「これ、実はSAKAI選手の大振り打撃っていうのは、ガードキャンセルによるカウンター誘ってます」
「本来は、大振り打撃にはカウンターで対応が正解なんですよね?」
「そうです。ただSAKAI選手は特殊必殺でカウンター狩りしてくるので、カウンターしないで相手の不利フレームに間に合わせて反撃をする必要があります」
「とすると、今のK選手の対応はベストだと」
「そういうことです」
「おっとK選手によるカウンターが入りましたよ?!」
「さっき特必によるカウンター狩り見せたからさすがにもうやってこないだろう、という読みでカウンター成功させましたね」
「さらに死角しゃがみ攻撃からの必殺コンボ!!」
「あー、これは中々ブロッキング出来ない。相手の心を折りにいってますね」
「さらに繰り出される投げ、投げ、投げ、投げ技連発です! あー! KO!! いやー、今の流れいかがですか?」
「相手にブロッキングの読み合いを意識させた後に、裏をかいて投げ技を決めまくる。最終的にブロッキングも投げ抜けもしにくい状況にしてから、下からの打撃KO。完璧です。さすがの貫禄ですね」
テレビ局が開催するeスポーツの大会がメジャーになってきてからは、大きな世界大会だけでなく、こうして日本のテレビ局内で試合中継をすることも増えている。世界大会に比べれば賞金も微々たるものではあるが、テレビ露出による選手の知名度への影響力は計り知れないものがある。当然、知名度のある選手ほどスポンサーの目にも留まりやすくなるため、プロゲーミングチームの中には、こうした大会への出場を義務付けているところもあるくらいだ。
「あっ!」
「速っ! これは速い!」
「K選手がジャンプした瞬間にSAKAI選手によるジャンプ掴み投げ!! さらにコンボの猛攻でK選手を追い込んでいく!!」
「SAKAI選手の反応速度の速さが出ましたね」
「おーっとここでK選手によるゲージコンボ! 超必殺技が来るかと思いましたが、来ませんでしたね。これはミスでしょうか?」
「そうですね。……いや、これは……これは違いますね」
「凄い! K選手! 体力ゲージ1フレームで弾を全て捌き切った!! さらにコンボを重ねる! 重ねる! 出た必殺!! K選手の必殺反撃KOーーーッ!!!! この場で勝者が決定いたしました!! 会場が大いに沸いておりますっ!! やはり強い!!」
「見事に相手の接近を誘いましたね」
「すみません、先ほど解説で〝違う〟とおっしゃったのは、コンボミスではない、ということでしょうか?」
「はい。さっきの時点ではまだ超必殺で相手を仕留めきれないんですね。その場合、このキャラの超必殺には起き攻め……相手の硬直解除直後の攻撃がついてこないのと、相手のトリガー溜まってるんで、仕留め損ねた時は確実にトリガー発動されるんです。なので、このゲージコンボが大正解ということになります。いや、咄嗟のコンボ判断が凄すぎる」
「なるほど。更にゲージコンボしたことでゲージも溜まり、相手が起き上がった瞬間の攻撃もできると」
「そうです。何気なくやっているように見えますけど、凄いですよ」
SAKAI選手の反応速度は天性のものらしく、シルヴィや楽郎のような本能型の選手で以前から注目されてはいたが、一年前の大会でさらにハイレベルな試合を見せ、今注目度が非常に高い選手だ。
だが残念だったな。俺は人力TASのシルヴィや、予測不能すぎてもはや狂人の域にいる楽郎の頭おかしいプレイを見慣れているんだ。この程度では負ける気がしない。
「優勝おめでとうございます! 素晴らしい試合でした!」
「ありがとうございます」
「今のお気持ちはいかがでしょうか?」
「事前インタビューで優勝すると宣言したので、優勝できて良かったです。応援ありがとうございました」
「まさに有言実行ですね! 普段の練習はどのようにされているのでしょうか?」
「まずは、イメージトレーニングですね。戦略的なシナリオを考え、さらにその戦略に対する対抗手段も考えます。脳内でそれらを構築するには、すべての情報が頭に入っている必要があるので、トレーニングモードの練習をメインにして、あとは一日に数回対戦しています」
「キャラクターの選択や攻略は、どのようなことを重視されているのでしょうか?」
「僕の場合は、守り重視で情報を集めて、そこから相手を焦らす戦略を練ります。相手のミスを誘うことで、体力ゲージだけでなくプレイヤーの精神力も削り、より優位な状況を作ることを心がけています。もちろん相手によってはアグレッシブな対応をすることもありますが、基本はそんな感じですね」
「ありがとうございました。それでは最後に、視聴者からの質問コーナーです!」
『強さの秘訣を教えてください!』
「うーん。やっぱり日々の練習と……たまの息抜きですかね」
『息抜きは何をしていますか?』
「友人と過ごしたり、他のゲームをしたりですね」
『ご友人とはどんなことをして過ごしますか? ゲームはどんなゲームですか?』
「グイグイ来るね……。特にこれと決まってはないですね。色々です」
『イロイロを詳しく』
「これ質問者一人しかいないの? ……今一番多い質問? 嘘でしょ……ははは、教えてなるものか」
『その友人とは顔隠しですか?』
「……まあ、友人の一人ですね、はい。ゲームについての質問はないの?」
『趣味のゲームのタイトルをひとつ教えてください』
「そうですね……シャングリラ・フロンティアとかもやってますよ」
『顔隠しや名前隠しもシャンフロやってますか?』
「個人情報なんでちょっと。本人たちに聞いてください」
『優勝おめでとうございます! 誰か大切な人からご褒美をもらう予定はありますか?』
「ありがとうございます。特にご褒美の予定はないですが、自分へのご褒美は用意したいですね」
「K選手、ありがとうございました!」
「応援してくださった皆様、本当にありがとうございました!」
……
…………
………………
サンラク:優勝おめー
オイカッツォ:ありー
オイカッツォ:テレビ観てたんだ
サンラク:負けたら笑ってやろうと思って
オイカッツォ:おい
サンラク:嗤ってやろうと思って
オイカッツォ:それ言い直す必要あった?
サンラク:何かご褒美いる?
オイカッツォ:えっ
オイカッツォ:待って考えさせて
オイカッツォ:一週間ほど
サンラク:ながっ
サンラク:俺そんな大したもん用意できねえぞ
オイカッツォ:よし決めた
サンラク:あれ? もしかして一週間経ったことに俺だけ気付いてない?
オイカッツォ:またあそこで食事会したいな
サンラク:あそこって、あの中世酒場?
オイカッツォ:そそ
サンラク:了。あそこなら俺も行きたい。いつが空いてる?
オイカッツォ:来週の土曜なら夕方から空いてるよ
サンラク:じゃあそれで予約取るわ
オイカッツォ:さんきゅ。普通に楽しみ
やったぜ。
……
…………
………………
やばいやばいインタビューが押して待ち合わせ時間ギリギリだ。この後予定あるっつってんのにあの担当雑談多すぎなんだよ!
……あ! もう楽郎いる…………ん?
楽郎の隣に、スレンダーなおしゃれ女子がいる。
「ねえ、ホントのこと言ってよ」
「しつけぇ。バイトはどうしたんだよ」
「人生がかかってるって言ったら有給もらえた」
「お前それ怒られるぞ」
「ウソじゃないもーん」
かなり親しそうだな……俺あそこに行っていいのか?
迷っているうちに楽郎がこちらに気付き、げんなりした様子で歩いてくる。
「お前、そんなとこで何してんだよ」
「いや……」
「え、待ち合わせ相手ってこの人!? 男じゃん!」
「だから言ってんだろ」
「じゃあ、その前会ってたのは!?」
「その前っていつだよ」
「ほら、私にデートの服えらモガッ……ンムムー!」
「悪い。ちょっと待ってて」
「え、うん……」
デート? まさか楽郎に彼女? ……てかあの二人、距離感近くない? 友達ではないよな……。
「すまん、おまたせ。あー、こいつは」
「兄がいつもお世話になってまーす」
「……兄?」
「……こいつ、俺の妹」
「どーもー!
……あー! 妹ってあれか! 結構前に二次会でペンシルゴンと電話してた……顔見たことなかったけどめっちゃ可愛いじゃん。
「あ、どうも。こちらこそお世話になってます。
「へえー。お兄ちゃんにこんなイケてる友達いたんだ。ちょー意外」
「いいからお前は帰れ」
「なんで? これからご飯でしょ? せっかく有給とったし、私も行きたーい」
「残念。予約は二名です」
「えー!? てかさぁ、男二人で、わざわざおしゃれして予約いる店行くの?」
う、グサッとくることを……。
「今日はこいつのお祝いなの」
「あーそうなんだ。なんか分かんないけど、おめでとうございます!」
「あはは……ありがとう」
「じゃあ俺らもう行くから」
「ええ~! ま、トワ様じゃなかったしいっか。この辺に新しくできたショップ見に行こーっと」
「切り替えはえーな。まあご自由に」
「あーじゃあ、また……」
「はーい。またでーす」
もう意識は新しいショップとやらに向いているのか、楽郎の妹はひらひらと手を振り、踵を返して颯爽と去っていった。
なんと言うか……鮮烈だな。さすが兄妹。
「俺らも行くぞ」
「うん……」
「どうした?」
「いや……最初は全然似てないと思ったけど、意外と面影あるかも、と思って」
「そうか? まあ一応兄妹だしな」
妹に比べれば地味だけど、楽郎も顔は整っているんだよな。鼻の形も、歯並びも良いし。
「……見すぎ」
「あ、ごめん」
ん? ちょっと赤くなってる? こいつでも照れたりするんだな……。
……
…………
………………
「ちょっと早めに着いちゃったけど、入れて良かったね」
「だな。でもまだそんな腹減ってねえな」
「確かに……軽いものから注文しようか」
柔らかな黄昏色の店内に、ケルト音楽の生演奏が鳴り渡る。
前回はカウンター近くのテーブル席だったが、今回はさらに奥の、こぢんまりとした半地下ホールを取り囲む、ロフトの二階席だ。壁には趣味の良いタペストリーが掛けられており、手すりから下を覗くと、ホールに並べられたテーブル席の端で演奏をしている奏者が見える。
酒場にしては時間が早めだからか満席ではないが、それなりに客が入っている。
「ハギス……羊の内臓を香辛料で味付けして蒸した料理……どう思う?」
「気になるからいこうぜ」
「おっけ。あとはー……」
「あーこれ前も気になってたけど腹一杯で諦めたんだよな」
「どれ?」
「
「あはは、結局肉」
「まあ今は腹減ってなくても、目の前に出てくれば普通に食べられるだろ」
「まあね。じゃあとりあえずそれだけで、飲み物は……」
注文が終わり、店内に流れる音楽に耳を傾ける。本当にいい雰囲気の店だな。ここならいつまででも居られそうだ。
ふと、さっき楽郎の妹が言っていたことを思い出した。
「……楽郎は、こういう店に俺といるの、気にならない?」
「ん? どういう意味だ?」
「男同士でこういう、雰囲気のいい場所にいること。やっぱ気になる?」
「いや、ここは男同士でも全然平気だろ」
「……まあ、確かに。じゃあ、あからさまなデートスポットは?」
「例えば?」
「え。う~ん……夜景とか……観覧車……?」
「夜景と観覧車かぁ~……クラスの男連中の誰かと二人きりでと考えたら、鳥肌もんだけどなぁ」
「あー……やっぱそうだよね」
「お前は? チームメンバーの男とか、マネージャーとかさ」
「え? 無理」
気が付いたら即答していた。プライベートで、雰囲気のいい場所でマネージャーと二人きりとか何の罰ゲームだよ。いや、よく考えたらこれ性別関係ないな。相手が異性でも、その気もない相手とデートスポットで二人きりは嫌だ。
「だろ? まあ、お前が相手ならどこだろうが気にならないと思うけど」
心臓が跳ねた。続いて動悸がする。
「……俺も、相手が楽郎なら気にならないかも」
「ま、なんだかんだ言って気楽だしな。居心地良いんじゃないか?」
「あー……、なるほど。納得」
「
「……うん、大丈夫」
しっかりバレてるし。
不可解な心臓の高鳴りは、料理が運ばれてくる頃にはすっかりおさまっていた。
「え、なんか凄い」
「写真でも見たけど、黒いな」
「内臓だもんね」
黒いドライカレーのような見た目の料理が、マッシュポテトと半々の割合で皿に盛りつけられている。ハギスという、羊の内臓のミンチに香辛料やオートミール、玉ねぎなどを混ぜて蒸した料理、らしい。メニューの説明を見ていてもいまいちよく分からない。
においを嗅いでみるが、内臓の臭いはほとんどせず、香辛料の良い香りがする。恐る恐る口に運ぶも、クセが強かったり食べにくかったりということもなく、滋味に富んだ味わいがあり、内臓のなめらかさと、オーツ麦のプチプチとした食感が楽しめる。
「美味しい!」
「うん、旨い」
「これ、本場もこの味なのかな? やっぱ日本人の味覚に合わせてあるのかな」
「どうだろうな? 俺これ結構好き」
「僕も……じゃなくて、俺も」
「…………」
無言でニヤニヤするな。今日ずっとインタビュー受けてたからつい出ちゃったんだよ。
「言っとくけど、社会人なら一人称ミスはあるあるだからね」
「別に何も言ってないが」
「顔が喋ってた」
「ん゛フッ……ちょ、笑かすな」
楽郎は口元に手を当て、慌てて卓上のペーパーナプキンを取る。
「……楽郎って彼女いるの?」
「……は? いないけど?」
「あ、そうなんだ。なんかさっき君の妹……瑠美ちゃんだっけ?」
「うん」
「瑠美ちゃんが、デートがどうのって」
「んん゛っ!」
「……大丈夫?」
「うん、まあ、その話はいいじゃん」
「え、なんで?」
「俺には彼女なんていないし、そもそも彼女いない歴イコール年齢だ。以上!」
「そ、そうか……」
よく分からないけど、触れない方が良さそうだな。
「今日はもう食事終わったら解散する予定?」
「ん? 明日仕事あんの?」
「まあ、仕事はあるけど、午後からだね」
プロゲーマーは午後から活動する人が多いため、ゲーム関係の仕事もこちらから指定しなければ、大抵は午後になる。
「家に誰か来んの?」
「いや、来ないけど」
「じゃあ泊まっていい? 明日日曜だし」
マジで? ……え、マジで?
「……いいよ」
「ハハ、なにそわそわしてんの」
「は? してないけど?」
「目が元気に遊泳してんぞ」
いやだっていきなりで心の準備が……。
「お、来た。なんだっけこれ……ああそうだ、
「うん、だね……」
食事の間に心の準備を済ませておく必要がある。恋人同士でもない体の関係なんて所詮、性欲処理だろ。今までだってここまで緊張することなんてなかったのに、突然何なんだ……意味が分からない。
折角のコンフィの味も、今だけはよく分からなかった。
妹ちゃんは告白の返事で公開処刑しちゃうくらいなので、そっち方面の空気を読む能力は恐らくない。
バイトしまくったり読モやったりしているので、人慣れしていて物怖じしない性格だと思われる。
対戦内容は実況解説によるハイライト。
ちなみに「ギャラクシア・ヒーローズ:カオス」ではありません。フルダイブVRの中でも根強い人気を誇る、オーソドックスな格ゲーです。
eスポーツのテレビ放送がメジャーになってからは、ゲームに詳しくない人でも理解しやすいよう、実況や解説ではゲームの専門用語はあまり使われなくなったとかなんとか。