我々が所属するSp
設立当初の任務は枢軸国の支配下にあったヨーロッパ各地における諜報活動、特殊偵察および不正規戦争の展開などであった。
SOEの組織構造は戦争を通じて変化し続け──
「要約」
「表向きは解散したとされているけど、裏で超法規的組織として存続していた英国の特殊作戦執行部、通称SOE。僕たちはその組織のエージェント」
「成る程」
「今回の任務は西アフリカでのボランティア活動中に反政府組織に拉致された英国ロイヤルファミリーのお姫様を奪還すること」
「把握した」
俺たちは共に任務に当たる
夕日の差す街を行き交う人々はほとんどがアフリカ人で、ハーフパンツやアフリカらしい原色カラーの模様が特徴的な巻きスカート、古着のTシャツやタンクトップなど、皆ラフな服装をしている。ヤツデのような葉っぱを山盛りに積んだ大きな籠や大量のプラスチック容器を頭上に乗せて歩く女たちの姿も見られる。
建物はどれも古く傷んでおり、道のあちらこちらにゴミが散乱していて、とても清潔とは言い難い。信号のない道路では中古の日本車が走り回り、時折渋滞を起こしている。
英国王室の長子であり、第一位王位継承者のミラ王女は、この街で拉致された。
「何で軍を派遣しないんだ?」
「彼女が暴行を受けている可能性を考慮したら、大々的な救出作戦は決行できないんじゃない?」
「え、でもそれって犯行声明出されたら終わりじゃね?」
「そう。要するに、犯行声明が出て正式に軍が派遣される前になんとかするのが、僕たちのお仕事ってわけ」
「いつ声明出るかも分かんねーのに、無茶苦茶やぞ……」
「その代わり、任務遂行に必要な行動なら、大抵のことは超法規的措置として容認されるみたいだね」
「ほぉ~」
現地に合わせたカジュアルな衣服の中に、鍛え上げられたしなやかな肉体を隠し持つ栗色短髪の男は、その精悍な顔に不敵な笑みを浮かべた。
「こっちも無茶苦茶やってイイってわけだ」
「アナーキーな君にはピッタリの設定だね」
「早速その車盗もうぜ」
路上駐車されている車へと無造作に近付く
「いやラジカル思想が過ぎる!! 隠密裏に事を進めようという気はないのか!」
「あん? 今の流れだと当然こうするだろ」
するかよ! 街のど真ん中だぞ!?
ここ一年ほどでシャンフロシステムを用いたゲームは様々なジャンルで開発されており、俺たちが今プレイしている〝
「下手に行動を起こせば、クリアの難易度が跳ね上がる可能性もある。勝手が分からないうちは慎重になるべきだ」
「お前はロジカル思考が過ぎるんだよ。和気藹々って言葉の意味、ちゃんと理解してますぅ~?」
「ハッ! 戦闘関連にリソース割きすぎて他全部処理落ちしてるような男にだけは言われたくないね」
「……お兄さん……」
「言ってくれるじゃねーか。今すぐお前をぶっ倒して俺一人でもクリアできるってことを証明してやってもいいんだぞ? おん?」
「詰むに決まってんだろ。何のためのバディ設定だと思ってんの? あぁ、カフェインの過剰摂取でラリってて分かんないかぁ~」
「……お兄さん」
「んだと? やんのかてめぇコラーッ!!」
「かかってこいや脳みそ筋肉野郎ーッ!!」
「お兄さ……うぅ……」
「……うん?」
その頭にはおもちゃのティアラが乗っている。シミだらけで所々虫食い穴の空いた女児用肌着をトップスにしている少女の格好に対して、なんとも不釣り合いに見える。
俺と
「お嬢さん、それ可愛いね。とっても似合ってるよ」
文字通り襟を正した俺が笑顔で話し掛けると、少女は照れたように笑った。
「さっきもらった……。これをつけてたら、ブロンドの髪で眼鏡をかけた白人のお兄さんが、魚を買ってくれるって……」
決まりだな。ブロンドの髪で眼鏡をかけた白人のセクシーなお兄さんとは、俺の事だ。
「魚って?」
少女が指差したのは、屋外に立てた木の柱にトタン屋根をくっつけただけの簡素な露店だ。すぐそばに広がる茶色い海で捕れたらしき雑多な魚が、クーラボックスにゴチャッと詰め込まれている。
へぇ。結構立派な魚もあるじゃん。黒いけど、形からして
「お姉さん、この魚なに?」
「サーモン」
絶対違うじゃん。なんで嘘つくの?
もしかして、暗号か何かか……?
「いやどう見ても
腕組みをした
君も魚詳しいネタぶっ込んで来なくていいよ。
よくよく聞いてみれば、他の魚も全部サーモンとして売っている。魚の種類など気にする人はいないのだろう。考えるだけ無駄なようだ。
少女は
「手書きの地図か」
「次の目的地だね」
夕日も沈んで辺りがすっかり暗くなった頃、地図に記された建物に到着した。チカチカと切れかけの白色灯が照らす看板には
「情報屋と会う感じか」
「だね。それか案内人」
店内に入り、バーカウンターの端の席に腰掛けると、隣に
「マスター、一番人気の酒は?」
「これだね」
マスターがカウンターにビール瓶を二本置く。緑色の瓶に貼られた青いラベルには、星マークとSTARの文字、その下にはラガービールと表記されている。
「シエラレオネで製造されたビールさ」
「へえ!」
「……この国には来たばかりかい?」
「何故そう思う?」
「シエラレオネでビールを頼めばほぼ確実にこいつが提供されるし、どこにでも置いてあるからね。知らないのはここに来て日が浅い観光客くらいなもんさ」
「成る程な」
俺の容姿はここではかなり目立つようなので、目印としてこのままカウンターの隅で相手からの接触を待つ。
一人で飲んでいると、後ろから騒々しい喚き声が聞こえてきた。さっきまで楽しそうに酒を酌み交わしていた現地人と
何やってんだあいつ……。
呆れて見ていると、俺の隣の席にスキンヘッドのマッチョなアフリカ人男性が腰掛けた。
「よう兄弟。楽しんでるか?」
「おかげさまで」
「この街はどうだ?」
「……ユニークな街だね。新鮮だよ」
「ハハハ、答えにくい質問だったな。あんたが嫌な目に遭っていなけりゃそれでいい。最近はまた不穏な空気が流れていやがるからな……」
「へえ……例えば?」
「……それはそうと……」
男は俺の全身を舐めるように見てきた。
俺もビール瓶を傾けながら横目で男を観察する。口元に髭を生やした、男くさい顔つきの渋いイケメンだ。姿勢がいい。軍人だろうか。
「あんた、俺の好みど真ん中だぜ」
「……そりゃどうも」
ただのアバターだけどね。
ちなみにキャラメイクシステムもあるが、今回のデモプレイでは二人ともデフォルトのアバターを使用している。
「お高くとまった気取り屋をヒィヒィ泣かせる瞬間ってたまんねぇよな? あんたもそう思わねぇか?」
……あれ? このゲームR指定どうなってたっけ?
「何が言いたい?」
「ハッハァ! イイねぇ、その目。興奮するぜ……」
「悪いけど、下らないナンパに付き合っている暇はない」
「まぁそう言うな。あんたなら〝お姫様〟みたいに扱ってやってもいいぜ?」
来た。
俺の顔を覗き込んで、にやける男を見る。おそらく、プレイヤーの性別に関係なくこのイベントは発生するのだろう。ゲーム内での同性婚システムが当たり前の時代だ。別に珍しいことでもない。こっちを見下しているのは明らかだし、自ら魔境に燃料を投下するようでいい気はしないが、イベントが進むのなら受け入れるしかない。
「……それは魅力的な提案だな」
「だろう? 俺と来るか?」
「服やアクセサリーのプレゼントは?」
男にだけ見えるように、銃のハンドサインを出す。
「好きなだけ」
「いいね」
俺たちは今のところ武器も装備もない状態だ。本部からの支給品があるのはありがたい。
「あの男、あんたのツレか?」
男は、まだ後ろで騒いでいるアホを視線で指す。
「……まさか。ツレに見える?」
男は俺と
「見えねぇな」
俺が満足げに頷いた直後、後頭部に鋭い衝撃を受けた。
「ぎゃんッ!! えっ? ちょ、HP削れたんだけど!?」
俺の後頭部に刺さってからぽろりと床に落ちた物を拾うと、フォークだった。こんなものを投擲してくるのはあいつしかいない。
なるほど。
文句を言ってやろうと振り返ると同時に、いつの間にかそばに来ていた
「そこは俺の席だ」
「……そいつは初耳だな。一体誰が決めた? 俺は常連だが、あんたがこの席に座っているのは今まで一度も見たことがない」
「俺が決めた。今日から俺の席だ」
「ハン、承諾できねぇな。椅子取りゲームでもするか?」
「上等だ。表に出ろ。丁度誰かをぶん殴りたくてうずうずしてたところだ。先にこの席に戻った方が勝ち。これでどうだ?」
「お手柔らかに頼むぜ……」
「お前次第だな」
「……あのさぁ、僕の頭刺す必要あった?」
「てめぇは黙ってろ。こっちは全部聞こえてんだよ」
えぇ……あんなに騒いでたのに?
自分の体より大きな男を引き摺っていく
「彼、ネームドだから殺さないでね」
一瞬動きを止めたものの、
テーブル席を見ると、店内はすでに元のさざめきを取り戻している。この程度の
………………
「悪かったなァ……アプローチの仕方を間違ったみてぇだ」
「いや、俺も勘違いして悪かった。お前仲間だったんだな」
「あんたらすげぇつえぇな!!」
「さっきのバトル熱かったぜ!!」
「二人とも軍人か!?」
めっちゃ打ち解けてるじゃん……殴り合いの喧嘩で仲良くなるとか漫画かよ。俺はナンパだったのに……。
……別に羨ましくなんかないんだからね!
それより
こっそり離れようと席を立とうとしたところで、腕を掴まれた。
「どこに行く?」
「……何か他にやっておくことはないかな、と思って」
「折角この席を勝ち取ったんだ。もう少し居ろよ」
「ん? 別に君はそこに座っとけばいいじゃん」
渋い黒人マッチョと
「……え、なに?」
「……こういう奴なんだよ」
「あんたも苦労してんだな……」
「分かってくれるか!」
「こういうタイプには一から十までご丁寧に口に出してやんなきゃなんないぜ」
「やっぱそうか……?」
ねぇなんかめっちゃ失礼な会話してない?
「でも全部口に出したらうざがられねぇか? 今よりもっと嫌われそうなんだが」
「そういうのは言い方ってもんが大事なんだ」
「ほう。詳しく聞かせてもらおうか」
「いいぜ。今夜は俺が奢ってやる。とことん飲もうじゃねぇか!」
「お前いい奴だな!!」
コイツら目的忘れてるだろ。
「じゃあ、僕は〝お姫様〟扱いしてくれる人を探しに行こうかな」
肩を組んで乾杯していた二人がピクリと反応したのを確認して席を立ち、カウンターに金を置く。
「マスター、ごちそうさま」
「行儀がいい客はいつでも歓迎だ」
店を出て少し歩いたところで、二人が慌てて追いかけてきた。
「おい待て! どこに行く気だ!」
「それはこっちが聞きたいね。僕たちをどこへ案内してくれるんだ?」
俺が問いかけると、渋マッチョは顎で方向を示した。
「車がある。ついてこい」
ちなみに、渋マッチョのナンパに乗らなくても、なんなら顔隠しみたいにガチ喧嘩してもシナリオは進む。
知らなかったとはいえ、シナリオ攻略を餌にナンパに釣られてしまった慧くんは、慧くん自身が魔境に投げ込まれる餌になっただけという、新たな悲しみを背負うことになりました。