第十四話 初デート
オイカッツォ:楽郎さん、楽郎さん
サンラク:どうしました? 慧さん
オイカッツォ:デートしませんか
サンラク:え、する
オイカッツォ:急に素
サンラク:どこ行く?
オイカッツォ:楽郎は行きたいとこある?
サンラク:んー
オイカッツォ:じゃあ「せーの」で
サンラク:チャットでせーのは難易度高い
オイカッツォ:せーの、
サンラク:シンキングタイム!
サンラク:シンキングタイムをくれ、せめて
オイカッツォ:もー、仕方ないなぁ
サンラク:お前……さてはめちゃくちゃテンション高いな?
オイカッツォ:うん。デートスポット調べてたらなんかわくわくしちゃって
サンラク:いや可愛すぎか
オイカッツォ:俺、実は定番のデートスポットに憧れてるみたい
サンラク:可愛すぎかって
オイカッツォ:定番のデートスポットといえば、楽郎はどこイメージする?
サンラク:んー遊園地?
オイカッツォ:行きたい
サンラク:あと水族館とか
オイカッツォ:行きたい
サンラク:カラオケ
オイカッツォ:行きたい
サンラク:プール
オイカッツォ:行きたい
サンラク:返信BOTかな?
オイカッツォ:どこにする? せーの、
サンラク:ぷーる
サンラク:おい
オイカッツォ:悩むわー……
サンラク:フリーダムか! うっかり下心晒しちまったじゃねーか!
オイカッツォ:じゃあ屋内ナイトプールにしよう
サンラク:ナイトつくだけで急に大人のデートスポット
オイカッツォ:暗いから、俺でも人目を気にする必要がないんだよね
サンラク:成る程な
オイカッツォ:ナイトプールの最高峰といえば、プールから夜景が一望できる都心の高級ホテルだけど……
サンラク:ハードル高すぎてもはや壁
オイカッツォ:だよね。じゃあ日帰りで行けるところでいい?
サンラク:おけ。俺も調べとくわ
……
…………
………………
準備に手間取り、時間ギリギリに待ち合わせ場所に到着した俺は、駅前で壁に寄りかかっている楽郎に駆け寄った。
楽郎はブルージーンズに白Tシャツとテーラードジャケット、ローカットスニーカーという出で立ちで、肩にシンプルな黒のトートバッグを提げている。
「ごめん! 待たせちゃった?」
「いや、全然」
俺の方はチノパンとTシャツにカーディガンを羽織り、キャメルのトートバッグには水着やビーチタオルなどのプール用品が入っている。
「…………なんか緊張するわ」
「ね、ドキドキする。俺なんか昨日楽しみ過ぎて全然眠れなかった! あはは」
「ちょ……いきなり可愛さぶち込んでくんのやめてもらえる? 俺の心臓がもたない」
「いやどういうこと」
日没直後の空は淡いオレンジ色から薄紫色へとグラデーションがかかっていて、とても綺麗だ。楽郎と並んで歩いているだけで、自然と心が浮き立つ。
駅前ロータリーからタクシーを使い、都内の大型テーマパークへと移動する。屋内プールはこのテーマパークの中にある。
更衣室でトップスを脱いだ楽郎を見て、俺は目を見張った。
「えっ!? 腹筋めっちゃ割れてる!」
「はっはっは。ようやく気が付いたか」
「凄っ! いやでも確かに、前々から徐々に割れてきてはいたのか……。てか全体的に体格よくなってない?」
「ゲームログイン前の筋トレを義務付けたからな」
「え~すごい……カッコイイ……!」
「よせやぁい」
カワイイ。
ジップアップのラッシュガードとサーフパンツに着替え、いざプールへ!
「おおー!」
「広っ!!」
プールサイドや南国の木々は落ち着いた色合いのイルミネーションで彩られ、ドーム型の天井にはプロジェクションマッピングの星空が煌めく。プールは水中からライトアップされ、水面が幻想的な青い光で揺らめいている。
色とりどりに発光するライトボールがあちこちに散りばめられており、女の子たちが光るボールを抱えて写真撮影をしている。
「すげぇ~、キラキラしとる……」
「入ろ入ろ!」
俺は楽郎の手を取って行き交う人々を避けながらプールサイドを歩き、流れるプールに足を入れた。
「ん! あったかい!」
「マジ? ……おー、あったけぇ」
「ちゃんと温水プールだ! 気持ちいい~」
プールの水底を蹴りながら少し泳ぐと、目の前に青いライトボールが流れてきた。
「みてみて! 光ってる!」
「すげぇなこれ。中にLEDが入ってんのか」
「あっ、色変わった!」
ライトボールは、一定時間ごとにシームレスに色が変わっていく。
俺が色の変化に見入っていると、腹部に楽郎の腕が回って、後ろ抱きに引き寄せられた。目の前を、女性が乗った大きな浮き輪が流れていく。
「ありがと」
「ちゃんと周りも見ろよ?」
楽郎は、俺の頭に手を乗せて優しく言う。俺はボールを手放して楽郎に抱き着いた。
「じゃあ俺、楽郎だけ見てるから。楽郎が俺の周り見ててね?」
「お、ちょ、おま……俺の心を弄ぶのはやめろ!」
「あははっ、大袈裟だな~」
楽郎は片手で俺の視線を遮って顔を背ける。
「ほらほらぁ、ちゃんと俺の周り見といてよー」
「こいつ……」
「わっ!」
俺の尻が鷲掴みされた。楽郎は涼しい顔で俺を見下ろしている。俺はにんまり笑って楽郎の内腿をするりと撫でた。楽郎がびくっとして眉根を寄せる。
「……だめだ、降参」
「えー」
「息子が起きる」
「アハハ! パパに似てやんちゃだもんね~。起きたら大変だ」
しばらく流れるプールで遊んだあと、LEDウォータースライダーの列に並んだ。
筒状のカーブ型スライドで、外側は普通のイルミネーションで装飾されているが、内側はカラフルなLEDの模様がネオンのように輝き、まるで光の洪水の中を滑走している気分になれる。
「すげぇやべぇ」
「やばいやばい」
どうやら語彙力を置き去りにしてしまったらしい。
圧倒的に並んでいる時間の方が長いにもかかわらず何度も列に並び、アホみたいに滑り倒した。
「お腹空いてきたー」
「なんか食うか」
「なに食べるー?」
施設内には様々なフードコーナーがあり、軽食はもちろん、麺類や丼物まである。南国の東屋みたいなフードショップでは、南国の屋台料理を提供している。折角なので、雰囲気重視でここに決めた。
「う~ん……ガパオライスかな」
「じゃあ俺エスニックまぜそば」
「あ、俺もそれ迷った」
「じゃあ半分ずつ食べよう」
「いいね」
「あとトロピカルジュース」
「うん、俺も」
受け取った食事をイートインコーナーに運んで席に着く。
「うまそう。最初に半分に分けとくぞ」
「うん、ありがとう。……あー、まぜそばどうしよう。まぜてから半分にして大丈夫?」
「おう、頼む。……いただきます」
「……よし、おっけ。いただきまーす」
「んん、ウマい」
「ん、ほんとだ美味しい。意外と本格的」
「うん、マジで意外」
「こういうとこの食事が美味しいとテンション上がるよね」
「だなー。外れも多いだけに」
「いやほんとそれ」
地下にも石造りの温泉のような温浴プールがあり、食事の間に体が冷えてきたので、食後はそっちへ移動することに。
「おお、ここも結構広いな」
「人も上より少なくていいね」
「あったけー。普通に風呂だ」
「あ~ほんとだ! でも熱すぎなくて丁度いい」
「長く浸かれる温度になってんのかな?」
「かも。あっ、ねえあっちジャグジーある!」
「おー。向こう打たせ湯もあるぞ」
「あ! これ……これ、なんだっけ……」
「寝るやつな」
「そう寝るやつ。……寝湯だ!」
「まんまやん」
「そうそう……なんで関西弁?」
「たまに関西人出てくる」
「君の中に住んでんの?」
「そのうち乗っ取られるから」
「こわっ」
オレンジの灯りが程よい薄暗さを演出し、リラックス効果を生んでいる。一通り遊びながら温浴プールを堪能して、水深の浅い寝湯で横になった。体がずっしりと沈みこむような感覚を覚える。
「あーこれはやばいわ……」
「寝れる……」
「……一時間したら起こして」
「がっつり寝るじゃん」
「……………………」
「起きろ楽郎! 寝たら死ぬぞ!」
「……………………」
「……パパ寝ちゃったから、息子さんと遊んじゃおうかなー」
「おはよう。……なに、もう朝?」
「むしろ夜だね」
「……そういや今何時だ?」
「うわっ、結構時間経ってる。そろそろ帰る?」
「だなー……じゃないとここの住民になってしまう」
「名残惜しいけど仕方ないね……。楽郎をうちに連れて帰らなきゃ」
「お前がここに通うという手もある」
「そんな手はどこにもねーよ」
楽郎は俺の家に泊まるため、帰りは二人で同じ電車に乗り込んだ。
「めちゃくちゃ満喫したね」
「うん。楽しすぎた」
「次のデートどこにする?」
「もう次か」
「って言っても、結構先だけどね」
「お前忙しいもんな」
「もういっそのこと、楽郎と住みたいよー、あはは」
「…………大学に進学したら同棲するか」
「えっ」
「えっ」
「マジ?」
「……悪い、冗談だったか?」
楽郎は、頬を紅潮させて目を逸らした。
なんだこの……なんだこれ?
「家にワープしないかな? どこでもドアでも可」
「?」
俺は、きょとんとしている楽郎の耳に顔を寄せた。
「……今すぐ押し倒してキスしたい」
楽郎は真っ赤に染まった顔を、つり革を掴む腕で隠した。
はあ? なんだそのリアクション。クッソムラムラするんですけど。俺の煩悩よ、鎮まれ……! 鎮まりたまえ! ここから最寄り駅まであと何駅だ……いち、にぃ、さん、しぃ、ふん、ふん、……結構あるなぁオイ! んで駅から歩いて……いや、いい。余計なことを考えるのはよそう。心を無にしろ。無我の境地に達するんだ……。
俺の耳元で楽郎が囁く。
「……頭ん中でお前が乱れててヤバい」
なんで今そういうこと言うのぉぉぉ!? 必死で抑えてたのに勃っちゃうじゃん、いい加減にしろ!!
結局それ以降、俺は煩悩の支配から逃れることができなかった。
次回へ続く。