昨日の出来事を振り返っていたらムラムラしてきたので、携帯端末を操作したところ、少なからぬ衝撃を受けた。
【おい】
オイカッツォ:俺のオカズが異性モノだった件について
つい、楽郎に個人チャットを送ってしまった。
何が衝撃って、ホモかどうか悩む前に気が付かなかったことがだよ。あの時はよほど頭がおかしくなっていたんだな。
すぐさま返信が届く。
サンラク:詳しく聞かせてもらおうか
オイカッツォ:いや何をだよ……。てか、そっちはどうなの
サンラク:まあ、普通に異性モノだな
オイカッツォ:マジ?
オイカッツォ:一番オカズにしたやつ送って
サンラク:なんでだよ
オイカッツォ:なんなら俺も送るから
サンラク:http://www./xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx
オイカッツォ:はやっ
サンラク:まだ?
オイカッツォ:がっつきすぎでしょ……
オイカッツォ:http://www./xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx
楽郎のオカズとか絶対気になるわ。どれどれ……。うわ、タイトルからしてハードなやつじゃん。
………………
まさかのガチ調教系…………。
オイカッツォ:君これマジか
サンラク:何が?
オイカッツォ:ちょっとハード過ぎない?
サンラク:そうか?
サンラク:お前のは何て言うか……
サンラク:うん。
オイカッツォ:言えよ!
サンラク:これどっちに気分乗せてんの? 男側? 女側?
オイカッツォ:え。考えたこともなかった
サンラク:じゃあ今考えて
サンラク:どっち?
サンラク:……おーい
オイカッツォ:そういえば最近全一さんとフライドポテトが妙に仲良いんだけど何企んでるか知らない?
サンラク:OK、把握した
オイカッツォ:えっなにを?
サンラク:奇遇だな。俺も喘ぎ声で興奮するタイプなんだよ
オイカッツォ:呻き声の間違いでは?
サンラク:そっちも好きだよ
オイカッツォ:呻き声は勘弁して
サンラク:へえ。喘ぎ声なら聞かせてくれる気はあるんだ?
オイカッツォ:フレに呼ばれたんで部屋抜けますね^ ^
俺はノーマル。俺はノーマル。俺はノーマル。
……
…………
………………
ここ最近、俺のオカズリストに調教系とゲイビがちょこちょこ追加されてるのはどういうことなんですかねぇ?
しかも男優の背格好が楽郎に似てる動画に偏ってるところがもう俺終わったなって……。
【おい】
オイカッツォ:最新のお気に入りを見せてごらん?
サンラク:断る
オイカッツォ:俺のも差し出すって言ったら?
サンラク:断る
オイカッツォ:あっ…(察し)
オイカッツォ:俺に似てる男優が喘いでても怒らないよ^ ^
サンラク:フレに呼ばれたんで部屋抜けますね^ ^
こいつゲイビお気に入りにしてやんのwww
俺もだけど。
……
…………
………………
【おい】
オイカッツォ:http://www./xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx
オイカッツォ:このゲームイベント行かない?
サンラク:隠している情報を全て吐け。話はそれからだ
オイカッツォ:猜疑心がすごい
オイカッツォ:ここに書いてある通りだよ。関係者チケットもらったから一緒にどうかと思って
オイカッツォ:今回は観戦するだけだからエナドリもかぼちゃも必要ないよ
オイカッツォ:俺はいつも通り若干変装するけど……
サンラク:女装?
オイカッツォ:しないよ!
サンラク:誠に遺憾ではありますが、その日は勉強会の予定が……
オイカッツォ:絶対しないからね
サンラク:すまんな。勉強会はマジなんだ
オイカッツォ:そ、そんな……嘘だろ……
オイカッツォ:君に勉強会するような友達なんていたの?
サンラク:お、喧嘩か?
オイカッツォ:まさか女子もいるとか言わないよね?
サンラク:女子と二人きりなんだよなぁ……
オイカッツォ:ありのままの君で居ていいんだよ……?
サンラク:見栄じゃねえよ
オイカッツォ:まあ予定があるなら仕方ないね
サンラク:お一人様か?
オイカッツォ:いやチケット二枚あるし……誰か誘っていくよ
サンラク:そうか
ふーん。
つーか女子と二人きりで勉強会とか……。あいつギャルゲーの世界の住人か? うちの学校そんなイベントなかったぞ。
チケット二枚、誰に譲るかなー……。
……
…………
………………
【おい】
サンラク:イベントの枠埋まった?
オイカッツォ:まだだけど
サンラク:勉強会中止になったから行けることになった
オイカッツォ:いや、勉強会中止になっても勉強はしようよ……
サンラク:俺には一夜漬けが向いてんだよ
オイカッツォ:へえ~、なのに女子と二人きりなら勉強会もするんだ?
オイカッツォ:下心を感じますねぇ……
サンラク:やけに突っかかるな……
サンラク:俺と行きたくねーの?
オイカッツォ:行かないとは言っていない
行きたいか行きたくないかで言われたら、めっちゃ行きたいです。
……
…………
………………
お。来た来た。
へえ~……スプリングコートに、ビッグシルエットTシャツと黒スキニー。足元は黒のレザーシューズか。で、コートの中に前掛けボディバッグね……。今までのラフな格好とは随分イメージ変えてきたね。
「よお。すまん、待たせたか?」
「いや、丁度良かったよ。まだ待ち合わせの時間まで結構あるしね」
四十分前から待機してました。
「……なんかいつもと雰囲気違わない?」
「そう? 別にいつも通りだよ。そっちこそ気合い入ってんじゃないの?」
俺? オックスフォードシャツにオーバーサイズニットの重ね着で、完全に男ウケ狙ってるよね。「受け受け」言われるから普段は絶対こんな格好しないよ。いつも通り(笑)
「俺のは我が家のファッションフリークが好き放題選んだやつだからよく分からん」
「何しに行くって伝えてそうなったの?」
「……友達と遊びに」
「ふーん」
絶対嘘じゃん。めちゃくちゃ女子ウケするやつじゃん。
「お前のそれって変装なの?」
楽郎が指しているのは、俺のボストンフレームの眼鏡とキャスケットだ。
「んー、まあ一応……伊達眼鏡だし」
「女装した方がまだバレないだろ」
「ペンシルゴンといい、なんで君ら執拗に女装させようとしてくんの?」
「面白いから」
「だと思ったよ」
お断りだね。
しばらく歩いて現地に到着した俺たちは、会場となるビルに足を踏み入れた。
入り口ホールの壁には、チームごとに選手のパネルがずらりと並び、売店ではグッズも販売している。この会場は飲食可能で、映画館のように飲み物やポップコーンなどを買うことができる。
そして今俺たちが手にしているのは、公式ドリンクとして来場者に配られたライオットブラッドである。今シーズンからスポンサーに入ったらしい。配布された瞬間、今日一の笑顔を見せた楽郎に冷めた目を向けつつ、飲み物とポップコーンを買って会場入り。
半円形のステージとすり鉢状の客席を備えた会場はすでに満員で、階段通路に座るだけでなく、立ち見をしている人も多い。
「おー、すげぇ人」
「だねー。さすが開幕戦。席ここだね」
「いい席だな」
「関係者チケット様々だね」
会場全体にワクワクとした雰囲気が漂っていて、もうすでに楽しい。ちらりと楽郎の顔を窺うと、見るからにキラキラと目を輝かせている。
こんなん笑うわ。やっばいテンション上がってきた。
「なに?」
「楽しみだね?」
「うん」
「あはは、子供みたい」
「オマエモナー」
今回観戦するのは、オンラインストラテジーゲームの、マルチプレイヤーオンラインバトル、国内リーグ戦。簡単に言えば、五対五のチーム戦で、戦略を立てて敵陣地を制圧するゲームだ。
対戦形式は一回勝負一勝勝ち抜き(BO1)の、各チームが二回対戦する、全チーム総当たり戦(ダブルラウンドロビン)。この日は六チーム、全六試合が行われる。
それぞれのチームの紹介が終わると、第一試合をする選手たちが、ステージ上に並べられた左右五台ずつのチェア型VRシステムへと向かい、スタンバイする。
正面の巨大なスクリーンにゲーム画面とタイトルが映し出され、いよいよ、熱き戦いの幕が上がる──!!
……
…………
………………
「やべぇめっちゃ楽しかった」
「超盛り上がったね! てか、ライオットブラッドの宣伝コーナーでタレントの隣にいたの、ノーフェイスだよね……」
「……やっぱ幻覚じゃなかったか……」
ライオットブラッドをホルダー装備したパンプキンヘッドがステージに出てきた時は、二人して無言で顔を見合わせてしまった。
「いつの間に公式認定キャラになったの?」
「知らん」
「オファーとかなかったの?」
「いや? でも最新のリボルブランタンにもカボチャ頭のイラストが使われてたし」
「なんか存在ごとライオットブラッドに侵蝕されてない?」
「まあ、そもそも俺ただのコスプレだし。大元と話つけたんじゃないの」
そういえば、コスプレだったね。あの時のことは記憶の奥底に封印してたから忘れてたよ。
そう、今にして思えば、一連の不幸はあの一言から始まっていた──。
──いや回想とかいらないから。
「丁度ご飯時だし、食べて帰る?」
「だなー。なんか希望ある?」
「んーあるっちゃあるけど……楽郎は?」
「……………………」
「え、なに?」
「いや……アノ時以来初めて名前呼ばれたからびびっただけ」
「あの時?」
「気にすんな。で? 希望あるなら言えよ」
……
…………
………………
「おおお、すげぇ! ファンタジーの酒場じゃん!」
「テンション上がるね! 食事も美味しいらしくて、前から気になってたんだよね」
中世ヨーロッパの酒場を模した薄暗い店内を、天井や壁のレトロなランプたちが、暖かいオレンジの光で彩っている。異国情緒溢れる軽快なケルト音楽は、古楽器や民族楽器による生演奏だ。バーカウンターの梁からは様々な食材が吊り下げられ、個性豊かなボトルがずらりと並んだバックバーは、壮観の一言に尽きる。
「このクオリティの高さよ……」
「やっぱ男はこういうの好きだよね」
「たまらんなー。この空気感はVRでは味わえないな……」
「だね~。なんだろう……やっぱ匂いかな?」
「リアルの匂いは全然違うよな。あとは、本当に食事を楽しむ人たちの喧騒と……肌に感じる温度かな」
「わかりみしかない」
「めっちゃイイ匂いする。腹減ってきた」
「なに頼む?」
「んー……おっ、すげぇ、ジビエ料理あるぜ」
「やっぱ肉だよね」
「肉だな」
「じゃあこれと~、うわ、コテージパイ美味しそう」
「じゃあそれも」
「サラダも食べたいなー」
「飲み物どうする?」
……
…………
………………
「あれが楽園か……俺たちの理想郷はこの街にあった」
「料理やばかったね。めっちゃ美味しかった」
「また行きたい。てか絶対行く」
「あはは、次は誰連れてくの?」
「いやお前以外の誰と行くんだよ」
「………………」
「……別に嫌ならいいけど」
「いや、嬉しいよ」
そう。ちょっと頭が爆発しただけ。
「この後はどうする? もう解散する?」
「んー…………」
足を止めて腕を組み、僅かに上げた顎に手を当てて考え込む楽郎の目が、俺を注視する。自然と見下される格好になっているのに、不思議と嫌じゃない。
楽郎の、口元に当てていた手の人差し指が、つ、と下唇をなぞる。思わず俺の視線がそこに流れる。
「ま、それでもいいかもな」
「…………」
「慧はどうする? まだどっか行きたいとこある?」
自分の本名にドキッとした。
「うーん……めちゃくちゃ楽しかったし、まだまだ遊びたいんだけど……結構疲れたし、そろそろ家で落ち着きたいかな」
「そっか。じゃあ帰るか」
「うん」
今日のデー……お出かけ、やばかったな。これ俺大勝利でしょ。他の友達と遊びに行って、ここまで本気で楽しめることないわ俺。どこ行っても頭ではゲームのこと考えてるし、新しい攻略法思いついたらソッコー家帰って試したくなるし。
今日俺、自分のゲームのこと一切考えてなかった。ただひたすらに
「じゃ。今日は誘ってくれてありがとな」
「こっちこそありがとう。超楽しかった」
「うん、俺も。気をつけて帰れよ」
「あ~それなんだけど」
「ん?」
「悪いけど、家まで送ってもらってもいいかな?」
帰すわけないだろ。