ある日舎弟がTSしたけど忠犬巨乳がどぷんたぷん 作:芥目たぬき
太陽も登り切った後の、昼下がり。
あの後なんだかんだで飯を食ってから出てきたオレたちは、ギルドで依頼を出していた。
「『男が女の体に変わる事象についての情報について』が依頼名で……うーん、詳細はこんなもんでいいですかね、アニキぃ?」
「……あぁ、いいと思うぞ」
「ありがとうごぜぇます。よし、依頼してきやすね!」
ああいう依頼書だとかは、意外と文字が綺麗なダズにいつもやらせている。最初はオレが書いていたものの、いつのまにかオレの手間を省くために率先してやるようになったのだ。
本当に、いい弟分である。なのに———
だゆん! ぼよん! と、歩きながら音を出しているダズの後ろ姿を眺めながらため息をついてしまう。
歩いていて乳の音がするってどういうことなんだ。ノーブラか。ノーブラが悪いのか。というかなんでダズは自分の出している音に気が付かないのか。目の前であれだけ揺れて自己主張している乳が気にならないのか。気になってないんだろうなぁ……気にして欲しい。主にオレの下半身のために。
自分の体についている乳についても、ただついているだけとしか認識していないのかもしれない。男から今の自分がどう見られているかなんて、自分が女をそういう目で見ないために、考えてもいないのだろう。
もう少し意識して歩いて欲しいところだが……それがむずかしいなら、あの音と揺れを止めるためにもブラジャーを買いに行かなくてはならないということか。
…………えっ?
オレあとでダズのブラジャーを一緒に買いに行くのか? 女性下着専門店に? 前を通り過ぎるだけでも気まずいっていうのに? オレが? えっ。
「アニキィー!」
いやでも流石にオレは行かなくてもいいよな……ダズに一人で行かせればいいよな……買い物くらいひとりでできるもんな。うん。アイツなら出来るだろ。よし、あとで下着を買いに行けって言おう。というか服も買わなきゃいけないだろうし……出費が嵩むな……
「アニキィィー!」
「……なんだ、うるさ……っ?!」
——————えっ?
「アニギィィー! 助けてくだせぇえ!」
オレは目を疑った。
そこには、老人におっぱいを揉みしだかれているダズが。
そしてそれを何人がかりもの男達が離そうとしているものの、老人はびくともしていない。
老人のしわがれた手はダズの服の上から胸を揉みしだいていて、その大きくて柔らかな巨乳は硬い指によって哀れにも形を変えていた。背後から両脇を通して胸に伸びている手が巨大なおっぱいに埋もれ込んでいて、ムニュムニュと触られ放題である。
そして苦悶の表情をして、歯を食いしばりながらそれを押し剥がそうとしているダズだが……老人はまったく意に介していない。だらしない顔をしながら、人のおっぱいを我が物のように揉みしだいて好き放題していやがる。
公然セクハラである。猥褻だ。犯罪だ。
「TS! TS巨乳! TS巨乳メカクレ! TS巨乳メカクレノーブラ!」
「変態だァアア! たすげで────ッ!!!」
3人がかりでも離れないジジイに、さらに腕っぷしに自信がありそうな男達が飛びかかるものの、それでも老人は全く動じていなかった。
「くそっこの変態ジジイ力が強すぎるッ!?」
「かわいそうだろジジイ! 離してやれ!」
「おい! 警備兵連れてこい!」
なんなのだ、あのジジイは。
そして———しばらく放心したのち、我に返ったオレは……
「あ、あ、アニギぃい!」
「テメェら、目ぇ瞑りやがれ……ッ!」
* * * *
この世界では、魔法は廃れて随分な時が経っている。
何故なら———あまりにも、魔法という存在がピーキーすぎたからだろう。
魔法はそもそも、その人間の中にある潜在能力を用いて使われる事象である。
簡単にいうと、人を選ぶのだ。
大抵の人間が使えるわけでもなく。
使える人間の中でも、個体差が激しく。
そしてなにより———人によって、おこる事象は変わる。
例えば、かつて有名だったファイヤーボールという魔法がある。これは火の玉を生成して、相手に当てるという攻撃のことを指す。
しかし人によっては火炎放射のような出し方が得意な人間もいれば、そもそも火を出すことに長けていない人間もいる。発動の仕方も人それぞれで、詠唱する人もいれば、手のモーションが必要な人間もいる。
魔法とは、一定の特殊な人間だけが行える『確定されない事象を巻き起こす』能力である。
すなわち混沌であり、だからこそ『魔』の力だと烙印を押された。
1人の魔法の天才が戦場を変えるのだ。逆に言えば、その1人さえいれば戦争は全て終わってしまう。かつては、そういう時代だった。
しかし時代はどんどん進み、人口が増えていったある時。
選ばれたものしか扱えない、必ずの法則がない魔法よりも便利なものが表れた。
それこそが、科学である。
科学とはすなわち、『この世界における確実な法則を定理』することだ。
実験を用いて
魔法は、この世の定理から外れた超常現象で、未だに何故それが使えるのかは解明されていない。
いうならば魔法は、この世に定理されたルールを自由に破ることができる能力と言えるだろう。
最初はもちろん、魔法が栄え続けていた。
しかし徐々に、科学を発展させる人々は増えていった。
魔法は直感的に世界の理を破る技術であり、個人で真理を探究していくものである。そのため、魔法使いたちは人々の代を重ねていっても進化することが全くない。
しかし、科学は定められたルールを探究する学問のために、人々の代を重ねることで進化する『幅』があった。
そして———いつかの時代で、魔法が栄えていた保守的な国と、科学を邁進していた先進的な国が、戦争を起こした。
少数の天才魔法使い達を送り込んだ国と、本来なら何も持たない人々に科学の結晶を持たせた国。
最初は魔法使いが勝つだろうと思われたその戦争も、科学が誇る物量に押し潰されていき、戦争は科学の勝利で終わった。
きっとその時なのだろう。科学が、魔法を超えたのは。
その時代から現代では700年が経ち、魔法使いが栄華を誇った時代を覚えている人間は誰1人としていない。
確かに魔法を使えれば便利なのだろうが、しかし、魔法でできる利便性は科学で代行できてしまう。
魔法なんてものは、もはや絶滅しているのだ。
* * * *
「あ、アニギィ……!」
「……無事か、ダズ」
「はい!!!」
老人と、そしてこちらを見ていた数人の男達が
あたりがざわついている間に男たちの石化を解除して、呆けている男たちに謝っておく。周りの人間たちの視線が少しばかり痛い気がするが、仕方がないだろう。
そして1人だけ、まだ石化させたままの老人の身体をヒモでがんじがらめにしていく。
「アニキィ……すいやせん……」
「……いや、問題はない。気にするな」
警備兵がドタバタと走ってきたのを確認して、それから石化を解除。この瞬間までダズのおっぱいを揉みしだいていた老人は空中をいやらしい手つきで揉みながら、バランスを崩して地面に顔を押し付け転んだ。
念のためダズの前に立ち、いつでも再度石化できるように身体を構えさせておく。先程見せたあの怪力は脅威だ。場合によっては、石化したまま警備兵に引き渡さなくてはならないかもしれない。
なんせ、
「TS巨乳メカクレ! TS巨乳メカクレノーブラ!」
「この老人が、通報のあった男かね?」
「……あぁ、そうだ」
「TS巨乳メカクレノーブラ! TS巨乳メカクレノーブラ貞操観念ナシ……はっ!? な、なぜワシは捕まっとるんじゃ!? 貴様のせいかー!?」
身体を紐でぐるぐる巻きにされた老人は、きょとんと周りを見渡してから、わかりやすく絶望した顔になっていた。
……どうやら、紐を引きちぎる真似はしない様子だ。いや、もしかしたら油断を誘っているだけかもしれないが。
「ぎゃ──!!!! ワシの! ワシのTS娘! いやじゃ離れとうない!!!!」
「全く、色狂いの変態ジジイめ! さっさとついてこい!」
ダズに手を伸ばしながらもズルズルと引っ張られる老人は、先程までの剛力が嘘のように呆気なく警備兵に引きずられていく。
……その様子はとてもじゃないが、演技には見えなかった。
さっきまでの剛力は、果たしてなんだったのか?
いや、それよりも気になるのが……
「そのTSとやらは、なんなんだ……」
オレのぼそりとつぶやいた言葉に、老人はクワッと目を見開いた。こっちを睨みつける目が、爛々と光っていてなかなか恐ろしい顔つきだ。
「性転換の! ことじゃ! これだから最近の若者は……あっ待ってワシ腰が弱いから引っ張らないでいででででで!」
———うん?
その言葉に、何かひとつひっかかりを覚える。
なにか、いま、おかしくなかったか?
「ワシはTSでしかシコれん性癖なのに! せっかく異世界転生して神様も魔法もある世界に来たんだから、心は純粋なオスでガワだけ美少女なTS娘と純愛育んでいきたいだけなのに! わーん邪魔するなー!」
———?
「おい、ダズ」
「へい、アニキ」
「お前、あのジジイに性別が変わったこと喋ってたのか?」
「いえ、あのジジイとは喋ってもいませんぜ」
「あのジジイに依頼書を見せたりとかは?」
「いえ、依頼書なんてあのジジイ少しも見てませんでしたぜ」
「…………なんであのジジイ、ダズが性転換したって知ってたんだ?」
「…………………………さぁ?」
「ぐすっ……だずげでぇ、TSっ娘ちゃぁーん……っ」
ジジイはか弱くも、警備兵に引っ張られていた。
「……アイツ、もしかして性転換のことに詳しかったりしないか? というか最悪、アイツが犯人とかないか?」
「…………はっ!? あ、アニキィ、オレちょっと警備兵達を止めてきまさぁ! 警備兵さーん!!」
アニキは片目が眼帯隠しと、ダズが両目の前髪メカクレなので、2人並んで立っていても目の数は1つだけなんですね。