ある日舎弟がTSしたけど忠犬巨乳がどぷんたぷん 作:芥目たぬき
オレ達はその日も、開発地区北部での魔物狩りを行なっていた。
倒しても倒しても尽きることのない強い魔獣は、果たして一体どこから来ているのだろうか。そんなことをぼんやりと思いながら、ダズの運転に任せて青い空を仰ぎ見る。もうすぐ嵐が来るとは思えないほどの、綺麗な青空だった。
「もうすぐで反応のトコですぜ、アニキィ」
「おう」
いつも通りだ。ほどよく緊張感を持って、ほどよくリラックスをする。力を入れすぎても抜きすぎてもいけないこのバランスは、長年こういった荒事ばかりをやっていて慣れてしまった。
止まった車から降りると、オレはいつものように
と、そうしてオレが準備を始めているオレの横で、モニターをぐるぐる回して首を傾けるダズ。
何かあったのか、と問いかけると。
「反応が、なんか……消えやした……」
「は? 消えた?」
「ここにでてたハズなんですが……うーん」
そんなことあるはずがないだろう、とオレもモニターを覗き込むものの、そこにはなんの生体反応も出ていない。もっと広域にしたりいろいろと試してみるが、やっぱり反応は出てこなかった。
……故障、か?
困ったな……この商品は科学都市で購入したものだし、この辺りで同じものを買おうとするとかなりの値がついてしまうだろう。
もうすぐくるプレーステール後の輸入期に、運が良ければ修理に出したり新しいものを購入することも出来るだろう。……あまり期待できないな。
と、そんな時にダズは地平線の方を指差して首を傾げる。この辺りは緩やかな丘陵地帯で、比較的遠くの方まで見通しがきくのだ。
「アニキィ、ありゃなんでしょう?」
「アレだぁ? ……んー、ん?」
と、そこには特大級といっていいほどの水の塊が、宙に浮いている。
———え、いや、なんだあの大きさ?
「あれ、魔物か……?」
「しかしあの付近、なにも見えませんぜ」
魔物というのは大抵、体格の大きさに比例して強くなっていく。
この場合の強さというのは俊敏性や察知能力の高さ、知性や力の強さだけでなく
つまり、その図体が大きければ大きいほど魔法がより強大で緻密なものとなっていく。
「逃げるぞダズ」
「へい、アニキィ!」
あれだけ大きく綺麗な水球を作っておきながら、その姿が見えないほど小さいというのは……危険と判断する。
誰が好んでそんなものに手を出すだろうか?
と、その時であった。
「!? アニキィ、あれっ」
水球がウゴウゴと蠢き、そして形が変わっていく。それは人の手のような形になり、そこからさらに動いて……
それは、オレ達に見せているのだろう。
水は人の手の形をしており、親指部分が天を向いている。その他の4本指は握り込まれているような形になったのだ。
まるで、「イイネ!」とでも言いたくなるそのハンドサイン。
「……どういう意味だ?」
「さぁ……」
もうここにいるオレ達のことがバレているというのなら、ここで逃げるよりもせめて対峙した方がいいかもしれない。車の中、どうしようもない状態で殺されるよりも相対していた方がまだマシだという希望を持って。
オレとダズは武器をそれぞれ取り出して、相手の出方を見ることにしたのである。
「………………ヒッチ、ハイク」
「はぁ?」
そうしてやってきたのは、人だった。
「さっきのあのクソでかい水球は、お前がやったのか?」
「………………ん」
その男は、かなりの無口であった。
どこぞの民族衣装とでも言わんばかりのド派手な服装と、腰に差しているのは身長ほどの丈のバカ長い大太刀。口を一文字にして、髪の毛を不思議な形に結っている。
背中には大量の本などを風呂敷に包んで持ってきたらしい。前時代的すぎる。
そしてなによりも、その体格。
まだダズが男だった時は、オレがダズを見上げる側だった。オレも低い方では無いものの、ダズの身長は185cmくらいと大柄だったが……おそらくこの男はそれよりもずっと大きいだろう。
それが、オレ達に向けてグッドサインを出しながら歩いてきたのだ。
「……オレ、魔法、ちょっとできる」
さっきの巨大グッドサインのことを
「……街、行きたい」
「アンタどっから来たんだ」
この男は、オレ達の知らないところからやってきた。この辺りにはオレ達が住む街以外に人の住めるような場所なんて基本的には無いのだ。
この様子だとここまで歩いてきているのだろうが……果たして、どこから来たというのか。
「オレ……地元、マロプトー」
と、言って男が指し示したのは東の方。
東の方に人の住むところがあるなんて聞いた事な……ん?
いや、聞いたことがある。
かつて栄えた魔法都市があるのは、確か街から東の方ではなかっただろうか?
「魔法都市か?」
「………………ん」
こくん、と男は頷いた。
ここからどれだけの距離があるんだとか、ここまで歩いて来たのかとか、返事が「ん」なのはどうなのかとか、さっきの魔法についてとか色々聞きたいことはあるが。
とりあえず。
「あー、じゃあ街までなら送ろうか。ダズ」
「へい、アニキィ! 後部座席出しやすが……アンタじゃちっと狭いかもしれねぇが、許してくれよ」
「……あり、がと」
そうして男は無表情に頷いたのであった。
* * * *
魔法というのは、昨今の科学都市での教育ではあまり教えられなくなってきた事である。
理由としては様々だが、おそらく使ってはいけないということが詳しく教えないということに繋がったのだろう。
そういった世間の中で、オレはかなり魔法に詳しい人間と言える。何故なら、自身の魔法を制御するために様々なことを学んできたからだ。……まともな魔法を使うことは出来ないが。
まず、魔法というのは様々な系統がある。
火、水、草、氷、土、風、光、闇……と、多くの自然現象がある。魔法が使えるという人は、これらのいくつかを操作することが出来る。
「……人、石化……土?」
「いや、石化といっても意識を奪うような感じでな。肉体的に石に変えると言ったものでは無いんだ」
「……なら、闇?」
「オレもそう思うんだが、いかんせん闇に関しての文献が少なくてな」
普通の人に多いのは身近にある自然に対しての魔法だが、光や闇といったものはなかなか魔法使いが少ない。レアなケースというわけだ。
「……これ、闇、本」
と、後部座席からにゅっと出てきたのはかなり古ぼけた一冊の本だった。……表紙を見て、そういえば同じ本を見たことがある気がする。
「あぁ、科学都市にいた頃に閲覧したな」
この辺りは未だに
特に便利なのが、比較的どこにでもある国営図書館だ。
図書館といっても本だけの閲覧ではない。様々な分野の媒体を自身の
オレは当時、必死になって魔法に関してを勉強していたため、それを用いて多くの文献を漁ったことがあったのだ。この本も、そのひとつである。
まさかあの頃に読んでいたあの本が、こうして現物として手に触れる機会があるというのはなかなか珍しいと思うが……
「……読んだこと……あった……か……」
しょぼんと落ち込んだ男に、すまないと謝っておく。せっかく取り出してくれたというのに申し訳ないことをした。
「ちなみに、アンタはそういう魔法を知らないか? その、術者が無意識下においても自動的に起きてしまう能力っていうか」
「……石化……魔法……闇の魔法や光の魔法なら可能性として精神にショックを与える効果もあると聞いたがその場合でも全ての人間に同じ反応を起こすことは出来ないはずしかし魔物や動物にも効果が効くとなると精神的ショックによるなんらかの石化というわけではなくそれこそ精神的な魔法ではなくもっと高次元での話になってくるかもしれないしそうなると我々の知らない新たなる人類という可能性もあるし魔法がさらに進化した新人類の可能性も考えられるが昨今の時勢において魔法は退化するはずのものであるから……」
唐突に長文喋り出したなコイツ。
「えぇと?」
「アッ……なんでも、あの、ないです」
「いや、アンタは魔法に詳しそうだし出来れば考察も教えてくれると助かるが……オレにわかる言葉で」
「アッ……な、なにも……ないです……スイマセッ……」
唐突に縮こまったなコイツ。
「しかしそんな大荷物担いで街に行って、何するつもりだったんだ? あのあたりも、プレーステールの後の輸入期間の方が安全だろ?」
「オレ……科学都市……行ってみたい」
「なるほど?」
普通の人間なら魔物が大人しくなる期間に街まで出て、街に一年は滞在してから科学都市行きの車に乗るのが常だが……この男は魔物をぶち殺しながらここまで来れるだけの実力がある。だから、プレーステール前に街にまで出てきて、輸入期に車に乗って科学都市に向かう予定らしい。
「それで、その背中の本とかを売るって予定なのか?」
「……ん、うちの、売れそうなもの、いっぱい……」
はたして、このご時世で本は売れるだろうか?
「……すごく、珍しい本……いっぱい」
「ほう、たとえば?」
「……この本、読んだやつは発狂」
「技術はとんでもないと思うが、普通に売れるわけないよな?」
「……この本、読んだやつは発情」
「魔法のかかってる本がダメだっつの」
本に魔法をかけておくというその技術は高等技術だが、そもそも魔法は基本的に法律違反である。せめて人目のないところでの行使なら大丈夫だろうが、そんなもの質に入れるわけにいかないだろうに。
「……どう、しよう」
「あー……魔物倒しながらここまで歩いてきてるなら、オレ達みたいに魔物狩りで日銭稼いだらどうだ?」
「!」
商売敵が増えるのはあまり好ましくないが、困ってるというならこのくらいの助言は、まぁしていいだろう。
「ギルドに連れてってやるから、そこの職員から話聞いたらどうだ? あ、その本はぜってぇ表に出すなよ。捕まるからな」
「……あり、がとう……ならば……」
* * * *
そして。
あの男をギルド前に下ろしたオレたちは、彼の持っていた風呂敷を広げていた。
「ありがた迷惑……いやただの迷惑だな」
オレが魔法について調べているということと、違法性が高い本が多いということと、そもそもこのご時世本媒体の資料なんて一銭の価値にもならないという理由でオレ達に渡されたあの風呂敷の中身一式。
ダズが家に運び入れて床に転がしたそれは、かなりの量があった。
「いやぁ……量が多いですねぇ」
「つうかこの中の大抵が違法なものなんだぞ……魔法についての資料はありがたいが、そもそも分別がなぁ」
確かに、オレが読んだことのない本もいっぱいある。しかしあの男の言葉を信じるなら、闇魔法がかけられている本もめちゃくちゃあるという訳だ。
一応、読むと魔法的効果がある本にはカバーをつけているといっていたので、まずヤバいことはないだろうが……
「ま、当たり障りのないとこから読んで……さっきの男には悪いが、違法な本は焚き上げかァ?」
「よし、アニキィ! オレも頑張りやすぜ!」
と、言って早速ダズが手にしたのは『入門! 人との夜のお付き合い〜超級編〜』だった。
思わずオレはその本をダズの手から叩き落とす。
表紙に鼻フックで歯茎が剥き出しになっている男女がドアップで写っている、超アブノーマルのエロ本らしきモノ。入門なのに超級編と書かれている。
帯には『樹齢5000年級最高峰美女!』という謎のキャッチコピー。それは褒め言葉なのか、それとも独特の熟女を表す言葉なのだろうか?
———いや、それよりも。
どうしてこれだけある本の中から、それをわざわざ手に取ってしまったんだろうか?
「お前には早い!」
「はいすいやせんアニキィ!!!」
ビクッ、と怯えるようにしてすぐに両手を上にあげたダズ。おそらく、本当に他意はないのだろう。他意なくその本を選ぶセンスには脱帽だ。
「……いや、怒鳴ってすまん。超級はお前には早いが、初級からなら多分勉強になるし読んどけばいいだろ。うん」
「へい、アニキィ……すいやせん……」
しょぼんと落ち込むダズに、いい機会だから勉強しておけと声をかけておく。
それからオレは、地面に散乱した本からとりあえずカバーの付いている本だけを退けていく。精神系魔法が付与されているものがカバーのついたものだと言っていたが、透明カバーだったりわかりにくいものも多数ある。
一目見て判別がつかないものばかりだから、とりあえず安全かそうでないかの分別から始めるべきだろう。
「袋とじ? へぇー、本に付随してこんなのがついてやがるのか」
本の種類は様々だ。
教養系からエッセイ、コミック、学問書から写真集とかまで入っている。あまりこういった紙媒体に慣れていないために、割と比較的新鮮な気持ちだ。
オレもダズも、子供の頃から文字を読むとなると機械端末での閲覧が基本だった。科学都市の都民には国から機器が支給されていて、それを用いて勉強を行なっていたことを思い出す。
「さりげないボディタッチ……? ボディタッチってのはたしか、セクハラってのに当たるんじゃねぇのか……?」
カバーといっても、様々なカバーがある。
重厚感ある革のカバーから、とってつけたようなチラシっぽい紙を折ったカバー、透明カバーや他にも色々ある。
せめて統一してくれればいいものの、とりあえずカバーをつけておけば良いとでも思ったのだろうか?
「おっ、こっちは男同士でのなかよくなる方法か! ……左足にロッカーのキー? サウナ限定の礼儀作法か……使えねぇな」
そしてカバーが付いていない方がオレの目当てだが、それもそれでくだらない本が多すぎる。オレはとりあえず手に取った本のタイトルを見て……
『むっちりと柔らかいゆゆ様を催眠で』
『マリアさまが見てる売春』
『やわらか愛宕さん』
『わちきは赤ちゃんになり申した』
何故か手に取った本が、エロ同人誌ばっかりだった。わざとではないのだ。オレは慌ててそれを他の本の下に隠す。
……これは後で、時間がある時に読もう。
「袋とじ付録は『夜のなかよしおようふく初級編』……これを着た姿を見れば、男は
そうしてオレはカバーの付いていない、他の本を拾い上げていく。ちゃんとした魔法の学術書もかなりの量がある。
「アニキィ! 着替えてみやした!」
火魔法から何か科学的な検証が行う資料だとか、闇魔法のかなり古い拷問をまとめた本もある。かつて、まだ科学が栄えていなかった時代には魔法のみに頼って人々は生活をしていた。その頃の貴重な資料なのだろう。
「うーん……さりげないボディタッチ……いやセクハラは良くない……うーん……アニキィ、少し触ってもよろしいですか?」
「あ? どうしたダズ……?」
———は?
そこには、かなりキワどい服装のダズがドヤ顔で立っていた。
目を離していたのは一瞬だったはずだ。
なのにコイツは、どうしてこうも卑猥な服を着ているのだろうか?
「…………服は?」
「着替えてみやしたぜアニキィ! 元気に、なりますかい?!」
元気に、なるに決まっているだろう。
むっちむちの太ももを隠すのはニーハイ。むちっとした肉がニーハイの上に乗っている。太ももの肉がゴムに締め付けられて、肉感が強く強調されている。
何故か片足にだけヒモに通した家の鍵を巻いているのは、何か意味があるのだろうか?
そして股間を隠すのは布面積が小さめなパンティー、色は黒。おそらくだが、後ろもケツがはみ出ているのだろう。それだけ小さい布面積である。
……前から見ても、すこし股間部の肉がはみ出ている気がする。
上半身はレースのたっぷりとついた、かわいらしいデザインであった。腹のでたチューブトップのようなものは、わざわざ下乳のところが丸く切り取られている。そのままパイズリがすぐに出来そうである。
そこから下のウエストはコルセットのようなもので絞られていて、そこにも柔らかなレースがふんだんに使われていた。
そして、それらを象徴するのは頭の上に君臨するつけ耳。すなわちうさ耳カチューシャである。
いや、卑猥すぎる。
確かにこれは元気になってしまうだろう。
「えっと……あと、さりげなく股間を触るといいらしいんですが……アニキィ、少し触ってもいいですかい?」
「は?」
よくないのである。
今触られたら、その、よくない勘違いをしてしまう。
「えぇと……あと、たしか……誘う? とかってのは、こうやって股を開いて……」
「開くな待てッ! ダズ、落ち着け、いいか? まずお前の読んだ本はどれだ?」
オレは間一髪卑猥な格好をし始めそうだったダズを止めて、そして何がどうしてこうなったのかの原因を探すことにした。
そしてダズが指を刺したのは———
「……カバー付き、じゃねぇか」
『入門! 人との夜のお付き合い〜初級編〜』
表紙には、今ダズが着ているのと同じ服を着た清楚系で細っこい体型のかわいい系モデルがかわいらしくポーズをとっている。
帯には『5000年に一度の美少女現る!』なんてキャッチコピーがついているが……
その上から、透明で薄っぺらく、しっかり注視しないとわからないようなカバーが付けられているではないか。
カバーにはご丁寧に、『習作:徐々に大胆になる精神系闇魔法』と手書きで書かれていた。端っこの方には詳しい効果と、時間が丸一日24時間だと記載されている。
それは、長い長い24時間の開始であった。