【呪術×結界】成長した利守が呪術高専に入学する話 作:駒由李
▼新年あけましておめでとうございます! 書き初めはこんなんでした
pixivより転載
顔のいい男に動揺しなくなったのは偏に利守に構いたおした七郎のためだ。トドメを刺したのは高専に入ってからの五条悟という存在。だから、並大抵の男の顔には動揺しない。そんな風に育ってしまった。
そんな風に育ったので、結婚相手にあまり顔を求める傾向はなかった。そもそも一緒にいて安らげる相手、として伏黒恵を望んでしまったのだからそこに顔つきがどうとか存在しなかった。この人とならば一生を共にできる。手を繋いで歩いていける。そう確信したから、利守は伏黒恵からのプロポーズに肯く以外の選択肢がなかった。
ほぼもめることもない。揉めると言えばそういうことは学生時代に全て済ませてしまった。卒業する頃には円満夫婦になってしまっており、親の許しはあっさり下りた。同時に嫁取りに来ていた五条と扇がひどく落胆するほどに。
まぁそういうわけで、婚約指輪や結婚指輪は2人で一緒にジュエリーショップに買いに行くというかわいげのない選択肢を採ったのでここでも揉めることなく、それぞれが納得のいったデザインの指環を選び。
式は新郎新婦の職場の人間と友人の多さ、新郎側の親族があまりまだ遠くへは体を動かせないことを加味され東京で行われ、晴れて夫婦となった。なお利守が家を継ぐ以上伏黒恵は墨村恵となった。
卒業後、直ぐに結婚。暮らしは穏やかで平和そのもの。順風満帆な生活だと、少なくとも利守は思った。西日本にある烏森から東京高専を頻繁に行き来する生活だが、それでも新婚生活にはさして罅は入らなかった。
入らなかったものの、所詮新婚夫婦。若い2人は体を持て余す。特に利守は、見た目のクールさに反して、このときネジが飛んでいた。
それは、偶々雪村家に婿に行った良守が、昼食の席に同席していたときだ。食後、皿を片付けようとする修史に、恵が立ち上がる。白いシャツの袖を捲った。
「あ、お義父さん。俺がやります」
「あぁ、悪いね恵くん」
「乗り遅れたな利守。……利守?」
守美子の失踪後、修史と長く時間を過ごしたのは利守だ。だから利守が後片付けを担当することが多かった。今日のところは恵に出番を取られたようだが――良守がにやにやと見ていると、ふと、利守は黙り込む。顎に手を添えていた。思案げだ。そんな利守の顔を覗き込むと、利守は、思わぬ発言をする。
「人妻……」
「は?」
「いや、あれは未亡人的か……? なんだ、僕がいるっていうのに、恵のあれはなんなんだ」
「何の話だよ」
良守が思わず突っ込むと、利守は真顔で言い放った。
「色気」
「仮に色気があると認めるとして、お前の旦那と同じ男の俺にそれを同調させないでくれよ」
「だって僕女友達少ないし、こんなことどこでもなかなか言えないし。わからない? 恵ってなんか未亡人的色気があるんだよ、『お義父さん』って呼ぶ声もなんかいやらしい。意味深に聞こえる。わかんない?」
「わかりたくもない」
「良兄冷たい! あ~~津美紀義姉さんが回復したから薄幸そうな感じは薄れたかなと思ったけど恵の色気は留まるところを知らないよ……こんな旦那怖……」
「仲が良いのは構わんのじゃがな、利守」
それまで、真向かいで茶を啜っていた繁守が溜息を吐いた。
「あまりそういう夫婦の事情を、いくら身内とはいえ、いや身内だからこそ言わないで欲しいの」
「あ、ごめんお祖父ちゃん」
「俺にも謝って」
「良兄ならいいかなって……」
「なんでだよ」
――そんな居間での会話を盗み聞きしていた修史と恵は、同時に苦笑して息を溢した。
「あの人ら何言ってんでしょうね」
「はは、僕としては君と娘が仲が良いのは良いことだと思ってるよ」
修史は、皺の目立つようになった目元を細めた。
「仲良くできるうちに、うーんと仲良くするといいよ。後悔のないぐらい」
「……はい」
――家族になるにあたって、恵は「烏森封印の経緯」を聴かされていた。そして、利守が口を噤んでいたものの重さを知った。
2人きりになったとき、恵は利守を抱き締めた。
『大丈夫だから』
利守は、安堵したように、恵に縋り付くように抱き締め返した。
結婚前のある夜のことだった。
「――はい、わかっています」
泡だらけになった皿を洗い流しながら、恵は肯いた。
居間では大舅と義兄と妻がまだ言い争っていた。
平和だな、と思う。呪術師にあるまじき平和さだ。このまま続けばいいのに、とがらにもなく思ったのだ。
恵は、幸せを望んだ。
了