【呪術×結界】成長した利守が呪術高専に入学する話 作:駒由李
▼綺羅羅先輩の術式に頭を抱えた典型的文系です。学生時代、星座早見盤は見てもさっぱりわかりませんでした 理数に関わるものほぼ全滅(生物だけは例外的に赤点は回避してた)(化学は周期表を憶える小テストを何度も追試受けました)(地学はやらなかったけど多分赤点だった)
pixivより転載
死滅回游の平定のために、戦力が必要だ。そのためにも秤金次の力が欲しい。
そういう話になった結果、天元が教えてくれた。
「秤金次は今、栃木県の立体駐車場跡地で賭け試合の胴元をして金を稼いでいる」
「またダーティな……」
「賭け試合?」
僕がぼやく中、虎杖が首を傾げる。天元は答えた。
「術師同士の殴り合いだ」
「それって客は……」
恵が顔を引きつらせる。僕も嫌な予感がした。だが天元は無情だった。
「基本的に非術師だな」
「おもっ切り呪術規定8条の『秘密』に抵触してるじゃないですか」
「あ、そんなんあるんだ」
「利守くん? ひょっとして呪術規定をまだ把握してなかったのかい?」
「そんなことはははははは」
九十九につっこまれ恵に白い目で見られたが、僕は笑ってごまかした。言えない。「とりあえず一般人に見られないようにすればいいんだよね?」ぐらいの感覚で過ごしてきたなど。烏森の番人の端くれとして幼少を過ごした身としてはそれで構わないと思っていたなど。そう言えばテストに呪術規定に関する設問が出た気がするが赤点を取った覚えもないので。
そんな僕らのやり取りに一切合切構わず、天元は忠告してくれた。
「賭け試合の参加者の中には呪詛師もいるだろう。用心していきなさい」
――というやり取りを経て、現在、栃木県某所。
僕は着替えながらぶすくれていた。
「何で僕は立ち入りも駄目なのさ」
くだんの賭け試合が行われているという立体駐車場が見える。
僕も結界術がみそっかすな以上体術には磨きをかけてきたからその辺りの術師には負けないつもりだ。だから賭け試合に潜入する要員として随行したつもりだったのに。
虎杖は僕と恵を困ったように交互に見ていた。着替え終えた恵が、にべもなく言う。
「お前は目立つ」
「目立った方がいいんじゃないのかな」
「この際言えば悪目立ちだ。こういう『ウラ』だとな」
「えぇ?」
「あー……わかる。確かに墨村は目立つな」
「虎杖まで?」
目立つとは心外だ。こちとら「地味可愛い」で通って来た地味面なんだぞ。頬を膨らませる僕に、「そういうところが駄目だ」と言われてしまう。
恵はごく真顔で言い放った。
「お前は品が良すぎる」
「……えっ」
「大事に育てられてきて殺伐とした世界に全然触れずに育ってきた感が滲み出てる。要は育ちが良すぎるんだお前は」
「えっ」
「そういうわけだからとりあえず俺と虎杖で探ってみる。利守、お前は俺が戻ってくるまでここで待機な。虎杖、行くぞ」
「お、おぉ……ごめんな墨村……」
恵に先導されて虎杖が歩いて行った。ひとりぽつんと置いて行かれた先で、僕は呟いた。
「品が良いとか、生まれて初めて言われた台詞なんだけど……」
さて、目論見は大体うまくいったらしい。戻って来た恵によると、好都合なことにこの中で1番戦闘に向いている虎杖が選手として選出されたらしい。
「監視カメラでもあった?」
「正解。たぶんそこで俺は信用ならないと思われたんだろうな。まぁここまでは想定内。虎杖には中から探ってもらう。俺たちは外からだな。利守、お前は『階段』で頼む」
「はいはい、どーせ品の良い僕はこういうことは似合いませんよ」
僕は若干やさぐれていた。品が良い、という言葉が今回に限り褒められた気が全くしない。唇を尖らせている僕に、何を思ったか、恵は僕の頭に手を載せた。軽く叩く。僕の方が背が高いからかなり無理してそうだけど。そして恵は言った。
「いつかお前の、見るからに愛されて育った感じの人材が必要なときが来るさ」
「いつ来るだろうなぁ……」
そしてそれどころではなくなったのは、夜陰に乗じて僕が結界術で張り出した階段を上り詰めたとき。丁度パンダと恵に合流できたとき。ある程度の情報共有はしていた。
それでも、実際に彼――彼女? と接敵したときの衝撃は免れなかった。パンダの様子だとあの綺羅羅という人物が、モニタールームの前で警備を敷いていたのは想定外だったらしい。そこから戦闘がはじまった。
はじまったのはよかった。問題は――
「利守! 何ぼさっとしてんだ!」
「あぁいや、その」
バトルがはじまって、すぐに起きた「接触事故」。それを見て、それから空間の齟齬を感じ取って。
それで答えが口をついて出た。
「星座、だと思う」
「は?!」
「だから星座なんだって。なんていうか……南十字星?」
「!」
僕の一言で綺羅羅の顔色が変わる。それであぁやはり、と得心した。
しかしそれが限界だった。僕は頭を抱える。恵とパンダに声をかけられるが、僕はやけっぱちに結界術を展開することしかできなかった。
「答えはわかるんだけど数式がわからない状態なんだよ! 恵! こういうの推理して理論立てて答えを出すの得意だよね! 後は任せた!」
「はぁ?!」
「利守お前……」
恵が声を荒げ、パンダが呆れる。それでも、今の僕にはこれが限界だった。
結果として恵は僕の思惑通りに推論を導き出して綺羅羅を拿捕した。その後彼……彼女の体を解放しすぐさま土下座をした恵はさすがだな、と思う。
そのあと虎杖が結果として秤の説得の成功。交渉の場に移ったのだが――
「お前本当に呪術師か? 見た目そこらのボンボンだろ」
「正直私もそう思った」
「あなた方にまで言われる~……」
僕は項垂れた。五条の封印と、こちらは知らなかったが夜蛾の死。それらがもたらした情報も重かったが、僕にとってはその2人の言葉が屈辱だった。それでも綺羅羅が言う。
「でも私の術式を一目で看破してたよね。そういう術式持ち?」
「あー、結界師の家系なもので……空間の異常には敏感に察知できるんですよね」
「――待て。結界師だって? あちらは裏会の分野じゃ」
「その裏会に派遣されて来た、間流結界師の跡継ぎです僕は。上の兄は裏会で幹部やってますね」
嘘ではないが完全な本当のことを言わなかった。先ほど恵が言っていたことをまねたつもりだ。有利な情報は利用するに限る。
外部からの、それなりの規模の団体。その幹部ともなれば組織を動かす力があるだろう。そして呪術師上層部を動かす力になるかも知れない――
がし、と利守の手を握られた。利守が動揺する中、秤は言う。キラキラした目で。
「髪サラサラくん」
「墨村です」
「墨村くん!」
秤は笑った。下手をすると先程恵に向けたものより打算に満ちた笑顔だった。
「これからよろしくね♡」
「はぁ……」
「よし、後は各々が出向く
パンダが言う。虎杖がしゃがんで痛めた脚を伸ばしている中、パンダは重ねて言いながら首を傾げた。
「憂太は宮城だっけ――」
刹那、異形の端末が空中に浮かぶ。それがけたたましい鐘の音を鳴らした。
「泳者による死滅回游へのルール追加が行われました!! <総則>9、泳者は他泳者への情報――“名前”“得点”“ルール追加階数”“滞留結界”――を参照できる」
それで、いよいよはじまったのだ。我知らず、僕は身を震わせた。武者震いだと思いたかった。
了