ほのか視点です
心地よい香りに誘われて目を覚ますと、視界いっぱいに愛する人の顔が映る。昨日もたくさん愛してくれた。
まだお腹の中にはる君のが入っているような気がして朝から幸せな気持ちになる。こんなに毎日たくさん彼の熱くて濃いのが注がれると、もしかして? と思うけど私たちの愛の結晶ができることはない。
彼には先天的な特異性の力によって通常では子どもができないみたい。その話を聞いたときは凄く悲しくて泣きそうになった。だって愛する人の子どもを生むことができないんだよ、そんなの悲しすぎるよ。
でも魔法の力を抑えることではる君の精液に種ができ、妊娠できるようになるって聞いたときは嬉しくて泣いてしまった。
その期間、はる君は魔法師としての力が抑えられている状態だから私たちがはる君を守らないといけない。だから私は、私たちの幸せを守るために強くならなきゃいけない。そう雫と誓い合った。
今日は私が朝食当番だ。料理は得意じゃなかったけど彼に喜んでほしくて一生懸命練習した。今も上手じゃないけど、はる君は私の料理を美味しいと言って食べてくれる。ホントに優しくて素敵な人。
家事専用ロボットの
「はむっ……んっ、ごくっん」
はる君成分を補充したところでそろそろ起きなきゃ。部屋の壁にかかったはる君のワイシャツを羽織ってはる君の匂いに包まれながら部屋を出た。
雫は朝弱いからエッチした日の次の日はなかなか起きてこない。だから朝ごはんも全然食べない。少しくらい食べた方が元気が出るのになぁ。
雫の朝は毎回スムージーを作ってあげる。栄養も取れて健康的だしダイエットにも良い。たくさん運動してるからダイエットする必要はないけど美肌のために私も飲んでいる。
これは雫が起きてから作ればいいし、彼のご飯を作ろう。彼は朝からでもガッツリお肉を食べられるし雫とは対照的だ。
「ほのかちゃんおはよう」
「おはようございます、はる君!」
「んー良いニオイ」
「もう少しでできますからね」
料理を作り始めてからしばらくするとはる君が起きてきた。寝ぐせがついてて可愛い。男の人の髪の毛ってゴワゴワしてるイメージだけど、はる君の髪の毛はサラサラで撫でると気持ちいいし良い匂いがする。最近は少し伸びてきていて、前髪を邪魔そうにしてるけど私は今の長さもカッコいいと思う。
白髪って王子様みたいだよね、と雫とエリカに話したことがある。そのとき雫は同意してくれたけどエリカは魔王っぽいって笑っていた。王子様のはる君もいいけど、魔王っぽく鋭い眼光で見つめられるのも良いかもしれない。っと、料理が焦げるところだった、危ない危ない。
顔を洗ってきたはる君が私の横にやってきた。
「コーヒー淹れますか?」
「うーん今日はミルクティーにしようかな」
「はいっ」
はる君は甘いものが好き。だからかわからないけどはる君の唾液は癖になるほど甘い。一日に一回、下手をすれば一時間に一回欲してしまうほど魔性の魅力が込められている。普段ははる君の匂いを嗅いで抑えているけど偶に逆効果な時があるから気をつけないといけない。
「ごちそうさまでした。今日も美味しかったよ」
「い、いえ、はる君のお口に合ってよかったです」
「朝から和食って大変じゃない? もっと簡単なごはんでいいんだよ?」
「大丈夫です! それとも……迷惑、でしたか?」
「迷惑なわけないだろ? こんな美味しい料理を朝から食べられて幸せだよ。でもほのかちゃんの負担になってないか心配でね」
胸が温かくなる。
「私が好きでやってるので大丈夫です!」
「そっか。俺としてはほのかちゃんの手料理を食べられるだけで充分嬉しいから無理しちゃだめだよ。きつくなったらすぐ言ってね」
「はいっ」
はる君は優しすぎるよ。大人っぽくて頼りになる存在。私を包み込んでくれる優しい人だけどエッチの時には人が変わったようにイジメてくる悪い人。
どっちが本当のはる君なのかな?
「あっ」
「いつもありがと」
「は、はひっ」
そんな後ろから抱きしめられて耳元で呟かれたら私……。
はる君はズルい人です。やっぱり本当のはる君は意地悪で卑怯な人です。私の心を盗んでいった悪い人。そしてこの世で一番愛しい私の王子様です。
新入部員勧誘週間四日目を迎える。それだというのに先輩方の勧誘熱は冷めることなく、むしろ初日から徐々に上がってるんじゃないかってぐらいに激しさを増している。
私と雫はバイアスロン部に入部することを決め、すでに入部届を提出しているが、それでもひっきりなしに勧誘の誘いが来るせいで、学校から出るのも一苦労だ。
今は体育の授業が終わり更衣室で着替えている。授業中ははる君のことばかり目で追っていて雫に怒られちゃったけど、偶に体操着からはる君のお腹がちらりと見れるんだもん、しょうがないじゃない。
見慣れてるって言っても、ふとした時に見えるチラリズムは至高だよ。
「ほのか、背中に痣みたいな痕ができてるけれど、今の授業でぶつけたりした?」
「えっ?」
深雪に声をかけられたけど心当たりがない。今の時間ははる君ばかり見ていたから動いていないしぶつけた記憶もない。
「ほのか……急いで着替えた方がいい。これ痣じゃなくてキスマーク」
「ふぇっ!?」
雫がこっそり教えてくれた。私は深雪に背を隠しながら急いでオーガンジーのインナーガウンを着る。こういう時に限って上手く着ることができない。
「ほのか?」
「大丈夫だよ深雪! 全然痛みもないし放っておいたらすぐ消えるよ!!」
「でも残ったら大変よ。女の子なのだから一応見てもらった方がいいんじゃないかしら?」
「えーっと……」
深雪の優しさに心が痛いよ。他のクラスメイトがいる中ではる君に付けられたなんて言えないし……うぅ。
「深雪は生徒会があるよね? 保健室には私が連れてくから安心して」
「雫?」
「そう、雫が付いて行ってくれるなら安心ね」
「う、うん、ありがと雫!」
本当にありがとう。やっぱり雫は頼りになる。
「生徒会頑張ってね!」
「ええありがとう、ほのかたちは? もうクラブ決まったのでしょう?」
「うん、バイアスロン部」
深雪の問いに雫が答える。
「SSボード・バイアスロン部? 何か非常識なアクシデントに巻き込まれたと聞いたのだけど……」
「ま、まぁ、部長は常識的な人だったし、現役の先輩たちも親切そうな人たちだったから」
「そんなわけでクラブも決まったことだし今日はこのまま帰るつもり」
「そうね、その方が賢いと思うわ……それじゃあ、ほのか、雫、また明日」
入学試験の時に素敵な人がいると思って、実技試験でもはる君と同じ最高成績を収めた深雪とこうして名前を呼び合う関係になれるとは思いもしなかった。
深雪は魔法師としてだけじゃなく人間的にも尊敬できる。お兄さんの司波達也さんが二科生なのを気にして、お兄さんが森下……森埼君に見下された態度を取られた時の深雪の表情は鬼気迫るものがあった。
クラスの男子は深雪に気があるのが見え見えだけど、もう少し深雪の気持ちを考えて行動すればいいのに。そうすればもっと深雪も心を開いてくれると思う。はる君を見習ってほしいな。
「ほのかちゃん、雫ちゃん」
「はる君っ!」
はる君のことを考えていたら本人が目の前に現れた。
「今から帰るところ?」
「うん。ハルカは?」
「俺は美術部で登録しないといけないことがあるから少し遅くなるかも」
「そうなんだ」
残念。一緒に帰りたかったな。
「二人ともヤッホー」
「ヒッ!?」
「あっ、エイミィ」
突然肩を叩かれたからビックリした。なんだエイミィか、そういえばはる君とエイミィは初めましてかな?
「キミは……宮田くんだ!」
「こんにちは、初めまして宮守遥って言いますよろしくね」
「あーそうだった宮守くんだ、宮守遥くん! 私は明智英美。正式にはアメリア=英美=明智=ゴールディ。よろしくね宮守くん! 私のことはエイミィでいいよ」
エイミィははる君のことを知ってそうな感じがした。
「エイミィはハルカのこと知ってるの?」
「知ってるも何も有名人じゃん! クラブの先輩たちが有望株ってスカウトしたがってたし、何より……入学して早々美少女を囲ってるってB組じゃ噂になってるんだよ!」
なんだそりゃ……。美女? いつもはる君と一緒にいるのは私と雫と深雪にお昼だけエリカに美月……。雫や美月は可愛いし、深雪やエリカは美少女って言えるけど、もしかして私も美少女に入ってる!? 嬉しいけど私ははる君だけのモノだし美少女なんて言われても困るよぉ。
身体をくねらせていると雫からわき腹のお肉を摘ままれてしまった。痛い。
「その美少女って誰?」
「さあ? でも今見た感じだとこのお二人と、司波さん? 新入生総代の子も一緒にいるって噂してるね。ねぇねぇ誰が本命なの!?」
エイミィはフレンドリーな人だから普通は聞きづらい質問も平気で投げつけてくる。
「そうだなー、みんな可愛いし魅力的な人だから答えに困るね。もちろんエイミィちゃんも可愛いから、仲良くしてくれたらうれしいな」
「うわぁ、チャラ男だ。初対面の男の人に可愛いとか初めて言われたよ」
「それは周りの男子たちに見る目が無かったってことだね。エイミィちゃんは素敵な女性だと思うよ」
女の子が聞いたら頬を赤らめることを平然と言うから困るよね。しかもこれがはる君にとっての挨拶と同じだから余計にたちが悪い。
けどはる君も言う相手を選んでる。はる君がこんなことを言うってことは少しはエイミィに対して好意を抱いてるって証拠だ。
それだけエイミィが魅力的なんだと思う。確かに元気で一緒にいると楽しそうだけど、胸は雫よりぺったんこだ。
「あははーそんなに言われちゃうと照れちゃうよー キミに女子が集まるのもわかる気がするかもなー」
「ハルカはこれが平常運転だから気にしない方がいい」
「そうなの?」
「うん」
はる君はすぐ女の子と仲良くなれるのに男の子の友達が少ない。クラスで男の子と話してるのをあまり見たことが無いし、学校で仲のいい男子いるのかな? 深雪のお兄さんと西城君とは話すけどそれほど仲良さそうに見えない。
「それとハルカはもうほのかと付き合ってる」
「えぇっ!? ほんと!?」
「う、うん……小学校の時から同じクラスだったんだ。それで中学の時に告白されて……」
会う人会う人に毎回説明してる気がする。これもはる君の重婚が認められるまでの間だけ。一夫多妻制が認められたら雫たちと大手を振ることができる。
「だからほのかはさっきから宮守くんの顔見てたんだね? 大丈夫、ほのかの彼氏を取ったりしないから」
「そ、そんなんじゃないよっ!」
もう! はる君のせいでエイミィに誤解されてしまった。これは帰ったらはる君に責任取ってもらわないといけない。
「っと、そろそろ行かなきゃ、じゃあ二人とも気をつけて帰るんだよ。エイミィちゃんもまたね」
「はる君またね」「また明日」
「じゃあね~」
どうやって帰ろうか。窓の外を見ると、校舎から校門までずらりと勧誘の長蛇の列ができている。
「それでほのかー」
「なに?」
「さっき宮守君に「またね」って言ってたけど、帰ってから会うの?」
「ふぇっ!?」
そんなこと言ったっけ!? 雫を見るとジトーっと細目で見てくる。どうやら私やらかしたみたい……。
「で、電話だよ。帰ったら電話する約束してるから」
「なーんだ。てっきり逢瀬でもするのかと思ったよ」
「おうっせ……そんなんじゃないよ! わ、私たちは高校生らしいピュアな関係なんだからねっ!」
「えーこんなに発育がいいのにー? 宮守君も奥手だねぇ」
エイミィって黙ってれば可愛いのに、時々発言が残念になる。それに発育が良いのははる君のせいだから!
「そ、それよりどうやって帰る?」
「あぁ、苦労しそうだもんねー」
話を逸らすことに成功。
「雫もほのかも隠密系の術式は持ってないの?」
公儀隠密の「隠密」術式。松平伊豆守とか紀州御庭番とかが使っていたとされる、意識を逸らしたり姿を隠したりする術式だ。前にはる君と勉強しているときに偶々知ったけど、まさかここでそれを聞くとは。
「私は使えないけどほのかは得意。でも勝手に魔法を使うのはルール違反」
私は光波振動系魔法が得意だから、隠れるのに向いてたりする。
「今更だよ。いつもなら守らなきゃだけど、今は魔法が飛び交ってるじゃん」
校内限定だけどデモなどで魔法が使われている。でもこの前ちょっと事件というか問題を起こしたばかりだし魔法を使うのは抵抗がある。はる君にも注意されたし。
「ほのか、今回は攻撃じゃないから大丈夫だよ」
「あのときだって攻撃じゃなかったよ!」
仕方ない。今日だけ特別だからね。はる君も身を守るためだったら魔法を使っても良いって言ってたし許してくれるはず。
「今回だけだよ雫。エイミィも一緒に帰る?」
「うん! ありがとう!」
「みんなで行った方が心強い」
光波隠密系魔法を使って移動する。光の屈折を利用して、私たちを視認させない魔法だ。向こうからは私たちのことを校内にいる作業員としか認識できないからバレないと思う。
あと少しで学校の敷地外に出られる所で、深雪のお兄さんが言い争いをしている男子生徒を止めに入っていた。
そういえば二科生で初めて風紀委員に入ったんだっけ。深雪が嬉しそうに声を弾ませて言っていたのを思い出す。
「そこの二人、風紀委員です。掴んでる手を離してください」
迷いなく喧嘩してる男子生徒たちに突っ込んでいく。相手は一科生だというのに勇気があるな。
「え?」
物陰から魔法が飛んできた。
「うわっ、アレを躱すんだ」
エイミィが呟く。明らかに故意的に狙って放たれた魔法だ。
「あの風紀委員の男の子がわざと狙われたってこと?」
「多分そうだと思う」
深雪のお兄さんは二人の男子生徒が絡んでくるせいで魔法を撃った人物を追いかけられないでいた。もしかして全員グルなの?
「今のは偶然なんかじゃない。どう見てもわざとだった」
「私にもそう見えた」
やっぱり雫もそう思ったんだ。
「彼、二科生なんだ」
エイミィは会ったことなかったね。でもあの人はなぜ二科生なのかわからないくらい綺麗な魔法を発動させる。でも狙われたのがはる君じゃなくてよかった。
「キリっとしててなんだかいい感じだね。知り合い?」
「新入生総代の司波深雪さんのお兄さんだよ」
「えっあの究極美少女のお兄さん!? 二年生? 三年生?」
「一年生」
「あれで同学年? ただモノじゃないね」
雫と似てて、表情に出ないから落ち着いて見える。深雪が尊敬してるくらいだから良い人なんだろうけど、あまり興味はないかな。
「やっかみかもね」
「え、何が?」
急にエイミィが腕を組みながら声色を変化させた。
「超絶美少女の妹がいるお兄さんをひがんで「一年生のくせに生意気だ、やっちまえ」ってところじゃない? ありがちだよね」
嫉妬で闇討ちなんて卑怯。男なら直接乗り込んできて相手に……私を助けてくれたはる君はカッコよかったなぁ……。
「ほのか?」
「……へっ?」
「ぼーっとしてたよ」
「ううん何でもないよ雫」
あぶないあぶない。最近はる君のことを考えすぎてボーっとしちゃうときがあるから気を付けなきゃって思ってたのに。
「どうする?」
「どうするって?」
「今のを見過ごしたままにしておくの?」
「でも私たちができることって……」
生徒会や風紀委員に報告する? でも証拠が無いと取り合ってもらえないかもしれない。
「じゃあさ、私たちで証拠を押さえない?」
私たちって、誰?
「ほのかと雫と私で少女探偵団始動よ!!」
「えーーっなにそれ!!!」
「だってこんなのほっとけないじゃん。雫も手伝ってくれるよね?」
「この問題を放っておけないことに関しては同感だけど……」
雫が私たちの後方を指さす。そこには……新入生を捕まえようと、先輩方が雪崩のようになだれ込んできた。
食べられる。本能的にそう思った私たちはライオンから逃げる兎のごとく死ぬ気で走った。
挨拶をしないままエイミィと別れたけど無事だったかな。雫と私は家に着くや否や玄関に倒れこんだ。こんな一生懸命に走ったのは久しぶりだよ。
「はる君早く帰ってこないかなぁ」
どんなに疲れていても私の頭の中ははる君一色だった。
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