3年にあがり、最近由比ヶ浜結衣は奉仕部にくると違和感を感じることが多くなっていた。
「でね、いろはちゃん、あれがーそれでー」
「そうですね!それでこれがー」
「みなさんさすがですねー」
と奉仕部でいつものように由比ヶ浜が一色や小町とおしゃべりに興じているとぞくっとするような視線を感じることが多くなっていたのだ。
振り向くと比企谷と雪ノ下がこちらをじっと見ているのである。
「ど、どうしたの?ヒッキー、ゆきのん?」
「先輩!またセクハラですか?」
「おにいちゃん・・・」
と比企谷が一色や小町からワイワイ言われているのを見てハッとなる雪ノ下
「そ、そうね、由比ヶ浜さんにセクハラしたら駄目よ?比企谷くん」
「お、おう・・・」
どうにも歯切れが悪い
こういうことが6月に入ってからずっと続いているのだ。
「何でもないの由比ヶ浜さん、私にもようやく親友が出来て嬉しいだけなの、そうだわ今日買い物に付き合ってくれないかしら?」
「・・・由比ヶ浜、すまんが雪ノ下に付き合って上げてくれないか?俺も行くから・・・」
二人の様子も少しおかしい、よそよそしいという感じとはまた違うのである。
そして今日は特にそれが強い、由比ヶ浜は部室に居づらくなりとっさに嘘をついてしまった。
「ごめんね、今日はママから早く帰ってくるように言われているの」
「そう・・・お家の用事なら仕方ないわね・・・」
「そうだな、無理強いはできないしな」
そういうと二人とも物凄く寂しそうな顔になるのだった。
二人が付き合いだした、これは由比ヶ浜にとっては寂しいことではあったがそれでも側にいたいという思いは強く、雪ノ下と比企谷も受け入れてくれ、むしろいつも三人一緒にいる状態なのである。
しかし初めは良かったが徐々に雪ノ下と比企谷がおかしくなっているように感じるのだ。
自分を邪魔に思っているのかと思ったが、遊びに行くときは必ず誘われるのでそういうわけでもないらしい。
「んじゃあたし帰るから・・・」
「あ!私も帰ります!」
「それじゃ小町も帰ろうかな?帰りに洗剤買って帰らないと・・・おにいちゃん?雪乃さんと二人っきりだからと言って変なことしちゃ駄目だよ?」
と三人は席を立ち帰り支度をする
「ああ、俺達はもう少し残っていくから・・・」
部室には比企谷と雪ノ下だけが残った
昇降口から出る三人
「あたしゆきのんとヒッキーから邪魔扱いされてるのかな・・・」
由比ヶ浜はついポロっと漏らしてしまう
「何言ってるんですか?先輩達は結衣先輩がいないと結衣先輩の話ばかりしてますよ?」
「小町も家でお兄ちゃんからよく聞くのは雪乃さんと結衣さんのことばかりですよ」
「あれ?おこめちゃん、私は?」
「ハテ?聞いたことあったかなー?あーあったかもなんか凄く褒めてたような?」
「えー!?なんてなんて!?」
と食いつく一色に小町は
「なんか小町しゃべりすぎて喉が渇いたかも、あージュース飲みたいなー飲めばもっとしゃべれるのになー」
「っく!こいつ・・・」
と渋々おごることを承諾させられる一色、そうやって二人が先に行ってしまい由比ヶ浜だけが残されてしまった。
「あの二人仲がいいの?悪いの?」
と半ば呆れ顔でテクテクと歩いているとまたも背後から強い視線を感じる
振り向くと4階の奉仕部の部室の窓が開いておりそこから雪ノ下と比企谷が無表情でこちらをジッと見下ろしていた。
「なに?どうしたの?」
由比ヶ浜は恐怖で顔がこわばるがそれをなんとか抑え込み
「じゃ、じゃーまた明日!」
と手をブンブン振る、すると二人も無表情のままゆっくりと手を振り返すのである。
「あの二人どうしちゃったの・・・?」
由比ヶ浜は学校の敷地を全力で校門まで走る。
一色と小町はどこかに行って見失ってしまったので由比ヶ浜は一人で歩いてる。
帰宅途中挙動不審な茶色のコートを着た巨体がブツブツ言いながら歩いているのに遭遇
「中二!」
と声を賭けるとびくっとなる巨体
「ヒ!・・・ってなんだおぬしか・・・何用か?・・・我はこれから導かれし者たちと戦場に赴かなければならぬのだが」
「何かよくわかんないけど用事なら仕方ないね・・・あたしちょっと中二に聞きたいことあったんだけど、ゴメンね邪魔しちゃって・・・」
と由比ヶ浜はしゅんとなるがそこは材木座、今まで女子からまともに声なぞかけられたことなどないのであっというまの手のひら返しである
「い、いや?た、戦いは後からでも出来るのでな?そ、それで我に聞きたいこととはなんぞ?」
若干挙動不審になりながらも由比ヶ浜に向き直る材木座
「あのね・・・中二ってヒッキーと仲いいでしょ?最近あたしの事とかなんか言っていなかったかなーって」
「・・・最近八幡と顔を合わせるとやれ氷の女王がどうだとか、奉仕部がどうとかばかりでな、お主のことも話しておるわ、来てくれてよかっただの、嬉しいだの、何かお礼をしたいだのと、全くあいつは氷の女王を付き合っているのではないのか?お主とも二股しているのか?」
「え?そうなの・・・?」
予想外である、てっきりあんまりよくない話が出るのかと正直覚悟していたからだ。
「全くあやつは戦士の風上にもおけん!女にうつつを抜かすなど、我との熱い戦いに・・・」
と材木座の話が長くなりそうだったので
「ありがと中二!んじゃーねー」
まだ一人でブツブツ言っている材木座を残して由比ヶ浜は立ち去ることにしたのだった。
「うーん、別にあたし嫌われてる訳でもなさそうなんだけど・・・?」
それにしては最近の比企谷、雪ノ下の態度には解せないことが多い
うなりながら歩いていると
「あれー?ガハマちゃん?」
雪ノ下陽乃に出くわした。
「ちょっとお姉さんとお話ししない?」
陽乃は由比ヶ浜を喫茶店に誘う。
「きっとあたしにゆきのんから離れろって言うつもりなんだ・・・」
由比ヶ浜は陽乃の後について喫茶店へと入っていった。
「さあ好きなの頼んで!今日はお姉さんがおごっちゃうぞ!」
いつもの調子の陽乃であるが由比ヶ浜の心中はふさぎこんでいる状態だ
「それで話って何ですか?」
「今日会えて丁度良かった、実はガハマちゃんにお礼を言いたくて」
お礼?想像していなかった言葉が出て若干焦る由比ヶ浜
「お、お礼なんてあたし何にもしてないんですけど・・・」
「いーえ、ガハマちゃん、あなたは大きな功績を残してくれました。」
「功績?」
「雪乃ちゃんに自分の口から自分の言葉で自分の思いを伝えることのきっかけになってくれたことよ」
「でも・・・あたし・・・」
「雪乃ちゃんは今まで言われたことばかりやってきたの、人からこういわれたから完璧にやりました、そればかり、でもあなたと比企谷くんに会って変わったのよ」
「そんな・・・全部ゆきのんの意思だし・・・」
「確かにそうだけど、その意思を口に出せるかどうかは大きく違うわね、それにね・・・」
と陽乃はゴクっと一気にコーヒーを飲むと
「私に面と向かって『違う』って意見言って来たの今までガハマちゃんだけだしね」
そうしてニヤっと笑う陽乃
「今までの人は私の言うことが正しかろうがなんだろうが誰も否定なんかしなかったし、たとえ間違った意見でも反論してくる人はいなかったの、けどガハマちゃんは違う、自分の言葉で私に反論してきた、私はそこを買っているの」
そういうと陽乃は由比ヶ浜の手を取る
「それでガハマちゃんには辛いお願いかもしれないけど、これからも雪乃ちゃんのお友達でいてくれないかな?花火大会の時に言ってくれたように・・・」
「はい!あたしゆきのんもヒッキーの事も大好きです!勿論ずっとずっと仲良しでいたいです!」
と由比ヶ浜が宣言すると陽乃は嬉しそうに微笑みながら
「・・・良かった・・・実は雪乃ちゃんは家でもガハマちゃんと比企谷くんの話ばかりなの、うらやましいぐらいだよ?でも本当に辛くなったらいいからね?私には友達とか恋人とかそういう気持ち分らないから・・・」
と寂しそうに笑う
「んじゃ二人の事よろしくね?」
そう陽乃は言うと二人分の会計を済ませて喫茶店を出て行った。
「ヒッキーもゆきのんもあたしの事嫌っているわけでも邪魔だと思っているわけでもないの?んじゃあ一体何が起きてんだろ・・・わかんないや・・・」
次の日奉仕部へと向かう由比ヶ浜、比企谷は先に行ってしまったので一人で来たのだが、部室のドアを開けようとして話声に気が付く
「・・・由比ヶ浜さんにちゃんと話した方がいいと思うの・・・」
「まじか、本当にいいのか?下手したら嫌われるかもしれないんだぞ?」
「そんなことは無いわ、由比ヶ浜さんもちゃんと分ってくれるはず・・・」
「お前が言うならいいけどよ・・・」
「やっぱりあたし邪魔だったんだ・・・ゆきのんとヒッキーに変な気ばかり使わせちゃって・・・」
途端に涙があふれ嗚咽が漏れる。
「誰かいるのか?」
声と同時に扉が開けられた。
「・・・由比ヶ浜・・・何で泣いてるんだ?」
「由比ヶ浜さん!?どうしたの?」
雪ノ下が駆け寄ってくる
「・・・いいの・・・あたし・・・奉仕部辞めるね・・・ほら、受験あるし・・・あたし成績悪いからさ・・・人より勉強しなきゃ・・・ごめん、帰るね・・・」
由比ヶ浜嗚咽交じりにそういうと廊下を駆け出す
「由比ヶ浜!ちょっと待て!」
「由比ヶ浜さん!」
後ろから比企谷と雪ノ下が追いかけてくる
「ごめんね、ゆきのん、ヒッキー、あたしいない方が良かったね、陽乃さんごめんなさい、一緒にいたかったけどヤッパ辛いな・・・」
走る由比ヶ浜、しかし比企谷の足の方が速く、捕まりそうになる、しかし丁度そこにいたのが材木座
「お主等なにやっておる?廊下でおいかけっことか小学生か・・・ってうぁ!一体何事だ!?」
由比ヶ浜は材木座のコートを掴むと背後に隠れるように回り込む
「おい、材木座どけ、由比ヶ浜と話がある」
「大丈夫だよヒッキー、あたしヒッキーたちが何言いたいかわかるし、あたし奉仕部にいない方がさ、ゆきのんと二人でゆっくりできるでしょ?だからさ、あたしに変な気を使わなくて済むし・・・」
「おまえは何を言っているんだ?」
「由比ヶ浜さん、話し合いましょう?」
と材木座を挟んで三人で言い合いが始まる
「ちょっと我を挟んでもめ事は勘弁してくれよ八幡・・・」
結局由比ヶ浜は材木座の後ろから離れなかったので材木座ごと奉仕部へ連行することになった。
「それで由比ヶ浜、何で逃げたんだ?」
「・・・ドアの所で聞いちゃったから、あたしにもう奉仕部に来なくていいって言おうとしていること・・・」
由比ヶ浜は泣きそうな顔で椅子に座っている
「まって由比ヶ浜さん、私たちそんなこと一言も言っていないのだけれど?」
雪ノ下が珍しく声を荒げる、ちょっと怒っているようだ
「だって・・・あたしにちゃんと話すとか・・・嫌われるとか・・・」
「違うの由比ヶ浜さん、それは違うの、どうしてそんなことを考えてしまったの?」
今度は雪ノ下が泣きそうな顔をしている
「おい、まさか材木座、まさかおまえなんか余計な事言ったのか?」
「は?まあそうであるな、うむ!けぷこん、けぷこん、実は先日我が戦場に赴こうと驀進していた所だな、そこの女子が・・・」
と材木座がいつもの調子で話そうとしとたん
「てめぇか!由比ヶ浜に余計な事吹き込んだのは!」
「あなた?私たちの大切な親友に何を言ったのかしら?死ぬ覚悟は出来ているんでしょうね?」
と材木座に迫る二人
「ちょっちょっと!待たれよ!我は別になんにも・・・」
「なんにも話してなくてこうなるわけないだろ!」
比企谷は材木座の胸倉を掴み激高している模様
「ちょっとヒッキー待って、中二はヒッキーがゆきのんとあたしの事をよく話すってっこと教えてくれただけだから!」
「ホントに?」
「ほ、ほんとうだ!は、八幡!」
材木座はガクガク震えている。
「なんだ・・・んじゃ帰っていいぞ」
胸倉から手を離すと材木座は一目散に逃げて行った。
「それじゃ話って一体何なの?」
と由比ヶ浜
「実は私たち由比ヶ浜さんのお誕生会をしようと話し合っていたの、もうすぐでしょ?」
「えー本当!本当なの!?でも嫌われるってどういうこと?」
「由比ヶ浜さんにプレゼントするものが気に入らないんじゃないかって、きっと思い違いをしているんじゃないかって比企谷くんは心配しているのよ」
「ああ・・・毎日由比ヶ浜を観察していてな、どういうプレゼントしたらいいか雪ノ下と相談してたんだが、物とかじゃなくて一生記憶に残るようなのがいいと雪ノ下が譲らなくてな・・・俺は由比ヶ浜が嫌がるんじゃないかと思って不安になってたんだ・・・」
「そんな!二人が一生懸命考えてくれたんだもん!どんなプレゼントでも嬉しいよ!」
そして合点がいく由比ヶ浜
「もしかしてあたしをジッと見ていた事が多かったのってそれが原因?ここからあたしの事見下ろしていたのも?なんか怖かったんだけど・・・」
「ごめんなさい、由比ヶ浜さんを見ることばかりに専念していたものだから怖い思いをさせてしまっていたみたいね・・・」
「すまん、由比ヶ浜」
「うんいいよ、あたしのことを考えてくれたんだもん、嬉しいよ!」
ニコニコ顔になる由比ヶ浜を見て安堵する雪ノ下と比企谷
「それでちょうど私マンションに戻ることになったの、だから週末由比ヶ浜さんの誕生会を私のマンションでやりたいと思うの、この三人で」
「え?三人だけで?」
ちょっと驚く由比ヶ浜
「ああ、俺達三人から奉仕部は始まったと言ってもいいぐらいまであるからな」
「そうね、だから原点に戻って三人だけで、そこでプレゼントするわ、そしてこれまでの思い出やこれからの事を色々話したいの、駄目かしら?」
「駄目じゃないよ!うれしいもん!いいよ!やろうよ!」
「ありがとう由比ヶ浜さん、それで誕生会は泊りでやるから準備してきてね?」
「え?泊まりってヒッキーも?」
「ええそうよ、大丈夫、不安なことは起きないわ」
と言う雪ノ下に由比ヶ浜はちょっと安心した表情で
「ゆきのんが言うならいいかな?ヒッキーは変なことしちゃだめだよ?」
「・・・ああ・・・お前らが悲しむようなことはしない・・・」
という比企谷に由比ヶ浜は嬉しそうな表情で
「やっぱりヒッキーはやさしいね!」
「うふふ、そうね、プレゼントはきっと喜んでくれると思うわ?」
「本当!?すっごく楽しみ!楽しい週末になりそう!」
「そうね、高校生活最後の忘れられない誕生日になりそうね」
とはしゃぐ由比ヶ浜をニコニコした顔で見る雪ノ下と若干不安げな顔で見詰める比企谷であった。
次から18禁展開です。