【呪術×結界】成長した利守が呪術高専に入学する話 作:駒由李
▼でっかいトラブルがあって正守から「帰ってこい」って言われるのは青/エ/クコラボのときと一緒ですね あの話と違うのはこちらのトラブルは規模が少々デカすぎるのと、呪専に忍び込んでる夜行の面子はいないっていう点ですね
pixivより転載
忙しくて見ていなかったスマートフォン。電池が切れていたので充電してから電源を起こすと、不在着信とLINEとメールのどれもが通知を逼迫していた。何分の1かは父や次兄、それに僕が東京に進学したのを知っている中学までの友人たち。しかし1番比率を占めていたのは長兄だった。
折り返して連絡すると、無事を確かめられたのち、彼は言った。
『帰ってこい』
それは言外に「呪術師側に恩も義理もない」ということを示していた。確かにそうだと思う。ただ僕がこれからの墨村家のために呪術師に転向し、墨村家を呪術師の家系にしようと図った、それだけのことだ。
それだけのことだけども。
「断る。僕は今は呪術高専の生徒で、彼らの仲間だからね」
返事を聴く前に通話を切る。それでも、もう着信は来なかった。代わりにLINEの通知があって、東京以外の近況について軽く説明されていた。
それを流し見したときに、階段を降りてくる音がした。隣に立っていた真希が顔を上げる。
「久しぶり…って訳でもねぇか」
「……真希先輩!?」
この声は虎杖だ。どうやら乙骨は無事に彼を「殺して」来たらしい。声がひっくり返っているのは真希の姿を見たためだろう。どう見ても満身創痍だ。自分も最初見たときは驚いたものだ。よく生きていたなと。ソファに陣取った九十九が虎杖に手を振る。挨拶に駆け寄っていく彼らを見届けたのち、乙骨が真希に歩み寄った。
「真希さん!! もう動いていいの?」
「応、問題ねぇ」
「火傷は仕方ないさ」
九十九が口をはさむ。
「反転術式でも跡は残る。でも流石は天与呪縛のフィジカルギフテッド。最後の最期で呪いへの耐性ではなく生来の肉体の強度が生死を分けた。当主のことは残念だったね」
「別に競ってたわけじゃないっスよ」
そういう真希はどこか恐縮している様子だった。それを切り替えるように、恵たちの方に水を向けた。
「恵。天元様の結界の話は」
「それは……」
「俺から話そう」
(誰だろう)
そう言えば見知らぬ人物がひとり増えていた。ミソッカスだが持ち前の空間支配能力で、この空間に「異物」がいるのがわかる。それがこの男だろう。しかし少々ファッションは変わっているものの、見た目は普通の人間だ。僕が戸惑っていると、男は構わず語りだす。
「扉から薨星宮の途中には、高専が呪具や呪物を保管している“忌庫”があるな」
「そうなんだ……」
僕は空気を読まず呟く。知らなかったから仕方ない。男は構わず続けた。
「忌庫には俺の弟達。膿爛相・青瘀相・噉相・散相・骨相・焼相の亡骸が在る。亡骸でも6人も揃えば俺の術式の副次的効果で気配くらい分かるハズだ」
「Good!!」
九十九がやたら良い発音で褒めた。それはいい。それはいいのだが。
僕には気になることがあった。まず代弁してくれたのは真希だった。
「それはいいとして、コイツは誰だ」
「そうだよ、それにそれらって確か呪胎九相図じゃ……」
「……」
全員が黙り込んだ。
「何とか言いなよ……」
僕が呆れていると、虎杖が俯き加減に言った。
「とりあえあず俺の……兄貴ってことで……」
その瞬間、男が目を瞠った。
「悠仁――!!!!」
「行こう」
感極まった様子で叫ぶ彼を置いて、僕たちは地下室を出た。
入り組んだ高専の内部。そこを、男――脹相というらしいは迷いなく「それ」を引き当てた。
「あれだ」
見ただけでは、なんてことはない蔵の扉に見える。しかし脹相は迷いなく言った。
「間違いない。この先に弟達が眠っている。……開けるぞ」
脹相と虎杖が慎重に扉を開く。
中には枯れ木が聳えていた。
奥はどうやら外なのだろうか? 木々が生えている。そして手前に、大きな倉庫のようなものがあった。
「ここがそうか……――」
「利守、どうした」
恵に声をかけられる。軽くよろけた身体、たたらを踏む。なんだろう、と自分でも思う。
「多分軽いめまい……だと思う」
「気を付けたまえよ、利守くん」
九十九が声をかけてくる。
「君は結界師の家系……空間支配能力者だ。ここから先は異空間。君は一際敏感な質のようだから、十分気を付けたまえ。……天元が気を使ってくれると思うがね。さて、降りよう。奥に薨星宮へと続く昇降機があるんだ」
「そうですか……」
まだふらつく頭を抱えながら、僕は彼らの後をついていく。後方で脹相と虎杖が何かしら会話をしていたが、今はとりあえず気にしないことにした。
昇降機で降りた先。そこは意外と小ぎれいだったが、目につくものがある。
「血痕……?」
「何かあったのかな」
無視できない量の血だ。ひとりの人間がこの面積の血を出したとしたら生きてはいまい。ここで何があったのだろう。そう思っていると、九十九が言う。どこか遠い目をして。
「12年も前の話さ。……今思えば、全ての歪みは、あの時始まったのかもしれない」
「?」
2年の先輩たちと共に僕も首を傾げた。ここで一体どんな凄惨な事件があったのだろう。このときの僕は、何も知らなかった。
歩いていくと、目指す先にトンネルがある。向こうは真っ暗闇だ。
「さぁ皆、本殿はこの先だよ」
そして素直に従った。
それが間違いだったのかもしれない。少なくとも僕にとっては。
「――おぇっぷ」
「おい、利守。……これが本殿?」
「墨村大丈夫か? なんもねぇけど……」
「いや、私達を拒絶しているのさ。そこの利守くんはその『拒絶』に中てられたみたいだね。しゃがんでいたまえ。……天元は現に干渉しないが、六眼を封印された今なら接触が可能だと踏んだんだが、見通しが甘かった」
「――?」
僕は猛烈な吐き気に襲われながらも、九十九の思案しているところに気付く。あれは何か隠しているだろう、ごくささやかなことでも。
しかし今はそれどころではない。先を急ぐのだ。実際恵が焦って黙っている。
「戻ろうか」
乙骨が言う。
「津美紀さんには時間がない」
それに一同が頷きかけた、そのとき。
僕は「それ」を見た。
「帰るのか?」
僕以外も、「それ」を見た。
それは、人型ではあった。しかし、頭の形、目の数が尋常な生き物でないことを示している。何より、この威圧。
腕組をした、男のような「なにか」は言った。
「初めまして」
そして僕たちを見渡す。
「禪院の子、道真の血、間の末。呪胎九相図。そして宿儺の器」
――僕はこのとき、敢えて空気を読まなかった。重要案件が待ち構えているのはわかる。それでも黙っていられなかったのだ。
「あの、初対面でなんですけど」
「おい利守」
「僕のこと『間の末』と呼ぶのはやめていただけますか」
「ほう、なぜだ」
推定天元は寧ろ愉快そうだ。それに構わず、僕は言う。
「確かにあの男は僕の家の術の開祖だ。けれど、僕はあの男を今は認めていない。だから、呼ぶなら墨村の子と呼んで欲しい」
「そうか。わかった。なら墨村の子よ。意地を張るのはよしたらどうだ? 結界師のお前にはこの空間はきつかろう」
「痩せ我慢は慣れているから。それから、続きをどうぞ」
「あ? あぁ……天元。私には挨拶もなしかい?」
九十九がペースを取り戻して話をしはじめる。そのあとから僕は吐き気と目眩を堪えるのに必死で会話にはろくに参加できなかった。結界術がどうとか重要なことを言っていた気がするが、所詮自身は結界師としてはミソッカスだから精々こういう風に鉱山のカナリアのように空間異常を察知することぐらいしかできないだろう。そう思いながらとりあえず自分は伏黒や虎杖と行動を共にすることになった。
話はそのあとのことだった。
「利守」
「あん?」
とりあえず一休みしよう、ということで寮に戻ってきた。虎杖は既に眠っているだろう。自身も急いでシャワーを浴び終えベッドに入るところだった。そこにやってきた恵に僕は首を傾げる。
「何かあった?」
「何かあったっつーか……気になることがあって。大したことじゃねぇんだがな」
そう言って恵は頭を掻いた。扉を開けたまま。
「『間の末』って言われたとき、すっげぇ拒否してたよな。間って、お前の家の術式の開祖だろ。なんかあったのか」
それはいつもの恵ならば訊かなかったことだろう。彼なりに身内の危機でテンパっているに違いない。そう思いながらも、僕は答えた。ぼやかすしかない答えを。
「そうだね」
僕はベッドの上で言った。
「僕たち間流結界師の家々の不幸は、あの男のせいだからね。あの男がいなければ、誰も傷つかないはずだったんだ」
僕としてはこれでもサービスして答えたつもりだ。
そして恵は、わかったのかわかっていないのか、「そうか」と答えた。
「お前も大変だったんだな」
「禪院家の当主になったお前に比べれば、僕個人のことぐらい平気だよ。――それじゃ、おやすみなさい」
「あぁ。おやすみ」
恵は扉を閉める。
「良い夢を」
それは小さな祈りだった。
了