【呪術×結界】成長した利守が呪術高専に入学する話 作:駒由李
▼作中で利守が言ってる先輩はpixivで書いた夢術廻戦の男主です 作中ではオリキャラ扱い
時間で言えば、最後に訪れたときから半年ぐらいしか経っていない。なのになんだか懐かしかった。下手をすると故郷の烏森より懐かしさを感じるかも知れない。感慨に耽っている利守の横で、釘崎は宣った。鍛えてきただろうに、息を切らせながら。山だから空気が薄いのだろう。
「高専も大概山奥だけど、ここはもっと山奥ね! Wi-Fi飛んでんの?」
「一応飛んでたはずだよ。ネットも電気も通ってる」
「電柱が見当たらないんだが」
「そこ謎なんだよね。僕もよく知らないや」
「さぁさぁ雑談終わらせて。みんな着いたよ~。あぁ利守は知ってるか」
先導していた五条がパンパンと手を叩く。大きな門。番人が2人、頷き合いながら門を開く。
中から、複数の男女がそれぞれの表情で駆け寄ってきた。
「今年もようこそいらっしゃいました、呪術高専の皆さん」
「お帰り利守くん!」
「お帰りなさい!」
「ただいま」
次々に声をかけられて、利守は笑ってそれを迎え入れた。
それらをぽかんと見遣る1年生2人と、喉の奥で笑う五条の姿が対照的だった。
まずは腹も空いただろう、と通された先で出された食事に舌鼓を打つ。恐らく山で採れる菜もふんだんに使われていた。川魚や雉子肉もあった気がする。釘崎は「ダイエットしなくちゃ」などとは言わず健啖家ぶりを見せている。その中で、箸を止めて端に座る利守を見遣った。
「メチャクチャ歓迎されてんのね、あんた」
「俺らもそのお陰かご飯メチャクチャ旨い、が……」
伏黒は黙った。おかずにパプリカが入っているのを見て格闘しているようだ。それに構わず利守は言う。
「ここの食事はいつもこんなもんだよ。夜行の厨房部隊は優秀なんだよ」
そういって利守は「いつもありがと~」と手を振った。その目線の先に、物陰から手を振るフリルエプロンのガチムチ男性の姿があった。彼が作ったのか……と何とはなしに一瞬箸が止まるが、食欲には逆らえずまた食事を掻き込み出す。
その中で、釘崎は言った。白飯を口に運びながら
「そういえば五条先生はどうしたんでしょうね」
「先生は夜行の頭領の……正守さんだったか。その人と会談するんだろ。そこで食事を饗されるとか」
「それもそうなんだけどさ」
箸の先のウワバミソウの浅漬けを見つめつつ、釘崎は言う。
「なんか険悪な雰囲気じゃなかった? 気のせい?」
「あ、お前もそう思ったのか」
言って、2人の視線は自然と利守に集まる。利守は鮒のすずめ焼きを箸先で解しながら「あー」と唸った。目線は明後日だ。
「何でか知らないけど、ウチの上の兄と五条先生、なんか仲悪いんだよね……理由はわからなくもないんだけど……」
「五条先生も気を張ってたもんな」
「気のせいか? 目が笑ってなかったんだけどあの坊主頭の人」
「『やぁどうもお久しぶりです!』『やぁやぁやぁ』って一見和やかに握手を求めに行ってたけど、明らかに強く握りすぎてたよな」
そこではたと会話が止まる。再び利守の方を向いた。
「今日の『課外授業』、無事に済むのか?」
「それはまぁ……僕らの頑張り次第だろうね……」
外で、蝉が鳴く声がした。
この日の「課外授業」は、裏会と呪術師界の交流事業の一環でもある。昨年も今の2年生が赴いた。そのときのことを利守は憶えている。夏休みだったため裏会に入り浸っていたのだ。このため今の2年生とは入学前から面識があった。印象的だったのは、ひとりだけ莫大な呪いを背負っていた乙骨のことだ。入学してから会った彼の元からは既にその呪いの気配は去っていたので何かしら解決したのだろう、と利守は思っている。
閑話休題、利守たちはほぼ同時に箸を置いた。同時に「御馳走様」と告げると、どこからともなく先程のガチムチ男性がひょいひょいと膳を重ねていく。「今回も美味しかったよ」と利守が言い釘崎と伏黒が同調すると、彼(?)は嬉しそうに「そう! 有難うね!」と笑って踵を返した。恐らく向かった先は台所だろう。
そして見計らったように、足音が2人分響いてくる。勢いよく、彼らの背後の障子が開かれた。振り返ると、五条がパンパンと手を叩く。
「さー食べ終わったねみんな! 動きやすい格好に着替えてきてね! 更衣室代わりの部屋は夜行の人に聴いてね!」
「男子はこっちで、女子は刃鳥、お前に任せた」
「はい、頭領」
背後から出て来た正守が指揮をすると、怜悧な印象の女性が、釘崎を「こっちよ」と先導する。彼女たちとは反対方向に正守が先導する。五条は突っ立ったままだ。恐らくここで集合を待つ気なのだろう。そんなことを伏黒が思っていると、正守は利守に話しかけた。
「どうだ、利守。少しは強くなれたか」
「うーん、どうだろ。先輩に新しい技を教わったりしたけど」
「……横から失礼しますけど、利守……くんは強くなりましたよ」
「へぇ」
伏黒の言葉に、振り返った正守は面白そうだ。対して利守は「まだまだよ僕は」と謙遜する。それが実際謙遜でしかないと、虎杖が死んでから昨日までの2年生からのしごきで伏黒はよく知っている。
そして利守の思わぬ才能も。
その利守の「才能」は、その日の午後。夜行の面子と手合わせなどをしたのち。それは発覚した。
ヒト型に組み立てた藁がいくつも並び、それらを正守の式神が担いでいる。それを見て、偶々仕事から帰ってきた影宮は「何あれ?」と氷浦に尋ねた。氷浦は、こればかりは何年経っても変わることのなかった普段の無表情のまま答える。
「利守の、的」
「マト? 結界術で首を刎ねるとか?」
それ自体は利守は中学時代既に確立していた技術だ。結界を薄いガラス板のように研ぎ澄まし、対象の首なり腕なり足なりを切り落とす。大きな結界は展開できない利守らしい技術だと思う。
しかしどうやら今回は趣が違う。首を刎ねるというのならば式神を展開してそれを的にするべきだ。しかし今回は式神のような、簡単に消えてしまうものだと相手にならないらしい――影宮が考えていると、頭上から声が下りてきた。
「準備いい? 正兄」
「こちらは充分。しかし何をするんだ」
「まぁ見てて。正兄、式神には適当に逃げさせてね」
そう言って――聞こえたのは、異音。
まるで刃を研ぎ澄ますような、そんな音。
「それじゃ行くよ」
刹那、感じたのは――殺気。
次の瞬間、的のひとつが吹っ飛んだ。文字通り、吹き飛ばされたのだ。
断っておくが、影宮の目にも的たちは素早く捕捉しにくい動きをしていた。しかし、「それら」は的確に突き刺さり、藁を吹っ飛ばした。衝撃で式神が消え、藁が転がる。転がった藁には、3本の細身の剣が突き立っていた。ただそれだけだった。それだけなのに。
それを分析しようとした矢先に、他の藁も吹っ飛ばされていく。それらは軒並み細身の剣が突き立っていた。ただ、突き立っただけなのに。それらはまるで鉄甲で吹っ飛ばされたように地面を無様に転がっていった。
それに追い打ちをかけたのが、頭上からの涼やかな声だ。
「火葬式典」
ひとつの藁が、燃え上がった。
「土葬式典」
ひとつの藁が、地面から生えてきた無数の手により埋められていった。
「鳥葬式典」
ひとつの藁が、どこからか現れた無数の鳥たちに取り囲まれ、無残に啄まれていった。
「風葬――」
「利守! もうわかった!」
利守の言葉を、正守の声が遮った。その声には焦りが見えている。
「お前が新技を会得してきたことはわかった! だからこれ以上片付けに手間取る真似はやめてくれ!」
「そう? このまま燃やしたり埋めたりした方が後片付けも楽だと思うけど」
「そういうことじゃない……そういうことじゃないんだ……」
正守がぶつぶつと呟くのが聞こえる。その中で、影宮は呆然としていた。
しかしはたと我に返り、慌てて縁側から飛び出して、屋根の上の利守に半ば怒鳴る。
「利守! お前――それ、聖堂教会の埋葬機関の技術だろ!? なんでそんなものをお前知ってるんだ?!」
それに対し、利守は暢気だ。屋根に突っ立ったまま言う。
「あ、先輩そんなこと言ってたなぁ。なんでもこれを教えてくれた先輩曰く『お腹を空かせた黒髪メガネのお姉さんにカレーパンをあげたら教えてくれた』って言ってた。呪力じゃなくて魔力を使う技術だけどなんでか知らんけど呪霊にも有効だし、術式がなくてもできる奴ならできるから会得しといても損はないよ、って教えてもらったんだよね。でもまだまだだよ。先輩は今の大きさの的なら黒鍵1本で済ませるし、刃の精製からの刻印付与のプロセスが先輩なら一瞬だし」
「いやあのな……!」
絶句する影宮、ざわつく夜行の面子。その中で、縁側に座りながらスポーツドリンクを飲んでいた釘崎と伏黒、それに並んで座る五条は平然としている。足音荒く五条の元に歩いてきたのは正守だ。彼は咎め立てるように言う。
「五条さん。あなた、利守には高専で呪術を学ばせると言っていましたよね」
「言いましたねぇ」
「でも会得したのは魔術とか言ってますが……?!」
「一応呪術界隈のことも基礎は教えてるんですよ? 呪力の使い方とか。でも、ぶっちゃけ呪術師の才能って持って生まれた術式(さいのう)が8割なんで。お宅の相伝の結界術を磨いてもらうしかないんですよね。でも、まぁ、偶にこういう抜け道もあるんです」
五条はしたり顔で笑った。
「強くなれればそれでいいでしょ」
「……あなたという人は……」
「本当、あいつこの1,2ヶ月で強くなったよな」
「私ぶっちゃけあいつがテッコーサヨウ? とかってやつで呪霊をぶちのめすの、音がえげつなくて中々聞き慣れないのよね」
「とりあえず屋根から下りてこい!」と影宮から言われて渋々と下りてくる利守と、頭を抱える正守。それを目隠し越しに愉快そうに眺める五条の姿が、その日の夜行で見られた。
▼高専生利守がバージョンアップしました
(会得スキル:黒鍵・鉄甲作用、刃に魔術的効果作用刻印)
了
おまけ
7月。2年生たちによるしごきがはじまった中、黒鍵を作り出す「先輩」に利守は言う。
「今の呪力じゃなかったですよね、なんか……違う力でしたよね」
「おっ、見てわかるなら魔力の才能の方もありそうだね。これ呪霊にも効果あるからやってみる?」
「えっいいんですか」
「どうせできない奴にはできないからね。それじゃ見てて。まずこうやって」
そう言って「先輩」は、懐から取り出した3つの柄から刃を精製する。
「で、こうやる」
そう言って「先輩」が投げた黒鍵は、的をえげつなく抉りつける。彼方に吹っ飛んでいくそれをぽかんと見つめる中、「先輩」は事もなげに言った。
「わかった?」
「すいませんわかりません」
「今の説明でわかる奴の方がどうかしてる」
真希のツッコミが、利守には有難かった。
結局その利守も、1週間どころか3日で体得してしまったのだが。