【呪術×結界】成長した利守が呪術高専に入学する話 作:駒由李
pixivより転載
……宿儺が消え、残された虎杖。彼は深く深く溜息を吐いた。
そして、それから上着を脱いだ。
宿儺から分離し、仰向けに倒れている上半身裸の伏黒に着せるためだ。
「伏黒」
「──……み!」
「?」
彼を呼んだところで、声が降って来る。
虎杖がそちらを向くと、空から急速に近づいてくる影。一瞬残存勢力か何かかと思ったが、殺気がない。
そして何より、近づいてくる影は見知った者だった。
彼は「足場」から飛び降りると、結界をクッションにして降り立つ。
それから伏黒の前に膝を突いた。
「恵! 恵、生きてる!?」
それは、墨村利守その人だった。向こうの宙では彼の足場だったモノが浮いている。虎杖は今にも膝を突きたいのを堪えながら、利守を宥める。利守の傍には一羽の墨色の鷹がいた。
「墨村、落ち着けって。お前がこうして飛び込んできたってことは、もう全部落ち着いたんだな?」
「落ち着いた! だから来た! あ、虎杖、上着寄越して」
さて。此度の最終決戦で利守が課せられた任務があった。
それは「足場作成、及び空間支配能力で戦況を確認し、誰もが駄目だったら彼が真界で宿儺を滅すること」だった。
利守は正守からの突貫の修行で、急ごしらえの端末を作った。それがこの墨色の鷹である。簡単に言うと正守の夜姫であり、良守のしぐまだった。それで広い戦況の確認に勤しんだ。
彼の「足場」は、唯一裏会が寄越せた支援の蜈蚣の虫だった。とは言っても桜島コロニーによる死滅回游もあり、寄越せたのはひとり分。また慣れない者はこの足場を使いこなせないため、結局利守が使うことになった。どちらにせよ彼には新宿中を駆け回ってもらわなければならなかったので丁度いい話だったのだが。
──真界も、突貫の修行によるものだ。
8月の裏会との「交流会」の際に正守にそれを示された利守が、こっそり修行を重ねていたものだ。そして、新宿決戦の時点で、対象に抱きつきさえすれば宿儺を滅せられるものとなっていた。
しかしそれは、無理心中と同義だった。だから、誰もが利守にさせたがらなかった。明らかに自殺行為とわかっていて、それをさせたがる者はいなかったのだ。
結果としてこうして最後に虎杖が宿儺を倒し、利守の真界が発動されることはなかった。文字通りの最終兵器は、兵器として発動することなく、今こうして伏黒に泣きついている。虎杖は上着を渡しながら、その事実に安堵していた。
利守の真界発動を大人しく受け入れた宿儺ではなかろう。確実に利守は死に至らしめられたはずだ。それで助かっても、利守の生存による伏黒の魂が沈み切っていなかった事実が拉げてしまう。伏黒は生きた屍となっただろう。
利守はそうこうしている間に落ち着きを取り戻してきたらしい。伏黒の呼吸と脈を確認すると、嘆息した。
「……息はある、脈拍も正常。ただ失神してるだけみたいだ」
「そうか。……早く硝子さんに診せることにしよう。墨村、ごくろーさん」
「虎杖こそ」
そう言いながら、利守は伏黒を左肩に抱え上げる。180㎝以上の身長と修行の賜物か、軽々としたものだった。それから、虎杖に右腕を示す。
「ん」
「『ん』?」
「虎杖のことも抱えて降りようか。もうくったくたでしょ」
「いや、俺は意識があるからいい」
「意識失いそうなくせに」
「……まぁ、否定はしない」
そう言って、虎杖は利守の肩に額を持たれる。それでも微動だにしない利守に「大きくなったなぁ」などと場違いなことを考えた。
利守は言う。
「草臥れたねぇ」
「しかもこれからやること山積みだ」
「嫌になるねぇ」
「でも、俺らは生きてる」
「……うん」
頷きつつ、利守は虎杖も抱え上げた。ぐぇ、と小さく呻く虎杖。
「肩が腹に」
「我慢して。さ、帰ろうか」
そう言って、利守は歩き出すのだった。
──なお、利守が飛び乗ろうとした虫はひとり分仕様だったため、2人の男を抱えた利守は重量オーバーになり虫がゆるゆると沈んでいったのは無理からぬことだった。
「ちょちょちょ沈んでる沈んでる」
「蜈蚣さーんっ!!」
了