【呪術×結界】成長した利守が呪術高専に入学する話 作:駒由李
▼この七郎は利守が好きっていうより、守美子のいた「墨村家」に執着を持ってる感じです 要は七郎→守美子なんですけど、本人はあまり意識してません
その日の伏黒は厄日だったらしい。勝手知ったる伏黒の部屋で本を読んでいた利守が迎えたのは、2級呪術師としての任務を終えて疲れ切った伏黒の姿だった。
「うわ、御苦労様。恵」
「……疲れた……」
ベッドに寄りかかって座っていた利守を避け、伏黒は制服を脱ぎもせずにベッドに沈み込む。それから十数秒沈黙が下りる。すぅ~~~~はぁ~~~~と深く深呼吸する音がした。ベッドが軋む音がしたので利守が振り返ると、伏黒は仰向けに転がり制服のボタンを外しているところだった。しかしその仕種があまりにもたもたしており、途中で眠りそうな気配がしそうだったので、見かねた利守は本を床に置いてクローゼットへと向かう。そしてスウェットを取り出した。それをベッドの傍らに置いた利守は、伏黒を起こす。
「ほら恵、制服脱いで。皺になるよ」
「あぁ……」
「ほら、ボタン外すから」
言いながら、伏黒の背後から手を回す。ボタンをひとつひとつ外して脱がした。上着を自分で脱ぎはじめたのを見計らってから、前に回り込みスラックスのベルトを外す。そのままずるりと脱がすと、代わりにスウェットのズボンを足に差し込んだ。もた……もた……とズボンを引き上げる伏黒。しかしカッターシャツを脱ごうとしなかったので、「仕方ないな」とボタンを外しにかかった。ぷちぷちとボタンを外す利守。ほぼゼロ距離の友人を見遣って、すっかり疲れ切っていた伏黒は脳直で言葉を発した。
「お前が女子だったらなぁ……」
「は? 乳酸が脳みそに回った?」
返す利守の言葉は辛辣だ。ボタンを外し終えたので「ほら、シャツを脱いで」と促される。もた……もた……とシャツを脱いだので、その上からトレーナーを被せた。いつもトレーナーの下にはTシャツなり着ていた気がするがそこまでは面倒なので気にしないことにした。利守が体を退かす頃には、伏黒はズボンを腰まで上げていた。そして再び仰向けに倒れた。あぁ~、とオッサンのような声を発する伏黒。そして、彼は再び言った。
「利守、お前が女子だったらなぁ」
「女子だったら何なの」
「嫁にする」
「端的だね。恋人という段階は踏まないの」
「ここまで親しくなってんだから恋愛の手順踏まなくてもいいだろ。あぁ……お前といると楽なんだけどな……気を使わなくていいところがいい。本当にいい。お前が家族だったら最高」
どうやら伏黒はだいぶ疲れているようだ。常なら言わないようなことを口走り続けている。録音したいところだが、たった2ヶ月の付き合いとはいえ友人の弱味を握るような真似は避けることにした。代わりに、利守は深々と溜息を吐いた。ベッドの前で自分の腰に手を添える。
「……あのさ。そういう怖いこと言わないでくれるかな」
「怖い? 俺の嫁になるのが?」
「仮に僕が女子だったとしよう。お前の嫁になることは吝かじゃない。でもその前に僕が女子だった場合、強敵がいる」
「強敵……?」
「お前、扇家って知ってる?」
利守に言われて、伏黒は疲れで錆び付いた思考回路から、なんとか知識を引っ張り出す。扇家。風使いの異能者の家系。規模が大きく、神社主体ながら企業もいくつも展開していると聞く。数年前に何やら内部粛正があったらしく、7人いた当主の息子のうち長男から五男が「失踪」し、当主に据えられたのは七男らしい。六男は弟を補佐しているとか。焦臭いことこの上ない。しかし自身は滅多なことで関わり合いになるとも思えなかった――異能者の旧家同士で繋がりがあるだろう利守のことを除いては。思わず身を起こす伏黒に、利守は訥々と語る。
「ウチと扇家は、『あらゆる意味で』ご縁があるんだよ。主に兄たちのためだけどね。特に今の当主の七郎さんも、当主になる以前から裏会とちょこちょこ関わりがあったらしくて……それでまぁゴタゴタがあって、七郎さんはウチにちょくちょく遊びに来るようになったんだよね。最初は主に関わりがあった次兄目当てで来てたんだけど、次兄は彼女ができたんで、2人の邪魔させたくなかったから僕が相手をするようになって……で、七郎さんがぽつりと言ったんだよね」
利守は息を吸った。
「『墨村家とはご縁を結びたいから、君が女の子だったらお嫁に来てもらったんだけどな~』」
「うわ怖」
なぜか伏黒の脳裏には、笑顔を作りながら、目が笑っていない男の姿がありありと浮かんだ。利守はちょっとだけ嬉しそうだ。
「あ、この怖さわかる? 伝わる? ちなみに五条先生とは別ベクトルのどちゃくそイケメン。その上、上位の自然支配系能力者なの。怖いよね。圧倒的オスなんだよメチャクチャ怖い」
「ど、どんまい……」
語っていくうちに感情が迸ってきたらしい。顔を手で覆う利守に、中途半端にベッドから身を起こした伏黒が励ます。しばらくそのままだったが、利守はふと手を降ろした。その顔は“虚無”だった。
「仮に僕が女の子だった場合、家族がガチ体勢で守ってくれると思うよ。でも、向こうも容赦なく抉ってきそうでさぁ……扇家って過激派だし……」
「扇家が怖いことだけはわかった」
「扇家はともかく七郎さんが単体で怖いよ。敵に回したくない」
利守は墨色の円らな目で伏黒を見た。
「お前、五条先生を敵に回したい?」
「………………」
「ね? そんな気持ち。つまり僕が女子だった場合、嫁に欲しいって言ったら五条先生みたいなのを敵に回すと思って」
「………………」
「それじゃ恵、疲れてるみたいだから僕は今日はもうお別れね。お休みなさい」
そう言って、置きっぱなしだった本を棚に戻した利守は、さっさと伏黒の部屋を辞した。
あとに残されたのは、中途半端な姿勢のままの伏黒のみ。
彼はその中で、会ったこともない「扇七郎」という存在に密かに恐怖心を抱いた。
翌日教室で会った伏黒は利守にとってはいつも通りだったが、「昨夜の発言は聴かなかったことにして欲しい」と言われたので、利守は忘れてやることにした。
「ふぇっくしょい!」
「汚いぞ七郎」
「ごめんごm……六郎兄さんソーシャルディスタンスにも程がない? メチャクチャ距離取ってるよ?」
End.