試合後はテレビやネットニュース、雑誌の様々なインタビューを受けたり、動画サイトで生配信を行ったりと、慌ただしく過ごし、部屋に戻った頃にはすでに夜中になっていた。
ケンは残念ながらセミファイナルで負けてしまい、シルヴィは当然優勝したらしいが、そういえば、俺に宣戦布告してきたあいつは今日の舞台にはいなかったな……なんだったんだ。
浴槽に湯を張る間、ベッドで体を休ませながら携帯端末を開く。
鉛筆騎士王:ねえ? なんでヤツの本名叫んだの?? ねえ??? なんで????
…………うん、気のせいだな。
サンラク:見たよ笑
オイカッツォ:やめて恥ずかしい
サンラク:笑顔で強引に誤魔化してたな
オイカッツォ:現実世界では笑顔武装が最強だから
サンラク:優勝おめでとう。マジで凄かった
オイカッツォ:ありがとう!
オイカッツォ:ま、俺ほどの運命力があれば死亡フラグにも勝てちゃうんだよねぇ
サンラク:お前、どっちかっつーと必然力の持ち主だろ
オイカッツォ:必然力も運命力も備えてるとか……俺、最強すぎない?
サンラク:実際に世界大会で優勝してるからただの格好良いやつになってるぞ
オイカッツォ:え、かっこよかった?
サンラク:どちゃくそ格好良かったし、さらに惚れ直した
俺は跳ね起きてベッドの上に立ち上がり、携帯端末を頭上に掲げた。
「よっっっしゃあ!! 俺よくやった!! 見た!? あの楽郎が惚れ直したって!! この俺に!! 見た!?!?」
…………誰も見てねえっつの。夜中に一人でなにやってんだ俺。はしゃぐな。
平静を取り戻して寝そべるが、ニヤニヤが止まらない。
オイカッツォ:やったぜ
サンラク:明日帰ってくるんだよな?
オイカッツォ:うん
サンラク:明日でいいから時間とか詳細送っといて
オイカッツォ:了
明日は自由日になっていて、他のメンバーがラスベガスで遊ぶために残る中、俺だけは早々にここを出て帰国する。俺の自由日は、楽郎と過ごすためだけに存在しているのだ。
サンラク:そっち夜中だよな? 明日何時に出んの?
オイカッツォ:2時
サンラク:はっや! え、寝る時間ある?
オイカッツォ:ないよ。のんびり風呂入ったら、チェックアウトの準備して出発
サンラク:大丈夫かそれ?
オイカッツォ:どっかで寝落ちして帰って来なかったらごめん
サンラク:やっぱ空港まで行くわ
オイカッツォ:え、冗談だよ。大丈夫!
サンラク:いいから。待ち合わせ場所も送っといて
え、空港で楽郎に会えるの? マジで? やった!
俺は楽郎に詳細を送り、入浴の準備を済ませる。もちろん下心込みの準備だ。夕食も抜いている。
若干足元がふらつくような気がしないでもないけど……う~ん……気のせいだな!
……
…………
………………
翌朝五時の飛行機に乗り、ロサンゼルスまで約一時間。ロサンゼルスで成田空港行きの飛行機が来るまで待機。
ゲート前、エアコン効きすぎてさっむ! 大会期間中、チームユニフォームと共にずっと着ていた
あと、暇な時間ができると腹が減りすぎてヤバい。腹の虫が鳴かない程度に何か入れるか……?
やっと成田空港行きの飛行機が来て、あとはほぼ爆睡、約十二時間かけて無事成田空港に到着。
あー……時差ぼけしんどい……。
到着手続きを済ませて荷物を回収し、税関を通って出口へと向かうと、出口の待ち合わせ場所で腕を組んで立ち、出て行った人たちの背中を見遣る楽郎の姿が目に入る。
出迎える大勢の人の中で、誰よりも異彩と光輝を放っていて、一瞬で分かった。
楽郎だ!! 本当にいる!! あれっ? あんなカッコよかったっけ??? ああああ目が合ってニコッてした! かわいっっ!!
こちらに目を向けた楽郎の方も、到着客の中から瞬時に俺を認識して、嬉しくなる。
俺はスーツケースを引きながら楽郎に駆け寄ると、飛び付く寸前でぐっと
「ハハハ、ぴょんぴょんしとる」
「……飛び付くの我慢したらこうなった」
「可愛すぎか。……おかえり」
「ううう……ただいまぁぁぁ」
感動に打ち震える俺を、楽郎がまじまじと眺める。
「すげぇ……生の魚臣慧だ。いつもテレビや雑誌で見てます。めっちゃイケメンですね。握手お願いします」
「生の陽務楽郎様ぁぁ……貴方様の
「……俺のファン、キャラ濃すぎない?」
楽郎と両手で握手を交わす。
おてて温かい……笑顔の破壊力やば……。あ~~俺の推し様が尊すぎて死んじゃう~~南無三。
「優勝おめでとう。スーツケース持つよ」
「ありがと……え、優しっ……神かな?」
「いや、普通だろ……」
「今なら、何やっても楽郎の好感度爆上がりだよ」
「マジで。じゃあここでキスしていい?」
「うん……っ!」
「マジだ。即答かよ、ハハハハ」
「あれ? しないの?」
「するわけないだろ」
「そういうとこも好き……」
「してもしなくても喜ぶのか……」
「俺、楽郎になら拐われてもいい……いや、むしろ拐われたい」
「ああ、試合中のやつか。水瓶座のモデル。あれよく分かったな、俺調べたわ」
「以前、それに例えられながらお偉いさんのお酌をしたことがあってね……」
「……お前も苦労してんな……」
怒るかと思ったけど、なぜか同情された。俺の目が死んでるからかな?
ずっとふわふわとした気持ちで電車に揺られ、乗り換えのために都内の駅を歩いていた俺は、駅構内のトイレが視界に入って脳裏に浮かんだことを、なんの気なしに楽郎に訊ねてしまった。
「ねえ、俺のチンコって綺麗?」
「は!? ……ああ」
俺の突拍子もない質問に一瞬驚いたあと、楽郎の表情が曇ったのが気になったが、すぐに答えてくれた。
「確かに、色素薄くて、色も形も綺麗だよ。大きさも申し分無いしな。俺が初めての時に抵抗なく咥えたのも、お前のがめちゃくちゃ綺麗に見えたからだし」
「マジか……なるほど……」
「で? 誰に言われたんだ?」
「エッ!?」
自分のやらかしを悟って血の気が引いた。電話の時にあえて説明から省いていたのに。
「いや……そういうんじゃなくて……ただ、なんとなく気になっただけで……」
「誰に、言われたんだ?」
迫力ある笑みで俺の顔を覗き込む楽郎から目を逸らしつつ、そわそわとユニフォームパーカーのポケットに両手を突っ込むと、右手の指先に何かが触れ、カサッと音を立てた。これ幸いと、話をはぐらかすように、それを取り出して確認する。
「……あ……」
なんで? 嘘だろ……いつの間に? ……もしかして、あのハグの時か?
俺が
「あっ、ちょ……」
「改崎……ふーん」
「あの、それは……」
「この連絡先、もう登録したのか?」
「いや、今初めて見たから……」
楽郎は、改崎さんの手書きの連絡先を片手でくしゃっと握り潰すと、自分のポケットに突っ込んでしまった。
「ないと困る連絡先か?」
「……いや……」
「なら、問題ないな」
「うん……」
「なんだ?」
「え?」
「言いたいことがあるなら言えよ」
「え……何もないよ」
「………………」
返答を間違えたとも思えないが、俺の何かが楽郎の気に障ってしまったらしい。
楽郎は俺の腕を掴むと大股でずんずん歩いて行き、駅の公衆トイレに入った。トイレには誰もいない。楽郎は、一番奥の個室の手前にスーツケースを置き、個室の中に俺を押し込んでドアを閉め、鍵をかけた。
俺は抵抗もせず、ただ身を竦める。
「そいつにお前のを見せたのか」
「……トイレの時に横からチラッと覗かれただけだよ。別に珍しいことじゃないでしょ」
「俺は覗かれたことない」
「えっ……」
俺、昔から結構見られるんだけど。他人のものが気になる人もいるんだなー、くらいにしか思っていなかった。
あれ? 俺だけなの? 嘘でしょ?
「誰から見ても慧が魅力的なのがムカつく。いっその事、マジで拐ってどっかに監禁してやろうか?」
楽郎が指で俺の口を抉じ開け、舌を捩じ込んでくる。
「ぁん……んぅん……」
乱暴なキスに興奮して勃ってきた。
「お前、あの改崎って男にまんざらでもないだろ」
「そんなこと……あっ、痛ッ……うう……」
首筋に強く噛み付かれて身悶える。先走りが下着を濡らしていく。
「自分の勘の鋭さにこれほど嫌悪する瞬間もないな……」
楽郎は自嘲気味に笑うと、鋭い眼差しで俺を捉えた。
「お前は誰のものだ?」
「……楽郎のものです……」
楽郎は自身のベルトを外してファスナーを下ろし、雄々しく天を衝くものを
「咥えろよ」
「はい……」
楽郎の足元にしゃがみ込み、咥えようと口を開いたところで、楽郎が俺の後頭部を掴んで一気に喉奥まで挿入してきた。
「んゴェッ……! ヴグッ……ヴゥッ……」
思わず声を漏らしながら見上げると、完全に目の据わった楽郎が俺を見下ろしていた。
ああ、やばい……その視線だけでイッてしまう……。
俺は恍惚として楽郎の目を見つめたまま、一方的に口腔と喉を犯され続け、楽郎の射精と同時に絶頂に達した。楽郎の精液を一滴残らず飲み干す。下着の中に、数日分の精液がドクドクと溢れ出した。
「ハァ、ハァ、ハァ」
個室の壁にもたれて息をつく楽郎に抱き着き、キスをして舌を絡ませる。
あ……俺今、精液くさいかな……。俺は、楽郎が俺の精液匂わせてたら興奮するけど、楽郎はどうなんだろ? 前にお掃除キスしてくれたから、嫌ではないと思うけど……。
トイレに人が入ってくる気配がして、楽郎の意識が一瞬逸れた。俺は構わず舌を絡ませ続ける。他人の排尿音に耳を澄ませながらキスをするなんて、変な気分だ。
トイレから出て行く気配にホッとしたところで、入れ違いにまた一人入ってきて、さらにもう一人入ってくる。
あれ、これ出られなくなるやつじゃない?
キスを
精液でベトベトになったボクサーパンツを見た楽郎の物言いたげな視線に、もじもじと照れてしまう。
楽郎は俺の唇に一度キスをすると、足元にしゃがんで精液まみれのものを舐めだした。射精のあとで敏感になっているため、全身がビクビクと反応する。楽郎は、根本まで深く咥えると、唇で締め付けながら吸い付くようにしごき、尿道に溜まった精液を搾り取っていく。
「はっ……」
声が出そうになり、慌ててパーカーの袖で口元を押さえた。
「ふっ……ふぅ……んっ……」
この吐息すら個室の外に漏れていそうで、背徳感にドキドキする。
俺の精液を全て舐め取ると、楽郎はさらに下着の濡れた部分を口に含み、上目遣いで俺の目を見据えながら、付着した精液を吸い始めた。ちゅくちゅくと情欲を煽る微かな音が耳に流れ込んでくる。
楽郎の、狂おしいほどの愛執の念が、電撃のように痺れを伴って俺の全身を貫いた。
たまらずその頬を両手で包み込んで屈み、唾液と精液に濡れた唇にくちづけをした。
「楽郎……愛してる……」
俺だけを映す双眸を見つめながら囁くと、楽郎が立ち上がって、俺を強く抱き竦めた。首元にぐりぐりと顔を擦り付けてくる楽郎の髪を、愛でるように撫でる。肩の辺りが徐々に湿り気を帯びて、じんわりと熱くなった。耳元で、鼻をすする音が聞こえる。
こんなに不安にさせちゃってたんだな……
「俺はずっと楽郎のものだよ……」
俺の囁きに、楽郎は無言で頷いた。
しばらくそうしているうちに、トイレから人の気配がなくなり、楽郎の様子も落ち着いてきた。俺は楽郎の頭をトントンと優しく叩いて促す。
「……出よっか?」
「……ん……」
俺たちは身支度を整え、洗面台で口や顔を洗ってから、駅に出た。
「着替えがあってよかったマジで……」
「ズボンまで濡れてたもんな……」
「量やばかったねー。あのまま帰るとか拷問だよ」
「あっちで抜いてなかったの?」
「抜く暇あったら試合の調整したいしね」
「成る程……」
「家帰ったら洗濯してシャワーだなー。あ、楽郎も一緒に入る?」
「うん」
「じゃあ、お風呂沸かそう」
電車に乗って最寄り駅まで移動し、改札口を出て、自宅マンションへと向かう。
「そういえば、ホテルのお風呂に入るたびに楽郎と一緒に入りたいと思ったなー。絶対に楽しいのに、って」
「確かに」
「来年は楽郎も大会に参加しない? 部屋を一緒にしてさ」
「それは本気で検討したい……けど、うざくないか?」
「え、なにが?」
「俺が海外にまでついてくの」
「なんで??」
「……見張られてる気にならない?」
その一言が、何か得体の知れないスイッチを押した。気が付けば、俺を気遣ってくれる楽郎の言葉を、俺は一笑に付していた。
「俺に、一体何人の
「おい、大丈夫か……?」
「なにが?」
「……………………」
どうして、そんな痛々しいものを見る目を俺に向けるんだ?
楽郎が、俺の手を握り締めた。
その熱が伝わり、体の力が抜けて初めて、自分の手が震えていたことを知る。楽郎は、そのまま何も言わずに俺の手を引いて歩き出した。後ろ姿が、とても大きく見える。この背中に守られていれば、俺は何の心配もないとさえ思えてしまう。
これまでの人生で、どれだけ多くの人に囲まれていても決して開かれることのなかった孤独の檻を、無理やりに抉じ開けて隙間から這入り込み、この首を繋ぐ鎖を引き千切って俺を連れ出してくれたのは、楽郎だ。
たとえ、その鎖を楽郎が掴んで離さなくても、構わない。俺が暗闇に囚われるたびに、鉄枷を手繰り寄せて救い出してくれるから。邪道でもいい。助ける方法が正道である必要なんてどこにもない。
楽郎は俺にとって、たった一人の
けれど俺は、俺の英雄を、孤高の存在にはしたくない。
確かな熱を帯びた救いの手を、力強く握り返すと、俺は楽郎と肩を並べて歩き出した。