※この作品はR-18です。

魔法科高校の性春生活   作:八住 楓

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第104話 嵐の前の小嵐

 

 新人戦モノリスコードの予選が終了し、第一高校、第三高校、第八高校、第九高校の四校が決勝トーナメントに駒を進めた。

 すぐに決勝トーナメントの組み合わせが発表され、準決勝第一試合は第三高校VS第八高校。第二試合は第一高校VS第九高校となった。

 

 準決勝一試合目の開始時刻は正午。

 一高の試合は二試合目で時間に余裕はあるが、ライバル校の試合を見逃すわけにはいかない。達也と幹比古らはそのまま会場に残って試合観戦するようだが、既に二試合を戦った遥は身体を休めるために彼らと合流することなくホテルに戻った。

 戦いの中の緊張感から抜け出し、憩いの時を過ごせると思っていたのだが、そんな遥の元に驚きのニュースが飛び込んでくる。

 

『速報です。先ほど十師族「四葉家」と日本の不動産業界最大手の「宮守グループ」がアライアンスを結んだことを発表致しました。詳細につきましては現在、記者会見が行われており、四葉家当主、四葉真夜氏と――』

 

 日本魔法師界の頂点と日本の不動産王がタッグを組む。これまでにも様々な業界が魔法師界と提携を結んだり、スポンサーになるということはあったが、ここまで大々的にあの「四葉」が発表するというのは初めてである。さらにその相手がクリーンなイメージを持つ「宮守グループ」だ。白と黒の協演に驚かないはずがない。

 

 ホテルのロビーは騒然となる。

 九校戦を放送している有線放送での速報だ。今頃、九校戦の会場でも驚きの嵐が吹き荒れているに違いない。

 一緒にホテルへと戻ってきた彼女たちも驚きを隠せず、見上げるように遥を見つめてくる。

 

「はる君……」

 

 ほのかは遥の袖を引き、雫はただジッと遥の言葉を待っているようだった。二人から喜怒哀楽は見えないが、どこか不安そうな表情だ。

 

『「アライアンス」つまり「同盟」や「提携」を意味する言葉ですが、これまであまり表舞台に出てこられなかった四葉家が宮守グループと手を組んだ理由をお聞かせ願えませんか?』

『それが四葉のためになると思ったから。とでも答えておきましょうか』

『具体的にはどのような?』

『守秘義務がございますのでお答えできません』

 

 画面越しにも緊張感が伝わってくる。

 四葉真夜はイメージ通りの暗色のナイトドレス姿で不敵な面構えをしていた。艶のある紅色の唇が三日月状に変化すると、心臓をギュッと握られたような胸苦しさを感じながらも会見は続く。

 

『で、では、今回の同盟を結ぶにあたって、四葉家の役割は何でしょうか?』

『全てをお答えすることはできませんが、一つあげるとするならば敵対勢力への牽制、でしょうか』

『牽制ですか、敵対勢力とは?』

『この世界には善人ばかりいるわけではありませんわ。それは我々がよく知っていますし、宮守グループさんは最近魔法事業にも進出し、成果を出し始めています。それを良く思わない者たちが手を出してきてからでは遅い。その時、我々の名前を見たらどうでしょう。彼らは悪名高き四葉に牙をむける勇気はあるかしらね』

 

 驕慢や自惚れではなく事実。真夜はうふふっ、と妖艶な笑みを浮かべるが、誰一人として見惚れることなく記者たちは青褪めた表情をしている。

 そして質問者が変わったことでさらに暗雲が立ち込める事態に陥ることになる。

 

『四葉家は黒い噂が絶えませんが、今回のアライアンスによって相手方の名に傷が付くという事は考えなかったのでしょうか?』

 

 ゾッとする質問に場が凍りついた。四葉家の恐ろしさを知る者ならばこんな真似はしない。どうやら質問した者は反魔法主義者のようだ。

 命知らずの愚か者なのか、それとも心臓に毛が生えた大バカ者なのか。どちらにせよ真夜自身が気にしていなくても、この男の運命はたった今決まった。

 

『その点に関しては決断してくださった宮守グループさんに感謝していますわ。この恩に報いるためにも、四葉は協力を惜しまないでしょう。それこそ、宮守グループさんに手出しするような愚かな方々などいらっしゃらないと思いますが、敵対した場合は――』

 

 最後まで聞いた者で、その場にいた何名かの記者たちの下着が濡れた。それは昂奮による昇天ではなく、恐怖や絶望による失禁だった。

 存在するだけで畏怖させる圧力を放つ女王がそこにはいた。映像だけでも震えあがるのだ。現場にいた者たちの恐怖心理は計り知れない。

 

 遥はここで画面から目を離して彼女たちと向き合った。

 

「何も心配することはないよ。むしろ、今回に限ってはあの四葉家が応援してくれてるんじゃないかな?」

「どういうこと?」

「とりあえず歩きながら話そうか」

 

 ここは九校戦に出場している生徒らが宿泊しているホテルのロビーだ。アイス・ピラーズ・ブレイクの件で知名度が上がった遥を知っている者も多く、遥に気づいた者が様子を伺うようにチラチラ視線を向けてきていた。

 騒ぎが大きくなる前に遥たちはロビーを出た。

 

「それで、四葉家が応援してくれてるってどういう意味?」

 

 ロビーを離れながら歩いていると、先ほどの続きを雫が聞いてくる。

 

「そのままの意味さ。俺も今の会見でウチと四葉家が手を組んだのは初めて知ったけど、あの会見を見る限り、宮守グループに手を出せば四葉が相手になるって煽ってたよね?」

「うん」

「はい、すごく高圧的に感じました」

「あれって今の俺にも適応されると思わない?」

 

 宮守グループ代表の息子である遥も今回の同盟で保護対象に含まれる存在だと考える。

 

「このタイミングでの会見だよ? 九校戦で、きな臭いことに巻き込まれてるタイミング。『これ以上宮守遥に手を出したらわかるわよね?』って忠告してくれてるような気がするんだけど」

「ポジティブに捉えすぎじゃない?」

「あの四葉がそこまでしますかね?」

 

 雫とほのかは四葉の恐ろしさを教え込まれているため怪訝的な反応を示す。だが、個人間で四葉と取引をしている遥だけは今回の記者会見の意図に気づいていた。

 

「はる君のお父さんが四葉の人に洗脳されたりしませんかね?」

「大丈夫だと思うよ。まあ四葉家当主様の美貌に見惚れることはあるかもしれないけど」

 

 そう言うとほのかが膨れっ面になりながらギュッと手を握ってきた。

 

「はる君もああいう大人の女性が好みなんですか?」

「嫌いじゃないけど……ほのかちゃんには負けるかなぁ」

「きゃっっ!?」

 

 遥はほのかを横抱きに持ち上げた。いわゆるお姫様抱っこだが、幸いにも周囲に人影は見られず、誰にもイチャイチャが見られることはなかった。

 

「は、はるくんっ!」

「このまま部屋まで運ぼうかなぁ?」

 

 大勢の観衆の前で濃厚キスシーンまでした二人が、いまさらお姫様抱っこ程度で狼狽えるはずがない。

 

「雫ちゃんは後でね、ちゅ」

 

 驚きながらも戸惑うことなく遥の首に抱きつくほのかと、額に口づけされても表情一つ変えない雫。

 そのままエレベーター乗り場まで歩いていくと、ほのかがある方向を指さした。

 

「あれ、エリカじゃないですか?」

「ん、ほんとだ。何してるんだろ」

 

 

 特徴的な赤色の髪の毛と、後ろ姿でもスタイルの良さが主張している美少女が物陰から何かを凝視しているではないか。視線の先はここからでは見えない。

 

「行ってみよっか」

 

 物音を立てないよう静かに近寄り、ほのかが赤髪の美少女の肩を叩こうと手を伸ばした瞬間、少女は不意に遥たちの方へ振り向いた。

 

「っ……アンタたちこんなところで何してるのよ」

 

 何故ホテルにいるのだ、という意味ではなく、エリカが言いたいのはお姫様抱っこの方だろう。ほのかはあざとくコテンと顔を傾げながら遥の胸に寄りかかる。

 

「俺たちはこれから休憩しに、ね?」

「はいっ!」

 

 休憩とは真逆の事を想像するほのかだが、その表情を見たエリカは呆れたように肩をすくめた。

 

「ところでよく気づいたね。音立てないように歩いてきたつもりだったんだけど」

「遥の匂い……別に偶然よ」

 

 エリカは誤魔化すように再び視線を戻す。

 

「それよりもこんなところで何見てたの?」

「あたしは……あれよ」

 

 ほのかを腕から下ろすと、エリカの肩口から先ほどは隠れて見えなかった部分に目を向けた。その際、エリカの腰に抱きついて身体を密着させたが、少女は一瞬ビクンと身体を震わせただけで振り払うことなく遥の手に自分の手を重ねていた。

 

「あれは……摩利ちゃんと、修次さん?」

 

 視線の先には不穏な雰囲気を漂わせた二人の男女が話をしていた。

 一人は遥と身体を重ね、心までも遥に満たされた摩利。そしてもう一人が現在の摩利の恋人で、千葉家の次男。エリカの二番目の兄にあたる『千葉の麒麟児』こと千葉修次だ。

 まだ防衛大学に籍を置きながら、三メートル以内の間合いなら世界でも十本に入る達人と噂されている人物でもある。

 

「確か、修次さんは今タイにいるんじゃなかったっけ?」

「そうよ。次兄上はタイ王室魔法師団の剣術指南協力でタイにいたわ」

 

 原作であれば、エリカは二人の間に入って人目も憚らず修次を糾弾していたが、遥との交流で心境に変化があったらしい。鋭利な視線を向けているが、頭に血が上るような態度は見えない。

 

「誰ですか?」

 

 すると隣で遥と同じように視線を向けていたほのかが疑問を口にした。

 

「エリカちゃんのお兄さんだよ」

「ええっ!?」

 

 タイにいるはずの修次は、摩利の事故の知らせを聞いて一時的に帰国していた。そして会いに来てみれば怪我一つない健康的な身体で待っていた。

 

「といっても二番目の、だけどね」

「でも、だったらどうしてこんなところで眺めてるの?」

「うん。会いに行けばいいのに」

 

 事情を知らないほのかと雫はそう捲し立てるが、あくまでもエリカは傍観者の立場で話す。

 

「何か今、大切な話してるっぽいし」

 

 エリカがそう口にすると、遥たちは聞き耳を立てる。

 

「どうして急に別れ話なんて!?」

「すまない……」

「謝られても理由を言ってくれないとわからないじゃないか!」

 

 どうやら摩利が修次に別れ話を持ちかけたようだ。修次は納得がいかない様子で摩利に詰め寄るが、摩利の表情は曇ったまま。

 

「僕に不満があるなら直すから。考え直してくれないか?」

 

 草食系男子のような外見。優しそうな青年に見える。本人はいきなり別れ話を持ちかけられ動揺しているだろうが、節度を弁えた行動をとっている。

 

「もしかしたら他に好きな男ができたとか?」

 

 世界の十本に入る猛者は勘も鋭いらしい。ピタリと言い当てた。

 

「まさか、そんな、ね?」

 

 本人は冗談で言ったつもりだったが、摩利の表情は優れない。

 

「すまない……」

「嘘だよね?」

「……好きな人ができた」

 

 摩利の直接的な言葉を聞いた修次は癇癪を起こすことなく、そっと椅子に腰を下ろした。その後ろ姿がとても小さく、哀愁が漂っている。 

 

 それを物陰から見ていたエリカは遥の方を向くとジッと睨む。

 

「俺が摩利ちゃんを好きになったせいだね」

「よりにもよってなんであの女なのよ」

「『あの女』って、一応摩利ちゃんはエリカちゃんの先輩なんだけど?」

「道場じゃあたしの方が上よ。ったく、次兄上もアンタもあの女のどこがいいわけ?」

 

 既に摩利と肉体関係にある事は、恋人たちは全員知っている。最初それを聞いたエリカは不貞腐れていたが、遥に惹かれる気持ちはわかるため摩利の事は責めなかった。

 

「摩利ちゃんは魅力的な女性だよ?」

「あたしとどっちが?」

「難しい質問だなぁ。ほのかちゃんと雫ちゃんどっちが魅力的? って聞かれてるのと同じことだし『答えられない』が答えかな」

「サイテー」

 

 遥から離れようとするが離れられない。

 

「ちょっ、んっ……つよ、すぎ……」

「だってエリカちゃんが暴れるから」

「はな、して……」

「だーめ」

 

 やけくそ状態で腰に抱きつく遥の手を引き剝がそうとするが、どうあがいてもエリカの腕力では不可能。爪を立てて怯んだ隙に……という考えはエリカの頭の中ですぐに却下される。

 

「キスしてもいい?」

「何でこんな時に……っ」

「エリカちゃんの事が好きだから」

 

 遥の告白にエリカの動きが止まる。

 

「そんなので誤魔化されると思ってるの? あたしのこと馬鹿にしてるでしょ」

「可愛いとは思ってるけど馬鹿にはしてないよ」

 

 更に目が鋭くなる。不機嫌オーラを充満させながら腹の虫が治まらないといった様子。

 ほのかと雫は口を挟むことなく、遥とエリカを見守っている。二人とも本気でエリカが怒っているようには見えなかったからだ。

 嫉妬は誰しもが抱く愛ゆえの感情。

 

「キスしよ」

「しない」

「キスしたいなぁ」

「……うるさいばか」

「じゃあエリカちゃんの口で黙らせてよ」

「別にあたしじゃなくも……んっ……ぁっ」

 

 満腹でも甘い物は食べられるように、激情していても甘い誘惑は別物らしい。遥と二度ほど唇を重ねる。

 

「ほんと、ばか」

「こんな馬鹿な男でよければ、これからもずっとそばにいてくれる?」

「どさくさに紛れて告白とかありえないから」

「でもエリカちゃんの身体はすごく密着してくるけど?」

「それは遥が抱きついてるからでしょ」

「もう抱きついてないんだけどな」

 

 遥の手はエリカの身体を解放し、髪の毛を梳きながら頭を撫でていた。離れようと思えば離れられるが、今度はエリカの両手が遥の背中に回っていた。そして静かに呟く。

 

「あの女と付き合いだしてから次兄上は堕落した」

「俺は堕落しない」

「兄上もそう言ってたもん」

「じゃあその証明に、エリカちゃんのためにモノリス・コードで優勝してくるよ。そして優勝メダルを君に掲げる」

「……優勝しなかったら?」

「エリカちゃんの言う事を何でも聞くよ」

「あたしがあの女と別れてって言ったら別れてくれるの?」

「それがエリカちゃんの望みなら」

 

 一呼吸あけて再び口を開く。

 

「やっぱやめとく。そんなことしたら遥が負けて喜ぶ嫌なやつになっちゃうじゃない。遥が勝った時に喜べなくなるのはやだし」

 

 好きな人には勝ってほしいという可愛らしい想い。それを聞いたほのかがここで沈黙を破った。

 

「エリカ可愛い」

「ちょっと、ほのか、雫……暑いんだけど」

 

 前から遥に、左右からほのかと雫に抱きしめられてエリカの頬が赤く染まる。

 

「はる君。ちゃんとケジメはつけるんですよね?」

「……もちろん」

「……わかりました。私からはもう何も言う事はありません」

 

 一瞬、ほのかがあまり見せない真剣な表情で問いかけてくるが、遥がそう答えるとすぐに表情を崩してエリカの髪の毛に顔をうずめた。

 

「エリカの髪の毛、汗の匂いがする」

「さっきまで外で試合見てたんだから当たり前でしょ」

「じゃあ次の試合まで汗流さないとだね」

「……ほのか?」

「うふふっ、はる君も試合でかいた汗流さないと」

「ちょっとほのか、あたしの話聞いてる?」

 

 この中で一番発言力があるのはほのかなのかもしれない。ほのかに微笑みかけられたエリカはこれから巻き込まれるであろう展開を想像して唇をわななかせた。

 

「とにかく、話はその後だよ。まずは汗を流しながら仲直りしないと」

「喧嘩してたつもりはないんだけど……」

 

 あまりのほのかの強引さに雫も呆れかえっているが、否定しない辺り賛成派なのだろう。

 

「じゃあ先に部屋に行っててくれる?」

「はる君は?」

「ちょっとケジメをつけてくるから」

 

 遥の言葉の意味を察したほのかは、エリカを連れてエレベーターへと乗り込んでいった。彼女たちと別れた遥はというと……。

 

 




エリカと摩利は水と油のような関係の気がしますけど、この作品のエリカは遥のせいでブラコンレベルが低いためこういう結果になりました。

【お知らせ】
これまでは更新予定日を変更する際、最新話の前書きや後書きでお知らせしていましたが、今後は更新予定日変更のお知らせを追記で「最新話の前書き」と「活動報告」の両方でしていこうと思います。
更新予定日通りの投稿に努めますが、予定日に投稿されていない場合、気になる方は活動報告をご覧ください。

【次回の投稿は7月3日19時予定です】
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