【呪術×結界】成長した利守が呪術高専に入学する話 作:駒由李
pixivより転載
最近、生理が来ないなとは思った。元から月経不順気味だったからその範疇かと思ったが、どうにも体調が思わしくない。それで、ふと思いついた。マツモトヒトシで買ってきた「それ」で、調べた。結果。
自室で、スマートフォンで電話をかける。かける先は決まっていた。繋がったので、声を上げる。
「もしもし、恵?」
『もしもし、どうした利守』
「今大丈夫?」
『一段落ついたところだから大丈夫だ。何かあったか』
「陽性だった」
『妖精? フェアリー?』
「そういう小ボケは置いておいて。そっちじゃなくて、陰陽の陽」
『……つまり』
「妊娠した」
直後、何かにぶつかる音がした。何か、硬いもの。「ふしg……墨村君?!」という、恐らく伊地知の声。「大丈夫です」という、大丈夫には程遠い調子の声が聞こえてくる。やがて電話に声が近付いてきた。「あーあ画面割れた……」という声ののち、電話に恵が戻ってきた。
『妊娠?』
「そう、妊娠。言っておくけど『俺の子か?』とかテンプレなことを訊いたら帰ったら結界で引っぱたくからね」
『そんなことは言わねぇよ。そっか……そっか……』
「恵?」
何やら恵の様子がおかしい。そう思っていると、また電話から声が遠くなる。『伊地知さん』と恵が補助監督の名を呼ぶのが聞こえた。
『どうしましたか墨村君』
『俺、子どもができたみたいです』
『本当ですか! それはおめでとうございます。奥さんにもお伝えください』
「あのー、恵? 恵くん?」
何やら様子がおかしい。スマホ越しにわぁわぁと騒ぐ声が聞こえてくる。待て、そこに何人いるんだ。訊きたい声を飲み込んでいると、恵がごくいつもの落ち着いた声音で言う。
『すぐ帰る。病院にはもう行ったか』
「まだ。ただここ2、3ヶ月生理も来てなかったし確実じゃないかなって」
『わかった。一緒に産婦人科に行こう。いいか、落ち着けよ』
「落ち着いてないのは恵の方じゃない……?」
それには答えず、恵は『それじゃ』と通話を切った。
そして翌日の朝一の新幹線で恵は帰ってきて、それに驚かされつつも一緒に最寄りの産婦人科に行った。結果、3ヶ月。
ここから恵の様子はおかしくなった。
まず電話魔になった。
「もしもし、津美紀か。お前伯母さんになるぞ」
『えっどういうこと? はっ、まさか……!』
「子どもができた。烏森で生むから、津美紀は来られないようだったら写真送るから」
「もしもし、虎杖か」
『おー。どうしたの伏黒……今は墨村か。ややこしいな』
「子どもができた」
『えっ、マジ?! 男!? 女?!』
「それはさすがにまだわからない。お前のフットワークなら東京から烏森に来られるよな? 出産の時は来てくれ」
『えっ……それいいの……? 利守的にどうなんだそれ』
「もしもし、釘崎」
『あ? 何よ伏g……墨村。何か用? 下らない用事だったら直ぐ切るわよ』
「子どもができた」
『……マジで? あんたらすることしてたんだ……』
「何ならエコー写真も送る」
『要らんわ! えっでもマジで子ども……? あんたらに? うわ、おむつケーキでいい?』
「それはあとで利守に訊いておく」
その電話魔が一段落ついたところで、画面の割れたスマートフォンを酷使していた恵に、僕は思わず訊いた。
「あのさ。五条先生には連絡しないの」
「……忘れていたかった」
「一応恩人なんでしょ? 連絡したら」
連絡されることについては既に慣れてしまった。恵が渋々といった様子で着信履歴からアドレスを取り出す様を眺めながら、無意識に腹に手をやる。まだ全く膨らんでいない。しかしそこに生命があるらしい――新鮮な驚きだった。
そんな感慨に耽っていると、恵はスマホを耳にしていた。数コール。『はいはい、どうしたの恵』と相変わらず脳天気な声が聞こえる。それに対して、恵は一言。
「五条先生、ウチの妻に産休取らせてください」
『えっ、おめでた?』
「そう。おめでたです。呪術師界隈ほど妊婦の胎教によくないものはない。そういうわけで今日から墨村利守に任務を一切回さないでください」
「ちょっ、恵?!」
慌てて恵に縋り付く。自分としてはもう少し仕事をしていたいところだ。しかし恵はにべもない。
「腹の子どもに何かあったらどうする」
「ぐぅ」
「そういうわけで、ついでに俺もそのあと育休を取るんで、そこのところ五条パワーでよろしく」
『いやまぁいいけどね? 最初からそれ目的で電話かけてきたね君?! いやまぁカワイイ教え子が父親になるっていうんなら感慨深いけどさぁ……とにかく利守にはお大事にって伝えておいて。それじゃ』
電話が切れる。それに息を吐くと、しかし恵の手は止まらない。どうやらLINEでこのニュースを拡散しようとしているらしい。さすがにそれは止めに入った。
「ちょ、もういいじゃん。主要な友人知人には知らせたからそれでいいでしょ」
「けど、足りないだろ」
「なにが」
「俺らへの祝福が」
真顔でそんなことを言い放つので、自身はいい加減に「それ」を察した。
「恵」
「何だ」
「ひょっとして……相当テンション上がってない?」
すると、恵は答えた。
「ばれたか」
「ばれるよそりゃ! あそこまで一気に電話しまくってたら!」
「だって、利守」
恵は頬を掻きながら言った。
「血の繋がった家族ができるって、嬉しくないか」
「――」
――きっと、義姉の津美紀のことも大切に想っている。そうでなければあそこまで姉弟仲は良くないだろう。それでも、実母は恵を生んで早々死に、父とは物心ついた頃には離れていた。そんな恵が、「血の繋がった家族」に飢えていないわけがない。
それに気付いたとき、自身は微笑んだ。そして、恵の頭を抱える。黒いウニ頭を撫でてやりながら、自身は言った。
「そうだね。僕には理解できない感覚だ。けど、恵にそういう家族を作ってあげられるのは、嬉しいよ」
「……そうか」
きっと、これから出産まで、否、出産後まで苦労は続くだろう。それでも、この人となら一緒に耐えられる。そう思った。
なおこれらのやり取りは墨村家の居間で行われていたもので、新婚夫婦のこのやり取りを目撃させられた墨村家の人々は、「胸焼けを起こすから余所でやってくれ」と言いたい気持ちをぐっと飲み込んだ。何せ、可愛い孫娘のめでたい話だったので。
「恵似の女の子だったらいいなぁ。きっと美人になるよ」
「何言ってんだ。お前似の男だろ。文学少年になる」
了