「もう少し何とかならないもんかな……」
徹夜でシャンフロにログインしていた俺は、スポーツドリンクを飲み干すと溜め息を吐いた。
扱える職はかなり増えたものの、格ゲーの攻略法を落とし込むにはあまりにも情報量が多すぎる。加えてシャンフロに費やせる時間が短く、この状態では到底
このままで終わるつもりは毛頭ないが、元々はリア友との話題を広げるためと、楽郎のプレイスタイルを参考にして本業に活かすために始めたんだ。これで収入を得ているわけでもあるまいし、焦る必要はない。
そう自分に言い聞かせて、携帯端末を見る。
「シャワー浴びてアレの準備して……三時間は寝られるな」
俺は肩を回して凝りをほぐしながら、まずはトイレへと向かった。
……
…………
………………
『Kが丸くなったって噂になってたから気合い入れてやろうと思ったのに、キレッキレじゃねーかよふざけんな!』
オンライン対戦後の雑談で突然キレられた。意味が分からん。が、こいつは大抵何かにキレている。そういう奴だ。
「君は相変わらず手癖が多いな。前のを修正してきたと思えばまた別の手癖が増えているんじゃ、話にならないね」
『どこが丸くなってんだよォ!! やっぱ彼女ができたって話はガセだったか……』
「は? どこでそんな話聞いたんだよ」
『どこってか……女性陣の間では噂になってるぜ? なんでお前の耳に入ってないんだよ』
「俺が知るわけないだろ」
『くっそぉ……ただでさえモテやがるくせに、彼女まで作るなんて俺は許さねえからな!』
「君は俺の何なんだ」
『それで!? 彼女はいるのか? いないのか!?』
「彼女はいないけど……」
『おっし!! 言質取ったからな! ぜってぇ彼女作んなよ!?』
「いや……あっ」
切断しやがった。マジでなんなのこいつ。俺に彼女がいないという言質は、俺がこの先彼女を作る上で何の障害にもなり得ないと、何故気が付かないのか……。
「アホだな……知ってたけど」
……
…………
………………
件名:やほー
差出人:Cana
宛先:K
本文:彼女いないって聞いたんだけど、ほんと~?
今度ゲーマー合コンあるからおいでよ!
てかみんなKちんに会いたがってるから!
これ決定事項ね笑! また場所送るね~♪
またかよ……。
打ち上げや仕事の付き合いならともかく、合コンなんて今まで参加したこともないのに、あのアホが好き勝手言い触らしたせいで頻繁にこういった誘いが来るようになった。
いちいち断る方の身にもなれよ。そうでなくてもこっちは未だに楽郎への対戦依頼を断り続けているんだぞ。
もはや隙間時間の俺は、テンプレお断りメールを送信し続けるだけのBOTと化している。
「ハァ……」
ふと楽郎の顔が浮かんだ。と言っても、いつものことだが。前回会ったのがずいぶん前に感じる。
今は学校にいる時間か……。
オイカッツォ:最近忙しい?
サンラク:あー、ちとシャンフロでデカいイベントが控えていてな……
オイカッツォ:君の場合、それが平常運転でしょ
サンラク:また慧にも手伝ってもらうことになると思う
オイカッツォ:それはいいけど、服はいつ取りに来んの?
サンラク:あーすまん、服借りっぱなしだったな
オイカッツォ:そこは別に気にしてない
サンラク:今週の金曜また泊めてもらってもいいか?
オイカッツォ:いいよ。なんなら俺が届けに行ってもいいけど
サンラク:お前がこっち来ると帰したくなくなるから俺が行く
オイカッツォ:お、おう……
さらっと俺の頭上に爆弾投下してくるじゃん……。よっしゃ、気分アガってきた。今のうちにトレーニングモードでバリバリ練習するか!
……
…………
………………
駅の改札口から楽郎が出てくるのが見えた。
「あれっ、迎えに来てくれたのか」
「うん……」
「わざわざありがとな」
うっかり赤面して手の甲で口元を隠す俺を見て、楽郎が心底嬉しそうな顔をする。
「晩飯もう食った?」
「まだ。楽郎は?」
「俺もまだ。何か食ってく?」
「……食材ならうちにあるから、俺が作ろうか?」
「えっ! いいの!?」
「毎回外食でお金使う必要もないでしょ」
「やべぇ、めっちゃ楽しみ」
「言っとくけど、あくまでも素人の料理だから。期待すんなよ?」
「おう。でも意外だわ。お前もちゃんと自炊すんだなー」
「まあね……」
ハイ嘘です。自炊なんてほとんどしない。独り身の食事なんて完全栄養食で事足りるんだよ! 近年の目覚ましい技術革新ナメんなよ。フルダイブVRで仮想現実に時間を割くようになった人類が次に求める物は現実世界の最効率化なんだよ!
「お邪魔しまーす」
「はーいどうぞー」
「手ぇ洗わせてー」
「うん、俺も洗う」
洗面所で手を洗い、キッチンへと移動する。
「ちょっと時間かかるかもだから、テレビでも観て待ってて」
「うーん……ここに居てもいい?」
「え、いいけど……」
「やった」
見られてると思うと緊張するな……。
「おお、エプロン」
「うん、服汚したくないから」
あと、やると決めたことは形から入るタイプだから。
俺がまな板と包丁、食材を出して調理を始めると、楽郎が後ろからそっと抱き着いてきた。
「……なに?」
「んー? なに作ってくれんのかなって」
いやちょっとマジでテレるこれ。楽郎の吐息が首筋に当たってゾクゾクする。俺の顔いま絶対やばい。
「……秘密」
「え~、じゃあずっとこうして見てなきゃいけないな?」
「鯛の野菜あんかけと、初鰹の刺身と、大根と豚ひき肉のそぼろ煮と、茄子の揚げ浸しと味噌汁」
「うおぉ、すげぇ! ……ってオイ。こうやってるのイヤなの? 俺、邪魔?」
「…………イヤとは言っていない」
「ハハハ、なんだよ! ねね、キスしていい?」
「ええ……」
「ちょっとだけ」
「……ほんとにちょっとだけだよ?」
「うん」
包丁を握ったまま顔を上げて振り向くと、背後から俺を抱きしめていた楽郎と軽いくちづけを交わす。唇を離すと、至近距離で楽郎と目が合った。
「……なんかテレるな?」
「ほんとだよ」
あ~現実世界最高かよ。ずっとこの時間が続けばいいのに……。誰だよ現実世界の最効率化とかほざいていたのは。全く、無粋な奴もいたもんだ。
さて、調理に戻ろう。
茄子を乱切りにしてボウルに入れた水に浸し、小鍋に水とだしパックを入れて火にかけ、豆腐とネギを切る。沸騰したら豆腐とわかめを入れて中火で二分ほど煮てからだしパックを取り出し、味噌を溶かし入れてひと煮立ちさせ、火からおろす。味噌汁完了。
フライパンに薄く揚げ油を注いで火にかけ、水に浸けていた茄子の水気を拭き取って熱した油に投入し、くたっとするまで揚げ焼きをする。ボウルに入れためんつゆを水で割り、おろし生姜を溶かして油を切った茄子を浸し、冷蔵庫に入れる。茄子の揚げ浸し完了。
大根の皮を剥いていちょう切りにし、大根の葉を粗みじん切りにする。鍋に大根と水とだしパックを入れて中火でひと煮立ちさせたあとにだしパックを取り出し、豚ひき肉と生姜、砂糖、みりん、酒、醤油を入れて混ぜ、アルミホイルで落し蓋をする。
大根に火を通している間に玉ねぎ、人参、ピーマンを細切りにして、ボウルに少量の水と玉ねぎと人参を入れ、しんなりするまでレンジにかける。
大根の落し蓋を取って、粗みじんにしておいた大根の葉と水溶き片栗粉を入れ、とろみがつくまで中火で加熱し、火からおろす。大根と豚ひき肉のそぼろ煮完了。
フライパンの油を処理して洗い、水とみりん、酒、醤油、生姜を入れて火にかける。鯛の切り身に塩をふって片栗粉をまぶし、沸騰したつゆに鯛とピーマン、しめじ、玉ねぎ、人参を入れて蓋をし、中弱火で五分ほど煮て火を止め、蓋を取る前に五分蒸らす。煮込みや蒸らしの待ち時間で、使った調理器具を洗った。鯛の野菜あんかけ完了。
あらかじめ炊いておいた白飯と味噌汁を温め直し、味噌汁には小口切りにしておいたネギを散らして、料理を全て器に盛っていく。
「はい。どんどんテーブルに持ってって」
「すげぇ、めっちゃ手際いいな。かっけぇー」
最後に、皿に移して冷蔵庫に入れておいた初鰹の刺身をテーブルに出して、食卓が整った。
「…………これは感動するわ」
「あはは、食べてから判断してよ」
「じゃあ、いただきます!」
「いただきます」
「…………うまっ」
「ほんと? よかった」
うん、ちゃんと鯛もふっくら仕上がっている。全体的に上出来ではなかろうか。朝食と昼食抜いたから余計に美味しく感じる。
「めっちゃ美味いわ、ヤバ、うま」
「語彙力」
楽郎も幸せそうに食べている。
ずっと見ていられるな……じろじろは見ないけど。
ここ数日、猛練習した甲斐があった。何気に料理はロジカルシンキングの俺に合っているかもしれない。作ったあとの達成感も中々のものだ。一人の時はたぶん練習以外では作らないだろうけど。
ちなみに、練習で作りすぎた料理は全て隣人の胃袋に収まった。
「初鰹を食べるって……何かアレだな?」
「………………」
「うん、すまん」
「……楽郎に食べさせようと思って……」
「……えっ!? 意図的なのこれ!?」
俺の頬がカッと熱くなって滲むように痺れがくる。
「ちょっ、真っ赤、あっはっは! 可愛すぎか!」
俺は無言でテーブルに突っ伏した。楽郎は腹を抱えて笑っているらしい。
くそが。
「ヒィ~、ヒィ~、ハァ、ハァ、腹いてぇ……」
「………………」
「ごめん、マジでごめん……でもちょっと信じられんくらい可愛くてツボった……」
俺は無言のまま食事を再開する。
「ごめんって。だってお前、こんな……クッ……こんな、誘い方……ぶはっハハハハ!」
「食事も俺も没収するよ?」
「ハイゴメンナサイ」
終始にやにやしている楽郎と食事を済ませると、楽郎が後片付けを申し出てくれたので、その間にお風呂を沸かす。それから俺もキッチンに並んで二人で食器を片付け、ソファで一息ついた。
「ご飯マジで美味かった。作ってくれてほんっとありがと」
「うん、洗い物してる時も聞いたよ」
「いや何回でも言いたいわ」
「あはは」
楽郎は俺の腰に手をまわして密着し、顔を近付けてキスを求めてくる。俺が応じると、俺の頬に手を添えて舌を入れてきた。舌を絡め合い、徐々に興奮が高まってきたところで、給湯器のメロディが鳴り響く。
互いにそのままの体勢で目を開き、束の間見つめ合ってしまった。
「……俺、準備があるから今日は楽郎が先に入って」
「…………了解」
楽郎がトイレに行き、歯を磨いてバスルームに入ったのを確認して、俺もトイレに入って念のために浣腸をする。
昨日丸一日食事の量を減らして今朝と昼は何も食べてないし、家を出る前に浣腸とシャワー浣腸を済ませておいたので、やはり何も出ない。ウォシュレットで穴の中まで洗浄してトイレから出た。さっき食べた夕食は、二十四時間は便にならないから安心だ。
楽郎がお風呂から出た後に俺も歯を磨き、本日二度目のシャワーを浴び、湯船に浸かった。
「……やばい。緊張してきた……」
まだ準備が残っているからさっさと上がろう……。
バスルームから出る前にぬるいシャワーで浣腸をして中にお湯を溜めると、括約筋を締めて体をさっと拭き、下半身にタオルを巻いてトイレへと向かう。トイレで思いきりお湯を排出して確認した。色はついていない。
よし、完璧だ。
トイレから出て脱衣所に置いておいたアナル用のローションとアナルプラグを持ち、バスルームに戻ってローションと指で穴をほぐし、プラグにローションをたっぷり塗ってゆっくりと挿入する。
「ぅ……ぁ……」
毎日入浴時に慣らしていたこともあって、苦痛を感じることなく入った。シャワーでローションを流して、脱衣所で下着とスウェットパンツを穿く。
う~ん異物感がすごい。
俺は、ローションと携帯端末を手に、楽郎の待つ寝室へと向かった。
「……ごめん、おまたせ……」
「おう……なんか、大変そうだな……」
う、楽郎の視線が気になる……。
拡張のためにプラグを挿入したまま家の中で過ごしたことは何度もあるけど、楽郎の前で穴の中にプラグが入っていると思うと、途端に羞恥心が込み上げてくる。
「水飲む?」
「うん……ありがとう」
充電するために持ってきた携帯端末をベッドの上に放り、楽郎が用意してくれた水を飲む。
その時、マナーモードにしていた俺の携帯端末の画面が点灯した。俺はボトルに口を付けたままロック画面の通知を見下ろし、フリーズした。
メール
りにゃち
【ゲーマー】今度の合コン
Kくぅん! 最近メールもあんま返してくれないからさみしい~! かまってかまって! 一緒に飲んで話そ♡ 合コン来てくれるの楽しみにしてるね♡
調理工程や準備詳細カットするか悩んだけど、慧くんが一生懸命練習&準備していたので、その集大成ということでup。