【呪術×結界】成長した利守が呪術高専に入学する話 作:駒由李
pixivより転載
何が起きたかわからなかった。
唯一わかったのは、「伏黒恵」はもう駄目だろうと言うことだった。――虎杖が規格外だったのだ。
だから、襲い掛かった。虎杖や、駆け付けた真希と共に。
――そのときの違和感に、気付いたのは僕だけではなかった。
「くそっ……!」
――宿儺と化した恵が去ったあと。虎杖は悲壮だった。それはそうだろう。こんな事態は――表に出て来た宿儺が自分の指を恵に食わせるとは――誰も思わなかったのだ。恐らく五条でさえ埒外だろう。発想では1000年前の呪術師の方が上だった。僕はまだ呆然としている自身に喝を入れたかったが、いかんせん友人が化け物にされてしまったという事実に打ちのめされていた。それでもなんとか、僕はぽつりと口にする。真希に対してだ。
「……真希先輩。なんか、宿儺に乗っ取られた恵……僕たちに対して弱くありませんでしたか」
「お前も気付いたか。多分、宿主の恵が抵抗してる。私らが付け入る隙があるとすればそこだ。しかも、できるだけ早急に」
真希の言葉に、虎杖がゆっくりとこちらを見る。この上なく絶望に近い色の目をしていた。そんな彼の前で言うのは気が引けたが、僕は彼女の言葉に頷いた。
「ええ。伏黒津美紀さんの体を壊されるまでに。――恐らく、恵の精神を徹底的に沈めるためにそうするでしょう。宿儺はただでさえ悪趣味だ。恵の体を完全に自分のものにするためにも、やりかねない」
「それで、これは言いたかないんだがな。利守」
真希は、僕の目を見て言った。
「恵を殺すのは、お前がやれ」
「――」
「先輩?!」
僕は言葉が出なかった。虎杖が悲痛な声を上げる。彼の気持ちはわかる。そういったことは自分がやる、そう思っているのだろう。虎杖のそういった他人本位さはなにで培われたのかは詳しくは知らない。それはいい、よくはないがいい。そして真希の言いたいこともわかっていた。十二分にわかっていた。
戦っていたことに気付いたことだ。僕の板状に研ぎ澄ました結界――虎杖の体を使っていたときの宿儺ならば容易く砕いただろうそれは、恵の頸動脈を確かに切っていたのだ。反転術式ですぐに治されてしまったが。
真希は腕組みをして言う。
「見たところ、私たちの中で1番攻撃が通っていたのは利守。お前だ。この面子の中で、恵が最も攻撃したくないんだろう。――殺されるとしたら、あいつにとってお前が1番いいんだろうな」
「――」
「墨村」
僕はどんな顔をしていたのだろう。先程まで悲壮な顔をしていた虎杖が、気遣わしげに僕の顔を覗き込んでいる。僕は、僕はと言えば。
中学時代の、裏会からの密かな暗殺依頼を受け続けた日々を思い出していた。
――僕は、頷いた。そして、自嘲する。
「どこかで聞いた台詞なんですが……『堕ちる地獄がひとつじゃ足りないのか』って。今の事態を言うんですね」
僕の自嘲を、真希と虎杖は黙って受け止めた。
(そう言えば、五条先生も親友を殺したんだっけ)
僕は、親友と言っていい同級生の血に塗れる近い将来を想像して、思い出した。
五条はどういう気持ちだったのだろう。ああ、彼がいてくれたら本当によかったのに。僕は、埒もないことを考えた。
了