ある日舎弟がTSしたけど忠犬巨乳がどぷんたぷん 作:芥目たぬき
この世界の電子ドラッグというのは、特殊な言語を用いられた特殊な電磁波出力データである。誰もが持っている携帯端末に街中でも普通に売っているアダプターを取り付けて、それを頭部に装着して使用するのだ。
脳味噌に直接作用させるために、通常の覚醒剤よりもよっぽど効果は強くすることができる。ファイルデータはダークウェブでの売買が基本になるが、対面販売を行うパターンもある。
このオレン・D・ジュースという男は、悪質な電子ドラッグの開発者であった。
アッパー系ドラッグの『ウンシュウ』である。
ウンシュウは当初、比較的手軽なドラッグであった。若者の中で流行り、手軽に後遺症なく使えるという口コミで広がった。パーティやクラブなどで多く広がり、酒よりも簡単だと人気が博していた。
そして多くの人々に出回った頃、特殊な
一度ダウンロードしたファイル。それが、自動的に自身でデータを変えていったのである。特殊なマルウェアを含んでいたデータファイルは、時間差で作用するように仕込まれていた。
アッパー系だったプログラム内容を、悪質な書き換えによりダウナー系にするのだ。
使用者は、口を揃えて疑問を呟いた。
「アガるはずなのに、自分だけが取り残された気になる」
「楽しい時間のはずなのに、何故か遠くからみつめている自分を感じる」
……そんな最中に、使用者にアップデートの知らせがはいった。そのアップデートしたファイルこそが、悪質極まる人体に悪影響しか及ぼさない商品だった。
最初は比較的安全だったが、次第に強烈な虚無感と禁断症状を発症させる内容物になった。
一部のデータは人間用ではなく、機械制御に使われるようなロボット的なプログラムも含まれており、果てにはとても人体に作用させていい代物ではなくなっていったのだ。
強力な命令指示を、脳内に直接流し込む行為。無意味だが長文で処理が重たいプログラムだったり、短い指令で過負荷をかけるようなプログラムだったり。とても、人間の脳みそに投げ入れるようなものではなかった。
ただの手軽なアッパー系電子ドラッグだったウンシュウは、サイケデリックな幻覚と一瞬が何倍にも膨れ上がるような刹那感を与えた後に、虚無を与えてくるアイテムとなったのである。しかも、一度の使用でそれが何度も何度も繰り返されるのだ。
とある使用者は、ハイテンションのあまりにビルから飛び降りて死んだ。とある使用者は、あまりの虚無感に7日間飲まず食わず寝ずで部屋に引き篭もり、脱水症状と睡眠不足の末に死んでいった。
幻覚が、人を壊し始めたのである。
その頃になってやっと規制が入るものの、ウンシュウの禁断症状に侵された人間は驚くほど多かった。データの保持が犯罪になっても、手放せなかったのである。薬物中毒者は、町に溢れかえっていた。
世間を賑わせた悪質な電子ドラッグの製造者。
その男はさっさと都心から逃げ出したが、人々は未だにウンシュウの呪縛から逃れられないでいる。
なぜ男はそのような電子ドラッグを蔓延させたのか?
答えは簡単で———「自分のため」だったのだ。
みんなが
彼はそれを充分に見届けてから、また新たな『創作活動』に身を投じたのだ。
まともなインターネット環境が一切ないオフライン環境。ここまでやってきて新たな到達点を得た男は、あとは手に入れたものを形にするだけ。
この監獄で金に物を言わせてハイスペックのノートパソコンを持ち込んでいた男は、
「本当はもう少しココにいるつもりだったけどなぁ……」
オレン・D・ジュースは、片手に端末と、小脇にノートパソコンを抱えて平然と歩いていた。
その後ろにはパリスがひょこひょこと歩いている。
「ワシは出る気マンマンというか、後先気にせずに生きてもイイ人間なわけなんじゃけど、おぬしはいーの? ちゃんと入っとかないとダメじゃね?」
「ん、いいぜ別によ。多分戻ってこねーし」
へらへらと笑っている男だが、それがまた恐ろしい。この男の容姿はハッキリ言って、近付いては危険だと一眼でわかる見た目をしていた。
顔半分と、腕や首まで無意味なタトゥーで覆われている。目つきも恐ろしければ身体も大柄で、まさしく不良といった風貌。顔にはピアスがこれでもかと刺さっていて、眉毛もほぼ全剃りだ。
出来れば近寄りたくはない。
まさかこの男が、どちらかというとインテリ派だとは思えない。
むしろ、麻薬の
「マシンの
「ふーん……」
この2人は、唐突だが
そんなわけで、監獄内から出所するために堂々と廊下を歩いていた。
ひんやりとしたこの冷たい空間とも、これでおさらばである。
返された私服などをしっかりと身につけて、日のあたる玄関側へと歩みを進めていた。
パリスはぺろんぺろんのダサいアロハ服一枚だけ。オレン・D・ジュースはPELEEの革ジャンの襟を立てて、背負ったカバンには様々な機器が入っていた。殺風景なこの場所に、2人の姿はとても浮いている。
やけにシンと静まり返った廊下には、点々と見張りの看守がいるものの、その目はどこかうつろな表情であった。
———監獄から出たいとパリスが言ったその日から、オレン・D・ジュースはこの監獄の署長にコンタクトを取っていた。
ここでは、多額の賄賂とドラッグを笠にきているオレン・D・ジュースの頼み事は絶対だ。手紙を運ぶだけで1日働くよりも多い金額をその場でくれるし、この街では手に入らないようなドラッグも融通してもらえる。一部には真面目な看守もいたものの、署長が甘い汁を吸いたいがために部署を変えられて、今ではもうオレン・D・ジュースの好き放題できる環境が出来上がっていた。
つまり、今回の仮釈放はオレン・D・ジュースの働きかけによるものであった。
「5日か……ま、ガバガバ管理のおかげだな」
「出たいと思った時に出所させてくれるなんて、スゲェ監獄じゃなぁ」
「そりゃ、なぁ?」
ここの署長は、オレン・D・ジュースの言いなりなのだ。
仮釈放の報酬として、多額の賄賂と膨大なデータ量を誇る電子ドラッグが置き土産として残されている。
それは世間に出回ったウンシュウだけではなく、ほかの電子ドラッグも含まれている。都市からの通常輸入では、とてもこの街で入手することは出来ないだろう。
それらを、全て署長に渡す。
2人同時釈放の条件として、オレン・D・ジュースが提示したものであった。
この街における電子ドラッグの元締めにならないかと持ちかけて、ここの署長はそれを受け取ったのだ。
いくら人口が少ないとはいえ、娯楽の少ないこの街のことだ。すぐにドラッグに溺れる人間は出てくるだろう。
問題点としては全員が全員端末を持っているわけではないことだが、プレーステール後の輸入期で中古品などがある程度出回ると見越していた。
「世も末すぎんか?」
「ま、
———署長は電子ドラッグの中毒者に成り下がっていた。
オレン・D・ジュースが仕込んだマルウェアが動作する前の、ちゃんとした高純度で出来がいい
法的に問題がないように手続きを最短でこっそり行って、5日。署長のドラッグへの愛が垣間見れる仕事ぶりである。
「ここの連中は全員パキパキにキマってるからな、ドラッグチラつかせればすぐ言うこと聞いてくれる」
「はえーこっわい。オレンジちゃん人類掌握出来ちゃうじゃん?」
「イイなぁ、それ」
看守の見送りを尻目に、2人はその敷地からゆっくりと歩いていく。
今回のオレン・D・ジュースがわざわざこんな田舎くんだりまで足を運んで行った発明品と———そしてパリスの話の中に出てきた、アフロディーテが目の敵にしているという人類の発明品があれば、きっと手が届くだろう。
パリスの言葉では、その人類の発明品は神にも手が届く代物らしくて、それを壊さないと神の怒りに触れるかもしれないだとか言っていたが。
ようは、
———
人は人らしく、自分のことだけを考える獣でいるべきである。
「なに、神になんざ興味ないんでね」
「?」
今までは麻薬に溺れて、自身に縋る事でしかそれを与えられない哀れな人間を見るのを楽しんでいたが……これからは違う。
人そのものを、操ればいい。
それが出来るものを、作り上げたのだ。
彼の手の中には、ひとつのデータが入っていた。
新しく作り上げた世界を作り替えることすら出来る、素晴らしい発明品。
———すなわち、
しかし、現状では男がやりたいことは
人を意のままに操るのだから、精神を計算する膨大な演算能力が必要なのだ。
オレン・D・ジュースが持つ超ハイスペック端末を催眠アプリ専用機としてカスタマイズしたものですら、人間1人を操るのがせいぜいだ。
彼の目的はただひとつ。
新しい発明品を、完璧なスペックを持つマシンで動かしたい。神を理解し得るだけのとんでもないモンスタースペックのマシンで動かしたい。
それの存在を、パリスが言っていたのだ。
人類が神に届く可能性を秘めた———
都市アテナイの地下にあるというそれは、パリスの言葉を信じればもうほぼ完成しているようなものなのだろう。
美と愛の神の権能をいくら使っても、醜くすることはできても成長を止めることはできない。
しかし未完成が美しくないことだと定義して、その解釈を無理やり広げて完成を食い止めているのだそうだ。
元はとても美しいフォルムだったというその機械も、今では巨大で不恰好な機械になっているらしい。
彼の目的はひとつ。
世界中の人間を催眠アプリにかけてしまいたい。
———
今回作り出した
悪意の塊として動き出した男は、ゆっくりと歩き出したのであった。
* * * *
ふと、腕の中にある暖かいものを抱きしめる。
それはむっちりと柔らかくて、甘い匂いがした。
———朝。
ふわふわな感触が顔に当たっていて、それが居心地良くて顔を擦り寄せる。枕に顔を埋めるように、それを抱き寄せて顔を埋めた。なんだかいい匂いがする。
聞こえてくる心臓音が居心地良くて、オレは微睡の中でゆっくりと薄く目を開け———
「…………」
白い谷間。
オレが今顔を埋めているのは谷間である。
つまりそれは、大きくて柔らかなおっぱいであった。
身体抱きしめながら谷間に顔を埋めた状態で眠っていたらしく、オレは驚きのあまりに一瞬フリーズし……そして眠たいはずの頭が高速で回転していく。
「っ……!? わりぃっ!」
あわててオレが身体を離すと、ダズも合わせて身体を起こした。
「ん……あ、アニキ……おはようございます」
目をこすりながらも、オレに微笑みかけるダズ。
時計を見ると7:30。いつものダズならとっくに起きている時間だ。
小さな小窓からは、朝の日差しが差し込んできている。運搬車での生活も2日目。大きな揺れもなく、快適な旅を過ごせていた。
「えと……おはよう。今ので起こしちまったか?」
「いえ、起きてましたので気にしないでくだせぇ」
じゃあオレがおっぱいに顔埋めてたのもしっかりわかってるってことかよ。
ふとよく見てみると……今オレが起きたのは
オレの寝相が悪く、きっとダズのベッドにまで転がってダズを抱きしめながら眠ってしまったのだろう。
普段、オレよりもダズの方がよっぽど起きるのが早いが……きっとオレを起こすかもしれないと躊躇って、ずっと起きずにオレの腕の中で過ごしていたのだろうか?
そして、オレはダズの乳肉に顔を埋めてぱふぱふしながら眠ってたってわけか。なんてことか、時間が戻せるなら巻き戻したい。
「あー……悪かったな、ダズ。気をつける」
「居心地はよかったでさぁ!」
なんだその感想は。
「嫌だったらどかしていいんだからな? 起こしてくれて構わないぞ」
「……苦しかったらそのようにしまさぁ。それより、顔洗ってメシ買いにいきやしょうぜ」
ニコニコと機嫌が良さそうに笑っているダズを見ると、どうやら満更でもなかったらしい。
今の時間は洗面台も混んでるかもしれないと思いつつも、オレとダズは顔を洗いにタオルを持って部屋から出たその瞬間。
「んぇ?」
「お?」
「………………ム」
と、そこで偶然、見知った顔と遭遇する。
それは以前に闇魔法のあれこれで世話になった男で、そしてこの都市行きの旅をオレ達が決めたきっかけになる男であった。
「以前から、気になって、いたが……」
「ん?」
そして、オレとダズと男の3人は一緒の席について朝食を食べていた。パンとサラダとゆで卵がついていて、食後にはコーヒーがついてくる。乗車のプランに強制的に組み込まれており、食べなくては損なのだ。
以前、この旅程中に金がないからとほぼ飲まず食わずで過ごした結果、ぶっ倒れて救護室送りになった人がいるらしい。それ以降は、かならず食事がセットのプランを選ばなくてはならないと会社が決めているそうだ。
というわけで、3人ともに1番格安の朝食プランである。
「2人は……付き合ってどのくらい、なのか?」
「付き合う? えぇと……始めて会ったのがオレが8歳くらいだったか? もうすぐで20年くらいか?」
じゃなくて、と男は首を振る。
ならば一体なんなのか、と聞くと。
「男女……いや、男同士? ……での、そういう意味での、付き合ってから、だが……」
「ぶへぇっ!?」
「ごほっ!?」
優雅とまでは言わないまでも、穏やかだった中に唐突にぶっ込まれた話。
オレとダズは思わず咳き込んでしまった。あまりに驚いて、オレは食べかけていたサラダが喉の変なところに入るし、ダズに至っては持っていた箸を取り落とすありさまだ。
周りにいる他の乗客の目が、一瞬こちらに集まる。
「わわ、アニキィ。こちらをどうぞ!」
「ごほっ……ん、助かる」
テーブル上に備え付けてあった紙ナプキンをダズから受け取りつつ、変なところに入ったサラダを流し込むようにお茶を啜る。すぐに空になったお茶には、ダズがすぐさまおかわり分を注いでくれた。
「あのなぁ、男同士だぞ? ねぇよ」
「…………都会では、よくある、と……」
「あるけど! でも、そういう関係じゃねぇんだよオレたちは」
確かに、昨今では割と同性同士のカップルが増えてきているらしい。科学都市では同性でも科学的に2人の子供を産み出す技術が発展していて、それを利用している人もかなり多くいるのだ。
しかし、それとこれとは別の話である。
そもそもオレはホモじゃねぇし。男のダズをそんな目で見た事ねぇし。
「……てっきり、付き合って長いのかと……」
「アニキみたいな出来たお方に、オレみたいなやつなんてつり合いがとれねェだろ? 少しは考えて物しゃべったらどうでぇ?」
「…………?」
そうなのか? と問いかけてくる視線に、オレは首を傾げつつも頷いておく。
ダズの論点がなんだか違う気はするものの、昔からこんな調子なわけだし、結論は2人とも同じなのだ。特に問題はないだろう。
「……2人は、付き合っては、ないのか……」
付き合うもなにも、そういう関係ではないのだというのに。
「さっきからすごく、イチャ……じゃなくて、仲良くしてたから……そういう、関係かと思ってしまった……」
イチャついてたって言おうとしたなコイツ。
たしかに……以前よりも、ダズの図体が小さいがために距離感は近くなっているのかもしれない。頭一個分も身長差があるから、ここ最近ではダズと話す時に少しだけ屈んでいる自分がいる。
なるほど、これは世間一般から見たらイチャついてるのに分類されるだろう。
「でも、付き合ってないからな」
「…………ん? ……おかしくない、か?」
「なにがだよ?」
「以前、たしか『大胆になる魔法』にかかったとき、ハレンチな姿を自分からしたって……?」
そうやって、聞いたぞ? と、男はこちらに視線を向ける。
「その話を聞いて……オレは付き合ってるのかと思っていたんだ……ずっと、勘違いをして、いた……」
……うん。
確かにそんなこともあったな。
「えぇーっと……」
「あ、あばばばばばっちが、違っ」
ダズが壊れたように顔が真っ赤になる。
たしかに、『大胆になる魔法』でドスケベ衣装着てるってなったら、そりゃそう勘違いしても仕方がないのかもしれない。2人でハッスルしてて〜とかって、この男はきっと邪推してたのだろう。やめてくれ。
この男にはダズの素肌なんて見せてないが、その時に状況は伝えたのだ。きっとそれで勘違いしたままになっていたのだろう。
しかし、だ。
「アレは、そういうんじゃねぇんだよ」
「……そうなのか……」
「アレはダズなりの『気を使った』結果であって、本に書かれてた事を『鵜呑みにして』、さらに『オレの意見聞かずに押し通した』からなんだ。その……ハレンチとか、関係ねぇんだよ。アレ」
服のみの観点から言うと、そういう事でしかないのだ。
……チンコ見てたのは言い訳がつかないが、なにか理由が多分あったのだろう。本人も蒸し返されたくないだろうし、オレも追及はしない。
「……そうなのか……」
「ふ、服のことに関しては全く間違いありませんぜ……アニキには本当に、ご迷惑を……!」
「気にしてねぇよ、顔あげとけ。謝んな」
「ふぇ……」
オレに頭を下げようとするダズの顔を、上に向かせる。顎を上に向かせるのは、まるで犬を相手にしている気分だ。
だが。
「イチャついてる……」
「ち、が、う!」
……確かに、そう見えるかもしれないが!
もうこの話は無しにしようと思い、オレはとりあえず話題の転換に移った。これ以上この話をしていると、不毛な気がしてくるのだ。
「……あー、そういえば、お前はどうして科学都市に行きたいんだ?」
「オレ……か?」
「おう。オレたちはまぁ、空に関しての研究機関に話を聞きに行こうと思ってるんだが……なんか、やりたいこととかあるのかよ?」
「ある。……やりたいことというか、探したいものがあるのだ」
そして男は、ふと静かに瞳を閉じた。
瞼の裏で思い出しているのだろう。都市に行く、その理由を。
———友を、探そうと思う。
* * * *
数年前、日々を魔法の鍛錬で過ごしていたところに、その男は現れた。
「ヘイ、アンタ魔法使いかい?」
「…………お前、は?」
「都市からやってきた。魔法を知るためにな」
不思議な格好をしていたその男は、魔法について知りたいがためにこんな村まで来たのだそうだ。
「オレには、夢があるんだ。だから、それをやりたいから、魔法を学びたい」
「……!」
———夢。
オレにはどうにも程遠い言葉を堂々と言った男に、興味を惹かれた。
男は不思議な魅力を持っていた。
どこか淀んだ瞳を持っていて、それでも笑った顔は人を引き込んでいく。話し上手の聞き上手とでも言うべきか、優しくて強気で、そしてとても理知的な姿を魅せるのだ。
「魔法で、こんなことは出来るか? お前は若いんだ、きっと都市に出れば楽しいぜ」
男はいろんなものを見せてくれた。
都市から持ってきたという端末や、最新機材というのがどういうものなのかを教えてくれた。
その時から、都市への夢を持ち始めた。いつかこの村を出て、魔法を捨てて科学の中で生きていたいと思ったのだ。
男は、オレに都市の美しさを語ってくれた。
輝く夜の光、人々の行き交う様、裏路地の薄暗い雰囲気。そのどれもがここになくて、面白い物だと教えてくれた。
オレは、それに憧れたのだ。
そして、男もオレの技術を見て喜んでくれていた。最高位の魔法を見せたときには最高だと肩を叩かれて、相棒だと言ってもらえた。この小さな村で魔法を次世代に託してゆっくり果てていくと思っていたオレは、この男の言葉に魅せられたのだ。
オレよりも多くのことを知っている男から必要とされるのが、嬉しかった。
「だが、ある日、友人は……もうここで出来ることは無くなった、と……」
その男は次の
とても短い、一年だった。
「それで、その友人を探しに行くってのか?」
「どこにいるのか、何をしているのかも……知らないが……探したい、と思っている」
———名を、オレン・D・ジュースという。
「……聞いたこと、ある気がするな……ダズ、覚えてるか?」
「テレビで見たような気はしやすが……すいやせんアニキィ」
どことなく特徴的なその響きを、オレはどこかで聞き覚えがあった。それは、メディアで出ていた気がする。有名人とかではないと思うが……果たして、どこで聞いたのだろうか?
「見た目は? どんな男だ?」
「ええと……そうだな……
彼が指さした方向には、確かに全身がタトゥーで刻まれている男が立っていた。
「それで……あんな感じに……体もでかい……」
目つきも恐ろしければ身体も大柄で、まさしく不良といった風貌。
「あと、ピアスもあんな感じにいっぱい……」
顔にはピアスがこれでもかと刺さっていて、眉毛もほぼ全剃りだ。
出来れば近寄りたくはない。
———ん?
いや、そこまで条件が一致してるような男なんて、そうそういるはずもないだろうに。
「オレン……?」
男がそう呟くと、その男もこちらを振り返った。そして———
「
魔法使いの名を、その男は呼んだ。
振り返った顔を見て、オレたちはそれに気がついた。
オレもダズもその顔を知っていたのだ。知っていて当たり前だ。だって、彼は数年前に幾度もニュースに取り上げられていたのだから。
彼こそは、世紀の麻薬王。
———すなわち、オレン・ディオニス・ジュースである。