【呪術×結界】成長した利守が呪術高専に入学する話 作:駒由李
pixivからの転載
授業の終わりを知らせる鐘が鳴る。悠仁は所用だろう、直ぐに席を立って教室を出て行った。残された3人のうち、ぽつりと利守が言い出した。
「今ふと思ったんだけどさ」
「何だ」
「何よ」
「何々?」
「虎杖に浮いた話があると思ってなかったなって」
「あぁ……」
恵と野薔薇の声が重なる。それに俄然興味が湧いた。教卓で身を乗り出す。
「え~~~なになにそれ聴きたい! 教えて教えて!」
「この教師うざいぞ」
「まぁ教えてやらんこともないけど、虎杖に余計なことは言わないこと! というか墨村、あんたも余計なこと言い出してくれたわね」
「つい……思い出したら今更じわじわ来て……」
と言いながら、利守は代表して先日あったことを説明する。
曰く、悠仁の中学時代、彼に「そういう」気持ちを抱いていた女の子がいた。
曰く、その女の子は中学時代はとてもふくよかだったが、東京に進学して激やせし背も伸びた。
曰く、その女の子は偶々悠仁を見かけた彼女は彼と接触していた野薔薇に詳細を尋ねた。
曰く、悠仁について彼女よりもやや詳しく知っているだろう恵と利守をその場に召喚、悠仁に特定の相手はいないこと、そして彼の好みに現在の彼女が合致するということで更に悠仁の召喚をした。
曰く、しかしそこで野薔薇たちは気付いた。彼女の姿はあまりに激変していた。これでは誰かわからないのでは。
曰く――
「そこで『小沢じゃん。なにしてんの?』と訊いてきたのが我らが虎杖悠仁です」
「何それ凄い悠仁」
「あれには俺らも10点を出さざるを得なかった」
「文句なしの満点神対応だったわねあれは……」
「あれー何々何の話? っていうか五条先生まだいたの」
そこに悠仁が帰ってきた。ひょこひょこと席に戻る彼に、僕は頬づえを突いてほくそ笑む。
「ふっふっふ、楽しい話をしてたからね。職員室には帰れないね。というか恵も野薔薇も利守も、そういう浮いた話ないの?」
「セクハラです」
「セクハラです」
「ないですねぇ、はは」
「恵と野薔薇ひどくない?! 単に若者に恋バナ振っただけなのに! 利守だけが癒やし!」
「よくわかんないけど先生元気出せよ」
「嘘、悠仁も癒しだった」
状況を把握していないにも関わらず悠仁は優しい。こういうところもその小沢という少女は好きになったのだろう。うん、若者の恋バナは癒やされるなぁ。そんなことを思っていると、文庫本を開いた恵がぽつりと言う。
「……というか、利守。お前は女の好みがやたらと具体的だっただろ。あれ明らかに特定の人指定してただろ」
「えっなになにそれ」
「えー今それ持ち出す?」
「あぁ、こいつむっつりだわって思ったアレね。東堂のとき」
野薔薇が不機嫌そうに言う。
「『黒髪直毛ロング色白巨乳清楚系年上のお姉さんが好みのタイプです』って。具体的すぎて引いたし、確かに明らかに特定の個人を指定してたわよねあれ」
「まぁ……指定してたっちゃ指定してたけど、初恋の人が僕の理想像のまま固定化されちゃってるからなぁ」
「どうして失恋したんだい」
僕が問うと、利守は苦々しげに答える。
「下の兄に取られたからですよ……中々に地獄ですよ、未来の義姉が初恋の人なんですから。幸い下の兄は婿入りするだろうから実家で同居ってことにはならないでしょうが。家が隣同士なもんだからおうちデートを頻繁にしてて。いちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃと……」
「落ち着け、利守」
「落ち着きなさい、男の嫉妬は醜いわよ」
「げ、元気出せよ墨村」
顔を両手で覆ってぶつぶつと呟き出す利守。フォローしてくる仲間たち。彼らを眺めながら、自身はそう言えば裏会を訪ねると休日だった場合利守が必ずと言って良いほど夜行に入り浸っていたのを思い出す。成る程、家にいたくなかったんだな。数年越しの真実に密かな衝撃を抱いていると、はたと顔を上げた利守は「そういえば先生は?」と問うてくる。
「先生は、って?」
「先生の恋愛遍歴ってどんな感じです?」
「利守、やめとけ」
「そうよ墨村、目に見える地雷じゃないの。こいつの顔と体格と立場でバカな女は入れ食いでしょ。爛れまくっているに違いないわ」
「君たち僕にどんな印象を抱いてるの? そんなにひどくないよ、そんなには」
「多少はそういうことをしでかしてるんですね……」
呆れたように溜息を吐く利守。彼を見て、ふと悪戯心が湧く。
「酷い言われようだけどさ、これでも初恋は美しかったんだよ。12才ぐらいの話だけど」
僕は言う。片手を広げた。
「大人の女の人だったよ。長い黒髪がざらっとした、ミステリアスな、それはキレイな人でね。利守みたいに、この人に出逢って以降はあの人が基準になっちゃったなぁ。そんじょそこらじゃ見かけない美女だったから」
「真っ当な初恋で吃驚したわ。……墨村?」
野薔薇が聴きようによってはひどい台詞を吐いたところで、彼女は利守を見た。
利守は、円らな墨色の目を瞬いていた。
「……なんか、その人。ウチの母に似てますね。特徴」
「え、何。あんたマザコンなの?」
「そういうつもりはないんだけど……マザコンも何も、僕の憶えている特徴がそれぐらいってことで……6年前に失踪したし」
「……悪かったわ」
まずい家庭環境を指摘してしまったらしい、と野薔薇が素直に謝る。良い子だ。利守は「知らなかったんだからしょうがないよ」と微笑んだ。良い子だ。
『優しい子よ。みんな。きっと、真ん中の子も優しいし、下の子もきっと優しい子になる』
いつかの彼女の言葉通りだ。
自身は微笑んだまま、彼らの遣り取りを眺めていた。頭の中では、「そりゃね、利守。まさにどんぴしゃで君のお母さんのことだからね」と呟いた。
利守。君に、少しだけ似ている人だった。
了