物語が少しずつ動き始める。
遥と摩利が第三演習室に着くと既に模擬戦の準備が整っていた。
摩利は演習室中央にいる二人にルール説明を始め、遥は端の方で観戦しようとしている彼女たちの元へと向かった。
遥の姿を確認するとあずさは驚いたように目をギョッと見開き、遥の笑った顔を見て警戒したように一歩後退りする。
「一年A組の宮守遥と言います。よろしくお願いしますね先輩」
「……せん、ぱい? 私は二年A組の中条あずさです。宮守君の先輩です!」
先輩という言葉に気を良くしたあずさは遥の出した手を握り返した。しかしすぐにその手が振り払われることになる。
「真由美ちゃん、七草会長からはあーちゃんと呼ばれていましたが、俺もあーちゃんと呼んでもいいでしょうか?」
「だ、駄目ですッ! 七草会長にもみんなの前で呼ばないでくださいとお願いしてるんですから、宮守君もちゃんと中条先輩と呼んでください!」
ブンブンと腕を振りながら遥に抗議する。小動物のように可愛らしく膨れる姿に隣で見ていた深雪の口角が上がっていた。そのことに気づいた遥は更にあずさへと詰め寄る。
「えーでも中条先輩だとオリジナリティーが無いじゃないですか。じゃああーちゃん先輩、ってのはどうですか?」
「うぅ、あーちゃんじゃなければいいんですけど……」
「じゃああずにゃん先輩は?」
「あずにゃ……悪化してるじゃないですかっ!!」
お気に召さないようだ。わがままな先輩である。するとわがままボディの真由美があーちゃんの味方をする。
「遥くん、あーちゃんをイジメちゃ駄目よ」
「いじめてるつもりはないんですけど……先輩ごめんなさい」
「い、いえ、大丈夫なので頭を上げてください」
「じゃああーちゃん先輩で良いですね!?」
「うぇっ!?」
味方のつもりが実は敵だったというのはよくある事。真由美のアシストによりあずさの呼び名が決まったところで、中央にいる摩利の説明が終わった。
「それではこれより、二年B組服部刑部と一年E組司波達也による模擬戦を開始する!」
顔を赤らめながら遥と逢瀬していたとは思えない摩利の凛々しい姿があった。
「どっちが勝つと思う?」
真由美の質問に答えたのはあずさだった。服部とは同学年であり、服部の実力を一番知っている人物でもある。
「私は服部君だと思います」
「私もですね」
あずさに同調したのは市原鈴音だ。そして二人の答えに真由美も首肯していた。
深雪は達也が勝つと声を大にして言いたかったが、先ほど生徒会室で服部から身内贔屓は良くないと言われたのを思い出し口を噤んでいる。
そんな中、深雪の気持ちを代弁するかのように遥が口を開いた。
「俺は司波達也君が勝つと思いますけどね」
「――!?」
深雪の驚喜した表情が遥に向けられる。兄である達也を評価してくれたことに対する喜びと、それと同時に遥に対する疑問が深雪の中に渦巻いていた。
遥の発言に真由美が首を傾げながら問いかける。
「それはどうしてかしら?」
「彼の歩き方が普通の人とは違っていたので、もしかして武道、いや武術を学んでるんじゃないかと思いましてね」
「そうなの深雪さん?」
「……はい」
「だとしても模擬戦は武術だけじゃなくて魔法を使うのよ? 達也君が勝つと思う理由にはならないと思うのだけれど」
「そうですね。なので最大の理由は別にありますよ」
「それは何かしら?」
「それは、さっきの深雪ちゃんの発言ですかね。生徒会室で言った『兄は評価方法が合っていないだけで本当は実力がある』という発言。深雪ちゃんほどの人間が虚言を吐くとは思えない。ならその言葉の意味を考えたときに、司波達也君は学校の評価では測れない実力を持っているんじゃないかと思ったんですよ」
「測れない実力って?」
「それを今から彼が証明してくれますよ。ね、深雪ちゃん」
深雪の遥を見る眼が鋭くなる。
遥の計算では「お兄様の事をわかってくれる遥くん素敵!」とメロメロになるはずだったのだが、得体の知れないモノを見た時のような慄然とした表情を向けられていた。
勘のいい餓鬼は嫌いだぜ、と敵認定されているようにも見える。
すかさず遥はおちゃらけて深雪にウインクしてみたが、既に深雪は模擬戦を始めようしている二人に視線を向けていた。
バッドエンドルートに入ってしまったかもしれない。もしくはまだ挽回できるチャンスが来るかもしれないが、今のやり取りで司波深雪の好感度が上がることはなかった。
それぞれの想いを胸に、模擬戦が始まり……。
決着は一瞬だった。
服部は慢心こそしていたが油断はなかった。
魔法師同士の戦いは先に魔法が当てた方が勝つ。そしてCADの魔法発動速度で一科生が二科生に負けるはずがないと。特に達也は二科生の中でも特に実技が不得手とされている。
入学してから一年間負けなしの服部が負けるはずがない。始まる前から勝負はついていると誰もが思っただろう。
服部は試合が始まるまで何度も頭の中でシミュレーションして勝ちへの道筋を思い描く。開始直後にスピード重視の単純な起動式を展開させる。魔法は基礎単一系移動魔法。相手を十メートル後方へ吹き飛ばし、衝撃で戦闘不能にする。イメージを反復して確認する。
「準備はいいか――始めっ!」
摩利の合図とともに服部はイメージしていた行動を実行する。起動式を展開、まだ達也はCADの操作すらできていない。服部は自分の勝ちを確信した瞬間、身体が前のめりになりながら地面に倒れこんだ。
「……勝者、司波達也!」
観戦者からは驚きこそあれど、我に返るのも早かった。遥の話を聞いていなければもう少しだけ復帰に時間を要しただろう。
まさか本当に勝つとは。そんな声がどこからともなく発せられ、すぐ消えた。
達也がその場から離れようとしたところを摩利が制止する。
「待て、今の動きは自己加速術式を予め展開していたのか?」
そう思うのも至極当然。そうでなければあの動きは説明できない。
「魔法ではありません。正真正銘身体的な技術です」
「兄は九重八雲先生の指導を受けておりまして」
「なんとあの忍術使いの!?」
摩利も武道を嗜むものとして九重八雲の名は聞いたことがあった。そしてまた新たな疑問が湧いてくる。
「魔法無しでもただ者ではないということか。では服部が倒れたのはどういうことだ?」
「おそらく波の合成ではないですか?」
達也の代わりに鈴音が答えた。
「リンちゃんどういうこと?」
「大きな振動を受けて服部君は船酔いのような状態になったと考えられます。振動数の異なるサイオン波を三連続で作り出し、三つの波がちょうど服部君と重なる位置で合成されるよう調整した。しかしあの短時間に三回も振動魔法が使えるあなたが二科生というのはおかしな話ですね」
鈴音の疑問はすぐに解決される。
「あのっ、このCADはあのシルバーホーンじゃありませんか!? ループ・キャストシステムに最適化されている! しかも限定モデルですよね!? 羨ましい……っ」
重度のデバイスオタクであるあずさだが、次々と疑問が湧いてくる。
「しかし繰り返すだけのループ・キャストでは三種類の振動魔法は出せないだろう」
「まさか同時に三つの変数を使ったっていうの?」
摩利や真由美の疑問も解決される。
「その通りです。多変数化は評価されない項目ですから」
深雪が生徒会室で言っていた本当の実力とはこのことだったのか、といま起き上がった服部を含む全員が理解した。
「はんぞー君大丈夫?」
「ええ何とか」
自信がある人間ほど傲慢になり自分の非を認めないものだ。しかし服部は違った。
「先ほどは身びいきなどと言って申し訳ない。目が曇っていたのは私の方だ。許してほしい」
服部の謝罪に深雪も素直に受けった。
「私の方こそ生意気を申しました。どうぞお許しください」
魔法科高校の副会長に相応しい人間だと、深雪は改めて服部を評価した。そして皆が自分の兄を認め始めていることに歓喜する。
しかし一人だけ警戒しなくてはいけない人物がいる。生徒会役員や摩利が達也を囲む中、大柄で白髪の男、彼だけは注意しなくてはならない人物だと、深雪の中で遥は危険人物と化していた。
当の本人は、皆が達也に意識が集中しているため今がチャンスとばかりに女性陣を視姦しているのだが、深雪の目にはそれすらも何かを探っているのではと映っていた。
達也の風紀委員入りが認められた日の夜。深雪は達也に相談しようと、達也が地下室に向かう前に呼び止めた。
「お兄様、少しお話したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「いいよ、話してごらん」
地下室へと向いていた足をただし、深雪の淹れたコーヒーカップを机の上に戻す。
「宮守くんのことです」
「遥のこと?」
「はい。少々驚くことがあったというか、お兄様のお耳に入れておきたいことがありまして」
深雪は放課後の模擬戦前の話を達也にした。その間達也は深雪の話を遮ることなく思案顔で聞いている。
「お兄様のことを評価してくれたのは嬉しかったのですが、なんだかすべてを見透かされているような気がして……」
「そうだな……。放課後、模擬戦が終わった後に風紀委員室で渡辺先輩から言われたことなんだが……」
淡々とした口調で話し始める。
「実は生徒会推薦枠で風紀委員に入るはずだったのは遥の方だったらしい」
「それは本当ですか!?」
「ああ、入試の実技が深雪と同じスコアを叩き出し、それをかってスカウトするつもりだったと話してくれた」
深雪の遥に対する警戒度がワンランク上昇した。
遥は理論七教科の平均が、受験合格者の平均でもある六十点であった。理論が足を引っ張ったが実技で盛り返してAクラスを勝ち取った。もし理論も優秀であれば新入生総代は違っていたかもしれない。
「……そんなに凄い人だったんですね。しかしお兄様が風紀委員に」
「奴が選民意識の強い生徒なら怒り狂って抗議しただろうな」
二人は昨日の昼休みや放課後のことを思い出す。入学してまだ数日だというのに二科生を補欠と侮蔑する一科生の姿を数多く見てきた。一科生の差別意識をまじまじと実感させられ、自分よりも二科生である達也を選んだと知ればどうなるかは簡単に想像することができる。
「けれど、宮守くんはお兄様の風紀委員入りを喜んでくれていました」
「あれが本心なのか演技なのかはわからないが、もし仮に演技だとすればとんだ食わせ者だ」
「お兄様がそこまでおっしゃる人、でしょうか?」
「それだけじゃないさ。昨日の放課後の騒ぎを七草会長と渡辺先輩に報告しに行ったのも遥だった」
「えっ?」
「新入生同士で騒ぎが起こってる。魔法が使われるから確認してくれと生徒会室にきたらしい。そして七草会長たちがちょうど魔法が使われる現場を目撃した」
「そうなんですか」
「おかしいとは思わないか?」
「何がでしょうか?」
深雪には不思議な点は見られなかった。確かにわざわざ生徒会室に行かなくても、近くを巡回する風紀委員や先生たちに連絡すればいい。騒ぎを見つけて生徒会室に行くような人間がそれらを見落とすとは思えないが、想定の範囲内である。
「遥が揉め事を見てから七草会長らに説明する時間と、揉め事が始まってから魔法が使われるまでの時間が違いすぎないかと思わないか?」
「……あっ」
失念していたとばかりに声を漏らす。
「遥が最初から見ていたと仮定して、森崎が魔法を使おうとしたのは騒動が起きてから数分の事だ。正確には一分十五秒後だが、その間に遥は生徒会室に向かい会長らに報告、それから会長らの移動時間を考慮したとしても時間が足りない」
「それではどうして……」
「森崎たちが魔法を使うと知っていた、とか」
「なっ!?」
「可能性の話だ。遥が森崎たちを囃し立て魔法を使うように仕向けたという可能性もある」
「……何故そんなことを」
「あくまで可能性の話だぞ深雪。それにそんなことをしても遥に何のメリットもない」
そう、森崎が問題を起こしたとしても遥に何の得もないのだ。生徒たちを掻き乱して愉しむサイコパスであれば話は別だが。
「それに可能性だけであれば遥には未来が見える、という考えだってできる」
「……それは少し考えすぎではありませんか?」
「例の自称占い師がそうだったように、未来が見える人間がいても不思議ではない」
深雪には偶に達也に何が視えているのか不安になる時がある。
「遥があの占い師だったりするかもしれないな」
「……っ!?」
そんなわけないと言えない深雪がいた。三年前の沖縄で出会った謎の占い師。おそらく自分たちと同じ世代であると推測しているが、あの声変わりしていない中性的な声が三年経てばどのような声をしているのか想像できない。
もしかしたら彼の正体は……。深雪は自分の胸の鼓動が踊っているのに気づかなった。
「深雪は……宮守くんを探ってみた方がいいのでしょうか?」
「その必要はない。変に怪しまれて俺たちのことを勘繰られでもすれば面倒だ。現状敵ではなさそうだし、深雪が気にする必要はないよ」
「しかしっ!」
「深雪が遥のことを異性として気になるなら別だがな」
「はっ?」
「遥は女子にモテるとエリカが言っていた。なら一人の女性として遥と関わるつもりなら俺は止めないよ」
「お兄様っ」
「危険なことだけはしてはいけないよ」
「勿論ですお兄様!」
もちろん深雪にそんな気はない。しかし遥を探ることを許可された深雪は明日から行動に移すのだった。
「魔法の名家に宮守という名の家はなかったはずだが……俺たちと同じ人間なのか?」
達也の呟きは深雪には届かなかった。
原作の流れとしては模擬戦後、帰宅した深雪がCADの調整を達也に頼んで下着姿になる場面ですね。
しかしこの世界線ではそれはなかったようです。
例の占い=遥という話が出てきましたが、達也自身その可能性は限りなく0に近いと考えています。その可能性が少しでもあれば疑うのが彼ですが。
遥が風紀委員の教員推薦枠に選ばれなかったのは論理の点数が低かったからです。あとは入学試験の小論文でやらかしているから。これは後々明らかになるかもしれません。特に伏線とか深い意味はあったりなかったり……。
エロ回の時タイトルに目印を付けるかどうか
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本番行為の時だけ付ける
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エロの程度によって目印を使い分ける
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それとなくタイトルでわかればいい
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不要。サブタイトルも不要
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今のままでいい