【呪術×結界】成長した利守が呪術高専に入学する話 作:駒由李
▼タイトルと最後のシチュはハチクロのあれです
pixivより転載
僕と恵は友人だ。少なくとも僕はそう思っているし、恵もそう思っているだろう。
ただ、その境界がぶれたことがある。
「恵ー、本読ませて」
「またか」
そんなやり取りをした。いつも通りのこと。呪術高専に入ってからは繰り返されたこと。そんなある日のことだ。あれは、虎杖がまだ「死んだ」ことになっていたときだ。
僕はスウェット姿で、恵から借りた本を恵のベッドの上で読んでいた。当たり前だが恵の匂いがする。恵はベッドに寄りかかって床に座っていて、彼も僕と同じように本を読んでいた。けれど、そのとき何かを思い出したらしい。
「あ」
と、恵は呟いて急に立ち上がった。なんだろうと思って見上げたところで、恵が倒れ込んできた。――自分のズボンの裾に爪先が引っかかったらしい。それなりに体重のある高校生男子が落ちて来たものだから、僕の口からは蛙を轢いたような声が出た。
そのまま沈黙が落ちる。僕が咄嗟に放りだした本がどこに行ったか確かめようとしたとき、不意に気付いた。
恵の顔が近い。倒れたときに覆い被さる形になったのだ。
恵は、僕を見ていた。僕も、思わず恵を見つめた。それから、目を瞑った。
――唇に、乾いた感触。
それから、舌が口腔に入って来た。僕はぼんやりとそれを受け入れた。ごそごそとトレーナーの裾から手を這われて、僕は恵の匂いのするベッドの中、恵に――
『シャケ! シャケ! ツナ!!』
『だよなぁ』
――不意に、廊下から2年生の声が届いた。
はたと体温が離れた。それが名残惜しい気がした。名残惜しさの理由を確かめる前に、目を開けると、恵が僕の上に跨ったまま口元を拭っている。
「わ、悪い」
恐らくそれはバツの悪さの発露だろう。僕はと言えば、やはりぼんやりとしたまま、諸手で迎えた。
「いいよ」
僕の言葉の意図を、どうやら正確に察したらしい。恵はしばし逡巡したのち、そのまま僕に覆い被さった。
――この日の出来事は、翌日からはなかったことになった。僕たちは友人なのだから、と。
ただ、恵の匂いは鼻から離れなかった。
『伏黒恵め』
はっ、と目を覚ます。そこは布団でもベッドでもなかった。冷たい床。僕は息を切らせる。
夢だ。夢だったのだ、すべて。僕は寝起きで混乱する頭の中、僕の手を握る温かな感触に気付く。僕は安堵した。
きっと、この温かい手は恵の手だ。彼の手は存外温かいのだ。僕は寝ぼけたまま口走る。
「よかった。怖い夢見てたんだ。恵……お前を殺さないといけなくなるなんて……よかった。傍にいてくれ、て……」
僕は気付いた。僕の顔を覗き込んで、手を握ってくれていたのは、虎杖だった。僕の視界がみるみるうちに開けていく。そこは廃屋で、焚火の向こうでは真希が眠っている。
夢ではなかった。何もかも。
自分の心が、潰れる音がした。
了