【呪術×結界】成長した利守が呪術高専に入学する話 作:駒由李
▼虎杖や伏黒と共に死滅回游に参戦した利守だったが……
pixivより転載
結界の中に入った途端、利守は強烈な「違和感」を覚えた。けれどそれを虎杖たちに忠告しようにも遅く――利守は結界内部上空に放り出されていた。
「やっば」
咄嗟に結界を展開する。クッション状のそれは利守を柔らかく受け止めた。それから、なんとか体を起こす。上空は晩秋なのもあるだろう、風が強く冷たい。寒さに強い呪術高専の制服に感謝しながら、利守は結界を斜め下に展開しながらその内部で滑り降りた。地上を目指すだいぶ大規模な滑り台だ。階段状にしてもいいしそちらの方がいざというとき動きが取れるだろうが、この上空から階段を降りる体力を考えると消耗を避けたかった。つるつると尻で滑っていきながら、利守は考える。
総則にはなかったが、恐らく最初から参加者はばらけさせられる仕組みだったのだろう。考えてみれば妥当だ。徒党を組んで得点を狙われると「人類を次のステージに進める」とやらの純粋性が損なわれる。もしかしたらもっと違う目的があるかも知れないが……。利守は自分は虎杖や伏黒のサポートに徹するつもりだったので少々計算違いだった。恐らくそれは彼らも同様だろう。結界術で足場を作り、盾を作り、攻撃する。多少呪力面でスタミナが心許ないがそれでも3人で攻撃すればまず敵はなかったはずだ。
(まぁ、どうとでもなるか。相手は呪霊じゃないんだし)
地上に降り立った頃にはそんな結論をつけていた。
『<総則>10 泳者は他泳者に任意の得点を譲渡することができる』
利守が会敵したのは、そんなアナウンスが大声で入ったとき。まるで人気のない道端で、その男は現れた。
「泳者か」
高そうなスーツを着た男だった。年の頃は30代から40代か……どこかで見た気もしたが利守が思い出せずにいた前で、男は嗤う。
「随分な子どもだな。もっとも陰陽師……もとい呪術師に年は関係ないが」
「敵だね」
言いながら利守は身構える。男――敵は何やら実体の持ったものを引き連れている。獣の臭いもした。人型のようだが……。
(人型なら)
利守が見つめる前で、男は悠々と手を広げた。
「しかし死滅回游とは素晴らしいシステムだ。私が20年の石化……もとい眠りから目覚めたあとにこんな催しがされるとはね。ここで力をつけて、行く行くはあの魔女に報復しよう」
(あの魔女って誰だ)
自ら望んで入ってくる泳者にろくなものはいない(自分たちも含む)と考えていたが、独り言を続ける男も極めつけのようだ。そう思っていると、利守の前で男は引き連れていた「それら」をこちらに向けて来た。
「記念すべき50点目は、名も知らぬ泳者よ。貴様だ」
「その前にひとつ訊きたいんだけど」
人型のそれらが襲撃をかけてくる――前に利守は声を上げた。「あ?」と間抜けた声を出す相手に利守は問う。
「50点目、ってことは、あんたは日車じゃないんだね?」
「ヒグルマとは誰だ」
「なるほど。わかった。有難う」
言いながら利守は指を立てた。
「もういいよ」
そして、指をスライドさせた。
その途端――利守に向かってきていた「それら」の首を、板状の結界が刎ねた。
『――!!』
黒板を引っ掻くような不快な音。恐らくそれは断末魔だった。ぼたぼたと血を流しながら倒れ伏していくそれら――受肉した式神だったのだろうか。そんなことを思いながら、懐から取り出した3本の束と聖書。それらから黒鍵を精製した。1秒とかからない。そして、黒鍵を男に向かって投げつけた。
「――!!」
鉄甲作用。それが生じて男の体が吹っ飛ぶ。本来吸血鬼と呼ばれる受肉した精霊種に使われるべき武器だが、利守は呪霊の他、人間相手にも使う。端的に彼にとって有用な武器だったからだ。教わってほんの数か月だが、利守にはどうやらこちらの素養があったらしい。既に使いこなして久しかった。
利守はつかつかと男の元へと歩み寄る。男は吹っ飛ばされた体が建物にぶつかって倒れていた。高そうなスーツが砂埃まみれで、恐らく骨が折れている。多少手抜きはしたが手加減はしなかった。男はアスファルトの上に消化しかかった吐瀉物の上から黒い血を吐き出してたので内臓にもダメージが入ったな、と理解する。理解した上で、血を流した男の頭を結界で覆う。男は目を瞠った。恐らく自分が命を握られたことを理解したのだろう。そしてそれはほぼ正解だった。幼い頃の利守ならともかく、今の利守なら妖や幽霊、呪霊が相手でなくとも、肉の器を持った相手にダメージは与えられる。そしてそれが頭部ならば……。
利守は冷然と見下ろす。そして言った。
「さっき追加されたルールは聞いたよね」
「……」
「沈黙は肯定と見做す。それでどうする? 僕に今までの得点を全て渡すのと、死ぬの。どちらにする?」
「全てだと……!」
「殺してもいいんだけど」
指を示す。それで男はぐっと詰まり――迷った様子を見せたのち、頷いた。
「……お前の名前は」
「墨村」
「間流か……?」
「どうでもいいでしょ。ほら、早く」
「……シロガネ。墨村に私の全得点を」
『かしこまりました。七条熙寧から全得点を墨村利守に譲渡されました』
アナウンスがされる。しちじょうひろやす。どこかで聞いた気がする。そう思いながらも、利守は結界を解いてやった。ゆらりと立ち上がる男――七条に「それじゃ気を付けてね」と利守は背中を向けた。2、3歩歩いたところで物音がした。
「油断したなァ!」
「そう来ると思った」
激しい殺気が向けられた、ので振り返った。その手は結界術の構え。
男は何かを展開しようとしていた、らしい。その際には、利守は既に彼の首を刎ねていた。
ゴロゴロと地面に転がる生首。泣き別れの体からは血が噴き出している。転がった顔は醜悪に歪んだままだった。恐らくなぜ自分が死んだかもわからなかっただろう。それを、利守は平然と見下ろしていた。
『5点が追加されました』
アナウンスを聞きながら、利守はふと思い出す。
術師を――異能者を殺すのはこれがはじめてではない。中学に上がって、裏会の仕事を手伝うようになった頃。時折依頼されることがあった。それは正守の与り知らぬことだった。まだ黒鍵を知らない頃だったが、利守の板状に結界を研ぎ澄まし首を刎ねる技は暗殺に用いることが容易かった。だから、殺した。戸惑いはなかった。戸惑いがなかった自分に戸惑ったものだった。頼まれたことだから、必要だったから、殺した。
――それは丁度、何をしても心が動かなかった、と称していた母と同じだったと言うことは利守は知らない。
ただ、生首を見下ろして利守は言った。
「僕はね、七条さんとやら。まだ呪霊を相手取るのは難しい三流呪術師だけど」
指を構えた。
「
指を振り下ろす。念のために、結界術で頭を潰した。呪術師は呪力で殺さないと呪霊になるらしいので。
跳ねて来た血と脳漿。顔にかかったそれを手の甲で拭いながら、今度こそ利守は背中を向けた。
(そう言えば、高専に入ってからはそういう依頼はされなくなったな)
そんなことを、思った。虎杖たちはどこにいるのだろうと考えながら。
了