第1話 転生チュートリアル前編
「貴方様はお亡くなりになりました」
男が目を覚ますと三百六十度真っ白な光が広がる空間にいた。目の前にはくたびれたスーツを着た三十代と思われる男性が一人佇んでいる。
その男性は『天界の事務者』と名乗り、この場所が死後の世界である天界だと説明する。
「享年二十歳。性交死です」
「……は?」
思いがけない言葉にふと漏れる疑問。決して聞き間違いではない。
「死因は性交死です。腹上死と言えばわかりやすいでしょうか。貴方様は女性と性行為中に亡くなりました」
「嘘ですよね?」
「事実です。なかなか珍しい死因のようですね」
性交死は突然死や変死として扱われることが多いため正確な数を把握するのは難しいと言われている。しかし多くの死を扱う事務者である男性が珍しいと断言するだけに相当稀な死に方なのだろう。男は困惑した表情をしているが妙に落ち着きをはらっている。
「本当に、俺は死んだのか?」
男の疑問は当然だ。だが男は自分の姿を見てそれが事実なのだと確認した。
「……透けてる」
ストライプ線が入ったカジュアルなスーツに身を包んだ姿のまま全身が薄く透けている。手を胸に当てると身体を貫通し背中から出てくる。
現代の技術では説明できない現象にようやく状況が理解できたようだ。
「はい。既に死にかかわる記憶はすべてこちらで回収させて頂いておりますので覚えていないのも当然でしょう」
「記憶が?」
「死、という痛み苦しみ恨み憎しみ怒り悲しみを体験した魂は浄化しなければ悪霊に変化してしまう恐れがあるため、死ぬ間際の記憶やそれに関連する記憶がすべて死亡記録管理署に保管される決まりとなっているのです」
なるほど、と男は唸るが自分がどうしてここにいるのかという新たな疑問が上昇してくる。しかし事務者は男の考えを先読みしたかのように言葉を続ける。
「貴方様の最期に興味を抱いた第一級神がおりまして、第一級神で有らせられる性神様が貴方様に新たな身体と魂を準備すると仰っています」
天界にも階級というものが存在し、その中でも第一級神というのは上位に位置する神のことを指すらしい。そして第一級神の中にも七天神と呼ばれる七つの神が君臨しており、男はその七天神の中でも特に「性」について特化した神に気に入られたようだ。
「それはまた人生をやり直せるって解釈でいいんですか?」
「そうですね。けれど元のいた世界では貴方様という存在は既に亡くなっておりますので、別の世界に新たな魂を宿すことになりますね」
「別の世界というのは?」
「無作為性に選ばれた世界ですので行ってみなければなんとも……ですが性神様のご加護が与えられますのですぐに死ぬような事態には陥らないと約束致します」
男は即決した。嗜む程度だがライトノベルを読んでいた男にとって転生できるというのは妄想を現実にできるまたとないチャンスだった。
それこそ厳酷な境遇で育つかもしれないこともやむなしと思えるほどに男はチャレンジャーでもあった。
「性神様の加護がどのような加護か聞いても?」
「それについてはチュートリアルを設けておりますのでそこで確認をお願いいたします」
丁寧な対応に戸惑いながらも男は時間の許す限り情報を得ようと事務者とやり取りを交わし、その中で幾つか実りある情報を獲得する。
・現在の記憶は引き継がれ、転生してから十年経過したところで記憶が戻ること
・加護は性神様にまつわる『性』に関する加護であること
・チュートリアルには案内役がいてチュートリアルが終わり次第転生が始まること
・チュートリアルの結果も転生先に影響するということ
・転生先では特定の目的を果たしてほしいということ
男が死んだとき性行為中だった相手のことも話していたが、相手は男が眠ったと勘違いしてホテルから出て行ってしまったため死んだことに気づいていない。と言われた時の男の表情は転生できると知った時以上に驚いていたなんてどうでもいいことだろう。
「特定の目的くらいは教えてもらえないんでしょうか?」
「それもチュートリアルで確認ください」
「いやぁ、それくらいは教えてくれても罰が当たらないと思いますけど。それに、もし目的が世界征服とか言われてもやりたくないですし」
「……天界には娯楽が少ないのです」
「はい?」
「天界には娯楽が少なく、規制も厳しいのです。そんな生活に嫌気がさした性神様が娯楽を求めているのです」
簡単に説明すると性神様の玩具になれというわけである。
「ですので貴方様が性神様を楽しませる、という目的が与えられておいでです」
第一級神は自分の使者として世界に送った人間の一生を観察することができる権利が与えられている。天界には性に関しての娯楽行為が無く、性神様の唯一の楽しみといえば使者として送った人間の性にまつわる行為を見ることだけである。
性神様が遥に求めるもの。それは――
「それだけ?」
「はい」
「世界征服とか目指さなくてもいい?」
「そのようなこと性神様はお望みではありません。ただ――」
「ただ?」
「これ以上は私の口からは……ではチュートリアルに移させていただきますので案内役に引き継がせていただきます。それでは貴方様の次なる人生に祝福を。いってらっしゃいませ……性神様の使者様」
耳はいい方だと自負していた男の耳には当然事務者が呟いた最後の言葉も届いていて、その意味を訪ねる前に男は天界を去った。
視界が暗転。
(ここは……チュートリアルが始まったのか?)
男は暗室にいた。前の壁の隙間から光が差し込みドアノブが確認できる。おそらくはこの部屋の向こう側がチュートリアル会場なのだろうと男はドアノブを回し光の元へ足を踏み入れた。
そしてそれが男、宮守遥と四葉真夜の邂逅だった。
(何か匂うな)
部屋に入った遥が最初に感じたのは鼻腔を刺激する鉄の匂い。否、血の匂いが充満した不快感だ。
手術室のような部屋で中央に手術台が置かれ、その周りを机が囲む異様な造りとなっている。その手術台の上には手足が手錠で縛り付けて下着姿で寝かされている女の子の姿がある。
(女の子?)
部屋に入ると女の子は怯えたように慄然とした瞳を遥に向ける。顔は青白く唇も血色が悪く紫色をしていた。
「君は……」
「こんなことしてただで済むと思っているのですか!?」
会話が成立することはなかった。
(チュートリアルは始まっているのか? でもあの男は案内役がいるって言ってたし、チュートリアルが始まる合図でもあるのだろうか。それとも彼女が案内役、なわけないか)
遥としては一刻も早く情報が欲しいが無理に女の子と距離を縮めることなく机の上を観察し始める。
机の上には二本で一組の男性器に似た棒や首輪、鋼鉄の鎖などが血で汚れ、別の机には刃物や釘打機など手術とは関係のないものばかり陳列していた。
(この女の子は一体)
黒髪でやせ型だがやせ細っているわけではなく谷間ができるほどに肉付きもよい身体をした十代半ば、中学生程度の女の子。
下着姿も相まって妖艶な雰囲気を醸し出す美少女だが、手首と足首には痛々しい縛られた痕が残っている。
(誘拐でもされたのか?)
拷問、レイプ、強姦。それらの言葉が遥の頭によぎる。
「今すぐここから出せば四葉は手を出さないと約束します」
(四葉?)
聞き覚えのある名前。この状況。
聡明な人間であればこの時点ですべてを察することができたかもしれないが現時点の遥にそこまでの状況把握力はなかった。
「えっと、君は勘違いしてるようだけど、俺もここに連れてこられて混乱してるところなんだ。とりあえず名前教えてくれない?」
「……ふざけているのですか?」
「いやいや、至って真面目に聞いてるよ」
「……四葉真夜と申します」
「よつばまや?」
ここで遥も理解することができた。目の前にいる人物が『魔法科高校の劣等生』に出てくる主人公たちの叔母であり世界最強の魔法師の一人と目される魔王だということを。
「十師族の四葉?」
「十師族とは?」
「いや、なんでもない忘れてくれ」
(今のは失言だったな。このときはまだ十師族が発足される前か)
ライトノベルを愛読していた遥は当然『魔法科高校の劣等生』も読破済み。死ぬ前に完結まで読んでいたが細かな部分の記憶は曖昧である。一応概要や時系列程度であれば覚えているが、そもそも情報量の多いあの作品をすべて覚えているほうが稀だろう。
「胸触っても良い?」
この男は何をとち狂ったのだろうか。
「何故ですか?」
「理由は特に……目の前で身動きの取れない女の子がいたら触るのは当然だろ?」
この男クズである。転生を経験しアドレナリンが梨汁のようにブシャブシャ分泌しているのはわかるが頭のねじが何本も外れているようだ。
しかしそうでなければ性神様の目的を果たすことはできない。遥は性神様に選ばれた人間だけあって女体の前には目がなかった。
「んっ、ちょっ、ぁ」
「これはこれは」
有無を言わさず揉みしだく。
下着のせいで本来の柔らかさは伝わらないが、それでも成長過程の白い膨らみを感じることができる。
それに予想以上に真夜が声を我慢して悶えるせいで遥はイケナイ気分になっていく。実際いけないことをしているのだが……。
下着の上からでは飽き足らず、レイプ魔のごとく下着の前土台部分に手にかけた瞬間それは訪れた。
『呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!』
「なんだ!?」
「はぁっ、はぁ……なに?」
「え? いや、ごちそうさまでした」
「あなた……覚えてなさいっ!」
鋭い眼光を向けられるがそれどころではない。
(この子にはみえていないのか?)
陽気なセリフととも全長三十センチほどで六対の羽をはやした生物がいきなり遥の眼前に現れた。そしてそれは真夜の身体の上を飛び回り可愛らしく右手を顔の前でVサインしながら静止した。
オレンジ色に少し土色を混ぜたような髪の毛を肩まで伸ばし、藍色の瞳は光り輝いている。案内役の登場だ。
『チュートリアルが始まるキーはお前が女の子に触れることだったんだぜー。お前が女の子にも触れられないへたれ童貞だったら一生チュートリアルが始まらなかったかもしれないなー』
この生物の登場で殺伐としていた雰囲気が一変する。少なくとも遥は呆けた顔を真夜に見せている。
『あ、遅れたけど僕の名前はアイちゃん! 性神様の命によりお前の案内役になったからよろしくなー』
アイちゃんなる生物が真夜に見えていない以上、遥は声を出して返事をすることができない。もし声を出してしまえば独り言を呟くヤバいやつ認定されかねない。
『僕との会話は声に出さなくても頭の中で話しかけてくれれば通じるからなー』
(……これでいいのかな?)
『おう! お前は滅茶苦茶エロの才能があるみたいだし相棒って呼んでやるよ! 相棒も堅苦しくしゃべんないで気楽に話しかけてくれよなー』
いつ相棒になったのだ、という遥の声は届くことはなかった。アイちゃんには会話の優先順位があり、順位が高くない問いかけに対しては答えないようだ。
(わかり、わかった。一つ質問いいか?)
『おう!』
(この世界は「魔法科高校の劣等生」の世界なのか?)
『うーん、半分そうで半分そうじゃないってのが答えだなー この世界は相棒が知っている「魔法科高校の劣等生」を元にして作られた「魔法科高校の劣等星」って世界なんだなー』
(つまり俺の知ってる「魔法科高校の劣等生」とは違うってこと?)
『全く別物であって大体同じかもしれないなー そもそも相棒っていうイレギュラーな存在がいる以上、相棒の知ってる「魔法科高校の劣等生」とは別物だってことだぜー。だから相棒はこの世界で好きにやっちまいなー。もし相棒の行いが性神様の意に沿わないことであったら性神様は容赦なく相棒のやったことをなかったことにするだろうし、性神様に貰った命だー。相棒はその心のままに新たな人生を謳歌すればいいんだぜー』
(じゃあ例えばこの女の子を襲ってもいいのか?)
『おぉうよ! ここまでエロに開放的な奴は初めてだけどそのまま生きろよー。自重なんてしなくていいぞー』
(……まぁ今はやめとくけどさ)
さっきから真夜の刺すような視線が遥に向けられる。身体を覆うようにオーラのようなものが流れ出ているが、発動できないように細工が施されているのか遥に危害はない。
『生まれ変わった先の世界が知ってる世界だと『未来が変わる』だとか『歴史を変えてしまう』とか言うやつがいるけど気にすんじゃねーぞ! 「魔法科高校の劣等生」の物語を性神様に見せるために生まれ変わるわけじゃねーんだから世界でも征服してやるぜくらいの肝っ玉見せろよー!』
(いや世界征服はしないから、ってかこの世界ならお兄様ができるじゃん)
この世界で歴史の修正力が働くことはない。そもそもそんな歴史など存在せず「魔法科高校の劣等星」は神たちによって造られた「魔法科高校の劣等生」とは異なる世界。宮守遥という存在がこの世界に何をもたらすのか、それを知る者はいない。
無数に点在する蝶のごとく、バタフライエフェクトは始まっている。結局彼ができることは自分が後悔しない選択をするだけなのだ。
『じゃあ質問も答えたところでチュートリアル始めるぞー。チュートリアルは性神様から賜れた加護についての説明だったなー。じゃあさっそくだけどこいつにキスしろー』
(……冗談だよな?)
『何言ってんだ本気に決まってるだろー?』
(この状況で?)
『おう! 男ならガッツリ行けよ! 舌入れてもいいからなー!』
豆粒ほどのグーサインと憎たらしいほど満面の笑みを浮かべるアイちゃん。裏のない言葉だからこそ余計にたちが悪いのだ。
抵抗できない少女相手に胸を揉みしだいた後にキスをする。まさに外道を極めし神の使者である。
(なんでキスしないといけないんだ?)
『逆に聞くけどこんな無防備な少女を前にしてキスしない方がおかしいだろー! それとも胸は揉めてもキスはできないとか言うんじゃねーだろーなー!?』
(常識的に考えてしないだろ! ってか胸揉んだせいで余計にキスがしづらいんだよ!)
『相棒が常識を語るなー!! 自業自得だコノヤロー』
(……むぅ)
ぐうの音も出ないとはこのことをいうのかもしれない。ただ見方を変えてみれば胸を揉んだおかげでキスをするという難易度が下がっているのではないだろうか。
いきなりキスをするのと胸を揉んでからキスをするのとでは捉え方も違ってくる。
『まー冗談は置いておいて、キスすることが性神様の加護の解放条件なんだぜー』
(キスすることに変わりはないのね)
もはやレイプ魔と違わない行為を遥は真夜に対してすることになる。既に真夜の印象は最悪なものとなっているが、挽回するチャンスが訪れることを祈ろう。
「悪いけど訳があって君にキスをしなきゃいけなくなった」
「……どういうこと?」
遥は手術台に手を置きそっと四葉真夜の顔に近づいていく。抵抗するように四葉真夜を縛る手錠から激しく金属音が鳴り響くがそれは彼女自身の身体を傷つけるだけで意味をなしていない。
「んっ」
そして彼女の抵抗むなしく二人の唇が重なり合う。
『おぉおおー!』
遥の耳の傍から熱のこもった視線と目障りな吐息が注がれる。これほど罪悪感に満ちたキスがあっただろうか、いっそのこと舌を入れて噛みつかれたほうが気持ちが楽になるかもしれない。そんな遥の思いが通じたのか、四葉真夜は口を開き舌を遥の唇に押し当ててきた。遥も呼応するように口を開こうとした瞬間、遥の唇に猛烈な痛みが生じた。
「っつ!?」
飛び起きるように真夜の元から離れ唇に手を当てる。口の中を鉄の味が支配する。先ほどまで血色の悪そうだった真夜の唇にはルージュを塗りたくったように真っ赤に染まり、妖艶な笑みを浮かべていた。
「化けの皮が剥がれておいでですよ? 強姦魔さん」
「俺は君を助けようと思ってやったことなんだけどね」
「ならこの手錠を外してはくれませんか?」
「いや、手錠を外したら殺されそうだからやめとくよ」
「殺されるようなことをしたのですか?」
「俺自身がしてないと思っていても相手がどう思ってるかは別問題だからね」
手のひらにはべっとりと血が付着しなお今も唇から首元へと血が滴り落ちている。
(美少女とキスしたっていうのに余韻に浸る暇もないな)
『よぉーし、これで加護が解放されたぞー!』
これでチュートリアルが終わり。そんなはずもなく、これからがチュートリアルの始まりだ。
「っと、その前に」
「……何を、ぷっ、してるのですかっ!?」
「美少女が自分の血を飲んでるって興奮しない?」
「この――変態!」
遥は手術台に上がり彼女の頭を跨るように立った。そして自分の唇から流れ出る血を垂らし始めた。血は真夜の口元へ落下して弾け散る。真夜が顔を避けようとも偏差撃ちならぬ偏差落としで正確に真夜の口元へと落とす。その技術はまさに芸術といえるだろう。
満足した遥は真夜の元を離れて手術台横の水道で血を洗い流した。
【ご報告】
私の活動報告にて性行為対象者10人のアンケートのようなものを取っています。現在6人は決まっていますが、残りを誰にするか決めかねているので参考程度にコメントしていただけると助かります。
この作品はR-18作品ですが、エロのみというわけではありませんのでお気を付けください。