仮眠と食事で充電し、再起動したシルヴィたっての希望で、最後に観覧車に乗ることになった。
「うわっ……全面ガラス張り……」
「フゥー↑スリルぅ」
「俺これ大丈夫かな……」
シルヴィとメグを見送って次のゴンドラに乗り込み、楽郎と向かい合って座った。観覧車の骨組みは無数のLEDによる
徐々に高度が上がり、眼下にテーマパークの煌々としたイルミネーションが広がる。室内が暗いことで、それらの灯りがより一層引き立つ。
「もう高い、もう高い」
「おお、結構揺れるな」
「……絶対揺らすなよ?」
「ハッ、んなガキみたいなことするかよ……ぉおっとぉ!!」
「あほ! ばか! やめろぉ!!」
「ハハハッ! フラれたら応えなきゃな」
「フリじゃない! 揺らして金具が弛んだらどうすんだよ!?」
「お前、高いとこ怖いの?」
「違う! 俺は人工物を信用していないだけだ!」
「そこ疑ってたら文化的な最低限度の生活すら送れないぞ……。どうせ死ぬ時は死ぬんだ。乗ったからには信用しとけ」
「うぅ……なにかあったら守ってよ? ……でも次揺らしたらぶっ殺す」
「弱気なのか強気なのか」
かなり高度が上がってきた。テーマパークを囲む遠くの街の灯りまで、よく見渡せる。
目の前の楽郎は、足を組んで窓際の手すりに肘をつき、口元に手を当てて夜景を眺めている。何故だか、その姿にそこはかとなく性的な魅力を感じた。
めちゃくちゃ綺麗だ……。
無意識に見入っていると、楽郎が流し目で俺を見た。
「……なんで夜景じゃなくて俺を見てんの」
「…………見てない」
「いや猿でも分かる嘘」
しばらく見つめ合ったあと、楽郎がくすりと笑った。
「すげぇ物欲しそうな顔してるぞ、お前。発情してんのか?」
恥ずかしくなって下唇を咥え、僅かに俯いてしまった俺は、そのまま上目遣いでもう一度楽郎の目を見つめた。胸がドキドキと高鳴って息苦しい。
「ハァ……クッソ可愛い……」
楽郎は目を逸らして呟くと、こちらに向き直って僅かに下唇を舐めた。キスをする直前の楽郎の癖だ。自然と期待が膨らむ。
前のめりでシートに浅く腰かける俺の頬に楽郎の手が添えられ、唇が合わさった。数度音を立ててキスをしたあと、至近距離で見つめ合い、楽郎の親指が俺の頬をすりすりと撫でる感触に幸福感が募って、もう一度キス。
「楽郎……」
「ん……?」
「愛してる……」
「うん……俺も愛してるよ」
「うん……」
微かに
「はい、おしまい」
「……むぅ……」
「これ以上は抑えきれる自信ない」
「……俺もう抑えきれないよ……」
楽郎は困ったように笑う。
「慧に甘えられるとほんとヤバいわ」
「らくろぉ~……」
「甘えるな甘えるな」
そう言いつつも、楽郎は俺の頭を撫でてくれる。俺は目を閉じて受け入れた。
「猫みたいだな……」
「今日は楽郎が猫で俺は兎だったけどね」
「……バニースーツもいいな」
「……変態……」
「ん? その変態にガン掘りされて
「んんっ……」
「おい、言葉責めだけで感じてんのかよ」
「待って……勃っちゃう……」
「はあ? もう勃ってんだろ? 手ぇどけろよ。……フル勃起じゃねーか。なに理性保とうとしてんだ、ドMのくせによ」
「ンンンン──ッ」
「下を見るな、俺の目を見てろ」
楽郎の靴裏が俺の股間にグリグリ押し付けられる。下唇を噛んで必死に耐えるものの、打ち寄せる快楽の波に抵抗できるはずもない。楽郎を切なく見つめたまま、俺の足腰は痙攣した。ドライオーガズムで射精はしないまでも、先走りで下着が濡れていくのが分かる。
「こんな場所でイッたのか? お前のイキ顔を誰かに見られてたらどうするつもりだ?」
「や、ンンンッ──……ハッ、ハッ、ハッ、ごめんなさいぃ……」
「言っとくが、俺以外の奴にその顔見せたら承知しねぇからな」
「んんんんッ──ハァッ、ハァッ、ハァアッ──!」
下半身の刺激と恥辱による快感もさることながら、抑えきれないと甘える俺の欲求を、節度をわきまえつつも満たしてくれる楽郎の責めに、溺れるほどの愛を感じて脳イキしてしまう。
「漏らしてないだろうな?」
「ハァ、ハァ……少しだけ……」
「おいおい。帰ったらお仕置きだな」
「ぁン──ッ!」
「……ちょっと感度上げすぎたかな……」
もう触れてもいないのにイッてしまう俺を見て、楽郎が溜め息を吐いた。
俺も自分が怖いです……。
下着が濡れているのが気になってしまう。完全に自業自得だ。ズボンの表面にまで染みてはこないはずだが、ギリギリ前が隠れる丈のシャツでよかったと心底思う。
楽郎の陰に隠れるようにしてゴンドラから降りると、シルヴィの後ろで決まりが悪そうにしているメグが目に入った。
うーん、やっぱ考えることは同じか……。この観覧車、個室が暗くて中が見えにくいしね。
「じゃ、お土産買って帰りますかね」
「
………………
最寄り駅からの帰り道で、急に雨が降ってきた。
「マジか……中々に本格的な雨だぞ」
「おみやヌレちゃうー!」
「コンビニ戻って傘買う?」
「でも、ここからだと家の方が近いんじゃないかしら?」
「よっしゃ、走れ走れ!!」
「えええ~~!!」
「
「またかよ!?」
マンションのエントランスに辿り着く頃には、土砂降りの雨になっていた。
「うわびしょ濡れ……」
「ギモヂワルイ~」
「帰ったらソッコー風呂だな」
「ああ、そういえば、シルヴィが欲しがってたスイーツの入浴剤買っておいたわよ」
「Wow! あなたってサイコーよ、ナツメグ!」
「ぅんん……っ!?」
シルヴィがメグの後頭部に両手をまわして引き寄せ、ディープなキスをする。俺と楽郎は反射的に後ろを向いて、目を丸くしたまま視線を合わせた。背後から官能的なキスの音と、狼狽えて喘ぐメグの声が聞こえる。
さすがシルヴィ、人前だろうと容赦ないな……。
俺たちがそろりそろりとエレベーターに向かい始めると、解放されたらしいメグから声がかかった。
「ま、待って……私たちも上がるわ……」
「おう」
エレベーターに乗り込み、ボタンを押す。不意に寒気がして体がブルッと震えた。鳥肌の立つ腕を組んで肩をすぼめる。
「なんか寒くなってきた」
「分かる……さみぃ……」
「風邪ひきそうよね……」
「ハダカで抱き合えばカゼなんかひかないわ!」
「どこ情報なんだそれは……」
「雪山で裸で温め合うってやつ?」
「それって人数が増えると効果も上がるのかしら?」
……ん?
「おい、ややこしくなるからやめろ」
「Oh……ナツメグ、orgyにキョーミあるの?」
「言っちゃった」
「え? なに?」
「慧、オージーって?」
「……〝乱交〟かな……」
「ハッハッハッ!!」
「え!? ちがっ……やめてよシルヴィ!!」
「Ha! Haha……あら違った?」
「わざとだこれ」
「悪いやつだなぁ」
玄関前の外廊下でシルヴィ、メグと別れの挨拶をする。
「じゃあ、おやすみー」
「おやすみ」
「
「おやすみなさい」
俺と楽郎は玄関に入って、お土産の袋を床に置いた。
「とりあえずタオル持ってくるから待ってて」
「おー、ありがとう」
俺は湿った靴下を脱いで脱衣所に行き、タオルを持って戻る。
「はいこれ。先にお風呂沸かしてくるね」
「さんきゅ。じゃあ荷物拭いて運んでおくぞ」
「うん、ありがとう」
給湯器のスイッチを押してから、外出中に洗濯乾燥が終わっていた洗濯物をかごに移していると、荷物をリビングに持っていってくれた楽郎が脱衣所に来た。二人で濡れたシャツを脱ぐ。
「うぇ……ビタビタ……」
「そんなに濡れてたらお漏らしも分からないな?」
俺はスキニーのファスナーを下ろして、雨による下着の濡れ具合を確認する。
「ちょっと湿ってるくらい……かな?」
「どれどれ」
俺の下着に人差し指をかけて引っ張りながら覗き込もうとする楽郎に、ふと悪戯心がわいた。
「キャー! やめてください! セクハラですよ!?」
「!? ビビったぁ……女声すげぇな!」
「あ、やだ……ごめんなさい、恥ずかしくて……」
俺はもじもじしながら胸の前で腕を交差させ、裸体を隠す素振りを見せる。
「…………俺は今お前の女声に興奮してんのか? 態度に興奮してんのか? 女声と男の体のギャップに興奮してんのか? どれだ?」
ラクロウは こんらんした!
「興奮してるの?」
「興奮……してるなぁ……」
「しみじみと……。けど俺、シャンフロでも女キャラだし女声だよね?」
「じゃあ一回普段の声で羞じらいながらズボンとパンツ脱いでみて」
「それ楽郎が見たいだけでは?」
「そうだよ」
君は何の羞じらいもないな。
上半身裸のまま腕を組み、ワードローブにもたれて観賞態勢を取る楽郎の前で、戸惑いつつも普通にスキニーを脱いでいく。
「……お前って体毛薄いよな」
「あー、そうなんだよね……男らしくないでしょ」
「いいんじゃない。綺麗だよ」
ん゛ん゛ん゛っ!!
それ天然なの!? そんな風に言われると逆に恥ずかしくなるよ!
先ほどより若干緊張感を持ちながら下着に手をかけてチラッと中を見た俺は、勃ってもいないのに、白くカピカピになった染みの上から、さらにてらてらと濡れて糸を引く我慢汁を目にして一瞬固まってしまった。その瞬間を楽郎が見逃すはずもなく。
「どうした?」
「……いや」
「言え。何が起きているのか自分の口で説明しろ」
「……我慢汁が漏れて……濡れてます……」
「見せてみろ」
言葉にしたことで、羞恥心が込み上げて逡巡が生まれるが、楽郎は催促せずにじっと見ている。俺の羞じらう姿が見たかったのだから、当然か。
おずおずと下着をめくり、糸引く染みを楽郎に見せると、急速に血液が集まって見る間に大きく硬くなっていくものの先から、たらたらと我慢汁が垂れた。
「今どんな気持ちだ?」
「……恥ずかしいです……」
「恥ずかしいのに興奮しているのか?」
「……はい……ごめんなさい」
変態性を自覚させられて反応した俺の分身が、痛いほどに膨張し、脈打つ。俺は身を捩って恥辱に悶えた。
「まさかあの慧がこんなド変態とはな……」
「俺を開発して調教したの、楽郎だよ……」
「は? いや、俺開発はしてるけど調教はしてないぞ」
「……ん? 開発と調教って似たようなもんじゃないの?」
「全然違う、別物。開発は感度を上げることが目的で、調教は絶対服従させることが目的だから」
「絶対服従……」
「……お前がどうしても俺の奴隷になりたいってんならこっちも相応の覚悟はするけど、俺としては普通に恋人として接したい」
「え~、じゃあさ、恋人と奴隷の違いは?」
「恋人は対等、奴隷は所有物……ってお前、分かってて聞いてないか?」
「所有物……」
「……俺はお前の主人として支配するよりも、恋人として甘やかしたいんだよ」
「支配……」
「……さっきからそれ系の単語でチンコ反応させてんじゃねえよドM野郎。普段から馬鹿みたいに猫被ってっからストレス溜まってこういう刺激が欲しくなるんだろうが。ちゃんと恋人として発散させてやるから間違っても外でご主人様探そうとすんなよ? どうしても奴隷堕ちしたきゃまず俺に言え。愛奴として可愛がってやるから」
「や、ちょ……イッちゃうイッちゃう……」
「あ? てめぇ俺が真面目な話してる時になに一人で気持ちよくなってんだ。誰が勝手に……いや、恋人だからいいんだ。落ち着け俺……」
「あれ? もしかして今、調教しようとした?」
「してない、してない……」
「……ねえ、俺のこと、楽郎好みに躾てもいいんだよ?」
「……………………」
楽郎の、ファスナーを下ろした状態のジーンズから突き出す下着に、染みができていく。
「ほら、楽郎も我慢汁溢れてきてるじゃん……どうして我慢するの?」
「……俺はお前のそういうところも気に入ってんだ。頼むから、甘やかせてくれ」
「…………分かった。俺も、楽郎に甘やかされるの好きだよ……」
下着を脱いで楽郎の首に腕をまわし、キスをする。給湯器からのお知らせを無視して、楽郎と舌を絡ませ続けた。
正直、ご主人様としての楽郎を見てみたい気持ちはかなり強い。
でもたぶん俺、奴隷にするには我が強すぎるんだろうな。少なくとも、奴隷がご主人様に何かを要求しちゃいけないってことは俺でも分かるし、ご主人様に対して言葉責めなんて、もってのほかだろう。俺が調教を受けて奴隷に成れば、間違いなく今の俺ではなくなる。それが嫌ということは、どうやら楽郎は俺の気儘な振る舞いをも愛してくれているらしい。
「……俺が奴隷になれないからって、楽郎も外で奴隷作ったりしたらヤだよ?」
「作るわけないだろ……。俺はプレイとしてお前を虐められれば満足だよ」
「んんん……虐められたい……」
「はいはい、ならまず風呂入るぞ」
「はぁい」
俺は、どれだけ深く依存したくても、楽郎の奴隷にはなれない。けれど、奴隷よりもっと楽郎に必要とされる存在になれる。
それが分かっただけで、これから先、もう何が起きても怖くないと思える強さを得られた気がした。
今年もよろしくお願いします。