※この作品はR-18です。

【呪術×結界】成長した利守が呪術高専に入学する話   作:駒由李

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ある呪いにかけられた高専生利守と彼に振り回される高専生ズ
pixivより転載


【呪術×結界】愛情は砂糖の味

 交流会後、虎杖と合流してから1年生4人で請け負った任務だった。

 なんでも仮想呪霊「●●」とかで、それを倒すこと自体は何てことはなかった。何なら伏黒ひとりでもよかったかも知れない。●●を玉犬が喰ってしまえばよかったので。

 そう、それは事故だった。

 「●●」が、最後ッ屁と言わんばかりに、利守に呪いをかけていったのは。

 

 そして今、利守除く1年ズは頭を抱えている。

 外で揃ってうんうん唸っている1年生たちに、声をかけたのは真希たち2年生だった。

「どうしたんだよお前ら、こんな上天気の日に。手合わせすっか?」

「それどころじゃないんです……」

 頭を抱えて伏黒が溜息を吐く。釘崎も同様だったし、虎杖は頭を振った。そして真希は気付いた。

「おい、利守はどうした。あの無駄にでかい奴は」

「その利守が問題なんですよ……」

「なんだ? お前ら任務があったよな、そこで怪我でもしたか」

「怪我ならまだよかった――」

「おい、誰か!」

 女性の声。あれは家入の声だ、と真希たちがそちらを見たとき、走ってくる影。

 利守だ。平日の昼間だというのにスウェット姿だ。その彼がなにかしら異様な雰囲気を纏っている、と真希が気付いたときには利守は彼女たちの元に駆け寄ってきていた。速い。利守はこんなに足が速かっただろうか。そう思った矢先に、伏黒が利守を捕まえた。

「おい、利守。また逃げ出したのか。医務室で大人しくしてろって言われただろ」

「うぅ、うー」

「墨村、どうどう。今俺らが対策考えてるから待ってろよ」

「うぅ……」

「……おい、利守はどうしたんだ? これ」

 唸るばかりの後輩に、真希は僅かに戦いた。常の理性的な――あるいは理性的で「あろう」とする――彼らしくない。伏黒にしがみついて歯や爪を立てんばかりの利守を見ながら虎杖や釘崎を見ると、彼らは言った。

「任務先で呪われたんです。解呪方法がわからなくて……」

「五条先生がもうすぐ帰ってくるらしいからたぶんそれで解決すると思うんだけど、墨村苦しそうで可哀想だからどうにかしてやりたいんだよな……」

「おい利守、恵が痛がってるぞ。やめてやれ」

 そうこうしているとパンダと狗巻が、伏黒に噛みつく利守を宥めようとする。頭を撫でようとしたパンダの手に、利守は噛みつこうとした。慌てて手を引っ込めるパンダ。伏黒は「どうどう」と宥める。

「利守、落ち着け。パンダ先輩の手は食べたって美味くないぞ」

「なんだか失礼な言われようだな。というか利守はマジでどうしたんだそれ」

「ツナ……」

 暴れて疲れたのだろう、利守は伏黒の腕の中で荒く息をしている。その中で、利守は呟いた。

「……い……」

「え?」

「……ひだるい……」

 利守の言葉に、真希は合点した。

「――ヒダル神。餓鬼憑きか」

 

 利守を医務室に運んだ一行は、廊下で井戸端会議をはじめる。伏黒が言った。

「祓ったのは餓鬼です。正確には仮想呪霊ですが……西日本に近かったので、ヒダル神信仰で強化されてて。それで利守が呪霊に呪いを喰らってしまって。それからずっとひだるい、ひだるい……つまりお腹が減ったって言ってるんです。でも持ち合わせのサンドイッチとかを食べさせても全然駄目で」

「墨村が西日本出身のせいか、比較的今回の呪霊に対して親和性が高かったみたいで。1級呪術師の人に祓ってもらおうとしても、根深いところで結びついちゃってるとか」

「これは五条先生を待つしかないなってなってるんだけど、できればさっさと俺たちの手でなんとかしてやりたいなぁって……でも何喰わせても腹が減ったって言うから」

「こりゃ参ったなぁ」

 1年生が口々に言う証言に、パンダも狗巻も腕を組む。真希は「ヒダル神っつったら……」と思案げに言った。

「握り飯はどうだ? 確かヒダル神って握り飯を一口でも食えばいいって聴いたが」

「真っ先に食べさせました。コンビニおにぎりでしたけど。でも駄目でした」

「うーん、呪いが籠もった食い物を食わせるとか……?」

「食い物に呪いを籠めるって難しくねぇか? 私にはよくわからんが」

「しゃけ」

 ああでもないこうでもない、と生徒たちは話し合う。そのうち種も尽きてきて、誰ともなく溜息を吐いた。

「確かに、ずっと腹が減ってる状態っていうのは苦しいだろうからなぁ。何とかしてやりたいが。あ、呪いと言えば」

 パンダは指を立てて言った。

「呪いの代わりに真心の籠もった料理を食わせるとか」

「誰が作るんだよ」

「伏黒、お前が作れば? この中で1番仲良いじゃん」

「俺が? いや、多分そういうのじゃ駄目なんじゃ……」

「うーん、近いなぁ」

「うわっ」

「五条先生?!」

 彼らの隙を突くように、五条悟が音もなく立っていた。車座状に立ち話をしていたのにいつ背後に立ったのだろう。一同の疑問を無視して、「それで利守が餓鬼憑きになったって?」と尋ねてくる。答えたのは伏黒だ。

「はい。何を食べさせても駄目で」

「食堂のご飯とかも駄目?」

「駄目でした」

「うーん。やっぱそれじゃ、こっち経由で頼むしかないかぁ」

 顎に手を添えた五条は、ポケットからスマートフォンを取り出した。目を瞬く彼らの前で素早くタップしたかと思うと、スマホを耳に当てた。数コール。

「あ、もしもしー五条悟です。はいどーも、夏ぶりですね墨村正守さん」

 「墨村正守」。出て来た単語に顔を見合わせる。虎杖だけがきょとんとしていた。

 それもそのはずである。虎杖がまだ潜伏していた頃に虎杖以外が出会った人物の名だ。

 夏、彼らは裏会の夜行を訪ねた。授業と提携事業の一環だった。そのときに、夜行の頭領で、そして利守の上の兄である正守と一同は顔見知りになったのだった。その正守に、今なぜ電話をかけるのか。彼らが見守っていると、五条は相手に見えているわけでもないのに大仰な身振り手振りをしながら通話をする。

「えぇ、お宅の利守くんが餓鬼憑きになりまして……特殊な例のようで……それであなたの上の弟さんをこちらに寄越していただきたいんですが」

「へ?」

 虎杖は思わず呆けたし、それは周りも同様だった。正守の上の弟、つまり利守の下の兄。名前だけは聞いていた。良守と言うらしい。こちらの大学の建築科に通っているとか……彼らが知識を共有したところで、五条は通話を切った。そして言う。

「さーて、ちょっと人を迎えに行ってくるから君たちは解散していいよ。御苦労様」

「え? でも」

「だいじょーぶだいじょーぶ。たぶんこれで解決するから」

 そう言って五条は玄関の方へと歩いていく。それを見送った彼らは、顔を見合わせながらも五条の言う通りに解散した。

 伏黒だけは廊下に残ったが。

 

 その伏黒が、息抜きのために外に出たのは30分後のことで。そのとき、頭上から五条が降ってきた。

 五条が降ってくるのはまぁまぁいつものことだったので驚かなかった。問題は彼が小脇に抱えている人物のことだ。知らない顔だ。ただ、既視感はあった。伏黒は、抱えられたまま顔を引き攣らせている青年を見ながら五条に言う。

「先生、どこの大学生を拉致してきたんですか」

「失敬な。招待したんだよ」

「招待って言うには乱暴だったんですけど……それで利守が大変って聴いたんですが」

 青年の言葉に伏黒は目を瞠る。もしかして彼がくだんの「良守」だろうか。そう思っていると、「そうそう」と五条は軽く言う。

「それでお兄さんに是非協力して欲しいことがありまして」

「何ですか」

 五条は言った。

「あのですね、――」

 

 ――甘い匂いがする。

 その匂いを嗅ぐと、これまで覚えていた酷い飢餓感が薄れていくようだ。今まで何を食べても腹が減って仕方なかったのに。飢えに削られたものの、僅かに残った理性が、自分が寝ているのは医務室だと理解していた。どこから甘い匂いはするのだろう。そう思いながら半ば無意識に半身を起こすと、医務室の扉が開かれた。

 そこに、次兄がいた。

「よしにい……?」

 飢餓で足りなくなった舌で彼を呼ぶ。空腹による幻だろうか。そこまで次兄を想い慕っているつもりもないが。どちらかといえばなぜ高専に良守がいるのだろうと思う。しかしそれよりも、彼が持っている皿に注目した。

 お菓子だ。同じものが山のように積まれている。

 自身が目を瞬いていると、良守は静かにこちらに歩いてきた。そして自身の前に皿を差し出す。

「お前、腹減ってるんだってな」

 良守は微笑んだ。

「たくさん喰えよ。俺、今日はお前のためにいっぱい作ってやるから」

 そう言われ、おずおずと皿の上に手を伸ばす。

 食べると、甘味が口の中に瞬く間に広がった。

 飢えが、満たされた。

 途端に、目頭が熱くなる。菓子を片手に目を擦ると、頭に軽い感触がする。

 皿を片手の良守に、頭を撫でられていた。

「よしよし、まだあるからな」

 もう、幼い子どもではないのに。菓子を食べる度に涙が溢れ、撫でられる度になにかが浄化される気がした。

 あの永遠にも等しい飢餓感がなくなったと気付いたのは、数分後のことだ。

 

 その光景を、伏黒たちが僅かに開いたままの扉の隙間から覗いていた。

 彼らは利守の下の兄――良守が量産した菓子を食べながら、ひそひそと耳打ちし合う。

「利守もかわいいところあるなぁ」

「しゃけ」

「言ってやらないでくださいよ。利守は呪いのせいで弱ってたんですから」

「まぁ事故みたいなもんだしね」

「ところでさ」

 その中で虎杖は言った。

「メチャクチャ美味いな。良守さんの作った今川焼き」

「カスタードクリームが沁みるわ~」

「フライパンで作れるもんなんだな」

「君たち、行儀が悪いからせめて座って食べなさい」

 様子を見に来た五条が呆れて窘めた。

 

 この後、この日は良守は男子寮の空室に泊まり、今川焼きの他にドーナツやシュークリーム、クッキーなどを大量生産していき、しばらく高専生の菓子に困らない生活を送らせた。快復した利守はそれを食べながら「まぁいつもの良兄の味だね」と言ったが、泣きながら今川焼きを食べている姿の画像を狗巻にスマホで見せられ「消してください!!!!」と怒鳴ることになる。

 

 

 

 

了

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