※この作品はR-18です。

ある日舎弟がTSしたけど忠犬巨乳がどぷんたぷん   作:芥目たぬき

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嵐の前のなんとやら

 

 

「アフロディーテさま、そろそろお休みの時間でございます」

「……あぁ、ありがとうございます」

 

 神殿にはあまりにも似合わないミニスカメイドを着た美少女は、その美しい女神の背後から声をかけた。

 

 果たしてどれだけの長時間、鏡を見つめて能力を行使し続けていたのか。目元を痛そうに抑えながらも、アフロディーテは側付きメイドの用意した食事の席につく。

 

「……これだけ長生きして、こんなに能力を使い続けるなんて初めてな気がします。いくら肉体的疲労と無縁とはいえ、流石に疲れました」

「お疲れ様です、アフロディーテさま」

 

 愛と美の女神———その名(・)代(・)として長く生きてきたアフロディーテにとって、その力を行使すれば肉体的な疲労というものとは無縁であった。

 常に最良の状態である肉体(美しい)だと自分自身を定義しているため、そもそも疲れるということはない……のだが。

 

 それでも、精神的な疲労というものはやってきてしまう。

 脳の負担ですら和らげているアフロディーテであっても、それだけは取り除くことが出来なかった。精神的な苦しみは人(・)間(・)讃(・)歌(・)の(・)美(・)し(・)さ(・)だ(・)と(・)無意識のうちに認識してしまっているがために、苦しみを取り除く行為を創り出せないのだ。

 

「弱音を吐いている暇はありませんね。あれもこれも、今もなお頑張ってくれているパリスちゃんに比べたらなんて事ありません。あ(・)と(・)数(・)日(・)で(・)約(・)束(・)の(・)日(・)なのですから、頑張れますよ」

「……そう、ですね。その日が待ち遠しいです」

 

 果実水を味わうアフロディーテに、メイドはそういえば、と声をかけた。

 

 普通の使用人なら無礼な行為であるものの、そんなことをアフロディーテは気にしないし、メイドもそのことに関して何の疑問も覚えていない。そもそも、神殿(ここ)で生活する上でそれが良くない行為だとは教えられていないのだ。

 

 発言したければ発言する、それが主人に教えられたことである。

 

「アフロディーテ様。今この時だけでも鏡を使って、ご主人様の様子を見てもよろしいでしょうか?」

「もちろんですよ。むしろ、私もパリスちゃんの勇姿を見て元気をもらいたいですから。鏡の操作をお願いしても?」

「かしこまりました」

 

 ———世界を俯瞰する鏡。

 

 それは誰でも操作ができるものであるために、機械仕掛け(アンドロイド)の少女であっても見たいものを映し出すことができる。

 難しい操作はなく、感覚的に操作するだけで見たいものをそこに出してくれるのだ。

 

 アフロディーテが心の休息のための食事を口に運ぶ中で、機械仕掛けのメイドはパリスがいるだろう所を拡大していく。

 

 ———あまり長い時間、この鏡を使う事はできない。

 アフロディーテの休息が終わり次第、また鏡を使って人(・)類(・)が(・)生(・)み(・)出(・)そ(・)う(・)と(・)し(・)て(・)い(・)る(・)愚(・)作(・)を醜くしなくてはならないのだから。

 

 本当なら一分一秒を惜しんで、かの愚作の完成を止めなくてはならない。しかしアフロディーテも、いくら神の権能の末端を預かる身だとしても元は人間の体なのだ。どうしても、休息が必要になってしまう。

 

 その、少しの休憩の時だけは彼の姿を目に写したい。

 美しき神の化身たる美女と、その側に侍る少女はそれぞれ男への想いを胸に鏡を凝視する。

 

 そして、鏡に映ったパリスは———

 

 

 

「ご主人様……なんと……!」

「あぁ、そんな、パリスちゃん……!」

 

 

 

 

 可憐な乙女達は、ハッと息を呑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ———なぜなら、その翁は。

 

 牢獄でシコっていた所を、看守に豚を見る目で見られて号泣していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 * * * *

 

 

 

 

 プレーステールの直前。

 ダズはこの日、一人で買い物に出ていた。苦労人保護者(主人公)は本日留守番である。

 

 日もとっぷりと暮れかけた夕方、買い物はほとんど終わった状態であった。ダズがぶら下げている買い物袋には、きっかり1週間分の食材が入っている。

 

 と、いうのも。

 

 プレーステールの前後では毎年1週間ほどは大雨が続くらしい。その間外出しないための準備として、嵐が来る数日前にはこうして街が活気付くのである。

 外に出られなくなる前に、保存できる食材を買い込んだり娯楽を買っておいたりで、街はそこそこの賑わいを見せていた。

 

「ん……? アレは、魔法の旦那じゃねぇか」

 

 帰路の途中、ダズは1人の顔見知りを発見する。

 ちょうど1週間前、ダズにかかった闇魔法を解除した魔法使いだ。

 

 

 

 

 

 

 ———あの後、突然目の前に本を渡してきたあの大男がいて、そして彼の手で魔法が解除された。

 

 石化魔法の効果で時間の経過を認識できなかったダズは、一瞬にして朝から夜になっていて、布団で簀巻きにされていて……と、散々な目に遭ったのである。

 

 ちなみに、解除後冷静になったダズはすぐさまアニキに土下座で謝った。

 親しき中にも礼儀あり。いくら互いに気にしない仲でも、距離感をしっかり保つことが長く共にやっていく中で必要なことなのだ。

 

 そして後日、魔法使いの大男とダズ達は街の郊外まで出向き、違法古書の焚き上げを行った。

 男は何度も「もったいない」だとか「やっぱりお金にならないか」などと言っていたものの、違法性のある本なんてまともに買ってくれるところはないだろう。アレは本ではなく劇物である。

 

 魔法が当たり前のように横行している集落生まれの若者。だからこそ、その違法性をあまり理解していないのかもしれない。

 燃え盛っていく炎を見ながらも、「ここまで運んできたのに……」だとか「お金に……ならないのか……」と言っていた背中が、なんとも哀愁漂っていた。

 

 手元に残ったのは、呪いのかけられていない本だけだ。それらの中でも興味のある本を数冊だけもらい、その他は全部大男に渡した。

 

 アニキ曰く。

「この辺りで本なんて売っても何もならねーが、せめて都市部の真ん中持っていけば、マニア向けの骨董屋で買い取ってもらえるかもしれない」———とのこと。

 

 このご時世、都市部では紙媒体の本なんてまず見かけないが、一部の酔狂なアンティーク好きは実物の本を好んで読んでいるらしい。そういう層なら、かなりの年季の入った古本は高く買い取ってもらえるかもしれないとのこと。

 ダズにはよくわからない趣味であったが、そういう物好きもいるのだろう。

 

 自分たちも、ほぼ元手がないところから働いて旅に出た辛さを覚えている。多少でも金になるだろうというアドバイスを受け取った大男は、生き残った大量の本を大切そうに風呂敷に包み直していた。

 

 

 

 

 と、いうわけで。

 その大男は現在、小銭を片手に店先でうんうんと悩んでいる様子である。

 

「よォ旦那。何してやがるんだ?」

「む……ダズ、殿」

 

 手には小銭、そして視線の先には安い食材が並んでいる。

 

「嵐の間……ご飯を……どうしようかと……」

「あぁ、アンタも買い出しかァ? ちなみに、どんくらいあるんだ?」

「これ……」

 

 と、見せられたのは少なくは無いが多くはない金額であった。

 

「……都市部に行くまでの、お金を差し引くと……これでやりくりを……ううん」

 

 無一文で街にやってきたこの大男は、日々魔獣狩りで金を稼いでいる。ダズ達のような高い機材は使っていないが、魔法を駆使して活躍を見せているそうだ。最近、たまにギルドでこの男の話を聞くほどである。

 

 以前聞いた限りでは、ギルドが提供している安宿(ドヤ)に住んでいるのだそうだ。劣悪な環境だと聞いているが、魔法を使ってそこそこ快適に暮らしているらしい。

 

「1週間、こんだけ金ありゃまぁ生きていけるだろ?」

「……だが、切り詰めれるなら、少しでも……」

「やめとけやめとけ。必要な分確保できてるなら、使うとこは選んだ方がいいだろ」

「……そう、だろうか?」

「ん、アニキの受け売りだから間違いねぇぜ」

 

 そういうと、男は納得したように店内の中に入っていき、購入を迷っていた業務用肉塊を買物カゴに入れた。その肉も比較的安い肉ではあるが、味付け次第ではかなり化ける主婦の味方である。ダズも好んでよく使うものだ。

 

「へぇ、自炊するのか」

「……キッチン、ないから、ちょっと困ってるけど」

「ドヤじゃキッチンはないよなぁ……どうするんだよ?」

「……魔法で」

 

 本当に魔法は便利だと思うが、ここまで使いこなせる人間というのはかなり限られているだろう。

 あまり表に出せない技能ではあるものの、こういう旅をしている身としてはすこしばかり羨ましい。

 

 聞いた話によると、魔法を大きくすることもできれば、精密に小さく動かすこともできるのだそうだ。

 先日見せてくれたファイアーボールは、名前に見合わずプラネタリウムくらいの巨大火炎球であったのに、その火を調節すればトロ火でことこと煮込むことも出来るらしい。便利なものだ。

 

「……でも、修行は、大変だった……」

「へぇー。ま、科学都市に行けば魔法なんて使う機会無くなるぜ。せいぜい今のうちだな」

 

 せっかくだからとダズも口を挟みつつ、男の買い物に付き合っていく。

 

「……ダズ殿の、アニキさんは……元気か?」

「あぁ。アニキは今、プレーステール後の行き先について考えててなァ」

 

 本来ならここからさらに僻地に向かい、魔法について少しでも手がかりがあればと思っていた……が。

 数日前に、その方針は変わっていたのだ。

 

「アニキが、アンタから聞いたってェ言ってたんだが……魔(・)法(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)っていうのは、どういうことなんだ?」

「……あぁ、あれか……」

 

 行先が変わった理由。

 それは、この男のとある発言がきっかけであった。

 

 

 

 

 聞くところによると、ダズが石化して固まっていた時、この男がやってきて……精神魔法の解除前に、アニキの石化魔法を診断したのだ。

 

 ———これは、魔法じゃない。

 

 まったく動かないダズの首に手を当てて、目を確認して……額に手を当てたり、さまざまな行為を一通り行った男は、アニキにそう言ったらしい。

 

 では果たしてコレがなんなのか、と聞いても「わからない」とのこと。

 ただ、魔(・)法(・)で(・)は(・)な(・)い(・)ことだけは確かならしい。

 

 

 

「あと、オレがこの身体になっちまったってのも、魔法じゃないらしいじゃねェか」

「ん……そう、だろう」

「はぁ……オレァ難しい事はわかんねぇんだがよ、どうして魔法じゃねぇんだ? こんなの、魔法じゃないと言い訳つかねぇだろうが」

「……だが、違う」

 

 男は、苦味と酸っぱさのハーモニー奏でるゲロ風味グミをカゴの中に入れながらも、神妙な顔でダズを見下ろした。

 

「……オレは、幼い頃から……魔法、いっぱい勉強した……」

「あぁ。オレが会った中でおそらくアンタが1番すげぇ魔法使いだろうな」

 

 今まで会ったことのある魔法使いというのは、科学と魔法を巧みに使いこなした裏稼業の人間が多かった。

 このご時世、魔法なんてものを使っていたら当たり前のようにしょっ引かれてしまう。だからこそ、魔法の練度がずば抜けて高い魔法使いというのはなかなか出会えないのだ。

 

 しかし、そんな当たり前の常識が通用しない僻地で生まれ育ち、幼い頃から魔法のみを学んでいたとしたら……それは、この現代において最も魔法に詳しい魔法使いと言えるだろう。

 いくら若いと言っても、かけてきた年月や魔法に対する環境が違うのだ。

 

「……うまくは言えないが……なにか、当たり前をねじ曲げられている気がした……」

「はぁ?」

「わからないが……なんか……違うんだ……」

 

 あまりにも要領を得ない物言いに、ダズは首を傾げるものの……気を取り直して、ゲロ風味グミをカゴからそっと取り除いた。随分昔に興味本位で買った事があったが、これは本当にやめたほうがいい。

 

「……例えるなら、姉だと思っていた人が母親だったみたいな……」

「わかんねぇよ」

「……外に咲く金木犀の匂いだと思ったら、近くの便所の匂いだったみたいな……」

「わかんねぇよ」

「……本だと思って買ったら、メモ帳だったみたいな……」

「わかんねぇよ」

「……道路にネコチャンがいると思ったら、落ちている手袋だったみたいな……」

「だぁああー! わかんねぇよ! なんなんだよ!」

 

 あまりにも抽象的すぎるその例え。

 あるあると言いたくなりかけるが、ねーよとしか言えない。わかりにくすぎる例えである。

 

「魔法ではない……という例えとしてはそんな感じだが……その現象に対してのコメントとすると、なんだろう、もっと深淵が深くて暗くて底が見えないような、そんな感覚を覚えた……」

「はぁ」

「……潰すという行為を行おうとした際に、上から物を落として物理的に潰そうというのが魔法なら……重力をものすごく強くして潰そうとする、そういうベ(・)ク(・)ト(・)ル(・)が(・)全(・)く(・)違(・)う(・)なにか不思議な作用を感じた……というべきか」

「う〜〜〜〜〜……ん、いやわかんねぇよ」

 

 だが、誰かの仕業だという事はわかっているのだろう? と、男は先程のグミを再びカゴに入れながらも問いかける。ダズはもう諦めた。この男はゲロ風味グミを買って後悔するべきである。

 

「……ダズ殿にかかっている、その性転換の呪いのようなものと……アニキ殿の石化の呪いのようなものは……ちょっと、似てる気はする」

「似てるのか?!」

「……全く、別物だけど……男物の香水と女物の香水、匂いの雰囲気が全く別物だけど、根本は香水という部分が同じとか……そういう意味で……」

 

 アニキの石化魔法と似たようなモノ。

 1番近くにいるからこそ、その理不尽さやどうしようもならないことを知っている。それを解明するために、この数年を費やしているのだ。

 

 よく言えば、自身の身体の問題とアニキの魔法は近しいものがあるため、どちらかを追っていればもう片方の真実にも近付くかもしれないという事。

 

 悪くいえば、数年かけても何の手がかりも得られないような魔法なのに、それがもうひとつ別の方法で振ってかかってきてしまった事。

 

 

 

 

 

 ———というか、なんでこの田舎男は香水に詳しいんだろうか? 

 

 

 

 

 

 

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