ある日舎弟がTSしたけど忠犬巨乳がどぷんたぷん 作:芥目たぬき
パリスはいつ来るのか。
アフロディーテは、怒髪天であった。
「あの……アフロディーテさま」
「なんですか、ホメロス?」
「……っ」
美少女メイドロボットにピシャリと強めの言葉を吐き出してしまう。それに申し訳なさを少し覚えつつも、アフロディーテはそれどころではなかった。
下界を見る鏡には、2人の男女が映っている。
大荷物をまとめて巨大な輸送車に乗り込んでいる彼らに、その美神は煮えたぎるような怒りを込める。朗らかな笑顔がなんとも憎々しかった。
「パリスちゃんは、頑張ってくれています」
「……はい、ご主人様は……」
「わかってますよ。わかってます、わかってるけど……」
どうしてこうも思い通りにならないのか。
ままならないことに、アフロディーテは悲しみと怒りの篭った感情のままに言葉を口にする。
「愚かな……本当に、愚かな。この危機を理解しないなんて。自分の意義を理解しないなんて……」
わざわざこの時代に必要と神に定められたというのに、それを無視するその信仰心の無さに呆れかえる。
我らが主神を冒涜せんとする、その危機意識のなさに腹が立つ。
何よりも、
パリスの事だ、きっと彼らの説得に多大な努力をしてくれているのだろう。
かつて英雄と呼ばれて讃えられたプライドを簡単に捨てて、彼らに協力を頼み込んでいるに違いない。それを考えるとアフロディーテの胸には愛しさと尊敬の意が膨れ上がる。
それだというのに、かつての素晴らしき英雄をあんな寒そうな監獄に閉じ込めるなんて。
……この時代の、愚かな人類に呆れてしまう。
人というのは昔から、自分自身の危機が目の前に訪れないと動けない生き物なのだ。昔から群衆に期待を寄せるほどアフロディーテもお人好しではなかったが、それでもここまでの仕打ちを受けるなんて思ってもみなかった。
まさか、パリスが
———数千年前。
アフロディーテが産まれた、その日。
愛の神はアフロディーテのもとに現れた。
その小さな身体に生まれてきた意味使命を授けに、彼の夢に立ったのだ。
それは『黄金の林檎』を入手するための聖戦に参加する事。愛の神にそれを献上するよう、彼はこの世に生を与えられた初日に使命を授けられたのである。
その時、愛の神の権能の一部がアフロディーテに与えられた。その時から彼の左目には、桃色に輝く人智を超えた力が宿っている。
神自身がこの世に顕現するには、あまりにもこの地上は穢れすぎている。そのため、通常の神はオリュンポスという空の世界に住われている。
しかし、稀に神々も穢れた地上に干渉するときがあった。地上での必要が出た際、神は自身の名代となる子を人間の胎で作り出し、その子に自身の権能の一部を授ける。
そうして
———愛の神は、黄金の林檎を求めた。
その林檎には神の権能のひとつである『美』が埋め込まれており、それを得る事で美の権能を得ることができるという宝物だったのだ。
愛の神はそれを欲した。愛だけでなく、美の権能をも自身のものにしたかったのである。
それを入手するために、愛の神はアフロディーテを名代として生み出した。
黄金の林檎をめぐる聖戦は、熾烈を極めた。
時に仲間を得たり、同盟を組んだり、裏切られたり……何度もそれを繰り返したのだ。流れた血も多く、アフロディーテは何度も大切な人達を失いながらも前を進み続けた。
この世のどこかにあるという言葉を頼りに、彼は長い年月を愛の神のために捧げたのである。
そんな中で出会ったのが、若く美しい青年・パリスであった。
アフロディーテがその噂を聞き探し出した、主神の施しを得た
彼はとても誠実で逞しく、アフロディーテと共に数多の冒険をくぐり抜けた。時には人を救い、街を救い、果てには世界を救った。アフロディーテ1人ではきっと、途中で死んでしまっていたかもしれない。それでもパリスがいたからこそ、彼は走り続けることができた。
そしてついにパリスと共にいたアフロディーテこそが、黄金の林檎を掴み取ったのである。
かつての威光を知っているアフロディーテは、パリスを全面的に信用している。
彼の強さも勇ましさも、人を説得する話力も、何もかもがアフロディーテにとって尊敬に値するものであったのだ。
だからまさか、彼が
例えるならば、「塾の月額費だから先生に渡すように」と渡した金を、ゲーセンに使われている母親のようなもの。
子供の頃は可愛くて素直だった我が子が、まさかグレて夜遅くまで遊びまわってるなんてかけらも疑わないのと同じだ。
「パリスちゃんだって、世界が今どんな危機に陥ってるかをちゃんと説明しているはずです」
しかしパリスは、2人になんの説明もしていない。
まさか世界の危機の矢面に自分たちが立たされそうになっているなんて、2人はまったく知らないのだ。
「せっかく
恩どころか、被害としか思っていない。
「要請に応じないその日和見主義の無神経さ、本当に腹立たしいです」
要請もなにもしていないのである。
その美しい女が諦めたようにため息を吐くのと同時に、ホメロスは彼女に声をかけた。
「アフロディーテ様、私に何かできることはッ……」
「……待ちましょう、ホメロス。共に僕の愛しいパリスちゃんが戻ってくるのを待ちましょう」
「……っ!」
機械人形であるホメロスは、顔を歪める。
自分の無力さを嘆き、大切な人の役に立ちたいと思う感情とそれができない自分に苛立ちを覚える。待つことしかできない自分が、なんとも小さくて悲しかった。
これは、ご主人様に教えてもらった感情だった。
大恩はいっぱいあるのに、いざ彼の役に立ちたいと思っても何もできない自分はあまりにも弱い。
「僕たちは、僕達にできる事をしましょう。
「アフロディーテ様……」
それ詭弁だということは、ホメロスにはわかっていた。
しかし、世界の危機を前になんとか動き出さなくてはならない。鏡に映る眼帯の男と、目を前髪で隠した女を睨みつけてから、ホメロスはアフロディーテのために茶を淹れに厨房へと向かったのであった。
* * * *
———そんなことが頭上の方で起きていたなんて知らないオレたちは、多くはない荷物を背負って輸送車のタラップに足をかけていた。
プレーステールも明けてしばらく。
オレとダズは諸々の解約手続きをさっさと終わらせて、都市部に1番早く着くだろう便に乗り込んでいた。
超大型のこの車は水陸両用で、およそ100人以上の人間を乗せて都市と街の往復が可能である。車内には豪華とは言えないものの、食堂やシャワールームも付いている。基本的には荷物を専門とした運搬車ではあるものの、劣悪な環境というわけでもないのでそんなに苦にはならない。
金をもっと出せるならちゃんとした人間移動用の車にも乗れるが、そこまで贅沢できるほどの財布事情ではない。
それに、1年前にもこの車に乗ってきたワケだが、特にその時は不便を感じなかったのである。きっと帰りもそんなに変わらないだろう。
「しっかし……荷物がねェと、だだっぴろく感じますねぇ」
「前乗った時、ここは全部荷物で埋まってたもんなぁ」
都市部から来た際には多くの荷物を乗せていただろう空間も、今はすっかり空っぽになっている。1年前にこの車に乗った時はひどく狭く感じたが、載せるものがない状態だとこうも広く感じるのか。ひどく殺風景だが、まぁ窮屈よりはマシだろう。
そして、預かっているルームキーの番号を見ながら自分たちが取った部屋を確認する。
……201号室。扉を開けると、狭くて窮屈な空間がそこにあった。
2人1部屋になっている個室。壁に備え付けられているソファを引っ張り出すことで、すぐにベッドに変えられる仕組みになっている。
エアコンは完備、冷蔵庫も付いている。ただし部屋はとんでもなく狭いのが特徴だ。
いまはソファ型になっているこれをベッドにすると、立つ場所がなくなるほど狭い。また、ベッドとベッドの間も10cmくらいしかなくて、シングルベッドが2つくっついているようなものである。
もう少し金を出せばもっとマシな部屋に泊まれるのだが、ダズがこっちでいいと言い張ったのと、無駄に贅沢をする余裕がなかったのでこの部屋になったのである。
オレとしてはもう少しでいいからベッドを離したい。かわいくてあどけない美少女の寝顔が近くにあるのは、クるものがある。それが男だと分かっていてもキてしまうのだ。もう仕方がない。
まだ
「……長旅になるな」
今日から10日間かけて、都市部までこの部屋で2人で過ごすことになるのだ。その間理性が保つか、不安になってくる。
これまでも何回か手を出しかけて、なんとか舐めたりするだけで挿入には至っていないのだ。そしてそのたびに、興奮している事を後悔する自分がいる。
せめて今度こそはちゃんと手を出さないようにと、オレは堅く心に誓うのであった。
いくら無防備でバレなくても、自分を慕ってくれている弟分に手を出してはいけないのだから。