瑠美ちゃんがいるため、日付が変わる前に俺の部屋を片付けてシルヴィの部屋へと移動していった女子一行を見送り、楽郎とシャワーを浴びた俺は、フラフラとベッドに倒れ込んだ。
「んあぁぁ~……」
「おやすみ」
「……寝ないよ」
「なんでだよ。寝不足の上に酒も入ってんだから、大人しく寝てろ」
「それ以上にヤリたいから無理」
「あっ、こら……!」
楽郎のボトムスを下げ、本人の理性に反して剥き出しの本能を掲げる分身を、根元から舐め上げる。
「うっ……」
俺は咥えることなく、舌と唇を使って焦らしに焦らしたあとで、顔を上げた。
「……楽郎がどうしてもやめて欲しいならやめるけど、どうする?」
「……お前、それはずるいだろう……」
「続けてもいいってことだね。このまま咥えて欲しい? それとも、中に挿れる?」
「…………咥えて」
「おっけ」
散々焦らした分、咥えてからは早かった。俺は楽郎の精液を全て吸い出し、飲み尽くす。
最初の頃はあんなに苦しくて辛かったのに、今では喉奥に挿入して根元まで咥え込み、口腔と舌と喉を使ってしっかりしごけるまでになった。条件が揃えば俺自身、フェラの刺激だけでイクこともできるし、そうそう吐き気を感じることもない。
よもや、咥えるのがこんなに好きになろうとは……。そもそも、俺が男を好きになること自体、去年までは予想だにしなかった。
ミネラルウォーターを流し込みながら、額に腕を乗せて脱力している楽郎に目を向けると、すでにボトムスを上げてしまっている。
一度寝ないとマジでヤラせてくんないかもな……こんな時にまで俺の体調を気遣う必要ないのに。つーか、こんなムラムラした状態で眠れるわけないだろう。ただ、それを伝えたところで抜くだけで済ませられるのがオチだし。どうすっかなぁ~……。
「……楽郎ってさ、前は俺のこと、単なる毒舌腹黒鬼畜生としか思ってなかったよね?」
「……それは今でも思ってるが」
「おい」
「……でもそれって、勝利への徹底的な努力に裏打ちされたプライドの高さがあるからだろ? 極度の負けず嫌いで、自分にも他人にもシビアっていうか……。しかも無駄に完璧主義で、人に弱み見せたがらないクセに自分自身は平気で追い込むから、余計にストレス溜め込んで攻撃的になるんじゃねぇの?」
思いの外俺のことを理解している楽郎に、何も言えなくなってしまう。
「ペンシルゴンの奴はまだ享楽を伴って発散してるからいいが、お前の攻撃性はなんつーか……ちょっと危ういよな」
「……いつからそんな風に思うようになったの?」
「んー、リアルで顔を合わせるようになってからだな……実際に会うとアバターだけの時よりも情報量が増えて、勘も働きやすくなるし。前から興味深くはあったけど……」
「君、探偵とか刑事やれば?」
「もっと楽に稼げる仕事がいい」
「ふーん。ま、楽郎なら何やっても上手くいくか。で、興味深いってのは、なんで?」
楽郎は額に腕を乗せて目を閉じたまま、笑みをこぼした。
「ベルセルク・オンラインで、俺が何度完膚なきまでに叩きのめしたと思ってんだよ……その度に、悪態吐きながら努力を積み重ねて這い上がってきやがって。あんなクソゲーのために、そこまで必死になるか、普通?? 諦めろよ。……なのに、どんどん強くなっていって、最終的に全ッ然勝てなくなって、最強の座にまで昇り詰めるし。過疎クソゲーの王者だけどな」
「うっせ」
「……格好良すぎんだろ。少年漫画の主人公かよ」
「………………」
「そっから、コンビニとかで魚臣慧の文字や写真が目に入るたびに雑誌立ち読みしたり、魔境覗くのが習慣になったり……。煽る材料にしてるつもりでいたけど、まあ、今思えばただのファンだな」
「……信じられない」
楽郎が俺のファン? まさか。
「俺も信じられん。……でも、慧を襲ったって知った時は、俺マジでやっちまったと思って……」
「それ、もろに魔境の影響じゃない?」
「どうかな……」
気が付けば楽郎の顔から笑みが消え、ぼんやりと天井を見つめている。
「さっきも言ったけど、お前ちょっと危ういところがあるから……襲われたのに、俺との関係を続けようとしてるこいつのメンタルどうなってんだって……。その日は何もせずに帰ろうとも思ったんだが、慧の反応を確かめておきたくて、帰らなかった」
「それ、俺が二度目を誘った日だよね?」
「そう。慧の反応次第じゃ、二度と会わない方がいいんじゃねーかなって。泊まるってなってからも、しばらくは様子見してたけど、そのうち慧が積極的になってきて、……途中から俺も理性が飛んだ……ごめん」
「えっ! あれ、最初の方は緊張してたり、焦らしてたんじゃなかったの!?」
「ええ……そりゃ緊張はしてたけど、流石に自分が襲ったって分かった相手をその日の内に焦らせるほど図々しくはないぞ、俺……。ソッコー性欲に負けといて言うのもなんだが……」
マジかよ……。
楽郎は上体を起こすと、片膝を立てて座った。俯く顔に
「……正直、今でもたまに思う時がある。もしかしたら慧は、俺に襲われたショックを上書きして自尊心を守るために、自分から俺を求めてると思い込もうとしてんじゃねぇかって。……そう思いつつも、関係を終わらせたくなくて、拒否られないのを良いことに付け込んでたんだよ、俺は……最低だろ?」
「何言ってんだよ!!」
声を荒らげながら、俺は楽郎の両頬を片手で掴んで無理やりこちらに向かせていた。
「あの日性欲に負けたのは俺も同じなんだよ! 確かに最初はドン引きしたし楽郎も強引だったけど、途中から明らかに触れ方が優しくなってた。その時点で拒絶しようと思えばいくらでもできたのに、射精するまで続けたのは俺の意思だ!」
自分でも一体何を力説しているのかと情けなくなってくるが、楽郎を自責の念に囚われたままにしておくわけにはいかない。
楽郎に植え付けられた罪の意識は、よほど根深く
今の今まで、おくびにも出さず独りで抱え込みやがって、馬鹿かこいつ!!
俺の本心を探るように見つめるその瞳を正視しながら、言葉を続けた。
「いいか、よく聞け。……俺は性欲が強い」
クソッ……なんて間抜けな告白だ。なんで俺がこんなことを言わなくちゃいけないんだ!
目を丸くする楽郎の胸を、怒りのままに人差し指で突きながら、それでも俺は声を上げ続ける。
「関係を持った次の日には思い出して発情していたし、異性モノを
俺が語気鋭く
僅かな静寂のあと、その双眸が見る間に潤んで揺れる。
「ふっ……ふふははははは……っ!」
泣くのかと思いきや、楽郎は腹を抱え、大粒の涙を降らせながら、声を立てて笑いだした。
俺はあぐらを組んで片肘をつくと、眉根を寄せたまま、そっぽを向く。
「ったく、俺に恥をかかせやがって……」
「格好良いにも程がある……っ! まさか、こんなに堂々とヤリ目宣言されて喜ぶ日が来るとは……ハハハハハハハッ!!」
「ふん」
どこが格好良いんだよ。ただ俺の卑俗さを曝しただけだろうが。
顔を
「!? ンンンッ!」
パッと唇が離れ、やたらとキラッキラした少年のような瞳と目が合う。
「慧ってダークヒーローみたいだな!」
「はっ?」
……何言ってんのコイツ。
「ヒーローは君でしょ……」
「はっ? 俺? なんで?」
「……俺にとってのヒーローは楽郎なの」
「……え、どの辺が?」
「んー…………」
そうだな、例えば……
迫る魔の手から守ってくれたところとか、
願望を見抜いて応えてくれるところとか、
困ったらすぐに助けてくれるところとか、
自分より俺を優先してしまうところとか、
いつも心を救い上げてくれるところとか、
愛を与えて幸せにしてくれるところとか。
「…………教えない」
「なんでだよ」
「それよりセックスしようぜ」
「情緒もクソもねぇな……」
ハァ、仕方ないな……。
俺は仰向けになったまま顔を逸らし、恥じらいの表情で服を捲し上げて胸をちらりと見せると、流し目を楽郎に向け、人差し指の背を唇で
「……楽郎が欲しい……」
「くっ……」
胸元を押さえて悶える楽郎を見て、ほくそ笑む。
「単純な奴め」
「くっそぉ~……完全に手玉に取られてんなぁ……」
ペンシルゴンの言う通り、こいつあざとい言動やセックスアピールに弱いんだよな。
俺は体を起こすと膝立ちになり、見せつけるようにじっくりと服を脱いで全裸になる。
音を立てて楽郎の唇を味わいながら服を脱がし、いやらしい分泌液が浮き出しているものにくちづけをすると、おもむろに楽郎を押し倒して上に跨がった。
「俺が気持ち良くしてあげるよ……」
楽郎の熱い体に全身を這わせ、産毛だけを撫でるような繊細な愛撫を続けつつ、色んなキスを楽しむ。下半身を優しく擦り合わせながら何度も視線を交わして見つめ合い、耳元で吐息を漏らして興奮を伝えた。
次第に楽郎の反応が熱を帯び、呻くようなよがり声を漏らし始め、これから、というところで、俺を抱えたまま寝返りを打つようにして、楽郎が上になってしまった。
「……もう我慢できなくなったの?」
「慧が欲しい」
くっ……。手玉に取っているのは君だろう。無自覚の天然たらし野郎が……。
俺は、楽郎の深く貪るようなキスに陶酔しながら腰を動かした。
「ハァッ……慧の中に入りたい……!」
「いいよ……」
楽郎はコンドームの袋を咥え、ローションを捩じ込んで俺の穴を
「ごめん、ちょっと手加減できないかも」
「……おいで……」
入り口に、楽郎のものが何度か強く押し付けられる。
あ、来る……っ!
自分で解してから時間が経って締まりかけていた穴が、強制的に拡張され、かつてないほど膨張してデカくなった楽郎の分身が、俺の奥深くまで一気に押し拡げていく。
「うぅ~っ、ぐはあぁ、スゲェ……ッ! アッアッアッあ゛ぁ~、ゔぅうぅ~ゔあぁあぁ~アグッゔぅうぅぅ~おあ゛ァアァア~ゔぐぅうぅうぅ~!」
初っぱなから容赦なくガン突きされ、獣のような咆哮が腹の底から間断なく湧き上がった。いつも汗だくになるのは楽郎の方なのに、五分もしないうちに俺の全身から汗が噴き出してびしょ濡れになる。
グプッグプッグポッグポッと空気の漏れ出る音が体内から響き渡り、ミチッニチャッという粘膜の湿った音と共に俺の耳と脳を犯していく。
頭がクラクラしているのに歯を食い縛り、ベッドのシーツを手繰り寄せて拳を握り締めながら
「ッゔはぁあぁ~キモチイィイィ! ゔぅあぁあぁあ~イグゥイグゥオアッアアッアアア────ッ!! おっあっあっあぁあぁあッゔぐぅ~ッんぐぅ~ッオアァアァアッ──!! ハッハッハッはあぁあぁあッゔゔぅぅぅ~!」
俺が渾身の力で果てても楽郎は止まることなく、凄い勢いでバンバン打ち当ててくる。要求を言葉に出すこともできずにひたすら吼え続ける俺の体を、楽郎はがっちりホールドしながら喘いだ。
「ハッハッアッアッううっ、アァアッ」
加速したピストンの物凄い掘り込みに、俺が合わせて締めるまでもなく、何度もイカされ続けて精液を漏らしながら、勝手に穴が締まる。時たま記憶が飛ぶことから、恐らく、ごく短時間の失神を繰り返しているのだろうが、俺の
「うおぉ、あぁあ~、スゲェ! 慧のケツマンコたまんねぇ! あ゛~イクッイクッ出るッ……! ゔおぉッ──!! くはぁ──ッ!! アァアッ──!!」
繰り返し精液を放出する楽郎の脈動で俺もイキ続け、締め付ける内腔がさらに精を搾り取る。
全てを出し尽くして俺に覆い被さる楽郎を、しっかりと受け止めた。俺の精液と潮と二人分の汗でびっちゃびちゃだが、タオルで拭い取る気力すら残っていない。
俺たちは一つになったまま、互いの鼓動と息遣いを感じながら、ただ、脳が溶けるような気怠い余韻に忘我の時を過ごした。
……
…………
………………
ベランダに出て風に当たりながら、夜明け前の清爽な空気を吸い込む。
「慧」
掃き出し窓が開く音と共に、楽郎の声が俺の名を呼んだ。
「トイレに起きたら居ないから、探したわ。こんな暗いうちから何してんの?」
「ちょっと外の空気吸ってた」
「ふぅん……」
楽郎が俺の足元を見る。ベランダはタイル張りで、俺は部屋のスリッパで外へ出ている。
「そのスリッパのままでいいよ」
「了。……結構風あるな」
「まあ、超高層階だしね」
「前から思ってたけど、ベランダ何も置かないの?」
「風強い日は普通に飛んでくから置けないんだよ。だからサンダルもないし、洗濯物も干せないから、いつも俺、乾燥機使うかドライルームで部屋干ししてるでしょ?」
「成る程な。……てか、まだ声掠れてんな」
「ははは……ちょっと叫び過ぎたね」
「無理させてごめん……」
「無理はしてない。犯されてる気分で最高だったよ」
「マジかよ……エロ」
「フフッ……」
楽郎が、うっすらと白み始めた空を見ながら、深く息を吸って、吐いた。
「……確かに、めちゃくちゃ気持ちいいな」
「でしょ。俺、夏はこの時間帯が一番好きなんだよね」
夏場のうだるような暑さははっきり言って苦痛でしかないが、今の時間帯だけは別だ。大都会が覚醒する前の
夏の徹夜明けにはよく、コーヒー片手にこうしてベランダに出て、陽が昇るまでぼんやりと過ごしている。
「なんかさぁ……夏の夜明けって、慧っぽいよな」
「……ん? どういう意味?」
「ん~、なんつーか、夏の都会のど真ん中に居るはずなのに、綺麗で、静かで、爽やかで……でもちゃんと夏の匂いがするだろ」
「……それが俺っぽいってこと?」
「うん」
主観的な説明は相変わらずだが、悪い気はしない。
「ふ~ん……」
頬が緩んでにやにやする俺を、楽郎が照れた顔で睨む。
「……なんだよ」
その顔が無性に可愛くて、くすりと笑ってしまう。俺は楽郎の頭をよしよしと撫でた。
「……また子供扱いしてないか?」
「ふふ、まさか。犬扱いだよ」
「まさかの格下げ!?」
そう言いつつも、手を振り払わず受け入れてくれるから、俺はそのまま撫で続ける。
「……楽郎ってさ、俺の恋人も、ヒーローも、ご主人様も、友人も、カウンセラーも、ペットも……全部一人で担ってくれるから、俺はどんどん楽郎だけに傾斜を深めていっちゃうよ。そのうち、重くて耐えきれなくなるんじゃない?」
「……それは俺のセリフ」
「あはは、二人とも重いんじゃ、どこまでも沈んでいくしかないね」
「俺は慧と一緒なら、どんな暗闇に堕ちても生きていける自信があるぞ」
「……いちいち格好良いんだよ、君は」
頭に手を添えたまま苦笑する俺を、楽郎が抱き寄せた。
「慧、愛してる」
「知ってる……俺も愛してるよ、楽郎」
楽郎が喜色を満面に湛えて見つめてくるから、俺も自然と笑みがこぼれる。可愛い恋人の髪を後頭部に梳かし撫で、そのまま顔を引き寄せて、くちづけを交わした。
瑠璃色の空に
この儚い時間は、あっという間に過ぎ去ってしまう。陽の光に暖められ、徐々に匂いの変わっていく空気を、もう一度胸いっぱいに吸い込んだ。
体内を巡る酸素のように。
沈めば昇る太陽のように。
当たり前の……けれど、なくてはならない存在として、これからも楽郎の隣に在り続けたい。
第二章、完結。