【呪術×結界】成長した利守が呪術高専に入学する話 作:駒由李
▼伏黒を幸せにしたい……
▼高専の寮の風呂事情がわからない とりあえずここでは各部屋にユニットバスがついてることになってます
pixivからの転載
今回は全員がボロボロだ。家入さんに治してもらったものの、あの血の毒でやられた傷は自身も釘崎も残ったし(虎杖は多分治った)、恵など半ば昏倒していた。宿儺の指を持ったまま死んだように倒れていたから、すわ相討ちになったかと思ったほどだ。
後片付けも死ぬほど大変で(巻き添えを食った被害者の家入さんの元への搬送、呪霊の受肉体の回収、あと新田さんには叱られて夜蛾先生にアホほど怒られた)、それらが済み、風呂に入ったあとの僕たちはそれぞれの部屋でベッドに倒れ込んだ。
その翌日のことだ。恵から、僕と釘崎に釘を刺されたのは。
「虎杖に共振の話はするな」
「……」
「それって確定なの?」
「ほぼな」
黙る僕、問う釘崎。恵は「ほぼな」と言う。
「終わった案件だ。気づく可能性があるとすれば、俺達か新田さんくらいだと思う」
恵は言う。
「虎杖…宿儺の受肉はキッカケにすぎない。八十八橋の呪殺はいつ始まってもおかしくなかった」
恵は、言う。心なし、トーンが下がった。
「そもそも指を飲み込んだのは、俺を助けるためだ」
「……」
「でもアイツはそれで納得しねぇだろ。だから、言うな」
「……言わねぇよ。レディの気遣いナメんな」
僕が黙っていると、2人がこちらを向いてくる。僕はああ、誤解を与えてしまったかと両手を広げた。
「僕も言わないよ。メリットがないもの」
「あんたらしいわ、その言い方」
釘崎が呆れたように言う。それを見ながら微笑んだ自身は、頭の中では「けれど」と考えていた。
(共振していることは、他ならない宿儺が感じているはずだ。伝聞で知った宿儺の為人からして、器である虎杖にそのことを伝えないはずがない。だから、きっと、虎杖は知っている)
そう思ったが、口には出さなかった。それこそ、メリットがなかったから。それに虎杖は大丈夫だろうと、根拠もなく思う。
それよりも気になったのは、この一連の事件で見えてきた、恵の置かれた環境についてだ。
「昨日の今日で俺の部屋に来るとは良い度胸だな」
自身がベッドに転がりながら本を読みながら待っていた先で、恵が風呂から上がってきた。タオルでがしがしと頭を拭いている。乱暴に髪を拭くからあんなウニ頭になるんじゃないかな、と思ったが、自身は黙っておいた。賢明な判断だったと思う。自身はそれよりも恵の物言いにもの申したかった。
「お前の部屋に僕が入り浸ってるのはいつものことじゃん」
「昨日あんなことがあったのに、よくお前は元気そうに俺の部屋にいるのかって話だよ。休ませろ。俺はまだ休んでいたい」
「その年で疲れが一晩で取れないの……? やばいよ恵」
「はっ倒すぞ」
「叩いてから言わないでよ。……」
「どうした」
叩かれた頭を軽く押さえながら、本を伏せる。そして、言おうと決意していた言葉を吐き出した。
「あのさ、恵」
「なんだ」
「恵が幸せになっても、誰も怒らないよ」
「――」
絶句する気配が頭越しに伝わる。自身は本を伏せたまま、仰向けに転がった。
恵は、首からタオルを引っ提げたまま。ただ僕を見つめていた。
「恵は、幸せになっていいんだよ」
「――お前に、何がわかる」
次の瞬間、タオルを吹っ飛ばした恵に掴みかかられた。横たわったままなので、マウントを取られる形になってしまった。しまった、元ヤンに殴られたくない。そう思いつつも、自身は口が止まらない。
「わかるよ。短い付き合いだけどさ。……恵は、今のウチの父さんに似てる」
脳裏に浮かぶのは、母の失踪後の6年間。頑なに墨村家に留まり続けた父。作家業に打ち込み、私生活では息を潜めるように過ごしていた。それとなく再婚も促されたが、父は本当に頑なだった。
『僕は守美子さんの夫です』
そう言い切る、父の背中がひどく寂しいものだった。
それを、息子として、5年間誰よりも近くで見てきた自身は思ったのだ。
「『置いて行かれた』人間が、幸せになることのなにがいけないの?」
「――……」
胸倉を掴んだままの、恵の手が凍り付く。見上げれば、表情も凍り付いていた。そっと手を外してやれば、抵抗はなかった。そのまま体を起こすと、恵はベッドの上にへたり込んだ。それを見て、自身は恵を抱き締めた。抵抗がない。できるだけ強く抱き締めて、頭を撫でた。あのウニ頭を保持できるだけあって硬い髪だ。ちくちくするな、と思いながらそれでも自身は頭を撫でる。湿った感触が伝わった。
そして、僕は同じ言葉を繰り返した。
「幸せになっていいんだよ、恵」
「……俺は……」
「慌てなくてもいい。でもね、恵。僕の言葉は無碍にしないで欲しい」
僕は言った。
「お前の幸せを望む人間がここにいるってことを、忘れないで欲しいんだ」
恵は、答えなかった。
結局、恵は僕の言葉を聞き入れてくれたかは正直わからない。
ただ、いつか。どこかで僕の言葉を思い出してくれれば、それでいい。それでいいと思った。
了