※この作品はR-18です。

魔法科高校の性春生活   作:八住 楓

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追記
次回は6月30日に投稿します。


第103話 新人戦モノリス・コード予選

 『モノリス・コード』通称『モノリス』は森林や平原、市街地など「ステージ」と呼ばれる試合会場で、敵味方各々三名の選手が魔法で争う競技である。

 勝利条件は相手チーム全員を戦闘続行不能にするか、敵陣にあるモノリスを割り、隠された五百十二文字のコードを打ち込むことだ。

 モノリスを割るには専用の無系統魔法を撃つ必要があり、割れたモノリスを再び魔法で直す行為は禁止されている。また、無系統魔法の有効範囲は十メートル。つまり選手は敵陣にあるモノリスの十メートル以内に侵入する必要があるということだ。

 

 これに対してディフェンス側に要求されるのは三つ。

 一つは敵選手をモノリスの十メートル以内に近づけないこと。

 一つは無系統魔法を撃たれても割れないようにモノリスを押さえること。

 一つはコードを読み取られないように敵の妨害をすること、である。

 

 古くから学生同士の運動大会でトリを飾ってきた棒倒しや騎馬戦などと同様に、モノリス・コードはその種目内容から九校戦でもっとも人気があり、白熱する競技となっている。

 このような背景があるため、昨日のようなアクシデントが発生しようとも競技が続けられているのだろう。莫大な人気があるというのも考えもののようだ。

 

 モノリス・コードの予選は一校が四試合行い、勝利数の多い上位四チームが決勝トーナメントに進出するという変則ルールが採用されている。

 既に第一高校と、第一高校と戦う予定だった高校以外の予選は終了し、第三高校が四戦全勝で予選通過を決めている。他には第八高校が三戦三勝。残り一戦の第一高校との試合に負けても決勝トーナメントに進出が決まっているという状況だ。

 

 第二・第九高校が二勝ずつで、ここに第一高校を加えた三校で残り二枠を争う形となっている。

 第一高校が決勝トーナメントに進出するには、今日の午前中に行われる予選で第八高校または第二高校のどちらかに勝たなければならない。

 昨日の第四高校との試合は、第四高校の失格により不戦勝。あと一勝が必要なのだ。

 

 

 新人戦五日目は、困惑の空気と共に幕を開けた。

 困惑の中には「一人で試合に臨むのか」という意味が込められている。

 モノリス・コードは三対三のチーム戦。攻撃や守備、遊撃など役割を決めて戦う事が多く『衆寡敵せず』ということわざがあるように、攻撃に回れば自陣のモノリスがガラ空きになり、守りに回れば数で押される。

 試合前から結果がわかりきった空気が流れていた。会場に到着してからすれ違う人たちに怪訝そうな視線を送られながら奥へと進み、

 

「来たか」

 

 控え室に入ると達也と深雪が彼らを待っていた。

 

「達也くんと……深雪ちゃん、おはよう」

「おはようございます」

「会長と、委員長も一緒だったんですね」

 

 会場に一緒にやってきたほのかと雫はいない。彼女たちはエリカと美月に遥の事を伝えるために会場に着くと分かれたのだ。そのため遥の後方には真由美と摩利の二人がいた。

 

「大丈夫なのか?」

 

 体調の事、一人で戦う事、全てが集約された言葉。

 

「この通り元気になったからね。二人はどうしてここに?」

「決勝トーナメントに進出した場合、俺と幹比古も試合に出ることは知っているな?」

「うん」

「本当に準備が必要かと思って様子を見に来てみたが……」

 

 達也は舐めまわすような視線を遥の足元から頭へ向ける。

 昨日の大惨事からたった一夜でここまで回復する遥を訝しがりながらも、目の前の現実を受け入れる。

 

「俺も準備をしておいた方が良いんだよな?」

 

 刑事のような眼光炯炯とした目つきで達也から睨まれた遥は、ニヤリとあくどい笑みを浮かべながら縦に頷いた。

 

「もちろん」

 

 短く返事をすると達也は「そうか」と呟いて遥たちが入ってきた部屋のドアの方へと歩いて行った。その後ろを深雪がついていくが、遥のそばにやってくると立ち止まった。

 

「お元気そうで安心しました」

「深雪ちゃんにも心配かけたようだね。おかげさまでこの通りピンピンしてるよ」

「それはなによりです。ですが私以上にほのかたちがものすごく心配していましたよ?」

「知ってる。そのせいか、昨夜はずっとそばにいたからね」

「え……」

「ほのかちゃんと……だけどね」

 

 遥の視線が一瞬摩利に伸びると、摩利は頬を赤らめながらプイっと顔を背けた。それを真由美が面白くなさそうに見るが、遥に微笑みかけられるとこれまた摩利と同じように顔を逸らす。

 

「そう、ですか」

 

 摩利たちの反応には気づかない。

 深雪は何を想像したのだろう。おそらく深雪の想像以上の事を遥とほのかは行っていたのだが、清楚な少女がそれを頭に思い浮かべることはなかった。

 セクハラぎりぎりの話に遥は嬉しそうに笑う。

 

「深雪、どうしたんだ?」

「あ、お兄様、もう少々お待ちください」

「ああわかった」

 

 いつまでたっても部屋を出てこない深雪を見かねた達也が声をかけるが、深雪はまだ話さなければならないことがあるようだ。

 すぐに表情を変えると、愉快そうに口元を抑えながら小声で喋った。

 

「先ほどお兄様が宮守くんを試すようなことを申しましたが、実はお兄様、昨日の夜のうちに自分と吉田君のCADの準備などを全て終わらせているんですよ」

「え?」

「宮守くんが無事でお兄様も喜んでいるようです」

「あれで喜んでるの?」

「はい。お兄様は表情に出すのが不得手ですので」

 

 男のツンデレほど意味のないものはないと思っているが、こうして深雪の可愛らしい表情が見られるならそれも良いのでは、と思う遥だった。

 

「私も微力ながら宮守くんを応援致しますので、頑張ってください」

「ありがとう。深雪ちゃんに応援されたら頑張るしかないな。俺のかっこいい姿を見ててよ」

「ふふっ、はい。ほのかに怒られない程度には、ですが」

 

 そう言って深くお辞儀をすると深雪は真由美たちを残して去っていった。

 深雪の絢爛と輝く笑顔を脳裏に焼き付けながら遥は軍用防護服に着替える。

 

「司波は随分と機嫌が良さそうだったな」

 

 そう発したのは摩利だ。慣れた手つきで遥の着ていたシャツを折り畳むと、彼らが去っていった扉の先へと視線を向ける。

 

「深雪さんも遥くんに気があるのかしら?」

 

 続けて真由美が話す。

 

「そうじゃないと思うよ」

「どうして?」

「多分俺が勝てば達也くんが試合に出られるようになるからじゃない?」

「あー」

 

 真由美だけではなく摩利も納得したように相槌を打つ。

 遥が勝てば達也の出番がやってくる。深雪には達也が試合に出れば一高を勝利に導く確信があるのだろう。兄が日の目を見ることを夢見て……遥は彼女の願いを叶えることができるのだろうか。

 

 兄妹が去った後すぐにモノリス・コードの予選が始まった。

 

『九校戦も今日で八日目を迎えました。本日は新人戦モノリス・コードを決勝まで行います。最初の試合は第一高校 VS 第八高校をお送り致します』

 

 会場を埋め尽くす観客たちの元にアナウンスの声が響き渡った。歓声というよりも不穏なノイズのようなどよめきが起こる。

 

「一高は棄権じゃなかったのか?」

「予選は一人で出るんだってよ」

 

 大会史上初、前例のない一人での出場に客席から会場全体に伝染する不安や深憂。

 

「本当に一人で試合するのか?」

「病院に運ばれたって聞いたけど大丈夫なの?」

「そこまでして試合に出る意味ってなんだ?」

 

 モノリス・コードの試合は会場と隣接した別フィールドで行われるため、観客たちは直接選手の姿を見ることができない。そのため観客たちは大型スクリーンに映った映像を見るのだが、本来は三人いるはずのスタート位置に第一高校は一人しか映っていない。

 

「マジで一人かよ」

「一高の首脳部は何考えてるんだ?」

 

 遥に対しての心配ではなく、一高や運営に対する疑問。

 一人だけの姿が困惑に拍車をかける。

 

「はるか君、大丈夫でしょうか?」

「アイツなら大丈夫よ」

 

 客席の一角では心配そうに手を組んで祈りのポーズを見せる美月と普段通りのエリカがいる。しかし気丈に振る舞っているように見えてエリカも神経質そうに足を揺らしていた。

 

「はる君……」

「ほのか、目を逸らさずに応援しよ」

「うん」

 

 恋人たちが、一高のチームメイトが、大会関係者たち、多くの人が見守る中、試合開始のブザーが鳴り響いた。

 

『新人戦モノリス・コード、第一高校対第八高校、森林ステージにて試合開始です!』

 

 困惑や不安、批判に好奇心など、様々な思惑が交錯しながら始まった試合。最初に動いたのは人数有利の第八高校だった。

 

「八高相手に森林ステージか」

「普通でも不利なのに、遥くん一人だもんね」

 

 控え室で遥を見送った真由美と摩利は一高の天幕にいた。そこで克人や鈴音などの幹部らと一緒にモニター越しに試合を観戦している。

 そこでモニターへ目を向けたまま呟いた摩利に、真由美が応えた。

 

 第八高校は野外実習に最も力を入れている学校であり、森林は彼らのホームグラウンドのようなもの。

 昨日のアクシデントに摩利の事故もそうだが、一高に不利な展開の連続に作為の介在を疑わずにはいられない。

 真由美は口には出さないが、内心は不満と憤りで爆発しそうだった。しかし、遥の放った魔法が場の空気を変えた。

 

「あれは?」

「幻影魔法だろう」

「幻影魔法ですか?」

 

 雫の疑問に達也が答え、ほのかが続く。

 

 会場のスクリーンには第八高校の選手が移動を開始したところで画面が切り替わった。森林ステージ全体がゾンビ映画に出てきそうな廃れた墓地地帯に変わったのだ。

 八高の選手たちは移動を止め、警戒した様子で辺りを見渡しながらCADを構えた。

 

「達也君。幻影魔法って確か、昨日ほのかがミラージバットで光球を出した魔法よね?」

「ああそうだ」

 

 エリカの質問に達也がうなずく。

 

「幻影魔法って単純な物だけ映せるわけじゃないんだ」

 

 光魔法を得意としているほのかも驚きの声を上げる。それと同時に自分と同じ魔法が使われて嬉々とした表情を浮かべていた。

 

「あんな広範囲に可能なんですか?」

 

 今度は美月が達也に疑問を投げかける。

 直接見えないためどの程度まで魔法が行き渡っているかは不明だが、キロ単位で効果が発揮しているのは確かだった。

 

「幻を見せるだけなら少ない力でも可能だが、あそこまで精密に描くのは無理だ」

「じゃあ……」

「正確にはあれは幻影魔法じゃなくて幻像魔法だ」

「幻像ですか。幻影との違いってなんでしょうか?」

「『火』と『炎』の違い程度に考えてくれればいい」

「エリカちゃん、『火』と『炎』の違いって……」

「あ、あたしに聞かないでよ」

 

 何度も説明するのが億劫になったのか、最後は投げやりに答える。

 美月に尋ねられて狼狽するエリカたちを横目で見ながら、スクリーンに映った遥を凝視した。

 

「お兄様」

「どうした深雪」

 

 ようやく試合に集中できると思ったのも束の間、達也の隣に座る深雪が彼女たちには聞こえない程度の声で囁いた。

 

「精神干渉系魔法などは使われていないのでしょうか?」

「どうしてそう思ったんだい?」

「いえ、根拠はありませんが、幻を見ただけであそこまで混乱するでしょうか?」

 

 達也と深雪には八高の選手たちが虚無の空間に魔法を放つ姿が映る。まるで何かが自分たちに襲いかかってくるのを防いでいるように……。

 

「例えば『マンドレイク』のような……」

「そういった魔法は使われていないようだ」

「そうですか」

 

 『マンドレイク』とは四葉家の分家の一つである津久葉家の長女、津久葉夕歌が得意とする精神干渉系系統外魔法だ。深雪は直接その魔法を見たことは無いが、そういう魔法があるという事は聞いたことがあった。

 四葉家には精神干渉系魔法に適性を持つ者が多く存在するため、深雪はそれを危惧したのだ。遥が四葉の関係者なのではないかと。それなら一条将輝を破る実力を持っているのも納得できたが、深雪の推測は外れた。

 

 八高の選手たちが幻に踊らされている隙に、遥は自己加速で敵陣のモノリスに近づいていく。

 

「さすが千葉の道場に通っていただけはあるわね」

 

 エリカが自慢げに言う。

 忍者のように木々の間をすり抜け、あっという間に敵陣モノリスに到達。無系統魔法を放ってモノリスを二つに割ると、隠されたコードが出現した。

 もうここまでくれば試合が決着したも同然。何事もなく試合が終わるだろうとホッとする彼女たち。

 

「でもよーここまで圧倒的な力を持ってるんだったら何で昨日は病院に運ばれたんだ?」

 

 祝福ムードが一転、レオの言葉に彼女たちの表情が凍った。

 

「馬鹿ッ、アンタねぇ、少しは空気読みなさいよ!」

「へ、ああッすまねえ! 別に昨日の事を思い出させようと思ったわけじゃないんだ」

 

 ほのかたちにとってはトラウマと言っても過言ではない出来事。それを思い出したほのかは眼に涙を浮かべ、美月の眼からはハイライトが消えた。

 遥がコードを送信し、モニターに『第一高校 WIN』の文字が表示されて会場が騒然とする中、達也と深雪に見守られながらレオの釈明会見が続くのだった。

 

 

 次の試合、第一高校対第二高校は三十分後に始まる。

 インターバルが短すぎる気もするが、抗議したからといって第一高校に有利に働くことはないだろう。ならばその時間を有効活用するべきだと、真由美はトイレに行くと言い残して遥の栄養補給の手伝いをしていた。

 頬を赤らめながら天幕に戻ってきた真由美を見て、鈴音とあずさは夏の暑さに当てられたのだとドリンクを渡していたが、摩利だけは妬ましそうに真由美を睨んでいた。

 

 そうして迎えた第二試合。昨日事故が起きたばかりだというのに廃墟ビルがある市街地ステージが選定された。

 この決定に第一高校幹部たちは絶句し、遥も苦笑いを浮かべたが、決まった以上は覆ることはない。

 

「本当に偶然なのかしらね」

 

 建前上ステージの選定はランダムに決まるが、意図的なのは明明白白だった。

 真由美の皮肉めいた呟きを隣にいた摩利や克人は聞いたが、何も発することなく一人の少年の動向を注視する。

 

 さすがにスタート位置が廃墟ビルの室内という事はなかった。大会運営も同じ轍を踏むことはしないようだ。

 しかし、第一高校のモノリスは五階建て廃墟ビルの三階に設置されており、どうしても一高に勝たせたくないという思惑を感じる。もはや執念に近い何かを感じながら、スタートの合図が鳴ると遥はCADを操作した。

 

 その直後、試合を観戦していた全員があの悲惨な光景を再び目撃する。

 

「お、おい……」

「また事故か!?」

 

 会場が阿鼻叫喚の渦に包まれた。

 第一高校のモノリスが設置された廃墟ビルが崩落し、辺り一帯が瓦礫の山と化す。悪夢再び、と思われたがいつまで経っても試合中断の表示は出てこない。大会委員の補佐人も姿を現さず、試合続行を知らせていた。

 

「ほのか、雫、大丈夫!?」

 

 深雪が慌てて二人を確認するが、彼女たちはあっけらかんとしていた。思わず首を傾げたが、どうやら彼女たちには事前にこうなることを知らせていたようだ。ほのかや雫だけではなくエリカや美月も平然としている。

 驚いていたのは深雪やレオ、幹比古やその他大勢の観客たちだけらしい。

 知っていたなら教えてくれていてもよかったじゃない、と深雪は膨れたが、元気なほのかと雫に慰められて嬉しそうに頬を緩めていた。

 

 思考が停止したのは、こうなることを知らされていない第二高校の選手たちもだった。彼らも昨日の事故の映像を見ていたため、一瞬試合が中断するのでは? と動きが止まっている。だが、そんな彼らの元に崩れ落ちたコンクリート壁が飛んできた。

 

「なっ!?」

「なんだ!?」

 

 第二高校の選手はそれを回避する者、障壁で防ぐ者、真正面から当たる者に分かれる。

 

「お、おい大丈夫か!?」

 

 ぶつかった選手が気を失う。動揺する彼らへ追い打ちをかけるように、今度はバスケットボール程度の大きさのコンクリート塊が空から降り注がれる。

 

「これは、いったい……ッッ」

「まさか一高の!?」

 

 これが遥の作戦だと気づいたときにはもう遅い。

 障壁で防いでいるが、ビル一棟分のコンクリートが降ってくるのを耐える事しかできない彼らは、しばらくすると石の塊に埋もれてしまった。

 身動きが取れずにいると、試合終了のサイレンが聞こえてきて、敵の姿を目視する前に敗北が決定した。

 

 玄人受けするあまり盛り上がらない試合展開に、歴史的快挙を達成したというのに観客たちも一部を除いて呆けた表情だったらしい。

 

 




今回はメインの前の前菜的内容でした。

【次回の投稿は6月30日19時予定です】
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