伏黒恵の部屋、と言わんばかりに本棚を漁っている。作家だという父親に似てか本好きらしく、かといってこの山奥にある学校の立地条件では本屋にも行きにくく。ネット通販は許されているがそれもこの奥地なので直ぐには届かない。なので本の貸借が日常的だった。それもそろそろ限界が来そうだったが。編入生の女子に期待しよう、と利守は思っているだろうと推察している。その利守は、本棚を漁っている中、「あ」と声を上げた。自身はベッドから起き上がらず本を読む。そのままの体勢で尋ねた。
「どうした」
「僕の父さんの本がある。実録本じゃないのに」
「……偶々だよ」
「そっかぁ。嬉しいなぁ。何ならサイン本も頼んでおこうか」
「いやそこまではいい。会うことがあったら面白かったと言っていたと伝えておいてくれ」
「へーい。ところでポテチ持ってきたけど食べる? 割り箸も持ってきたよ」
「喰う」
「それじゃパーティー開きー」
自身のベッドの縁に寄りかかった利守は、卓袱台の上でポテチの大袋を開く。平たいペーパーのようになったそれを、本を片手に、割り箸を片手にポテトチップスを摘んでいく。6枚目ぐらいを摘んだところで、利守はふと言った。
「そういや恵、お前僕のこといつの間に下の名前で呼ぶようになったの」
「あ? お前だってそうだろ」
「……まぁ2人きりしか1年生いないしね、今のところ。早くもうひとり来るといいねぇ、寂しい。五条先生は相変わらず胡散臭いし」
「胡散臭いのは否定しきれない」
「長い付き合いなんでしょ否定してあげなよ」
「否定しきれない」
「2度も言ったね」
「何なら3度でも言うが」
「それはさすがに諄いからいい」
ポテチをむしゃむしゃと食べる利守のうなじを見下ろしながら、思う。そう言えば、利守は自身とは恐らく違うルートで五条と顔見知りだったらしい。入学して、「担任です」と自己紹介した瞬間に利守が「げっ」と呟いたのをこの耳で確かに聞いた。まぁ特級の呪術師だし、裏会と繋がりを持っていても不思議ではないだろう。そう思いながらも、利守の五条への忌避感はどこか異常にも思えた。何がどうとは、詳しくは言えないが。
そう、それは明白な「拒絶」だ。
それでも日頃はごく普通の教師と生徒をしている。問題が表面化してくるとすればこれからだろうな、とどこか他人事のように考えていた。
実際他人事だ。自身と利守の立場は違う。利守が困っていることは自身には助けられないものだろう。
それでも、と思う。こうして会って1ヶ月で下の名前を呼び合う仲になったこの同級生(今のところ意地でも「友人」とは呼びたくない)が、できれば心安らかに学校生活を過ごせればいいと思う。尤も、この呪術高専で「心安らかに」は難しいだろうが。
(まぁたとえば特級呪物が解放されて受肉するようなことでもなければ大丈夫だろう)
自身は知らなかった。フラグというのはこう立てるものだと。
「あ、テレビ観ていい?」
利守は本を閉じると、マイペースにテレビの電源を入れた。丁度ネットで話題になっていたニュースが遅れてテレビで放送されていた。
フラグ建築士はトンテンカンとフラグを立てる
End.