「で、美月を帰らせてあたしを呼んだ理由って何?」
「何のこと?」
「とぼけないでよ」
事務室でCADを返却してもらった後、俺とエリカちゃんは学校の敷地内を歩いていた。ここは図書館へと続く道だが、閑散としていて休日かと疑ってしまう。
「今頃討論会が始まってるかな?」
「話をそらさないでくれる?」
「昨日と同じ要件だって言ったら?」
「……」
月曜日に事件があり、雫ちゃんとほのかちゃんの禁欲生活が今日で五日目。最初は俺も二人に付き合って女体を我慢していたが、三日目で限界が訪れた。
一昨日、昨日と俺の秘密のヤリ部屋でエリカちゃんと情痴の限りを尽くしてしまった。エリカちゃんの強気な眼差しからふしだらな表情への移り変わりが興奮するんだよね。
三日連続、しかも今回は学校での呼び出しということでかなり警戒して後をついてくる。
「また外でやるつもり?」
「まさか」
そんな風に聞いてるってことは外でヤリたいのかな?
外でやるのも良いけど、俺は出すのも行為をするのも中がいい。
「この先に何があるかわかる?」
「……図書館?」
「そう」
「ちょっと、まって。まさか図書館でするとか言わないわよね?」
「ふふっ、そのまさかだよ」
「まってまって、あんな静かな場所で、厳重な監視システムだってあるのに本気!?」
さすがに動揺を隠せないようだ。
「エリカちゃん声我慢できないもんね」
「……っ、誰のせいよ!」
行為の最中のエリカちゃんは一度乱れると終わるまで淫乱な雌になり果ててしまう。ほのかちゃんを上回るほどに喘ぐため、やるときは場所を選ぶし口を塞がないといけない。そのため毎回首にエリカちゃんの歯形がくっきり残ってしまうんだよね。
まあ俺の防音仕様の結界を張ればすべて解決するんだけど。
「資料庫地下二階の閲覧コーナーの一画に監視システムから外れる場所があるんだよ。そこでしたいなって」
「資料庫って物理媒体の本があるところじゃないの? 余計にダメでしょ!?」
「本が濡れちゃうから?」
「うるさいっ言うなぁ!」
照れるエリカちゃんってどうして魅力的なんだろ。可愛いんだよなぁ。
「本が濡れたり、誰かにバレたときは俺が全責任を負うからエリカちゃんは気にしなくていいよ」
「……それであんたが退学にでもなったら困るわよ」
そんなに俺のことを……。嬉しいな。
「あたしがほのかと雫に殺されちゃう」
あ、そっちか。俺の感動を返せ。
図書館の周りは閑散とした雰囲気だったが、館内もまた深閑が広がっていた。
「なんか変じゃない?」
「そう? 前に来た時もこんな感じだったと思うけど」
勘のいいエリカちゃんは異様な雰囲気を感じとったようだ。確かに肌がひりつくような寒気を感じるが、ここに来た目的を悟られぬように誤魔化す。ここにはあくまでエッチしに来たというていなのだから。
「だってほら、警備員がいない」
「確かにいないね。事務の人もいないんじゃない?」
いつもなら入ってすぐの所に警備員が常駐しており受付カウンターに職員がいるが彼らの姿は見えない。トイレや休憩だとしても全員が同時に行くことはあり得ない。
「血の匂い?」
ぼそりと呟くとエリカちゃんが俺の腕を引いて物陰に隠れる。こんなところでやるのかな?
「いま誰か出てくる」
「あれは……誰だ?」
武装した男が二人図書館の外に出ていった。おそらく彼らは図書館の入り口の見張り役だろう。ってことはもうそろそろテロリストたちが行動を開始するのか。
「警棒持ってたわよね?」
「うん、それにCADも着けてた」
「泥棒? 魔法科高校に?」
エリカちゃんの疑問はもっともだ。得手不得手あろうと一応は学生、教師全員が魔法を使用することができ、泥棒程度であれば簡単に対処することができる。
貴重な情報が収容される場所には、対戦車ロケットの直撃にも耐える複合装甲の扉で守られておりセキュリティー面も厳重である。
高校に侵入するということは軍に侵入するようなものだと思うのだが……もちろん軍とは比較できないが、それでも普通の人間は行動しようと思わない。
「とりあえず様子を見て……なにっっ!?」
受付カウンターの中で身を潜めていると地面を揺らすほどの大きな爆発音が聞こえてきた。異常事態発生にさすがのエリカちゃんも焦りの表情を隠せない。
「どうやらさっきの仲間が高校に押し寄せてきたみたいだね」
「ここで戦争でもする気!?」
「奴らは本気みたいだよ。目的は……この図書館のようだ」
「え?」
「階段の上り口に二人、階段を上りきったところに一人、二階の特別閲覧室に四人いるよ」
「……へぇ、そんなのもできちゃうんだ」
「エリカちゃんとのエッチで魔法が高められてるからね」
気配察知スキルで確認すると図書館の外にも、いま出ていった男たちとは別に複数のテロリストの存在を確認。外の連中は今からやってくる兄妹に任せて俺たちはここでエッチでもするか。
「最近差別撤廃とかうるさい連中も関係してるの?」
「階段の上と閲覧室に一人ずつここの学生がいるからそうなんじゃないかな」
「ふぅん」
エリカちゃんはニヤリと口角を上げた。あぁ、エッチはお預けだな。完全にエリカちゃんの闘争本能に火が灯り戦うことしか頭にない顔だ。これが脳筋戦闘厨ってやつか。
奴らの目的が何なのか興味が無い様子で、目の前の戦闘に向けて集中力を高めている。悪いことじゃないけど、念のためにこれを渡しておこう。
「これ身に着けておいて」
「なにこれ」
「ネックレスだよ」
雫ちゃんとほのかちゃんにも同じ効果の石を渡してある。エリカちゃんなら襲われても返り討ちにすると思って渡してなかったけど、これからは必要になるかもしれないから一応ね。
「なんで今?」
「映画とかで恋人からもらったアクセサリーで銃弾を防ぐシーンとかあるじゃん。それと同じだよ」
「これも遥の手作り?」
「え、あ、うん」
一応手作りになるのかな。加護で作ったし俺の力ってことで手作りだね。
「遥が着けてよ」
「じゃあ後ろ向いて」
「んっ」
尻尾のようにポニーテールの後ろ髪が揺れた。やっぱりエリカちゃんはこの髪型が似合ってる。そしてエッチの時に髪を下すとギャップで興奮するんだよね。綺麗なうなじを見ると思わず舐めたくなってくる。
「はい。これでよし」
「……ありがと」
微かに「大切にする」と聞こえた。俺は後ろからエリカちゃんを抱きしめるとうなじに唇を当てた。
「ちゅっ……じゃあやっちゃう?」
「……殺しても良いのよね?」
「殺しはまずいんじゃないかな? せめて半殺しくらいに我慢しなきゃ」
「でも図書館内のことは遥が全責任を取ってくれるんでしょ?」
「ああ勿論」
愛する人の代わりに殺人鬼になる。ある意味最上の愛といえる。
今は監視システムも切られてるだろうし誰がやったかなんてわからないが……。何の痕跡もなく人殺しができてしまうのだから、犯罪という面では魔法は偉大である。
「どうした?」
「べつにー」
そろそろあの兄妹が来る時間か。
「やっぱ半殺しにしとくわ」
「そう。気をつけてね」
「ええ、こんな機会滅多にないもんね!!」
エリカちゃんは伸縮性の警棒を取り出し階段の上り口へと駆け出した。
「何者だっ!」
「止まれえ!!」
テロリスト二名が迎え撃つ。エリカちゃんは敵の攻撃を躱すと背中と後頭部を殴り気絶させた。すると戦闘音を聞きつけ、階段の上から学校の制服を着た男子生徒が実刀を持って斬りかかってきた。エリカちゃんは警棒で刃を受け止めると俺に向かって叫んだ。
「ここはあたしに任せて遥は二階を!」
「わかった」
男子生徒が俺に標的を変えようとするが、エリカちゃんが敵の視界を遮る。
「坊やはあたしが遊んであげる」
「なめるなぁ!!」
その人俺たちの先輩なんだけど、エリカちゃんにかかれば赤子の手をひねる様なモノか。
気配察知の通り、特別閲覧室に向かうまでの間は誰とも会うことはなかった。計画を完璧に遂行するつもりならもっと人員をかけるべきだったな。
彼らからすれば最少人数でバレないことを心掛けたつもりだろうけどそれが悪手だ。特別閲覧室の分厚い装甲で覆われた扉を結界魔法で消滅させると彼らとご対面する。
壬生紗耶香は差別を無くすためだけに動いていたはずなのに、今は自分のやっていることに疑問を抱いていた。
(剣道部の先輩に連れて行ってもらった差別撤廃を考えるセミナーで考えに感銘を受けた私は、ここのカギを手に入れて彼らに渡したけど……)
目の前で必死に秘匿文献を探す彼らを見て、自分のやっていることが犯罪なのではないかと思い始めていた。
そもそも学校を襲う必要があったのか、生徒に危害を加える予定はなかったはずだと、徐々に己の心に埋もれていた良心が顔を出し始めていた。
(私、何やってるんだろう。どこで間違ったのかな。中学生の時に剣道で全国二位になって「剣道小町」と呼ばれもてはやされた。魔法の才能があるとわかると父や周囲から将来を嘱望された。だけど全国一の名門、第一高校に入学するとそれは一変した。一科生の補欠、二科生となりウィードと呼ばれ蔑まれる立場に。あげくに剣道でも二科であることを理由に試合さえ受けてもらえない。
『人の価値は魔法じゃない!』
新入生の司波深雪さんを見たときに圧倒的な差を感じた。第一高校始まって以来の圧倒的な高得点で主席入学。容姿や振る舞いも完璧。これが優等生なんだと思った。
『そうか、私は劣等生だ』
きっと司波君も二科生としての差別と、優等生の妹と比べられることで苦しんでいるはず。この学校からそんな理不尽な差別をなくす運動をしたい。司波君には勧誘は断られたけど、きっとわかってもらえるから。そう秘匿情報を公開することは差別撤廃に役立つのよ。間違っていない。だけどこの疑念はいったい……?)
彼女の中に芽生える感情と目の前で起こる現実に戸惑いながら、何度も自分に言い聞かせる。
「まだ終わらないのか!?」
「もうすこしかかる!」
必死になってアクセスブロックを解除しようと端末を操作しているが、私利私欲のために動いているとしか見えない。しかし、彼らが非公開文献を盗み取る前に特別閲覧室の扉が消滅した。
「な、なんだっ!?」
「馬鹿なっ、あのドアの分厚い装甲を……」
壬生紗耶香には部屋に入ってくる一人の男子生徒に見覚えがあった。背が高く、目立つ髪色をした端正な顔立ちの優等生。二科生に対して差別することなく接する変わった生徒。
「みやもり、くん?」
彼女の眼に一瞬光が宿った。
紗耶香の瞳には一人の後輩の姿が映る。吸い込まれそうなほど強い瞳が向けられる。
二人の出会いはつい先日の事だ。非魔法系クラブを対象に勧誘活動をしていると、遥がやってきて紗耶香と対面した。
そこで遥に告白される。
紗耶香が抱いた遥の第一印象は「変な人」だった。クールそうな見た目をしているのに表情豊かで口を開けば自分の事を口説いてくる変わった人。
同じ学年の司波達也と比べると子どもっぽさが残りつつ、それでいて大人でも赤面しそうなことを恥ずかしげもなく言ってくる。
だが、二科生なのを見下したり馬鹿にしてこないのは好印象だった。
遥に告白された瞬間、紗耶香の中で何かが弾けた音がした。それが何なのかは紗耶香にはわからない。けれど、食堂や登校中に遥がいないか無意識のうちに探すようになった。
告白されてから遥のことを調べるようになった。そして調べれば調べるほど悪評ばかり聞こえてくる。
複数の女子と付き合ってるだとか、彼女がいるのに他の女子を口説いてる。女の尻を追いかけてばかり。などなど浮名ばかり出てくる。
紗耶香は告白されたのも自分を揶揄う為? と思うようになる。
遥も他の一科生と同じ自分を蔑む側なのかと考えているうちに今日を迎えた。
「壬生! 時間を稼げっ!!」
「え?」
テロリストの男の呼びかけに紗耶香は意識を取り戻す。
反射的に指にはめたアンティナイトにサイオンを注入したが、途中で発動を打ち消した。
(私は何を!?)
自分でもなぜ発動させなかったか理解できない。目の前にいる男は敵。情けをかける必要はないのに、それでも遥に対して術をかけるのを躊躇ってしまった。
「壬生先輩」
「なに?」
「何故止めたのですか?」
「っ」
遥と紗耶香の会話を遮るようにテロリストの一人が遥に銃口を向けた。
「死ねぇ!!」
「ダメッ!」
悲鳴にも似た叫び声。
刹那、紗耶香の身体が射線に入る。男は構うことなく紗耶香ごと遥を打ち抜こうと引き金を引いた。銃が火を噴き、瞬間的な激しい破裂音が重く響き渡る。
紗耶香は死を覚悟した。恐怖から涙がこぼれ、そっと目を閉じた。
銃声が響いてからしばらく経つが何も起こらない。紗耶香はそっと瞼を開けると、目の前に対物障壁が展開されていた。
障壁に銃弾が突き刺さり、銃弾から紗耶香を守っていた。
「これは……?」
「無事でよかったです」
「っぁ……」
「やっぱり先輩は優しい人ですね」
頬を伝う涙を手で拭われ、遥に微笑みかけられると紗耶香の顔が真っ赤に染まる。
洗脳というのはふとした出来事で解けてしまうことがある。紗耶香にかけられていた洗脳は特別なものではなく、人の心の弱みに付け込んで認識のズレを引き起こし、その思い込みを強くするものだった。
しかし紗耶香の頭に絡みついた洗脳が、今の銃声によって綻びを生じ始め、遥の手によって知恵の輪のごとく解かれていく。
「宮守、くん?」
「おかえりなさい。先輩」
「ぁ……」
魔法科高校に居場所など無いと思い込んでいた。だが帰る場所はすぐ傍にある事を実感する。
「わたし……」
「今はこいつらをどうにかすることを考えましょう」
状況を整理させようと混乱する頭をフル回転させるが、紗耶香の鼻腔を擽る甘い匂いに脳が考えることを放棄していた。
(何この匂い……頭がクラクラしてきて……)
匂いの素を追っていくと白髪の後輩が視界に入る。洗脳よりも、より強烈に身体を蝕む匂いを放つ女たらしの後輩の姿があった。
「くそっ、このバケモノがッッ!!」
紗耶香は現実に引き戻される。
テロリストたちは銃を連射してくるが、遥の対物障壁が破られることはなかった。耳を塞ぎたくなるほどの爆音が響き渡り、薬莢や銃弾が床に転がり落ちていく。
最後の一発を撃ちきり、新たな弾薬を装填しようとするテロリストたちの手が止まった。
「なんだっ!?」
銃が冷気に覆われ氷のように固まった。思わず男たちは銃を放り投げる。
「深雪ちゃん」
「……宮守くん」
銃声を聞きつけたのか、特別閲覧室へ新たに司波深雪、司波達也、千葉エリカの三名が駆けつけてきた。
「お前たちの企みはここまでだ」
「愚かな真似はお止めなさい」
兄妹による一方的な蹂躙は一瞬で終わった。
非公開情報が記録されたキューブが分解され、テロリストの男たちは気を失い縄で拘束される。
僅か一分足らずの出来事だ。
「宮守くんはどうしてここへ?」
「エリカちゃんと調べものがあったから図書館に来たんだけど、来てみたら変な連中がいてさ、襲ってきたから返り討ちにしようと思ったところに深雪ちゃんが助けてくれたんだよ。ありがとね」
「いえ、私は何も。そうなのエリカ?」
「あー、まぁ、そんな感じかな」
エッチしに来たとも言うことができずに歯切れが悪い。そのことに気づかない達也ではないが、それ以上問い詰めることはしなかった。
達也は遥の隣にいる紗耶香に声をかける。
「壬生先輩。これが現実です」
「えっ?」
「能力を無視した平等など、等しく冷遇される世界か、耳触りの良い嘘の中にしか存在しませんよ」
既に紗耶香にかけられた洗脳は薄れている。達也の得物のような鋭い言葉が紗耶香の胸に痛いほど突き刺さった。
「あいつらが俺や壬生先輩を撃ち殺そうとしていましたよね? 先輩は利用されていただけですよ」
「宮守君……私は間違っていたというの? でもこの学校には実際に差別があるじゃない。あなたは一科生だから私たちの苦しみなんてわからないのよ!!」
彼女の悲痛な叫びが木霊する。
「俺は元々魔法が使えませんでした」
「え?」
「いえ、実際には魔法が使える事を知らなかったんです。魔法の才能があると知ったのは十歳になってから。魔法の勉強を始めたのも中学生になってからです」
「そんなはずが……」
魔法科高校の一科生になるような人間は、幼い頃から魔法中心の生活を送っているのが大半だ。しかし、その環境にいたから一科生になれたのではない。環境が人を育てるのは間違いない。だがそこで胡坐をかいている人間が魔法科高校に入れるはずがない。一科生になれたのは彼ら自身が真摯に魔法と向き合い、人一倍努力してきたからである。
遥の場合はチートによって魔法科高校に入学できたが、そこに至るまでに少なからず努力はしている。
「それはあなたに才能があったからでしょ。自分は優れてる人間だと自慢したいの!?」
「俺には才能なんてないですよ。あったのは運です」
運も才能の内である。だが遥の場合は常軌を逸した運の強さである。神に選ばれるという豪運の持ち主。
「俺は周りの人に恵まれました。仲良くしてくれる友人や仲間たち、そして恋人
今日は一旦ここまで。長くなりそうなので区切ります。
一応明日で入学編は終わりです。後日談などはありますけどね……。
ではまた明日19時にお会いしましょう!